最終更新: 2021年1月29日

1stアルバム『Dogrel』にて鮮烈なデビューを飾ったFONTAINES D.C.(フォンテインズDC)が、2020年7月31日に2ndアルバム『A HERO’S DEATH』をリリースした。

FONTAINES DCは“ポストパンクの新星”として、海外主要メディアから期待の寄せられる新人バンドである。

そんなバンドの新作アルバムリリースとあって、今作『A HERO’S DEATH』のハードルは上がりきっている――。

結論から言わしてもらえば、そのハードルを優に越えた傑作だ。

そして、そのハードルを上げた要因となった『Dogrel』を上手く利用した形でさらなる飛躍をもたらした。

それを語る前にまずは、FONTAINES D.C.について。

FONTAINES D.C.とは

FONTAINES D.C.
FONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)はアイルランドのダブリン出身。2017年に結成されたポストパンク・バンドである。

FONTAINES D.C.というバンド名。映画『ゴッドファーザー』におけるキャラクター名に”Dublin City”の略である”D.C.”に加えて名づけられたという。

グリアン・チャッテン(Vo.)、カルロス・オコンネル(Gt.)、コナー・カーリー(Gt.)、コナー・ディーガン3世(Ba.)、トム・コール(Dr.)の5人からなる新人バンドは、2017年5月にシングル『Liberty Belle』を自主リリース。

いくつかのシングル作品をリリースした後、2018年にロンドンとNY、LAに拠点にし、IDLESやCigarettes After Sexなどを輩出したインディーレーベルPartisan Recordsと契約している。

2019年にはSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)への出演や50都市をまわるツアーも開催。

そして、2020年にはフジロックやグラストンベリー・フェスティバルに出演することが決定していたがコロナウイルス拡大の影響により、延期もしくはキャンセルとなっている。

ポストパンクの新星

Fontaines D.C.
先述の通り、FONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)の出身地であるダブリンは現在The Murder CapitalやInhaler、GIRL BANDなど次世代インディロックバンドたちがひしめき合うホットスポットである。

その中でもFONTAINES D.C.は特に“ポストパンクの新星”として、世界中のロックファンから熱い視線が注がれている。

かっちりとした身のこなしのガレージロック由来のギターとそれを着崩すかのように無頓着なヴォーカル。

ディテールにこだわり持つ音楽であるのにも関わらず奔放にふるまっているように見える。

それこそが“ポストパンクの新星”と呼ばれる所以であるが、具体的にどのようにそうであるのかは『Dogrel』と『A HERO’S DEATH』の2枚のアルバムを語ることで紐解いていこう。

『Dogrel』

Partisan Recordsとの契約前後から徐々に注目を浴び始めていたFONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)が2019年に満を持してリリースしたのがこのデビューアルバム『Dogrel』。

インディーレーベルのRough Tradeとラジオ局のBBC 6Musicにて年間ベスト・アルバムに選出され、その年のマーキュリー・プライズにもノミネートされる。

この『Dogrel』のリリースこそがロックファンたちのみならず、Rolling Stone誌やPitchforkをはじめとする主要音楽メディアからも高い評価を得るきっかけとなった。

『Dogrel』でFONTAINES D.C.が提示したのは衝動性を後退させることなく、細部まで気配りされたバンドサウンドを成立させたことであろう。

ガレージロックに根差した無機質な音質でギターやベースを聴かせながらも、それらが合わさると光線銃のようにカラフルなメロディへと変化する。

反復を繰り返し、シンプルに刻むドラムもメロディ絡みついて程良い違和感を演出する。

そして、何よりグリアン・チャッテンのヴォーカルの奔放さ。どこに転ぶかわからない危なっかしさが痛快だ。

『A HERO’S DEATH』

A Hero\’s Death

パンチのあるタイトルが冠せられた2ndアルバム『A HERO’S DEATH』のジャケットにはケルト神話の英雄、クー・フーリンの像が据えられている。

ポストパンクの未来として期待されるFONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)が、このタイトルとこのアートワークにしたのにはどこか挑発的に感じられる。

そんな『A HERO’S DEATH』は、前作『Dogrel』を凌駕するほど肉々しくて、鋭利なサウンドが見受けられる。

空間的な余白を残しながら柔軟に響かせたサウンドから一転、ドでかい斧を振り落としたようにギターからベース、ドラム。全ての音が図太い。

そのサウンドは「I Don’t Belong」や「A Lucid Dream」のように退廃的で粛々とした世界観を演出したり、「You Said」、「No」みたいにそれがUSエモのように表情豊かなメロディラインを形成したり、とあらゆる方面へと作用している。

豪快に立ちまわった音響であるが、切なさや優しさといった表情。もしくは冷たさや温もりといった温度感までも感じられる作品となっている。

思慮深くも痛快に音楽を響かせたFONTAINES D.C.が、今度はその痛快さを可逆させて深遠にサウンドを響かせるようになったのは彼らの成長に他ならない。

ポストパンクの新星たる理由

FONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)
デビューアルバム『Dogrel』が高評価を得たことにより、FONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)に対する視線や環境が激変したことは必ずしもバンドにとってポジティブに働いたとは限らないだろう。

ポストパンク、ロックの救世主として過剰な期待が寄せられ、葛藤もあったであろう。

内に秘めたる個性や特性を別物へと変換させつつも、それを損なわせない手捌き。彼らはこういったバンドであるといった断定や偏見を避けるように確信的にその個性を変換させている。

FONTAINES D.C.が“ポストパンクの新星”と呼ばれるいわれはその華麗な手捌きにある。

そして、その天邪鬼さが彼らの音楽の醍醐味であるのだ。

この『A HERO’S DEATH』をもってさらなる期待が寄せられるのは間違いないだろう。FONTAINES D.C.は本物だ。

いずれ間違いなく、新星から代表として広く認知されることであろう。

グラミー賞ノミネート

グラミー賞2021
昨年、待望のセカンドアルバム『A HERO’S DEATH』をリリースしたFONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)が第63回グラミー賞“Best Rock Album”にノミネートしている。(2021年1月29日更新 BELONG編集部)

FONTAINES D.C.ライブ動画公開

A Night At Montrose, Dublin

7月31日に待望のセカンドアルバム『A HERO’S DEATH(ヒーローズ・デス)』をリリースした、FONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)がライブ動画“A Night At Montrose, Dublin”を公開した。

ライブ動画は期間限定(8月5日22:00まで)で公開され、『A HERO’S DEATH』だけでなく、『Dogrel』の曲も演奏されている。(2020年8月5日更新 BELONG編集部)

Fontaines D.C. – A Night at Montrose, Dublin

The Tonight Show Starring Jimmy Fallon

『A HERO’S DEATH』がグラミー賞“Best Rock Album”にノミネートしているFONTAINES D.C.がアメリカの番組“ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン”に出演し、「A Hero’s Death」を演奏している。(2021年1月29日更新 BELONG編集部)

Fontaines D.C.: A Hero’s Death

リリース

2ndアルバム『A HERO’S DEATH』

レーベル: Partisan Records
ジャンル: ポストパンク
プロデューサー: ダン・キャリー(Black Midi、Bat For Lashes、Squid)
収録曲:
1. I Don’t Belong
2. Love Is The Main Thing
3. Televised Mind
4. A Lucid Dream
5. You Said
6. Oh Such A Spring
7. A Hero’s Death
8. Living In America
9. I Was Not Born
10. Sunny
11. No
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『A HERO’S DEATH』の評価

“The Guardian Album of The Week ★★★★★
Q ★★★★★
Pitchfork 8.1
The Times ★★★★
MOJO ★★★★
8/10 – Uncut
NME ★★★★
Sunday Times Culture ★★★★
The Observer ★★★★
DIY 4.5/5
Clash 9/10
The Line of Best Fit 8.5/10
London Evening Standard ★★★★
The i Paper ★★★★
The Sun ★★★★
Daily Mirror ★★★★
Classic Rock 8/10”

引用元:Big Nothing

『A HERO’S DEATH』年間ベストアルバム(トップ10のみ)

“Far Out Magazine年間ベスト・アルバム1位
VISIONS (Germany) 年間ベスト・アルバム1位
Hot Press (Ireland) 年間ベスト・アルバム1位
BBC Radio 6 Music年間ベスト・アルバム2位
De Standaard Weekblad (Belgium) 年間ベスト・アルバム2位
NBHAP年間ベスト・アルバム2位
MOJO年間ベスト・アルバム3位
musicOMH年間ベスト・アルバム4位
Les Inrocks年間ベスト・アルバム4位
OOR年間ベスト・アルバム5位
MondoSonoro年間ベスト・アルバム5位
Piccadilly Records年間ベスト・アルバム6位
Rockyourlife.gr (Greece) 年間ベスト・アルバム6位
Louder Than War年間ベスト・アルバム7位
Focus Knack (Belgium) 年間ベスト・アルバム7位
The Sunday Times年間ベスト・アルバム8位
PopMatters年間ベスト・アルバム10位”

引用元:Big Nothing

1stアルバム『Dogrel』

レーベル: Partisan Records
ジャンル: ポストパンク
プロデューサー: ダン・キャリー(Black Midi、Bat For Lashes、Squid)
収録曲:
1.Big
2.Sha Sha Sha
3.Too Real
4.Television Screens
5.Hurricane Laughter
6.Roy’s Tune
7.The Lotts
8.Chequeless Reckless
9.Liberty Belle
10.Boys In The Better Land
11.Dublin City Sky
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プロフィール

Fontaines D.C.

“Fontaines D.C.(フォンテインズD.C.)はアイルランドのダブリン出身のポストパンク・バンド。メンバーはCarlos O’Connell(Gt.)、Conor Curley(Gt.)、Conor Deegan III(Ba.)、Grian Chatten(Vo.)、Tom Coll(Dr.)。5人がダブリンのミュージック・カレッジで出会いバンドはスタートした。2019年4月にはデビュー・アルバム『Dogrel』をリリース。アルバムはNME(5/5)、The Guardian(5/5)、Pitchfork(8.0/10)と各メディアで高い評価を獲得。UKチャートの9位、アイルランド・チャートの4位を記録し、ツアーは軒並みソールド・アウト。Rolling Stone誌は“我々のお気に入りの新しいパンク・バンド”とバンドを絶賛。The Tonight Show with Jimmy Fallonにも出演し、アルバムはRough TradeとBBC 6Musicの年間ベスト・アルバムの1位を獲得。2019年のマーキュリー・プライズにもノミネートされた。”

引用元:BIG NOTHING

Youtube

  • Fontaines D.C. – A Hero’s Death
  • Fontaines D.C. – I Don’t Belong (Official video)
  • Fontaines D.C. – Televised Mind (Official Music Video)

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ライター:滝田優樹

北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky