最終更新: 2021年2月10日
ガレージロック(Garage Rock)ほど共通する風景を描くロックジャンルはない。
その呼称の由来は当時ガレージつまり車庫で演奏練習を行うロックバンドが多かったことからで、
お金の余裕がなく、音楽スタジオで練習することができなかったバンドが多かったという時代背景がある。
ガレージ(車庫)で演奏練習を行うことが逆に珍しくなってしまった現代でも変わらずガレージロックと呼ばれ続けている。
そう、いつの時代のガレージロックもこういったひたむきに音楽を鳴らす若者たちの姿を想起させるからだ――。
今回はそんなガレージロックについての歴史と特徴、そして新人バンド10組を紹介させていただく。(2020年10月20日更新)
目次
ガレージロックとは
ガレージロックとは1960年代中頃にアメリカにて生まれ、勃興した音楽ジャンルのことだ。
同じく1960年代中頃にThe BeatlesやThe Rolling Stones、The Who といったUKロックバンドがアメリカに進出した“ブリティッシュ・インヴェイジョン”からの影響を強く受けた。
つまりR&Bやソウル、カントリーやフォークから刺激を受けて独自にロックと向き合ったブリティッシュビートがアメリカの若者たちにさらに刺激を与えたことによって誕生したもの。
ロックが最も盛んだった時代にアメリカとイギリスの両国によるカウンター合戦が生んだ賜物がガレージロックだということだ。
ガレージロックリバイバルとは
2000年代のガレージロックリバイバルについて説明する前に、まずはガレージロックのその後について簡単に書かせていただく。60年代にはThe SonicsやCount Five、THE SHADOWS OF KNIGHTといった代表的なガレージロックバンドが登場し、活躍を果たした。
70年のロンドン・パンク・ムーブメント発生における要因のひとつとされ、ガレージパンクといった言葉も生まれた。
が、80年にはオルタナティヴ・ロックが登場し、LAメタルなどのヘヴィメタルなどの台頭により、他の多くの音楽ジャンルと同様、しだいに影をひそめるようになった。
90年代にはNirvana、Soundgarden、Dinosaur Jr.を中心したグランジブーム、2000年初頭のヒップホップ、R&Bへと移り変わり、すっかりと忘れ去られた。
そんな時に登場したのがThe StrokesやThe White Stripes、The Libertinesといったガレージロックバンドである。
多くの枝分かれや複雑化していったロックジャンルであったが、上記3バンドを中心としたガレージロックバンドらはシンプルなロックサウンドへと回帰。
そのサウンドは、多くのリスナーたちへ新鮮に響き渡ったのである。
甘いものを食べたあとにしょっぱいものが食べたくなる、あるいは脂っこいものを食べたあとにすっきりとしたものが食べたくなるといった具合にガレージロックは再び陽の目を浴びることとなったのだ。
ガレージロックの特徴
ガレージロックはこれまで説明した誕生から勃興、衰退、再興。
といったそれぞれの背景を踏まえて、サウンドやプレイスタイルにいくつかの特徴を有する。
その特徴を3つに絞って、解説させていただく。
シンプルなコード進行
初期のロックンロールやブルースのように3コードだけのシンプルなコード進行のものが多い。
それはテクニックよりも己の心の叫びを尊重したこと。
ブリティッシュビートに魅せられたアメリカの若者たちが反骨精神そのままに衝動的に自分たちのロックをやろうとしたことが由来しているのではないだろうか。
同じコードであってもその時々によって弦の押さえる力もストロークも異なり、響き方が変わってくる。
それゆえ、複雑なコード進行とは別の独自性を孕んでいるといえるだろう。
乾いたサウンド
名前の由来の通り、車庫で演奏することが多かったガレージロックは、音響処理がなされていない。
また、当時はエフェクターを多用することなくアンプに直でギターを繋いでいたバンドも少なくない。
そのため、真空管で鳴らされたように渇いた音像でざらついた質感のまま。
加工することなく、生を届ける。
そのスタイルは時代が進み、録音環境が整いきった2000年代のガレージロックリバイバルでも変わることなく継承されている。
無骨なヴォーカルスタイル
上記2点のサウンド、スタイルの特徴と同様にヴォーカルも衝動的でざらついている。
しゃがれやがなり、シャウト。さらには声が裏返ってしまったりと破天荒なスタイルも見受けられる。
