最終更新: 2020年9月21日
アメリカのロック・バンドThe Killers(ザ・キラーズ)ほど、世界と日本における評価と人気に差があるバンドはいない。
これからリリースされる新作アルバム『Imploding the Mirage』で今度こそ、その不思議な差を埋めてくれるのではないかと期待している。
しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大という不運により『Imploding the Mirage』を引っ提げての来日ツアーやフジロック、サマーソニックといったフェスへの出演は困難な状況だ。
直接、The Killersを目にする機会はなくとも『Imploding the Mirage』の内容と話題をもって、日本の音楽リスナーに刺さってくれればと切に願う。
そこで今回は、おこがましいと思いつつも日本でのブレイクに少しでも助力したく、本来なら5月29日が発売日であった『Imploding the Mirage』についての記事を執筆させていただいた。
※『Imploding the Mirage』の発売日は8月21日に決定。(2020年7月19日追記)
目次
The Killersとは
The Killers(ザ・キラーズ)は、アメリカのラスベガスで結成されたロック・バンドだ。
2002年に結成され、メンバーはブランドン・フラワーズ(Vo./Key.)、デイヴィッド・キューニング(Gt.)、マーク・ストーマー(Ba.)、ロニー・ヴァヌッチィ(Dr.)の 4人。
2004年にデビュー・アルバム『Hot Fuss』をリリースし、全英アルバムチャートで1位を獲得する。
以降も2ndアルバム『Sam’s Town』(2006年)、3rdアルバム『Day & Age』(2008年)、4thアルバム『Battle Born』(2012年)、5thアルバム『Wonderful Wonderful』(2017年)。
The Killersはすべてのアルバムにて、全英アルバムチャート1位を誇る人気バンドである。(なお、『Wonderful Wonderful』は全米アルバムチャートでも1位を獲得している)
また、2007年のグラストンベリー・フェスティバルや2009年のコーチェラ・フェスティバルなど世界の主要音楽フェスへもヘッドライナーとして起用されているほか、世界各国でツアーを開催し、チケットはソールドアウトとなっている。
作品のセールスだけじゃなく、フェスでの起用やライヴ状況など全てを鑑みてもThe Killersの人気ぶり、モンスターバンドぶりを知ることができるだろう。
日本での人気
しかし、残念なことにここ日本においてはThe Killersの人気は高いとは言えない状況だ。
数々の不幸が重なり、2009年のフジロックをはじめとする来日ツアーやライヴが度々キャンセルになる。
というのは仕方のない話だが、The StrokesやArctic Monkeys、Franz Ferdinandといったバンドに比べるとフジロックやサマーソニックなどのフェスへの出演が極端に少ない。
さらに2018年に満を持して武道館公演を行った際も満員には至っていない。
先述のバンドたちがフェスやセールス面でも日本での人気を獲得しているのにも関わらず、The Killersはそれほど…といったなんとも歯がゆい状況である。
そんなThe Killersであるが、その音楽性は日本でも受け入れやすいものであることは間違いない。
シンセポップやニューウェーブ、インディー・ロックを咀嚼したポップなメロディとエモなヴォーカル。
その音楽性はボーダレスで、ひらけたものとなっている。スタジアム級のスケールでも、映えることは過去のライヴパファーマンスでも証明済みである。
代表曲「Mr. Brightside」
なかでもThe Killers(ザ・キラーズ)の人気曲「Mr. Brightside」。
2003年リリースのシングル曲であり、1stアルバム『Hot Fuss』にも収録されている。2018年の武道館公演でも、これまでの多くのライヴでもいちばんの盛り上がりを魅せてきた代表曲だ。
先ほど記述した“ポップなメロディとエモなヴォーカル”が凝縮された曲でもある。
多くのリスナーがポップでキャッチーであるのは言うまでもなく、聴くたびに切なくも、陽気にも響くシンプルなアルペジオを足がかりにサビに向かうごとにフレッシュな甘さが増していく展開。
ミキサーの次々と果物を加えながら、作られるフルーツミックスジュースのようである。
これでもかと唄も各パートのサウンドが隙間なく詰め込まれた楽曲であるが、くどくならないのはシンセの使い方だろう。
とりわけヴォーカルとギターの高音域で生じる歪みや耳にキーンと刺さる音を包み込むようにシンセは鳴らされ、不快感を与えるのはおろか更なる臨場感と高揚感に変換する。
「Mr. Brightside」は卓越したメロディセンスを損なうことなく、いかにフレッシュに聴かせるか?にこだわり、工夫がなされた1曲であろう。
『Imploding the Mirage』
2020年5月29日にリリースされる予定であった、The Killers(ザ・キラーズ)の6thアルバム『Imploding the Mirage』。残念ながら日本でのリリースは延期になっている。(発売日は8月21日に決定 2020年7月19日追記)
『Imploding the Mirage』にはWeyes BloodやThe War On Drugsのアダム・グランデュシエル、k.d.ラングらが参加するとアナウンスされている。
The Killersの前作『Wonderful Wonderful』では初の全米・全英チャート1位を記録。多角的に煌びやかなサウンド結集させた傑作であったこともあり、『Imploding the Mirage』に対する期待も大きい。
現在は「Fire In Bone」とリンジー・バッキンガムがフューチャーされた「Caution」の2曲が先行で公開されているため、この2曲をもとに新作アルバム『Imploding the Mirage』について考察していきたいと思う。
「Fire In Bone」
「Fire In Bone」は、ファンクなノリでビートが刻まれベースがうねる、ブルージーなナンバー。これまでのThe Killers像を裏切る渋いアレンジと言えるだろう。
それでも耳を引くのは多彩な楽器を使用して鳴らされるカラカラとしたパーカションとシンフォニックに奏でるフルートやパイプオルガン風のシンセ。
『Wonderful Wonderful』で聴かせたサウンドの幅を引き継ぎながら、新機軸に挑戦している。
大人の苦みも兼ね備えたような印象だ。
「Caution」
続く「Caution」は、苦みと甘酸っぱさが共存したサウンドに仕上がっている。
荘厳なストリングスで幕をあけ、シンセやキーボードを効果的に配置して、見晴らしのいい音色で、小気味いいエレポップへと突入する気持ちよさ。
すべてはこの気持ちよさのために用意されたストリングスだということが、確認できる。
ベースとドラムに関しても奥行きのある配置をもって、唄とサウンドを引き立たせる強かさもある。
何かの鬱憤を晴らすかのようにいきいきとしたサウンドと酸いも甘いも苦いも全てを呑みこんでしまう力強さは『Imploding the Mirage』におけるボジティブ要素のひとつ。
The Killersの成熟
上記2曲を踏まえて『Imploding the Mirage』という作品は、The Killers自体の進化というよりも、成熟を予感させる。
しかし言い方を変えると、“ポップなメロディとエモなヴォーカル”で評価されたThe Killersが少し行き詰まってしまった印象も否めない。
これまでのキラキラとした色彩感のあるサウンドは、今作でも遺憾なく発揮されているが擦れてセピア色も混じるようになった。
何か新しいものというよりは、時代感を感じてしまうのは私だけだろうか。どちらにしてもこの2曲だけで評価してしまうのはフェアではない。
これから届けられるフルアルバムに期待したいところだ。
また不幸なことにコロナウイルスの影響を受けて、この『Imploding the Mirage』を引っ提げて日本でのツアーの開催やフェスへの出演はしばらく困難な状況だ。
果たして、The Killersが日本で正当な評価と人気を獲得する時は来るのだろうか。
個人的にはフジロックやサマーソニックで、ヘッドライナーとして日本のオーディエンスを魅了する姿を確認できるまでThe Killersについて書いていきたいと思う。
「Dying Breed」
NEU!を彷彿とさせる機械的な8つ打ちパーカッション、いわゆるハンマー・ビートで幕を空ける「Dying Breed」。
宇宙空間的な音響で浮遊感をまとったシンセがじわじわと全体を覆い尽くし、代名詞であるキャッチーなシンセポップに着地する。
最終的にはThe Killersらしさを前面に押し出すコミカルかつ階調豊かな展開に戸惑いながらも、いい意味で笑えてくる。(2020年9月21日更新)
「My Own Soul’s Warning」
「My Own Soul’s Warning」は、これぞThe Killersといったニューウェイヴ由来のダイナミックなシンセを、洗練された音処理で施した、完全無欠なシンセポップナンバー。
ブランドン・フラワーズの強靭で渋めなヴォーカルも冴えまくって、実に気持ちがいい。
アレンジやフレーズからは80年代ニューウェイヴ風の懐かしさを覚えつつ、高揚を重ねて最大出力の音圧をもってクリアなサウンドを響かせる「My Own Soul’s Warning」は、The Killersにとって新たなアンセムとして機能するに違いない。(2020年9月21日更新)
The Killersは変わらないことを選んだ
リリース前に執筆した記事では先行曲「Fire In Bone」と「Caution」から “ポップなメロディとエモなヴォーカル”で評価されたThe Killersが少し行き詰まってしまった印象も否めない。
と考察していたが、『Imploding the Mirage』全体を聴いてその印象は少し変わった。
洗練された音響処理と多角的なアプローチを持ってカラフルに彩りつつも、全編に渡ってエモショーナルなシンセポップを前面に押し出した作品になっている。
つまり結成から約20年となり行き詰まったのではなく、The KillersはThe Killersでしかいられないといった開き直り。
変わることができないのではなく、The Killersは変わらないことを選択した。
こうした姿勢は移り変わりの早いメインストリームではナンセンスに捉えられがちだが、変わらずにいて地位を確立していることこそ難しいことはない。
清々しく悟りの境地に達したのだ。日本と世界の人気格差なんて尻目にこれからもThe Killersは自分たちの道を突き進む。(2020年9月21日更新)
リリース
6thアルバム『Imploding the Mirage』
発売日:2020年8月21日
レーベル: Island Records
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
収録曲:
01.My Own Soul’s Warning
02.Blowback
03.Dying Breed
04.Caution
05.Lightning Fields feat. k.d. lang
06.Fire in Bone
07.Running Towards A Place
08.My God feat. Weyes Blood
09.When The Dreams Run Dry
10.Imploding The Mirage
5thアルバム『Wonderful Wonderful』
発売日: 2017/9/22
レーベル: Universal Music LLC
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
プロデューサー:ジャックナイフ・リー(U2,Weezeなど)
収録曲:
01. Wonderful Wonderful
02. The Man
03. Rut
04. Life To Come
05. Run For Cover
06. Tyson vs Douglas
07. Some Kind Of Love
08. Out Of My Mind
09. The Calling
10. Have All The Songs Been Written?
4thアルバム『Battle Born』
発売日: 2012/9/19
レーベル: Universal Music LLC
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
プロデューサー:ダニエル・ラノワや、スティーヴ・リリーホワイト、ダミアン・テイラー、スチュワート・プライス、ブレンダン・オブライエン
収録曲:
01. Flesh And Bone
02. Runaways
03. The Way It Was
04. Here With Me
05. A Matter Of Time
06. Deadlines And Commitments
07. Miss Atomic Bomb
08. The Rising Tide
09. Heart Of A Girl
10. From Here On Out
11. Be Still
12. Battle Born
3rdアルバム『Day & Age』
発売日: 2008/11/19
レーベル: Universal Music LLC
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
プロデューサー:スチュアート・プライス(マドンナ)
収録曲:
01. Losing Touch
02. Human
03. Spaceman
04. Joyride
05. A Dustland Fairytale
06. This Is Your Life
07. I Can’t Stay
08. Neon Tiger
09. The World We Live In
10. Goodnight, Travel Well
2ndアルバム『Sam’s Town』
発売日: 2006/9/27
レーベル: Universal Music LLC
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
収録曲:
01. Sam’s Town
02. Enterlude
03. When You Were Young
04. Bling (Confession of a King)
05. For Reasons Unknown
06. Read My Mind
07. Uncle Jonny
08. Bones
09. My List
10. This River Is Wild
11. Why Do I Keep Counting?
12. Exitlude
1stアルバム『Hot Fuss』
発売日: 2004/10/21
レーベル: Universal Music LLC
ジャンル: オルタナティヴ・ロック
ミックス:アラン・モールダー(U2、The Smashing Pumpkins、Depeche Mode)
収録曲:
01. Jenny Was a Friend of Mine
02. Mr. Brightside – (Thin White Duke remix)
03. Smile Like You Mean It
04. Somebody Told Me – (Josh Harris remix)
05. All These Things That I’ve Done
06. Andy, You’re a Star
07. On Top
08. Change Your Mind
09. Believe Me Natalie
10. Midnight Show
11. Everything Will Be Alright
プロフィール
“2003年 ラス・ヴェガスを拠点に結成された才能溢れるシンガー/キーボーディストのブランドン・フラワーズ、ドラマーのロニー・ヴァヌッチィ、ギタリストのデイヴィッド・キューニング、ベーシストのマーク・ストーマーからなる4人組バンド、ザ・キラーズ。
グラミー賞やアメリカン・ミュージック・アワード、MTVビデオ・ミュージック・アワード、NMEアワードへのノミネートを始め数々の偉業を成し遂げてきた。
シングル「ミスター・ブライトサイド」、 「サムバディ・トールド・ミー」、U2 やコールドプレイにも支持された 聖歌を彷彿とさせる「オール・ディーズ・シングス・ザット・アイヴ・ダン」が収録された2004年にリリースされたファースト・アルバム『ホット・ファス』を提げ、2年間のツアーで、400本を超えるライブを行ったザ・キラーズはその後、拠点のラス・ヴェガスに戻り、伝説的プロデューサー、アラン・モウルダー、フラッドと共に、次作のアルバムの制作を開始。彼らの愛するのホーム・タウンに捧げるセカンド・アルバム『サムズ・タウン 』を2006年にリリースし、42週に渡り、全米アルバムチャートにチャート・イン。2007年にはBサイド・コレクション・アルバム『ソーダスト』、2008年には、ヒット・シングル「ヒューマン」を収録し、幅広い支持を得た3枚目のスタジオアルバム『デイ & エイジ』をリリース。
2012年リリースのアルバム『バトル・ボーン』を掲げたワールド・ツアーでは過去に訪れたことのなかった国も含めて敢行。彼らの歴代の公演の中でも最も記念すべき、伝説の公演となった世界的に有名なウェンブリー・アリーナでの公演も大成功に収めた。ザ・キラーズとして音楽を作り始めて10年後となる2013年11月に過去のヒット曲と2曲の新曲を含む、ベスト・アルバム『ダイレクト・ヒッツ』をリリース。
全世界アルバム・セールスが2500万枚を超え、コーチェラ、ロラパルーザ、 グラストンベリー等の世界最大級の音楽フェスティバルでのヘッド・ライナーを務めたザ・キラーズは2017年9月最新アルバム『ワンダフル・ワンダフル』をリリース。全米・全英アルバムチャート1位をはじめ、メキシコ、オースラリアのアルバムチャートでも1位を記録。イギリスでは5作連続となる1位、ブランドン・フラワーとしては合計7回目の1位を記録した。”
Youtube
- The Killers – “My Own Soul’s Warning” (Visualizer Video)
- The Killers – Run For Cover
- The Killers – Read My Mind (Official Music Video)
- The Killers – Human (Official Music Video)
The Killers(ザ・キラーズ)が新作アルバム『Imploding the Mirage』より、アルバムの冒頭を飾る「My Own Soul’s Warning」を公開!
「My Own Soul’s Warning」のプロデュースはFoxygenのジョナサン・ラド、アコースティック・ギターでThe Lemon Twigsのブライアン・ダダリオが参加している!(2020年6月17日追加)
ライター:滝田優樹
北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky