最終更新: 2020年12月6日

Jay Som

思わぬ注目を集めたデビュー作

 ミツキやジャパニーズ・ブレックファストをはじめ、マルチな才能を持つアジア系女性アーティストの活躍が注目される中、 特に飛躍的な活動を見せているのは、フジロックへの出演が記憶に新しいフィリピン系アメリカ人SSWの ジェイ・ソムだ。

活動のはじまりは2015年、ジェイ・ソムことメリーナ・デュテルテがアルコールの勢いでバンドキャンプに自身の音源を公開したことからはじまる。

音源は思わぬ大反響を呼び、翌年にはオブ・モントリオールやアメリカン・フッドボールなど 著名なUSロックバンドたちが所属するポリヴァイナル・レコーズより『Turn Into』として再リリース。

2017年には傑作として名高いデビューアルバム『Everybody Works』を発表し、 世界各国でライヴを行ない、数多くの著名アーティストたちと共演を重ねてきた。

激動の音楽人生を駆け抜ける中で、彼女はこれまでの経験をもとに今一度原点を振り返ることを選び、LAの喧騒を離れ、ジョシュア・ツリーへ拠点を移す。

穏やかな環境が確保された“ベッド・ルーム”というホームにて、新作『Anak Ko』の制作に挑んだ。

我が子のような新作アルバム

 録りためていた20曲もの楽曲を捨て、2019年から急ピッチで仕上げた楽曲から絞り込んだという今作には、メリーナの素直な思考と天性のセンスが惜しみなく発揮されている。

故郷の言語であるタガログ語で“私の子供”と名付け、何にも囚われずあるがまま歌い奏でる10曲は、まさに彼女の分身的存在たちだ。

前作を経てドリーム・ポップやインディー・ロックとさまざまな音楽性が吸収するも、彼女の根底にある70~80年代のファンク・ジャズからの影響が感じられる独特なグルーヴに重ねることで、時に淡く切なく、時にエモーショナルに七変化してゆく。

先行シングルとしてリリースされた「Superbike」は、メリーナ曰く“コクトー・ツインズやアラニス・モリセットの融合”とのことだが、浮遊感漂う耽美なギター・メロディに、グルーヴィーなリズム・セクションの組み合わせはまさしく両アーティストの魅力を合わせたようである。

しかし聴きどころは後半部分。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズも使用しているというエフェクターを使用したというメリーナのノイジーなギター・ソロは、夏の夕暮れににじみ渡るノスタルジアな空気を一層際立たせる。

一方「Crown」は“映画のサントラのように歌詞なしで感情が揺れ動くさまを再現してみたい”という思惑から、曲の半分近くをボーカルレスにするといった斬新なアプローチをし、サウンドとメロディだけで壮大な展開を色づけてゆく。

ライヴの最後に聴き、感動と切なさで涙したい一曲だ。

「Tenderness」や「Anak Ko」といった王道ベッド・ルーム・サウンドは変わらぬ魅力として持ちつつも、ベッド・ルームを飛び越え、多彩な音使いで遊び心を見せるところはいかにもジェイ・ソムらしい。

DIY精神と音楽愛の結晶である『Anak Ko』

 とはいえ、今作は彼女一人だけで作り上げた作品ではない。以前から共に活動していたメンバーに加え、交友の深い音楽人らと共に楽曲制作に励んだ今作は、 楽曲ごとに人の呼吸が感じられるアンサンブルが鳴り、まるでひとつの部屋にみんなで集まり、 ただ一緒に楽しみながら音楽を鳴らしているような微笑ましい光景が浮かんでくる。

自らの原点に還ると同時に、他者と繋がることでたくさんの脳を蓄え、才能を開花させたジェイ・ソム。

『Anak Ko』は彼女の覚醒の時であるとともに、純粋なまでの音楽愛とDIYにこだわる姿勢が功を奏した渾身の一作である。

pikumin(宮谷行美)

来日公演(11/29追加)

Jay Som Japan Tour 2020
・2020年2月25日(火)@大阪・梅田SHANGRI-LA
OPEN 18:00 START 19:00
スタンディング 前売り:¥5,500 (ドリンク代別)
お問い合わせ
SMASH WEST 06-6535-5569

・2020年2月26日(水)@東京 Shibuya CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 START 19:00
スタンディング 前売り:¥5,500 (ドリンク代別)
お問い合わせ
SMASH 03-3444-6751

詳細はこちら:https://smash-jpn.com/live/?id=3271

リリース情報

Anak Ko (歌詞・対訳・解説付き/ボーナストラック収録)
Jay Som
Tugboat Records (2019-08-21)
売り上げランキング: 17,065

発売日:2019年08月21日
価格:¥2,400+tax
発売元:Tugboat Records Inc.
販売元:SPACE SHOWER NETWORKS INC.
品番:XQNK-1005
特典:解説/歌詞/対訳/ボーナス・トラック追加収録、日本先行リリース
収録曲:
1.If You Want It
2.Superbike
3.Peace Out
4.Devotion
5.Nighttime Drive
6.Tenderness
7.Anak Ko
8.Crown
9.Get Well
10.Simple (bonus track for Japan)

プロフィール


フィリピン系アメリカ人、メリーナ・ドゥテルテによるソロ・プロジェクト、ジェイ・ソム(Jay Som)。2017年、ほぼすべての楽器演奏からプロデュ ースまで手がけたデビュー作『エヴリバディ・ワークス』をリリース。ミツキやジャパニーズ・ブレックファストらとツアーを共にする。2019年、馴染みのツアーメンバーとともにセカンド・アルバム『アナック・コ』を制作。コクトー・ツインズやピクシーズにも通じるサウンドが特徴である。

Music

Jay Som – Tenderness

米ラジオ局KEXPに出演したスタジオライブ映像が公開されました。最新作『Anak Ko』より4曲を披露しています。(11/29追加)
Jay Som – Full Performance (Live on KEXP)