最終更新: 2023年1月9日

アメリカのSSW、キャメロン・ルーことGinger Root(ジンジャー・ルート)が新曲「Loneliness」をリリースした。

本記事では2023年1月の来日全公演が完売したGinger Rootの最新曲「Loneliness」を和訳し、BELONG独自の解釈で内容を考察している。

Ginger Rootがイメージする日本のシティポップと80年代アイドルらしさとは?

Ginger Rootとは

Ginger Root(ジンジャー・ルート)
Ginger Root(ジンジャー・ルート)はアメリカ・カリフォルニア州在住のSSWであるキャメロン・ルーが率いるプロジェクトである。

キャメロンのルーツは日本人に近い東アジア系であり、その上で音楽的アプローチも日本の80年代シティ・ポップを意識したサウンドである。

また日本のシティ・ポップ以外にもJapanese BreakfastやToro y Moiなど現行のミュージシャンからの影響も公言している。

そんなアジアと縁が深いアメリカ人の彼は昨今、盛り上がりを見せているアジアのインディー・シーンを担う存在として注目すべきなのではないだろうか。

またGinger Root(ジンジャー・ルート)という名前の由来は、キャメロンがVulfpeckというバンドのパフォーマンスで“生姜の根”について熱く語るというシチュエーションを目にした事が由来だそうだ。

キャメロン・ルーとは

キャメロン・ルーという人物像について、海外のサイト“The Arts Fuse”では、下記のように評している。

“キャメロン・ルーはカリフォルニア州ハンティントンビーチの出身である。ミュージシャン、グラフィックデザイナー、映像作家という、自他共に認める“器用貧乏”である。

2017年、彼は自身のホンダの車内で録音したカバーソングをYouTubeに投稿し始めた。それ以来、ルーはジンジャー・ルートという名前でレコーディングを行っており、かつて彼はこのプロジェクトを “アグレッシブ・エレベーター・ソウル”と表現した。

そのサウンドは、初期のJ-POPをノスタルジックに再構築した音楽ジャンル、“シティ・ポップ ”と表現するのが最も適切だろう。”(2023年1月9日 BELONG編集部追記)

“Cameron Lew is from Huntington Beach, California. He is a self-fashioned “jack of all trades, master of none”: musician, graphic designer, and filmmaker. In 2017 he began a YouTube series of cover songs recorded inside his Honda. Since then, Lew has been recording under the name Ginger Root, a project he once defined as an exercise in “aggressive elevator soul.” The sound could best be described as a nostalgic reimagining of early J-pop, “city pop” (シティ・ポップ).”

引用元:Pop Music Review: Ginger Root’s “Nisemono” and the Virtues of Creative Recycling
(The Arts Fuse)

Loneliness

Ginger Root(ジンジャー・ルート)「Loneliness」
Ginger Root(ジンジャー・ルート)の新曲「Loneliness」は日本のシティ・ポップを意識した楽曲である。

MVでは時代が1983年に設定され、架空のJ-POPアイドルである竹口公子こと“キミコちゃん”というアイドルが音楽番組でのパフォーマンスの直前でドタキャンしてしまう。

急遽「Loneliness」を作曲したGinger Rootが歌うことになり、意図せずしてパフォーマンスが好評を得て、スターダムにのし上がってしまうというストーリー。

日本の80年代アイドルへの楽曲提供をイメージしたような歌詞の世界観となっている。

Ginger Root – “Loneliness” (Official Music Video)

Loneliness 和訳

Ginger Root(ジンジャー・ルート)の最新曲「Loneliness」について和訳し、解説していく。

君はめぐる季節と共に何が手に入るか知っている
そしてそれは子供たちの歌声と一緒に過ぎ去っていくと言った
ちょっと待って、まだ昼過ぎじゃないか
時間が経つのが早くなっていく
どうしたって待ち切れないよ
君のペースが変わる時が来るんだ

“You said I know what the seasons bring
You said it goes with those children sing
Oh wait, it’s only half-past noon (Stay tuned)
Til’ the time gets quicker
How to stand the wait
It’s time to change your pace”

引用元:Ginger Root「Loneliness」歌詞(Genius Lyrics)

孤独
それは君のついた嘘と共に消えた
そうでは無いらしいけど
孤独なんだ
君なら理由を知ってるんだろう
孤独なんだ
後になって気づいたけど
もっとこれからはずるく生きるよ
孤独
それに別れを告げる

“Loneliness
Gone with your lying
Sayin’ it ain’t it
Oh, loneliness
You know why!
Loneliness
Found it out later
Tryin’ to be slick
Oh, loneliness
Say goodbye!”

引用元:Ginger Root「Loneliness」歌詞(Genius Lyrics)

こんなことが起きるなんて誰も教えてくれなかった
歩きながらそっと囁いたんだ、”一体何が起きてるんだ?”ってね
おっと、もう2時半になってしまった
時が進むのが加速しているからだ
待ち切れないよ
君のペースを狂わせるのが

“Well, no one told me when would things get real
Just walk on by and whisper, “What’s your deal?”
Oh wow, it’s now half past two (So soon?)
‘Cuz the time gets quicker
How to stand the wait
To stop and change your pace”

引用元:Ginger Root「Loneliness」歌詞(Genius Lyrics)

孤独
それは君のついた嘘と共に消えた
そうでは無いらしいけど
孤独なんだ
君なら理由を知ってるんだろう
孤独なんだ
後になって気づいたけど
もっとこれからはずるく生きるよ
孤独
それに別れを告げる

“Lonelinеss
Gone with your lying
Sayin’ it ain’t it
Oh, loneliness
You know why!
Lonеliness
Found it out later
Tryin’ to be slick
Oh, loneliness
Say goodbye!”

引用元:Ginger Root「Loneliness」歌詞(Genius Lyrics)

孤独
それは君のついた嘘と共に消えた
そうでは無いらしいけど
孤独なんだ
君なら理由を知ってるんだろう

“Loneliness
Gone with your lying
Sayin’ it ain’t it
Oh, loneliness
You know why”

引用元:Ginger Root「Loneliness」歌詞(Genius Lyrics)

孤独なんだ
後になって気づいたけど
もっとこれからは狡猾に生きるよ
孤独
それに別れを告げる

“Loneliness
Found it out later
Tryin’ to be slick
Oh, loneliness
Say goodbye!”

引用元:Ginger Root「Loneliness」歌詞(Genius Lyrics)

Loneliness 和訳まとめ

Rikki
Ginger Root(ジンジャー・ルート)が放つ新曲「Loneliness」の最大の特徴は80年代日本のシティポップへのリスペクトである。

そもそもGinger Rootの作風に日本音楽が影響を与え始めたのは2021年頃からで、最近の事である。

2020年のアルバム『RIKKI』の時点ではこの“日本らしさ”というのはそこまで見られなかった。

それは当時のインタビューを振り返ることで、どのように日本のシティポップが彼の音楽に影響を与える様になったか分かる。

シティポップとは

まず、Ginger Rootを語るにあたり、避けては通れないシティポップとはどのような音楽なのだろうか。

ここではシティポップが生まれた日本ではなく、再ブームが巻き起こった現場である海外の解釈を紹介したいと思う。

海外のサイト“The Arts Fuse”では、下記のように評している。

“シティ・ポップ”とは、70年代から80年代周辺の日本の幅広い商業音楽を指す言葉で、アメリカのソフトロックや日本の都市におけるテクノロジーの繁栄にインスピレーションを得ている。

“シティポップ”はやがて渋谷系やジャズ・フュージョンなどの音楽ジャンルに影響を与えながら広く浸透し、ゲームやアニメのサウンドトラックに収録されたことで、海外でも親しまれるようになった。

日本ではこのジャンルが80年代半ばからチープな使い捨て音楽と揶揄されるようになったが、2010年代に電子音楽の愛好家たちによって再発見され、復活を遂げた。

彼らはVaporwave、チップチューン、フューチャーファンク、グリッチなどの音楽ジャンルを好んでおり、竹内まりやなどのアーティストが再び注目されるようになった。”(2023年1月9日 BELONG編集部追記)

“City pop” denotes a broad swathe of commercial Japanese music from the ’70s through the ’80s that took its inspiration from American soft rock and Japan’s own burgeoning urban technological prosperity. “City pop” eventually become ubiquitous, informing musical genres such as shibuya-kei (渋谷系) and jazz fusion. Because it left its mark on videogame and anime soundtracks, the genre also became familiar abroad. Although it became derided as cheap and disposable music in Japan during the mid-’80s, “city pop” was revived and revered in the 2010s by digital music enthusiasts who enthusiastically rediscovered their roots. For those interested in digital nostalgia, styles such as vaporwave, chiptune, future funk, and glitch propelled acts like Mariya Takeuchi back into the cultural spotlight.”

引用元:Pop Music Review: Ginger Root’s “Nisemono” and the Virtues of Creative Recycling
(The Arts Fuse)

Ginger Rootと日本語

Ginger Rootことキャメロン・ルーは、日本語に対する思いについて、2020年のアルバム『RIKKI』のインタビューで答えている。

“日本語勉強を始めたのは、このアルバムをレコーディングしたあとだったね。でも確実に僕のクリエイションに影響を与えているよ。アメリカは(コロナウイルスのため)ロックダウンされて、時間がたくさんあったから曲を書いたり日本語を勉強し始めたんだ。高校生のころは日本の音楽をたくさん聴いていたこともあって、日本のシティーポップや日本の古い音楽の無意識的な影響が『Rikki』にはあるはずさ。でも、言葉を話したり、読んだり、理解しようとすることを含めた、語学自体に大きな影響があると思う。書いている曲や曲の書き方などにもね。”

引用元:Ginger Root(ジンジャールート)『RIKKI』インタビュー前編。記憶を巡るニューアルバムとDIY精神から生まれるクリエイションへの愛。(Sleepyhead)

インタビューでも述べられているがアルバム『RIKKI』では「Karaoke」という楽曲があるように当時から日本文化への憧れはあったものの、それが本格的に楽曲に反映される様になったのは『RIKKI』以降のようだ。

Ginger Rootとシティーポップ

Ginger Root(ジンジャー・ルート)の楽曲に日本のシティポップらしさが現れてきた2021年以降の楽曲を軽くおさらいする。

まずは「Loretta」という曲である。

この曲が現れた時、“海外なのにシティポップみたい!”と音楽マニアの間で話題になった。

また、「Loretta」には日本語で歌ったバージョンも存在する。

Ginger Root – “Loretta” (Official Music Video)

また、Ginger Rootはアニメ、エヴァンゲリオンのテーマを独自にリワークした音源も発表している。

ここからも分かるように彼は音楽だけでなく、幅広く日本文化に興味があるようだ。

Ginger Root – A Cruel Angel’s Thesis (Neon Genesis Evangelion Theme Rework)

そして新曲「Loneliness」をリリースした。

80年代アイドルへのオマージュ

本作もシティポップ的なアプローチがなされた楽曲であるが、その魅力は“80年代アイドルが歌う失恋ソング”というテーマの高い再現性だと思う。

シティポップというサウンド面での日本らしさだけでなく、歌詞とそれを歌う人物のペルソナの設定であったり、またそれを映像化したMVであったり、当時の日本の音楽シーンを丸ごと再現しようとしていること、そしてその完成度が高いことが魅力なのである。

国境と時代を超える音楽

現代のミュージシャンが恵まれているのはインターネットを通して、国や時代に縛られずに多種多様な音楽に触れることが出来るという点だと思う。

Ginger Rootが「Loneliness」の制作でやってのけたような“昔の外国の音楽を自己流に再現する”なんて事が出来てしまうのである。

このような特徴は多くの現代ミュージシャンの間でよく見受けられる。

それは60年代に活躍したジミ・ヘンドリックスをリスペクトしたアフリカのバンドMdou Moctar (エムドゥ・モクター)であったり、70年代イギリスのLed Zeppelinを彷彿とさせるGreta Van Fleet(グレタ・ヴァン・フリート)などである。

またSuperorganism(スーパーオーガニズム)に至ってはインターネットで出会った外国人同士が集まって様々な音楽的ルーツを背景に新たなサウンドを追求しようとしているのだから驚きだ。

これからの時代の音楽は人種、国境、時代を越えて、混ざり合って発展していく事がとても興味深い事だと思う。

私は日本人でありながら世代ではない80年代シティポップというものには疎く、その音楽の魅力を外国人であるGinger Rootに教えられたという状況であるのだから、少し奇妙な体験をしている様に思える。

Loneliness作品クレジット

Ginger Root( ジンジャー・ルート)の新曲「Loneliness」のクレジットは下記となっている。

プロデューサー:Ginger Root
作詞・作曲:Ginger Root
リリース日:2022年6月22日

Ginger Rootリリース作品

シングル『Loneliness』

Ginger Root(ジンジャー・ルート)「Loneliness」
発売日: 2022年6月22日
フォーマット:Mp3
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EP『City Slicker』

City Slicker
発売日: 2021年8月20日
フォーマット:Mp3、アナログ
Amazonで見る

Ginger Rootプロフィール

Ginger Root(ジンジャー・ルート)

“昼間は映画やビデオなどのマルチメディアの編集を行い、夜はGinger Rootという名前で音楽を作っているキャメロン・ルーは、“アグレッシブ・エレベーター・ソウル”と形容されるサウンドを前面に押し出している。

Toro Y Moi、Vulfpeck、Metronomy、Kero Kero Bonitoといった同世代のアーティストに、日本のシティポップやスタックス、フィリーソウルからの影響を加えたGinger Rootは、進化し続けるベッドルームポップに新たな風を吹き込んでいる。”

引用元:Ginger Root(ジンジャー・ルート)バンドプロフィール(Ginger RootオフィシャルHP)

Ginger Root来日公演詳細

Ginger Root(ジンジャー・ルート)の来日公演は全公演完売しました。

    2023年1月10日(火)@大阪・梅田クラブクワトロ
    2023年1月11日(水)@愛知・名古屋クラブクワトロ
    2023年1月12日(木)@東京・恵比寿リキッドルーム
    2023年1月13日(金)@東京・渋谷WWWwwX

Ginger Root代表曲(Youtube)

  • Ginger Root(ジンジャー・ルート) – Juban District(Official Music Video)
  • Ginger Root(ジンジャー・ルート) – Weather(Official Music Video)
  • Ginger Root(ジンジャー・ルート) – City Slicker(Official Music Video)

Seiya
Seiya
ジャンルは幅広く音楽について研究するのが好きです。

楽器、レコード、ファッションも好きでその文脈からも音楽を楽しんでいきたいです。

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ライター:yabori
yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・​後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻

これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。

過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。

それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。

現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。

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Twitter:@boriboriyabori