自身4作目となるアルバム『Titanic Rising』を4月5日にSUB POPからリリースするワイズ・ブラッドことナタリー・メーリング。

ここ日本でもザ・レモン・ツィッグスに続くバロック・ポップの逸材として注目を集め始めている。

そしてアリエル・ピンクやファザー・ジョン・ミスティーなど、数々の音楽家とコラボしてきた彼女が、どうして『タイタニック』を取り上げたのか?

誰の心にもある影を反射させ、この混沌とした時代に光を差し込み、救いの手を差し伸べてくれる彼女の思いのこもったインタビュー。

アーティスト:ナタリー・メーリング(Weyes Blood) インタビュアー:矢部友宏 翻訳・テキスト:Red Apple

-8歳の時にギターを始められ聖歌隊にも参加していたそうですが、音楽を始めようと思ったきっかけがあれば教えてください。
ナタリー:音楽が与えてくれる感覚がいつも好きだったの。例えば悲しみや喜びや幸福感を感じるような感じで音楽は私の関心を引きつける。それが私にとっては明白な経験だったの。その時、メロディーを言葉のように使ったり、自分の感情をより詳細に表現したりできることを知った瞬間でもあって、それが音楽を始めたきっかけでもあったの。

-音楽一家に生まれたそうですが、ご家族からの音楽的な影響はありましたか?どういう部分に影響を受けたのか教えてください。
私の父はギターを弾いていて、いつも私に色々と見せてくれてたの。個人的にブルースやギターソロを避けてたから、父のように弾けたことはないけどね。でもジョン・レノンのトラヴィスピッキングを練習してからは父にフィンガーピッキングを教えたりもしたわ。だからお互いに教えあったりできたのはとても良かった。私の母はジュディ・ガーランドを弾くのが好きで、よく2人で歌ったりもしたわ。父と母は違うタイプのミュージシャンだったけど、お互い学びあったりしてたから練習するということに重点を置いてなくて、ただ”感じる”ということだけだった。

-どのようないきさつがあって、ソロアーティストとしてキャリアをスタートしたのでしょうか。
私が小さい時、都市によく電車でライブをしに行ってたの。基本的に誰も見てくれてなかったけどね。人をライブに集められるようになるにはしばらく時間がかかったけど、それが私の今の自分の仕事に繋がる長い旅路の始まりだったんだと思う。何年もの誰も感謝してくれないようなライブを経て、自分自身の骨組みの欠如感を乗り越えてようと色々努力した。私は今までずっと、自身にあるたくさんの未熟な才能のある雑然とした人間だったけど、やっと最近になってしっかり自分でその才能にチャンネルを合わせることができるようになったの。

-どうして本名ではなく、ワイズ・ブラッド(Weyes Blood)という名前で活動しているのでしょうか。また名前の由来についても教えてください。
フラナリー・オコナーの『Wise Blood』という本を読んで、ものすごく感銘を受けたの。その本は、孤独で変わった男の人が実存的な絶望の時代に“イエス・キリストのいない教会”を考案したっていう話。血筋は全ての世代の中に生き続けている、というアイディアに魅了されたのを覚えているわ。血は母から子へと受け継がれるから。知恵はあなたの血にも流れてるしね。そしてさっき話した本に関してだけど、私に流れてるこの血はいつも、気持ちを上げるようなメロディーを作るために、自身に難題を求めているように感じていたわ。

-“モダンだけどクラシックでありたい”と語っていましたが、これを実現するために工夫していることがあれば教えてください。
私は未来主義が好きなんだけど、未来主義はとても超現実的かつ抽象的に、私たちは概念的に人類としてここまでやってきた、ということに気付いたの。未来主義はとてもポストモダンで、むしろ形態を脱構築して新しい形態を創ることに反対している感じがするの。形態の脱構築は音楽の形式を創るっていうことと同じぐらい価値があるということも分かってきて。例えば、その形態っていうのはメロディーや歌詞、そして曲として理解される事柄だと思っていて。希望っていうのは何かにチャレンジする全ての事柄に散りばめられているの。曲や形態はその”薬”を飲み込みやすくするための甘い砂糖のようなものだと思っていて。その薬というのが実験的な音作りのメソッドになりつつあるの。

-今作はカーペンターズのような60~70年代の音楽を思わせるものでしたが、どうして自分が生まれる前の音楽に惹かれるのか教えてください。
そういう風に比較されるのは面白いわ。もちろんカーペンターズみたいな音楽も大好きだし、カレンの歌声もとても素晴らしいと思うけど、そこまでのビッグファンではないしマネをしようとしたこともないわ。多分思うに、私たちは両方とも同じものからインスパイアされている気がするの。カーペンターズはオールディーズやジャズのスタンダードな名曲が大好きで、カーペンターズの曲からは交響曲的なとても大きな思想が曲のアレンジから聴くことができると思うわ。私はホーギー・カーマイケル、ジョージ・ガーシュウィン、バート・バカラックが大好きでそこから影響は受けていると思う。たくさんの音楽がその界隈の音楽から影響を受けている風に聞こえることがあるけど、自分の音楽がカーペンターズの曲と比較されるのはおそらく同じ女性ボーカルだからだと思っていて。本当はカーペンターズの曲はとてもライトタッチのように感じるけど、私はそれよりもっとヘビーに心を打ちたいと思っているの。

-今作からは懐かしさと同時にもの悲しい印象も受けます。この2つが共存していることがとても興味深いのですが、このもの悲しさはどこからくるのでしょうか。
多分私は生まれた時からそうなんだと思う!実際に会うと私はすごく明るいし、いつもジョークを言ったり、シリアスにならないようにしてるし。おそらく音楽は心の奥底にある偽りのない悲しみを表現するための捌け口なんだと思うの。皮肉な方法じゃなくて。そして子供の頃からいつもそういう悲しさにうっとりするの。

-「Everyday」は一聴するとポップな曲のようにも感じるのですが、どうしてホラー映画仕立てのMVを制作したのでしょうか。
ホラーなジャンルに”ポップさ”を見つけたの。恐怖映画の性質と私が歌詞中で描く愛の性質の間には比喩があって、”愛はとても危険で被害者を流血させたりする”っていうアイディアがあるの。

-今回のアルバムは水没したベッドルームの写真が使用されており、これはCGではないそうですね。これはどういう風に撮影され、なぜこの写真をアルバムカバーにしようと思ったのでしょうか。
水の外でベッドルームを組み立てて、ゆっくりと水に沈めていったの。物は基本的に水面に浮いてくるから、ベッドルームにある全ての物をしっかり沈めて固定させるのにすごい時間と努力を要したけどね!この写真を撮るのに息を止めながら水中にいないといけなかったも大変だった。水没したベッドルームを使いたかったのは、西洋文化ではベッドルームは青年期の神聖な場所とされているから。アイドルのポスターを壁に貼ったり、自分に意味があると思うことについてじっくり考えるたりする場所だから。これは空想の崇拝場所であって、表面上は宗教的じゃなくても、深い所では自分達より優れているものと一緒にいたいという若者の望みを反映している。水は無意識を象徴していて、自分達の文化や頭の中に溢れているもの象徴しているの。

-どうして『Titanic Rising』というアルバムタイトルにしたのでしょうか。
『Titanic Rising』はまるでイベントのようなもので、例えば海面の水位がものすごく上昇することだったり、人間の恐ろしい傲慢さを自覚することだったり、近代の不平的な資本主義社会の渦に溺れている人々がいることへの認識だったり。タイタニック自体は20世紀を象徴する惨事で、人間の傲慢さの一例だと思うけど、タイタニックが不死鳥のように灰の時間の中を飛び立って、私たちが何に注意や関心を向けるべきかってことを思い出させてくれる。

-それでは最後に最新作をどんな人に聴いて欲しいと思いますか?
波乱に満ちた時代の変化の中で、希望を見失ったり、何か掴まる物が必要な人に届いて欲しい。私は現実で起こる具体的な経験や、それがどれぐらい変化してきているか、そういうことを曲で描きたいと思っていて。全ての恐怖や、心配事、それらを認めて美しい子守唄に縫い付けて、この時代に悩んでいる人の魂を癒してあげれたらと思うわ。

Titanic Rising
Titanic Rising

posted with amazlet at 19.02.17
Sub Pop Records (2019-04-05)