最終更新: 2021年12月31日
シューゲイザーとは80年代にThe Jesus and Mary Chain『Psychocandy』の発表でその姿を現し、
90年代初期にMy Bloody ValentineやRide、Slowdiveといったバンドの登場により確立されたジャンル、サウンド、プレイスタイルだ。
90年代初期の盛り上がりから、すぐに衰退を迎えることとなるシューゲイザーだが、
時を超えて00年代にはRingo Deathstarr やThe Pains of Being Pure at Heartら新世代バンドにより、ニューゲイザーという派生ジャンルが誕生。
ニューゲイザーのように他ジャンルとの交配やエッセンスとしてサウンドにシューゲイザーを取り入れるバンドやアーティストは数多く、
ブームが鎮静した後でも国を問わず各地でシューゲイザーの遺伝子は脈々と引き継がれている。
そして、10年代以降にはMy Bloody Valentine、Ride、Slowdiveが揃って再始動した。
残念ながら上記3バンドの再始動によって期待された復興は、いまだ兆しのまま。
ただ、復活を待ち望んでいる音楽リスナーも多いのではないだろうか。
そのため、今回はリバイバルを期待しつつシューゲイザーファンに向け、国内外問わずシューゲイザーの新人バンド510組を紹介させていただく。
まずは、シューゲイザーについて一度整理しておこう。藪から棒で申し訳ないが、先に筆者の見解を述べることからはじめさせていただく。(2020年6月10日更新 シューゲイザーの新人バンド5組追加)
目次
シューゲイザーとは
シューゲイザーとは、新しい価値観の提唱である。そもそもシューゲイザーについての定義自体ははっきりとしていなく、ドリーム・ポップやノイズ・ポップといったジャンルとの境目が曖昧である。ジャンルではなくプレイスタイルだと異を唱えるものもいる。
通説とされているのは、エフェクターを多用し、そこに発生したフィードバックノイズを重ねることで浮遊感や陶酔状態を演出するサウンドだということ。
構造原理を説明すると想像しやすくなるが、一聴して形容しにくいほど複雑で壮麗な音像を描くシューゲイザーサウンドを形成する一部がノイズであることに私は、深く感動するとともにカルチャーショックを受けた。
一般的に雑音とされるノイズをかき集めることで、誰が聴いても美しいと思えるサウンドを生みだす。
“ドブネズミみたいに美しくなりたい”ではないが、美に対する価値観が崩壊した瞬間であった。
そういった体験を踏まえて、私はシューゲイザーを新しい価値観の提唱だと定義する。
サウンドやプレイスタイルで括ってしまうと狭義となってしまうが、この説をもって私はART-SCHOOLやTHE NOVEMBERSといったバンドもシューゲイザーだと認識している。
シューゲイザーの特徴
プレイスタイル
シューゲイザー(Shoegazer)の語源は、“Shoe+Gazer”つまり“靴を凝視する人”から由来する。
ロンドンのロック・バンドMooseのヴォーカル、ラッセル・イェイツが床に張った歌詞カードを見ながら演奏する姿を揶揄した言葉として生まれたのが、シューゲイザー。
その姿は、足元に多くのエフェクターを並べて、それを操作しながら演奏されるシューゲイザーと重なることからこの名前が付けられたとされている。
重複になってしまうが、先述にも記したとおり“エフェクターを多用し、そこに発生したフィードバックノイズを重ねることで浮遊感や陶酔状態を演出するサウンド”。
シューゲイザーサウンドをあらわす言葉として“浮遊感”はよく用いられている。それゆえ、なるべく避けたい言葉なのだが、一般的な特徴を述べるにあたりあえて使用させていただいた。
他にもリヴァーブやディレイといったエフェクターを用いる場合もある。
ヴォーカル
そして、90年代のシューゲイザーにとって欠かせなかったのがウィスパーヴォイスである。
光によって様々な色彩を浮かべ、ふわふわと空中を漂うシャボン玉のように儚い歌唱。
サウンドに彩りを加えるとともに、サウンドの一部として機能し、一層の多幸感をもたらした。
総じてドリーム・ポップの手法を踏襲したものであるが、攻撃的なシューゲイズサウンドを包み込み、より趣深いものへと昇華させたのはウィスパーヴォイスあってこそ、なのではないだろうか。
シューゲイザーの代表的なバンド
これから紹介する3組のバンドは、先述のThe Jesus and Mary Chainで産み落とされたシューゲイザーを確立させた功労者たちである。
シューゲイザーといえば彼らであり、彼らと言えばシューゲイザーだ。
まずはその3バンドを聴いて、上記の特徴と答え合わせをしていこう。そこには当然合致する部分もあるが、少しずつ異なる部分がある。
そして、その3バンドを聴いた上でニューカマー達を聴いていくとまた新たな発見があることだろう。
その時には君は、もうすでにシューゲイザーの虜となっているはずだ。
My Bloody Valentine
シューゲイザーと言ってまず名前が挙がるのは間違いなく、アイルランド出身のバンドMy Bloody Valentine(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)だ。
日本ではマイブラの愛称で親しまれるMy Bloody Valentineは、1988年リリースの1stアルバム『Isn’t Anything』をもってシューゲイザーというジャンルを確立させる。
その後、1991年リリースされた2ndアルバム『Loveless』という金字塔を打ち立てた。
シューゲイザーというジャンルについてまだ知らない人は、『Isn’t Anything』と『Loveless』を一度聴いてみるといい。人知を超えた世界を知ることとなる。
RIDE
My Bloody Valentine、Slowdiveとともに“シューゲイザー御三家”として称えられるバンド、RIDE(ライド)。
RIDEはイギリスのオックスフォードで結成され、解散と再結成を挟みながら、1990 年リリースの1stアルバム『Nowhere』から2017年リリースの『Weather Diaries』まで5枚のアルバムを発表してきた。
作品によって、濃淡はあるもののRIDEの鳴らすシューゲイザーサウンドはより直接的なもので、刺激的だ。
フィードバック・ノイズによって隠れがちになるリズム隊も強い存在感を示している。特にぶっとい波線描いたようなベースラインは、RIDEのシューゲイザーを形成する必要不可欠な要素である。
SWERVEDRIVER
RIDEと同じく、イギリスのオックスフォードで結成されたSWERVEDRIVER(スワーヴドライヴァー)。
彼らに関して言えばグランジの延長線上にあるような重みのあるヘビーなリフとどっしりと構えたリズム隊が特徴的で、バチバチとぶつかり合いながら形成されている。
時にネオ・サイケデリックとも分類されることもあるが、ごつごつとした無骨で、暴れん坊なリズム隊をギターノイズで包みこんだイメージである。
2015年に再結成された後も、それは健在でシューゲイザー御三家らと一緒にシューゲイザーというジャンルを発展させたバンドのひとつである。
シューゲイザーの新人バンド10組
Luby Sparks
何度かレビュー記事を書かせていただいた5人組オルタナティヴ・ロックバンド、Luby Sparks(ルビー・スパークス)。
ドリーム・ポップやギター・ポップを軸にするLuby Sparksにとって、シューゲイザーはエッセンスとして取り入れられている。
シューゲイザーを時にスパイスとして、時にハーブとして機能させ、巧みに使い分けている。
最近ではヴォーカルErikaの進化も著しく、サウンド面においてもバンドのさらなる飛躍が期待される。
For Tracy Hyde
こちらもレビューにて紹介させていただいた5ピース・バンド、For Tracy Hyde(フォー・トレイシー・ハイド)。
トリプルギター編成となり、さらに厚みを増したサウンドがいきついたのはシューゲイザーとJ-Popの調和だ。
J-Pop的な歌メロと90年代王道シューゲイザーサウンドをクロスオーバーさせることで、アイデンティティを獲得。
バンドにとっても、シューゲイズにとっても新たな可能性を見出したと言っていいだろう。
bdrmm
UKはハル出身の5人組シューゲイズ・バンド、bdrmm。
2018年デビューの若手バンドbdrmmは、SlowdiveやDIIVらを思わせる柔らかみのあるメロディが特徴であるが、
曲によってはフィードバックノイズで空間を覆い尽くすアグレッシブな一面も併せ持っている。
待望のデビューアルバム『Bedroom』は、7月3日リリース。
シューゲイザーを柱にして、柔にも硬にも振り切ることのできるbdrmmをぜひチェクしてみてほしい。
I Mean Us
台湾インディー・シーンを代表するドリーム・ポップバンドといえばI Mean Usだ。
2015年に台北市で結成されたI Mean Usも5人組である。Luby Sparksとの共演経験もあるバンドは台湾のみならず日本でも着々と人気を獲得している。
I Mean Usも音楽性を構成する一部として、シューゲイザーが存在している。
とりわけツイン・ギター放つ扇動的なサウンドと煌びやかなシンセ、そして静謐なヴォーカルとの調和が圧巻である。
Rev Magnetic
Mogwaiの盟友であり、Bowsとして活動するLuke Sutherlandによるソロ・ユニット、Rev Magnetic。
まず、耳を引くのは無調なノイズ、シューゲイズ。
そこに介在するは、チルウェイブやフューチャー・ソウルを通過したサウンドとリズム、そしてヴォーカルである。
天然由来なシューゲイザーサウンドを多角的なアプローチで更新しながらも、シューゲイザー本来の耽美さや退廃的なムードはそのままに仕上げる芸当に思わずのけぞった。
RINGO DEATHSTARR
2000年代におけるニューゲイザーバンドの代表格、オースティン出身のRINGO DEATHSTARR (リンゴ・デススター)。
親日家バンドとしても知られるRINGO DEATHSTARRは3ピースバンドであるが、音の厚みは他のバンドを凌駕する。
エリオットによるギターノイズとドローンが形成するのは底の知れぬ沼である。
方向感覚を失うまで強烈なノイズを天へと導く紅一点ベース、アレックスの美しいヴォーカル&コーラス。
そして、現実に連れ戻してくれるのはダニエルが放つクールかつダイナミックなドラミングだ。
ハードとソフトが上手く繋ぎ合わせた正統なシューゲイザー後継者といっていいだろう。(2020年6月10日更新)
The Pains Of Being Pure At Heart
ニューヨーク出身のThe Pains Of Being Pure At Heart(ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート)は、ドリームポップやインディー・ポップ色が強く、丸みを帯びた柔らかなシューゲイザーを聴かせてくれるバンドだ。
ギター単体だと砂嵐のように粗さの目立つ音も、なめらかなで青く眩しいメロディが乗っかるとそこはユートピア。
例えば、8mmフィルムで撮影したメリーゴーランドを想像してみて欲しい。淡く、懐かしい質感であるが捉えているのはロマンチックで優雅なひと時を与える遊具である。
そんなサウンドをThe Pains Of Being Pure At Heartは鳴らす。(2020年6月10日更新)
The Radio Dept.
スウェーデンはルンドのThe Radio Dept.( ザ・レディオ・デプト)は、ニューゲイザーの特徴とも言えるエレクトロニカを取り入れたバンドである。
シンセとギターノイズなのか判別不能な音色に、エコーの効いたヴォーカルが降りかかる。
総じてレトロなサウンドメイクであるが、時を経ても色あせない魅力のあるバンドである。
The CardigansやCloudberry Jamらを彷彿とさせるスウェディッシュ・ポップの要素もふんだんに感じられ、まさにニューゲイザーの名にふさわしいサウンドを聴くことができる。(2020年6月10日更新)
Cosmic Child
2016年にデビューアルバム『Untitled』をリリースした、シンガポールのシューゲイザーバンド、Cosmic Child(コズミック・チャイルド)。
Luby Sparks やFor Tracy Hyde 、I Mean Usらアジアを代表する若手バンドと共振し、今後の活躍が期待されるシューゲイザーバンドである。
SlowdiveからThe Radio Dept.の系譜とも言える甘く儚い瑞々しいサウンドを武器として、荒々しくも厳かにもシューゲイザーを奏でる。
歴代シューゲイザーバンド達からの影響をもろに受けたCosmic Childが今後どのように羽ばたいていくのか見守る価値は十分にある。(2020年6月10日更新)
Charlotte is Mine
日本の男女2人によるインディ・ロックバンド、Charlotte is Mine(シャーロット・イズ・マイン)。
彼らもシューゲイザーの要素を取り入れながら、個々の音楽性を築くバンドである。
Charlotte is Mineの音楽から感じるのは夏。
夏夜の匂いみたいに心弾むクリーントーンとはたまた夏の日差しみたいにジリジリとしたノイズギターと、ギターひとつで違う夏を表現しているかのようだ。
こういった感覚へと誘うのが、エモやUSインディなどのCharlotte is Mineを形成する音楽要素。
素敵な心象風景を描くサウンドとしてシューゲイザーが用いられる。ということを体現したバンドである。(2020年6月10日更新)
シューゲイザーの現在
このようにシューゲイザーは国や年代を越えて、引き継がれてきた。
そして、不思議なことにシューゲイザーはいつ聴いても新鮮に聴こえる。
ファーストインパクトで新しい価値観を提唱し、それに感銘を受け、魅了されたアーティストたちが自分たちの表現方法をもってシューゲイザーを鳴らし続けてきたからだろう。
それほどまでにシューゲイザーというジャンル、サウンド、プレイスタイルは強烈な音楽体験であったのだ。
90年代のムーブメントから約30年が経過した。
決してリバイバルを待ち望んでいるわけではないが、10年先も20年先もこうしてシューゲイザーの特集記事があがってくることを切に願う。
シューゲイザー特集でSONAR MUSIC出演
前回のネオソウルに引き続き、BELONGスタッフがJ-WAVEのSONAR MUSICに出演した。
番組のテーマは“シューゲイザー”でジャンルを確立した代表的なバンドから歴史を紐解き、最新アーティストまで紹介していく。
シューゲイザー特集詳細
“音楽を愛する全ての人と作り上げる(超)進化型音楽番組「SONAR MUSIC」!!
今夜のテーマは「轟け!シューゲイザーの沼!」My Bloody ValentineやThe Jesus and Mary Chainなど、90年代前半に一大ムーブメントを巻き起こしたシューゲイザー。
今なお多くのバンドやアーティストに影響を与え続けさらなるシューゲイザームーブメントも来ている予感!?
シューゲイザーってそもそもどんな音楽?彼らはどんなところから影響を受けたの?
最先端のシューゲイザーバンドは!?徹底深掘り!”
SONAR MUSIC番組概要
放送局: J-WAVE(81.3FM)
番組タイトル: SONAR MUSIC
ナビゲーター: あっこゴリラ
出演: 滝田優樹
放送日時: 10月5日(月) 21:00-22:30
番組ページ: http://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/
公式Twitter: https://twitter.com/SONAR_MUSIC_813
Youtube
- Luby Sparks | Somewhere (Official Music Video)
- For Tracy Hyde – 櫻の園/Can Little Birds Remember? (Live at Mona Records, 11 January 2020)
- bdrmm – Is That What You Wanted To Hear? (Official Video)
- I Mean Us – You So (Youth Soul) [Official Music Video]
- Rev Magnetic – Gloaming
- Ringo Deathstarr – God Help the Ones You Love
- The Pains Of Being Pure At Heart – “Kelly” (Official Music Video)
- The Radio Dept. – You Fear the Wrong Thing Baby
- Cosmic Child – Cats, Cats and Cats Again (Live Session)
- Charlotte is Mine – 群青
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1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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