そのどれもが見栄や誇張とは別物の自己表現で、背伸びすることなくありのままを表現する素直さが何とも愛くるしい。
このようなスタイルは自分に正直でいることが大切だということを教えてくれる。
ガレージロックの代表的なバンド
具体的な音楽的特徴もスタイルも持ち合わせているガレージロックは、一様にそのサウンドを想像しやすいジャンルであろう。
その始祖とされるバンドも数多く、まずどのバンドから聴いてみたらいいか迷ってしまうことではないだろうか。
そのためまずは入門編として以下2組のバンドを選出した。
The Velvet Underground
ガレージロックもとい、ロックを語るうえで避けて通れないのがThe Velvet Underground(ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)。
1964年、ニューヨークにてルー・リードを中心として結成されたThe Velvet Undergroundはロックというジャンルに血肉を与えたとともに後続のバンドたちに多大な影響を与えた。
ランタンの灯りのように優しく温かみのあるメロディーを武器にサイケや実験音楽、アート、フォークなど多方面にロックを広げる積極的姿勢。
ガレージロックの印象は薄いかもしれないが、特にデビューアルバム『The Velvet Underground and Nico』の収録曲「Sunday Morning」や「(I’m Waiting for the Man」においてその音像を捉えることができる。
特徴であるシンプルなコード進行と乾いたサウンドを下地に多様に広がっていったという点にThe Velvet Undergroundとガレージロックの共通項を見出すことができる。
The Stooges
イギー・ポップがフロントマンを務めたバンド、The Stooges(ザ・ストゥージズ) 。
こちらもアメリカのレジェンドバンドであるが、ガレージロックの特徴=The Stoogesの音楽的特徴と言っていい。そしてイギー・ポップはガレージのアイコンであり、カリスマ的存在。
新世代ガレージロックバンドStarcrawlerのヴォーカル、アロウ・デ・ワイルドによる猟奇的なパフォーマンスはイギー・ポップと重なる。
The Stoogesにおいてのガレージはひたむきというよりは野性味のある印象。
反骨精神とは別に持って生まれた衝動のまま暴れまくった結果がガレージロックであった。
そんな自由気ままなスタイルはパンクやニュー・ウェイヴに多大な影響を与えたとされている。
The Sonics
1960年にワシントン州タコマで結成されたガレージロックバンド、The Sonics(ザ・ソニックス)。
ガレージロックの特徴である “シンプルなコード進行”、“乾いたサウンド”、“無骨なヴォーカルスタイル”の3点をクリアするバンドとして一番のお手本だろう。
当時のアメリカン・ロックを色濃く継承したThe Sonicsは、これまで紹介したバンドたちと比べて鬱憤や怒りを反映したサウンドというよりも、スウィンギンで心愉しくなる音楽性。
特に1965年リリースのデビューアルバム『Here Are The Sonics !!!』は、からからな音質のままキーボードやサックスを加えて、軽快に音を鳴らした作品である。
ざらついた音質に潤いをもたらすようにキャッチーなフレーズを紡いでいく、The Sonicsは後に生まれたパンクロックにも大きな影響を与えた、紛れもないレジェンドである。
ガレージロックの新人バンド10組
60年代中頃に誕生し、00年代の復活を経て、現代のガレージロックはそのスタイルや精神性をしっかりと継承し、サウンド自体に懐かしさを覚えつつも現在の感性を注入して鳴らされている。
そのことを証明すべくSTARCRAWLER、YAK、Liily、DYGL、Pip Blom、No Buses、ARXX、White Reaper、Mississippi Khaki Hair、Twin Peaksの10組を紹介する。
Starcrawler
LA発のガレージロックバンド、Starcrawler (スタークローラー)。
イギリスの老舗インディーレーベル、ラフ・トレードからデビューを飾ったStarcrawlerといえばヴォーカルのアロウ・デ・ワイルドによる憑依的なライブパフォーマンスと奔放な佇まい。
そしてガレージロックの音像を捉えたごつごつとしたギター&ベースライン、流線型を描いたしなやかなヴォーカル。
