最終更新: 2021年3月30日
Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)ことドナルド・グローヴァーは、様々な方法で社会を投影し続けてきた。
2018年の「This Is America」リリースから、“コーチェラ 2019”でのヘッドライナーと短編映画『Guava Island』の公開。
特にここ数年のChildish Gambinoの動きは、実に意欲的で大がかりなものであった。
今回の新作アルバム『3.15.20』。
サプライズでのリリースになったことに加えて、アルバムのタイトルから曲名、内容まで。
その全てが不可解で、その全てに何らの意味が込められているのは間違いない。
それらを解明するには、ただ単にサウンドや歌詞だけを解説するだけじゃ足りない。
そのためChildish Gambinoがどんな人物で、どのようにして社会を投影してきたのかを踏まえて今回の作品について考えるとする。
目次
Childish Gambinoとは
Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)ことドナルド・グローヴァーはアメリカ・ジョージア州出身。
本名のドナルド・グローヴァーでは俳優やコメディアン、脚本家。Childish Gambino名義では音楽家、ラッパーとして活動する。
ドナルド・グローヴァーとしての活動
ドナルド・グローヴァーは大学在学中に 『デリック・コメディ』というスケッチコメディを発表し、注目を浴びる。
俳優としては『スパイダーマン:ホームカミング』や『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』など、多くの映画作品への出演。
FXのテレビドラマ『アトランタ』では主演だけではなく、製作総指揮、一部脚本と監督を務めた。
この作品ではゴールデングローブ賞(テレビドラマ作品賞)をはじめとする、いくつかの賞を受賞し、話題を集める。
Childish Gambinoとしての活動
Childish Gambinoとしてキャリアは、2008年に自主制作のミックステープ『Sick Boi』を発表したことがはじまり。
2011年に、ChvrchesやPhoenixらが所属するグラスノート・レコードと契約しデビューアルバム『Camp』を発表する。
その後2013年にリリースされた2ndアルバム『Because the Internet』は、Jhené AikoやChance the Rapper、Azealia Banksらを招聘。
第57回グラミー賞にて“最優秀ラップ・アルバム”にノミネートされ、収録曲「3005」は最優秀ラップ・パフォーマンス賞にノミネートされる。
この作品のプロモとして、自身が脚本でヒロ・ムライが監督。Chance the Rapper やFlying Lotusなどのアーティストが出演のショート・フィルム『Clapping for the Wrong Reasons』を発表した。
Awaken, My Love!
Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)は2017年、3rdアルバム『Awaken, My Love!』をリリース。
第60回グラミー賞では“年間最優秀アルバム賞”と“年間最優秀レコード賞”の主要2部門を含む5部門にノミネート。
セールスにおいてもトリプル・プラチナ・ディスク(300万枚)を達成する。
これまで、インダストリアルやインディポップ、R&Bなどを取り入れたエモーショナルなラップ・アルバムだった音楽性から一転。
ファンクやゴスペル色を強めた、艶めかしいネオソウル集となっている。
「This Is America」が投影するアメリカの闇
2018年。Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)はシングル「This Is America」のリリース。
すでにChildish Gambinoとしての活動を引退することを発表していたこともそうだが、衝撃的だったのはその内容だ。
知らない人はまず、MVを視聴してみて欲しい。
大所帯に彩られた煌びやかなコーラスからはじまるも、突如本人が男性を銃殺。
そこからサウンドもうねうねとしたベースラインが主軸のヒップホップへと変調する。
その後もゴスペル集団を全員銃殺。スリリングな展開とともにChildish Gambinoは“This Is America”だと主張する。
出演者は全員黒人で、現在のアメリカが銃社会であることや未だ黒人差別がなくなっていないことを改めて世界に示したものとなっている。
ヒップホップやソウル、R&Bなど、ブラックミュージックがメインを席巻していた音楽シーン。
他の分野でも黒人たちが活躍を果たす時代に“油断するな”と警鐘を鳴らしたのが「This Is America」だ。
Childish Gambino – This Is America (Official Video)
“コーチェラ 2019”と短編映画『Guava Island』
Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)の新作を語る前にもう一つ紹介させていただきたい。
“コーチェラ 2019”と短編映画『Guava Island』の公開についてだ。
“コーチェラ 2019”でヘッドライナーを務めたChildish Gambinoは、ここでも社会を投影した。
配信動画では、まるで映画作品かのようなカメラワークと映像加工。
白いパンツと半裸で登場したChildish Gambinoは、観客に向け“これはコンサートじゃない。俺の教会だ。携帯を下げてくれ”と要求する。
ドナルド・グローヴァーは、エホバの証人として育てられている。そして、観客とともにマリファナを回し吸う。
コーチェラが開催されたカリフォルニア州ではマリファナが全面解禁されている。
本人にとってはパフォーマンス中の一服であったのかもしれないが、これをもってマリファナが薬物ではなく嗜好品であることを世界に配信する結果となった。
そうしてその夜に会場にて公開された短編映画『Guava Island』。ヒロ・ムライが監督で、主演はドナルド・グローヴァーでヒロインはRihannaだ。
Childish Gambinoの楽曲が端々で使用され、グアバ島で自由を求める主人公とそれを抑止する権力者が映し出されている。
詳しい内容については割愛するが、ここでも「This Is America」という曲を有効に使用してアメリカ社会を反映したものとなっている。
このようにここ数年のドナルド・グローヴァーの活動は、自身の作品を通して社会を投影したものとなっている。
3.15.20
そんな中、発表されたChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)の新作アルバム『3.15.20』。
事のはじまりは、アメリカ時間2020年3月15日に彼のウェブサイト上にて期間限定で公開された音源集だ。
それから1週間後の3月22日。正式に新作アルバムとしてリリースとなった。
アルバムタイトルは『3.15.20』、西暦と日付のみを冠せられた単純なタイトルの他、「Algorhythm」と「Time」以外の曲はすべて秒数での表記。
ゲストには、Ariana Grande(「Time」)と21 Savage(「12.38」)、そしてKadhja Bonet(「12.38」)だけではなく、息子であるレジェンド・グローバーも「47.48」にて参加している。
また、2018年にシングルとして発表された「Feels Like Summer」は「42.26」として。コーチェラにて披露された「Warlords」は「32.22」として収録されている。
それに加えて“Donald Glover Presents”名義では今作を1トラックバージョンで公開。
コロナウィルスで世界が混乱状態に陥っている時にサプライズ発表されたことや曲名、公開方法など含めて謎が謎を呼ぶ新作『3.15.20』は一体どんな意味を持つのだろうか。
率直に申し上げると、今作はどれも暴力的だ。
特にパーカッションは、全て荒々しい質感で鳴らされていて危なっかしい。
ヴォーカルにエフェクトが加えられ、まるで神のお告げであるかのようなフロウとダークなインダストリアル・サウンドが耳を引く「Algorhythm」。
「24.19」はゆったりとしたミディアムバラード。こちらもヴォーカルに加工が施されていて妖しいムードを演出する。酩酊感のファンク・サウンドとの溶けあいで恍惚の境地へと達する。
緊迫感のある作品のなかでも、それをほぐすのが「35.31」。シンプルに陽気なギターを聴かせながら、流れるようなラップも相まって南国感のあるポップ・サウンドになっている。
ファンクを土台にしたという点では前作の流れではあるが、どれも実験的な要素が表面化していて異質だ。
暴力的なパーカッションと奇怪なヴォーカル、それらと包容力のあるファンクとの融和こそが今作の聴きどころ。
社会の混沌を浄化するかのようで壮麗である。
非常事態に湧く、今に急遽リリースを合わせたためにアートワークも曲名もこのようになってしまったのかもしれない。
そのため、現時点で『3.15.20』を評価するのは時期尚早なのだろうか。
しかし、だからこそどのような作品なのか必死に聴いて、情報収集したのも事実だ。
“目に見えるものだけが、公開されている情報だけが、全てじゃない”
“報道されているものだけを鵜呑みにするな、自分で考えて答えを導き出せ”
今作を通して、そんなメッセージを受け取った。
謎が多い故、断定を拒む作品であるが、聴き手それぞれがそれぞれの思いを巡らせる、今聴くべきアルバムである。
アルバムリリース
4thアルバム『3.15.20』
Wolf+Rothstein/RCA Records (2020-03-22)
売り上げランキング: 544
収録曲:
01.0.00
02.Algorhythm
03.Time
04.12.38
05.19.10
06.24.19
07.32.22
08.35.31
09.39.28
10.42.26
11.47.48
12.53.49
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3rdアルバム『Awaken, My Love!』
GLASSNOTE (2017-04-28)
売り上げランキング: 152,899
収録曲:
01.Me and Your Mama
02.Have Some Love
03.Boogieman
04.Zombies
05.Riot
06.Redbone
07.California
08.Terrified
09.Baby Boy
10.The Night Me and Your Mama Met
11.Stand Tall
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2ndアルバム『Because the Internet』
Glassnote (2014-06-30)
売り上げランキング: 81,442
収録曲:
01.Library [Intro], The
02.I. Crawl
03.II. Worldstar
04.Dial Up
05.I. The Worst Guys
06.II. Shadows
07.III. Telegraph Ave. [“Oakland” By Lloyd]
08.IV. Sweatpants
09.V. 3005
10.Playing Around Before The Party Starts
11.I. The Party
12.II. No Exit
13.Death By Numbers
14.I. Flight of the Navigator
15.II. Zealots of Stockholm (Free Information)
16.III. Urn
17.I. Pink Toes
18.II. Earth: The Oldest Computer (The Last Night)
19.III. Life: The Biggest Troll (Andrew Auernheimer)
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1stアルバム『Camp』
Island (2018-06-08)
売り上げランキング: 215,473
収録曲:
01.Outside
02.Fire Fly
03.Bonfire
04.All The Shine
05.Letter Home
06.Heartbeat
07.Backpackers
08.L.E.S.
09.Hold You Down
10.Kids (Keep Up)
11.You See Me
12.Sunrise
13.That Power
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Childish Gambinoプロフィール
“ラッパー、シンガー、俳優、コメディアン、作家など様々な顔を持つエンターテイナー。11年、スタジオ・アルバム『キャンプ』(全米11位)でメジャーデビュー。12年、ベック、RZA、ゴーストフェイス・キラー、チャンス・ザ・ラッパー、ダニー・ブラウン、スクールボーイ・Q等人気アーティストをフィーチャーしたミックステープ『ROYALTY』を発表し、世界中で話題をさらった。13年12月に発表した2作目『ビコーズ・ジ・インターネット』が全米チャート7位(ラップ1位/R&B3位)を獲得し、グラミー賞「最優秀ラップ・アルバム」にノミネートされる。同アルバムは40万枚を売り上げ、ゴールド・ディスクを獲得。16年12月に3年ぶりとなる最新作『アウェイクン、マイ・ラヴ!』をリリース。USでトリプル・プラチナ・ディスク(300万枚の売上)を獲得、アルバムからのシングル「Redbone」はYoutubeでの再生回数が1億6千万回を突破。第60回グラミー賞では「年間最優秀アルバム賞」、「年間最優秀レコード賞」という主要2部門を含む全5部門にノミネートされている。チャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローバーは俳優としての活躍も目覚ましく、第74回ゴールデングローブ賞で彼が主演・原案・脚本を手掛けた『アトランタ』で2部門を受賞(作品賞、男優賞)。18年公開予定の映画「スター・ウォーズ・ストーリー」に出演する事が決定している。第60回グラミー賞にて主要2部門を含む計5部門にノミネート、「最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス」を受賞した。”
Childish Gambino代表曲(Youtube)
Donald Glover Presents – 3.15.20
Childish Gambino – Time (Audio)
https://youtu.be/5D8m_uBu9mk
Childish Gambino – Algorhythm (Audio)
https://youtu.be/rwVGJZdLNBs
ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky