前作『ヒーザン』が米音楽批評サイト、ピッチフォークにて「2014年度ベスト・メタル・アルバム」に選出され、世界的な注目を集めたTHOU(ザウ)。しかしながらこのミステリアスなバンドの素顔はまだ多くの謎に包まれたままだ。先日公開された「The Changeling Prince」のMVで演奏しているのも本人たちではなく、こちらの写真の背景に妖しく映り込んでいる白い顔こそがバンドメンバーだという噂・・・。

そんな彼らが2018年、本作発表前に様々なテーマ(ドローン、アコースティック、グランジ)で制作したコンセプトEP3枚を発表し、メタルというジャンルの枠では収まらないサウンドを展開してきた。“ダークなドゥームやスラッジ・メタル”が特徴だったが、大本命盤と言われる本作では、コラボ作品もリリースしてきたバンド、ザ・ボディのようなドローン・サウンドからギターの重圧リフとデスボイスも収録され、全てのEPを超える仕上がりとなっている。ナイン・インチ・ネイルズやマリリン・マンソン、アリス・イン・チェインズ、サン O)))周辺のへヴィ・サウンドのファンに是非、聴いて頂きたい!これからの新世代へヴィ・サウンドシーンを牽引していくであろう彼らの最新作にライター鈴木喜之氏が迫った。

アーティスト:ブライアン・ファンク(Vo.) インタビュアー:鈴木喜之

-今年に入ってからEPを3作、『The House Primordial』、『Inconsolable』、『Rhea Sylvia』と立て続けにリリースしてきましたが、最新アルバム『Magus』は、これらのEPを踏まえての集大成という位置付けなのでしょうか?
ブライアン:確かに、EPを作る当初の目的は『Magus』を音楽的にどこへ持っていくか探る実験を行うためだった。でも、結果的にはフル・アルバムが先にできてしまってね。『Inconsolable』と『The House Primordial』は、『Magus』ができた後、しばらくしてから書いたものなんだ。だからEPの集大成がアルバムになったという感じではなくて、EPがアルバムで追求できなかったことをより深く追求する場所になったよ。『The House of Primordal』では、アンビエント/ノイズ/ドローンの部分を掘り下げて、感情を揺さぶるような音の空間を作ることを追求した。『Inconsolable』では、もっと曲の美しさを追求し、背後のディストーションやフィードバックを取り除いて、もっと裸の状態で悲しい感情がもっとあらわになるような音を追求したんだ。

そこまで説明したうえで話すと、『Rhea Sylvia』に関しては、『Magus』が完成する1年前くらいに完成していた。マシュー(※ギタリストのMatthew Thudium)がそこでとっていた伝統的なソングライティングのアプローチは、僕が『Magus』に書いた歌詞に直接影響してるって言えると思う。フレーズの繰り返しを意図的に増やしたり、もっと簡単に共感できそうな内容にしたんだ。

『Magus』は、内に秘められたメッセージや自己評論を追求した、とても内省的な作品だ。世界を秘伝的、哲学的、学説的、そして理論的なレンズを通して見ている感じ。アブストラクトな中で生きるという実験だね。基本的には、前作の『Heathen』とは真逆だと思う。あの作品で示していたことを完全に否定しているとさえ言えるかもしれない。感覚から経験する現実は何の意味もない。目的や意図がない行動は何も意味がない。「喜びと苦しみの領域を越えることとは?」

-歌詞は、日本語に翻訳されたものを読んだのですが、抽象的でありながら、現代の人間社会を覆う様々な問題に向き合っている様子が感じられました。『Heathen』からの4年間に世界で起きた現在進行形の出来事も、やはりこの最新作に反映しているのでしょうか?
そうだね。むしろ、音楽やアートをやっている人で、自分の住む世界で起きている出来事に影響されない人はいないだろうと感じるくらいだよ。特に最近の政治的情勢は、すごく感情的になってしまう状況だし。ちゃんと決まったコンセプトがあるバンドとかじゃない限り、自分の環境と声とは、すごくリンクしてくるものだと思う。

- THOUは、これまでにもDeathwish や Thrill Jockeyなどを含む多くのレーベルから作品を発表してきましたが、今回の『Magus』はSacred Bonesからのリリースとなります。彼らと契約することに至った経緯について教えてください。また、特定のレーベルと長期の契約を持たないようにしている理由などが特にあれば、メリットとデメリットも含めて教えてください。
最初は『Heathen』と同じように、しばらく自主リリースにしようと考えていたんだけど、いろいろやってるうちに、EPのリリースに関しては、今まで仕事をしたことがないレーベルと話をしてみても面白そうだと思ったんだ。で、ある時、Sacred Bonesのスタッフと話す機会があって、THOUにすごく興味を示してもらってね。僕たちにとっては、いろいろな理由でSacret Bonesは夢のようなレーベルだから、彼が興味を持ってくれたことはとても嬉しかった。で、まずは試しにと思って、こちらとしてはEPのリリースを考えてたんだけど、彼らは初めからアルバムを作ろうって言ってくれたんだ。いろんなこだわりがあったせいで、最初はためらいもあったよ。すべてにおいてSacred Bonesに見合った作品にしたかったしさ。でも、やると決めたからには、とっておきのアイディアに挑戦することにしたんだ。例えば、Ellen Jane Rogersに、彼女の写真を使わせてもらえないか聞くことを含めてね。

僕たちは、レーベルも、いっしょにスプリット作品を作るアーティストも、いっしょにツアーをするアーティストも、すべてコラボレーションしたい相手として見ているんだ。関係性の中で、何かしらの共生が必要だと考えている。Sacred Bonesはそういう点に関しても、期待以上のものを与えてくれた。だから僕たちも、彼らがこれまでにリリースしてきた作品と並べられた際おかしくないようにするにはどうしたらいいのか?とか考えたりして、それも楽しかったよ。

レーベルを変えることによるデメリットは、お互いのことを知るためにちょっとぎこちない時間を過ごさないといけないことかな。その中で、柔軟な考えを持って過ごしつつも、アートへのヴィジョンをしっかり保っておくのが大切だね。あと、いろいろ環境を変えることで、様々な失敗もおきるけれど、長い目で見た時、新たな道のりでそういう経験を活かすチャンスがあると思う。

-THOUのジャケットのアートワークは、これまで基本的に白黒の絵で統一感を持たされていました。しかし近年、今作や『Rhea Sylvia』、前作『Heathen』あたりからは、少し色のついた写真を使ったりして、ちょっとトーンを変えてきているように思えます。この変化について、何か意図しているところがあれば、解説してもらえますか?
しばらく黒、白、赤(と若干のグレーと茶色)で統一してきたんだ。単にその色合いが好きなのと、インパクトも出る色合いだと思うから。ただ、ウッドカットのデザインがそこまで広まっていない時期もあったけど、ここ最近すごくよく見るようになって。だからバンドとしても、似たようなデザインに飽き飽きしてきたんだ。僕が『Heathen』でやろうとしたデザインや、The Bodyとのコラボレーション作品のアートワークの方が、レーベル側も魅力を感じてくれたしね。まあ、Julia Margaret Cameronを巻き込んでいて、魅力的じゃないわけないんだけど!

『Magus』のアートワークは『Heathen』のLPヴァージョンに近い感じになる予定だった。見かけは同じようだけど、トーンが真逆の予定だったんだよ。でも、Ellen Rogersと何かできるっていうことになって、そんな機会を無駄にはできなかったからね。モダン・アーティストの中でも、Ellenは僕たちにぴったりだと思う。彼女のアートは、Julia Margaret CameronやAnne Brigmanのような素晴らしいアーティストを連想させながら、僕たちの音楽に最大のメランコリックさを与えてくれるような作品だ。彼女の使うパステルカラーは完璧だし、僕にとっては、Jane’s AdditcionやSmashing Pumpkinsのようなグランジ・ポップ感もあるような気がするんだよね。そういう柔らかさや優美さを足すことで、ガチガチのメタル野郎たちを心地悪くしてやるぜ!(笑)!

-あなた自身はハードコアにルーツがあって、フェイバリット・アルバムもメタル系ではなくパンク系の作品をあげていましたよね。そうしたジャンルから、現在のTHOUが鳴らしているような音楽にまで、どのようにしてたどり着いたのか、音楽遍歴を簡単に教えてもらえますか?また、現在好きなレコードやバンドについても幾つかあげてみてください。
僕が入る前のTHOUは、もっとポスト・メタルのサウンドに影響を受けていた。『Oceanic』や『Celestial』を出していた頃のISISや、初期のPelicanとか。 『Call No Man Happy』のデモや『Tyrant』でも、その影響は聴こえるかもしれない。そのデモの後から、Sunn O)))を発見したりして、もっとヘヴィな方向性に進んだんだ。僕が加入した時、マシューのDax Riggsっぽいボーカルが好きじゃなかったから、バンドに馴染む過程でそれも変えていった。僕は残念ながら、ひとつの方向性を突き進む人間なんだ。だからその影響で、初期作品はヘヴィな方向に持っていかれたと思う。でもサウンド自体は、マシューとアンディーの作ったものだと言える。そこから曲作りで遊びつつ、自分たちの領域をプッシュすることで、今のサウンドに到達したんだ。バンドを成り立たせるには、パンクとハードコアのアプローチが良い影響になった。DIYは実用的な意味で理にかなってるのかもしれない。身の回りの才能をサポートしたり、身の回りのコミュニティーを大事にしたりすることがね。でも、特に頭を悩ませるようなことじゃないとも感じるな。

今活躍しているバンドの中では、HIRS、Cloud Rat、Closet Witchだけが、僕にとってパンクやハードコアに該当するバンドだと言えるかな。僕がいいと思った限られたハードコア・バンドは、出てきてはすぐに消えてしまうんだよね。例えば、Hysterics、Replica、No Statik、Torture Garden、Policy、Glossとか。Gagってまだやってたっけ? 最近では、Emma Ruth Rundle、Zola Jesus、Silver Godling、MJ Guider、Hand Grenade Job、Jim Croce、Null、Dreamdecayとかが好きで、もっとカントリー・モダン・ポップも好むようになった。すごく感情を揺さぶるようなものか、ストレートでポップなものが好きなんだ!

- THOUは、ルイジアナのバトンルージュという町から登場してきましたが、地元にはどのような音楽環境があったのでしょう? 生まれ育った場所が、自分たちの作り出す音楽に何か影響を与えていると思いますか?
ニューオリンズの近くに住んでいることは、バンドにすごくインパクトがあったと思う。Eyehategod、Crowbar、Agents of Oblivionのようなバンドを無意識的に知ることになるからね。でも僕たちは、Nirvana、Soundgarden、Alice in Chainsのような90年代のグランジ・バンドの影響の方が大きいね。ゆっくり演奏したり、低めにチューニングしたり、ヘヴィな曲を書くのに役立つ方法だった。

最近はもうメンバーの誰もバトンルージュに住んでいないから、今のバトンルージュがどういうところかは語れない。でも僕がTHOUに入った頃は、本当に素晴らしい場所だったよ。当時はニューオリンズに住んでいて、主にそこでライヴのブッキングをしていたんだけど、バトンルージュの集客やお客さんのワイルドさが素晴らしくて、よくバトンルージュでのライヴもブッキングしたもんだ。あと、すごく好きなバンドがいた時代もあったな。2007年から2008年頃は、僕や僕の周りにとって非常に大事な期間だった。Jude Fawley、Hellkontroll、We Need to Talk、Barghestとか大好きだったよ。そうしたバンドは、今も活動していたり、新しいことを始めたりしているけど、もう当時と同じようなワクワク感はないと思う。

-あなた方との交流も深いTHE BODYをはじめ、現在は世界中に先鋭的な音楽を鳴らすラウドなバンドがたくさん活躍しています。その中でも特に共感できるような人たちはいますか?
Ragana、Hirs、Moloch、Hell、Without、The Body、Lingua Ignota、Full of Hell、Blood Incantation、Spectral Voice、Mania、Mizmor、False、Cloud Rat、Changeling、Slime、Bad Friendsとか。あとMike WreckとKyle Morganがやることは全部好きだな。

-THE BODYとのコラボレーションを経験したことで、現在のTHOUにどんな影響があったと思いますか?
そうだね。THE BODYは、曲を書く時に必要最小限のアプローチをとるから、スタジオにいる時はすごく柔軟で心地良さそうなんだ。Machine with Magnets(※スタジオ)とSeth Manchesterは、僕たちにとっては、まったく別の音楽要素だと思ってる。James Whittenとは、同じような共生関係を築いてきてるよ。スタジオを楽器のように扱って、作曲する際にも駆使していてね。彼らの精神は、EPと『Magus』に込められていると思う。僕たちと彼らは、同じところから生まれていて、意思とか方向性とかで共通する部分がすごくあるって感じるんだ。だからTHE BODYとのコラボレーションで気をつけたことは、彼らをちゃんと意識して、彼らの作った道を進まないこと。THOUとしてもエレクトロニックなサウンドを取り込むようにしているんだけど、THE BODYがやったようにはやりたくなかった。次に美しいコーラスが際立つアルバムを作った時に、みんなから酷評されないといいけど!

-あなた方は、たくさんのカバー作品を発表してきていますが、ニルヴァーナを筆頭に90年代オルタナティヴ系のバンドが多いように感じます。そうしたカバーに取り組むことについては、どのような意義を見出しているのでしょうか? グランジとは、THOUにとってどのような存在なのでしょう?
まずは、みんながいいって思う曲を見つけることが大事だよ。次に、遊びに聴こえないように、僕たちのスタイルでそれを演奏できること。そういえば一度、『Summit』の後に、Fiona Appleのカバー・アルバムを出そうかって話があったんだ。だから4〜5曲やってみたんだけど、あの際立つボーカルが不在で、僕がその上から叫んでも、馬鹿げたようにしか聴こえなくて、ボツになってしまったよ。僕たちは、カバーした時、自分たちにワクワク感を与えてくれそうなものを選ぶんだけど、大概それは聴く人にはエキサイティングじゃなかったりすんだよね(笑)。

グランジのアティテュード自体はパンクから生まれたと思う。誠実で本物でありたいっていう思いが、バンドに勢いを与えるんだ。そういうバンドにはとても影響されてきた。僕たち自身、ニューオリンズよりもシアトルとかアバディーンから来たようなサウンドだという気がする。僕たちの鳴らすBLACK SABBATH的なスラッジ・サウンドは、(NIRVANAの)『ブリーチ』みたいなやり方だけによるものなんだよ。

-最近では、ナイン・インチ・ネイルズやマリリン・マンソンのカバーが印象的でした。今後インダストリアル的なエレクトロニック・サウンドの要素が、THOUの中で拡大していくこともあり得るでしょうか?
そうだね、僕たちももう少しインダストリアルなスタイルを試そうと、いろいろ試行錯誤してみたよ。もしもTHE BODYとまたコラボレーションすることがあったら、それを試してみたい。いつかJessica93とも何かしてみたいと思ってるしね。リミックスをしてもらうか、デモから何か新しいものを生み出してもらうとか。それと、夢のような話かもしれないけど、NINの『Pretty Hate Machine』のようなスタイルの曲を書いて、Zola Jesusにメイン・ヴォーカルをやってもらえたりしたら最高だな。アイディアだけはたくさん持ってるんだけどね。

-今年の後半も作品のリリースは続きますか? それともいったん『Magus』で落ち着いて別の展開を見せるのでしょうか? 今後の活動計画を教えてください。
『Magus』と同じ時期に、RaganaとのスプリットLPがリリースされる予定だ。そこには『Heathen』のリリース後に書かれた、Alice In Chainsのようなサウンドの曲が収録される。注目されていることに対しての、自分たち自身による自己評価だったりもするね。もうすぐその曲を聴いてもらえるのが嬉しいよ。僕は、RaganaのNikoleとMariaが大好きだよ。彼らのバンドは素晴らしい。アメリカではAn Out Recordingsから、ヨーロッパではFeast of Tentaclesからリリースされる予定。どちらのレーベルも僕たちの古くからの友人なんだ。

- 最新オリジナル・アルバムが日本リリースされることで、来日公演の可能性も出てきたのではないかと期待しています。ぜひ近いうちに実現させてください。
日本には本当に行きたいと思ってるよ! 未だに実現できていないんだけど、もしそういう話があれば、ぜひ声をかけてほしい!

※記事初出時に誤りがありました。訂正してお詫び致します。

【Release】

『Magus』
発売日:2018.09.19
品番:HSE-5280
レーベル:Sacred Bones / Hostess
価格:2,100円+税

【Profile】
米ルイジアナ州バトンルージュ出身のドゥーム/スラッジメタル・バンド。2005年結成。殺気さえも感じさせるおびただしいまでの激烈で重厚なサウンドと咆哮がインパクトを残す楽曲で、アンダーグラウンドなドゥーム・シーンで存在感を誇示。2014年の4作目『ヒーザン』では幻想性と叙情性を孕んだアートな作風を導入し、バンドの懐の大きさも披露している。2015年、米ロードアイランド出身のスラッジ・デュオ、ザ・ボディとの共同名義アルバム『リリースド・フロム・ラヴ/ユー、フーム・アイ・ハヴ・オールウェイズ・ヘイテッド』をリリース。2018年5月、EP1作目『The House Primordial』を<Raw Sugar>から発表し、6月にEP2作目『Inconsolable』を<Community Records>から、7月にEP3枚目『Rheia Sylvia』をハードコアレーベル<Deathwish Records>から発表。8月に5作目となるフルアルバム『メイガス』を<Sacred Bones>から発売する。アメリカの音楽レーベル<Robotic Empire>によるニルヴァーナの人気カヴァー・コンピ・シリーズにも参加しており『In Utero: In Tribute』(2014年)に「Milk It」、『Whatever, Nevermind』(2015年)に「Endless, Nameless」と「Even In His Youth」、『Doused In Mud, Soaked In Bleach』(2016年)に「Floyd The Barber」が収録され、バンドのオーディエンスをさらに拡大した。

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