悪童的なキャラクターを全面に打ち出しながらも、アロウのヴォーカルが乗るとどんなサウンドもポップなメロディーになる。
苦みや渋みを優しく包むオブラートのような役割を果たしている。
そんな摩訶不思議な魅力をもったStarcrawlerのセカンドアルバム『Devour You』のインタビュー記事はこちら。
発売日: 2019/10/10
レーベル: Rough Trade
YAK
ロンドンの3人組ガレージロックバンドYAK(ヤーク)。
1stアルバム『Atlas Complex』ではオーセンティックなガレージロックをお見舞いし、続くアルバム『Pursuit Of Momentary Happiness』では華麗なガレージサイケへと舵を切った。
非常に硬質で思い切りのいい演奏は2015年のデビュー当時からジャック・ホワイトからお墨付きをもらい、2019年にリリースした『Pursuit Of Momentary Happiness』では地元ロンドンの先輩Spiritualizedのジェイソン・ピアースが参加したことによりさらなる化学変化をもたらした。
全力を注いだ姿勢は一貫しているものの、表現方法を変えることで目の前のオーディエンスだけでなく、空間を支配する力を手に入れることに成功。
そんな成長著しいYAKのアルバム『Pursuit Of Momentary Happiness』についての記事はこちら。
発売日: 2019/2/7
レーベル: Virgin EMI
Liily
Liily (リリー)もロサンゼルス出身の4人組ガレージロックバンドで、2019年にデビューEP『I Can Fool Anybody in This Town』をリリースした新人である。
Liilyの特色はストレートなガレージ感にインダストリアルのエッジを加えた、冷ややかなるムードを内包したサウンド。
豊潤だけど、革新的。どこに転ぶかわからない危なっかしさではなく、インテリマフィアのような知的さと荒々しさが共存したバンドだ。
あくまでもガレージロックという枠組みのなかで様々な工夫を凝らす計算高さは、何とも頼もしい。
Liilyについてより詳しく知りたい方はこちらの記事もぜひ。
発売日: 2019/3/7
レーベル: Flush Records
DYGL
日本が誇る次世代ガレージロックバンドといえば、そうDYGL(デイグロー)だ。
ニューヨークやロンドンなど海外に拠点を置くDYGLは、音像もヴォーカルも空気感もネイティブなUK/USインディー。
本場でヒップホップやグライム、ジャズ、アンビエントに触れながら感化を受けた日本人のDYGLが多くの参照点を持ち合わせながらガレージロックを再構築する。
ヴィンテージ感漂うガレージロックをかき鳴らしつつも、どこかスタイリッシュで軽やかな印象を感じるのは、そのボーダレスな接続がもたらしたものであろう。
DYGLについての詳しい記事はこちらから。
発売日: 2019/7/3
レーベル: HardEnough
Pip Blom
オランダのアムステルダムを拠点とする、Pip Blom (ピップ・ブロム)。
2019年にデビューアルバム『Boat』をリリースしたPip Blomは、シンガーソングライターとしても活動するピップ・ブロムを中心とした4人組バンドだ。
サウンド自体はシンプルもシンプル。飾りけがなくオーガニックな質感をもったガレージロックだ。
そのなかで際立つのは超天然なヴォーカルだ。子供が描いた似顔絵のように無邪気な歌声はどこか懐かしく、微笑ましい。
のどかな風景を描いた新感覚ガレージロックバンド、Pip Blomデビューアルバム『Boat』の記事はこちら。
発売日: 2020/5/1
レーベル: Heavenly Recordings
No Buses
2000年代ガレージロックリバイバル直系の4人組ガレージロックバンド、No Buses (ノーバシーズ)。
“出れんの!?サマソニ!?”からSUMMER SONIC2018への出演も果たした日本の若手バンドであるが、敢えてチープに聴かせる脱力感や極彩色の美旋律をローファイサウンドと掛け合わせる美的センスは実に現代的だ。
今年リリースの「Imagine Siblings」ではトラップビートも取り入れ、意欲的にガレージロックを広げるNo Busesは、日本のみならず海外でもじわじわと人気を獲得している注目の新人だ。
No Buses、初の全国流通盤『Boys Loved Her』についての記事はこちらから。
発売日: 2019/9/11
レーベル: No Buses
ARXX
The White Stripesの再来?UKはブライトンの女性デュオ、ARXX。
2018年にEP『Daughters Of Daughters』にてデビューを飾ったARXXはヴォーカルもギターも躍動的に打ち鳴らす。
流麗なメロディーからはParamoreやFall Out Boyらにも通ずるUSエモの流れも感じつつ、ざらついたギターサウンドはガレージロックの模範と言える渋さあるもの。
まだ作品のフィジカルは日本に流通していない様子だが、2人だけでこれだけの機動感と色彩感を演出する実力は申し分ない。
まだ彼女たちを知らない人は、これを期にフォローすることを勧める。
そんなARXXのにデビューEP『Daughters Of Daughters』についての記事はこちらから。
発売日: 2019/11/22
レーベル: Front Desk
White Reaper
White Reaper(ホワイト・リーパー)は、ケンタッキー州ルイビル出身の5人組ガレージロックバンドである。
ロックンロールからパワーポップ、そしてニューウェイヴを回遊するWhite Reaperは、彩色を施した美麗なメロディラインを強調したガレージサウンドが特徴のバンドだ。
2019年リリースのメジャーデビューアルバム『You Deserve Love』では、パワーポップの濃度を高めたガレージロックをお見舞いし、今後もどのようにその裾野を広げていくのか注目である。
レーベル: Elektra
Mississippi Khaki Hair
先に紹介させていただいたDYGLとNo Buses同様、国内ガレージロックバンドの雄として注目を浴びる、Mississippi Khaki Hair(ミシシッピ・カーキ・ヘアー)。
2016年に関西で結成されたMississippi Khaki Hairは、ポストパンクやニューウェイヴを咀嚼したダークな旋律でガレージロックを拡張する、次世代バンドだ。
豊かなシンセサウンドとエフェクターを多用したシューゲイズなギターなど巧みな音処理を施しながらも、随所にガレージロック由来のエッジの効いた耳触りを感じることができる。
Mississippi Khaki Hairの詳しい記事はこちら。
レーベル: MKH the Private Heartache
Twin Peaks
2010年結成のシカゴ発5人組ガレージロックバンド、Twin Peaks(ツイン・ピークス)。
ガレージロックバンドといえど鍵盤や管楽器、コーラスを添えたバロックポップを下地とするサウンドは、芳醇かつゆったり感のあるもの。
ガレージロックの生まれた時代背景とはかけ離れた心象風景を描きつつも、豊かな色合いを加えた音楽性は、決してそれを否定するわけではなく新たな可能性を導き出したと言えるだろう。
Twin Peaks、新作EP『Side A』の記事はこちら。
レーベル: Caroline International
60年の歴史を超えたガレージロック
アメリカとイギリスの両国が切磋琢磨しあることで生まれたガレージロックは、様々な煽りを受けながら衰退と再興を経験したタフな音楽ジャンルである。
しかし、そのサウンドを聴いただけでひたむきにロックを鳴らす当時の若者たちが想像できてしまう。生き字引のような音楽ジャンルではないだろうか?
時代も国籍も異なるガレージロックバンドがそれぞれの感性で鳴らしたサウンドなのにも関わらず共通した風景を描くことができるのはその歴史的背景と精神性があるからなのだろう。
決して汎用性のあるジャンルであるわけではないが、こういった特異性はまた注目を浴びることとなるだろう。
歴史は繰り返すものだ。さて、次のリバイバルはいつだろうか?
ガレージロックのプレイリスト
ガレージロックの代表的なバンドから新世代バンドまでのおすすめ曲をチョイスしたプレイリストでは、その歴史的背景と精神性を想像しながら聴いていただけたら、嬉しく思う。
そうすることでガレージロックへの理解がより深まるのではないだろうか。
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ライター:滝田優樹
北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
今まで執筆した記事はこちら
Twitter:@takita_funky