最終更新: 2024年3月17日
Whitney(ホイットニー)のバンド3作目となる新作アルバム『SPARK』を聴いて、大きくサウンドが変わったことに驚いたリスナーも多いのではないだろうか。
フォーク・ロックが特徴的だった過去2作に対し、新作アルバムはソングライティングの良さそのままにJ・ディラに影響を受けたビートミュージックに大きくかじを切っている。
どうしてWhitneyのジュリアンとマックスはサウンドに大きな変化を求めたのか?また、『SPARK』制作中に迎えた大切な人との別離とは?
アーティスト:ジュリアン・アーリック(Dr./Vo.) インタビュアー:yabori 翻訳:Rio Miyamoto
目次
Whitneyインタビュー
-前作『Forever Turned Around』リリース時にシカゴ市長からアルバムリリース日(2019年8月30日)を“Whitneyの日(Whitney Day)”にすると聞いて驚きました!当日は街を挙げてのお祭りだったようですが、どのような思い出がありますか?ジュリアン:あの日は全てに圧倒されたと同時に、本当にリラックスして特別な時間を過ごすことができたよ!僕がシカゴで知り合った全ての人たちに囲まれているような感覚だったけど、みんな楽しい時間を過ごして、何年もかけて作ったアルバムのリリースを祝うために集まってくれたんだ!
-今年も8月30日を迎えましたが、毎年“Whitneyの日(Whitney Day)”を祝うことはあるのでしょうか。また、祝うとするとどのようなことをしているのでしょうか。
今年は『SPARK』の取材のためにずっと移動が続いていたからお祝いできなかったんだ。でも来年はきっとお祝いするつもりだよ。
Whitneyというバンド名の意味
-何度も聞かれた質問だと思うのですが、Whitneyというバンド名はジュリアン(Julien)とマックス(Max)が考えた架空のシンガーソングライターだそうですね。Whitneyという名前はいくつか由来があるようですが、イングランド発祥という説があり“白い水”を意味する(英語のhwit(「白」を意味する)とea(「水」を意味する))ようです。そしてデビューアルバムのタイトルは『Light Upon the Lake』なのですが、二人にとって“水”というのはキーワードだったりするのでしょうか。
シカゴで過ごす人にとって、ミシガン湖は重要な場所なんだ。天候にも影響を与えているし、とにかくこの街にとって重要な存在なんだ。僕たちは美しいイメージからインスピレーションを受けることが多いから、自然であれ人工物であれ、常に美しいものに囲まれたいとずっと考えてきた。水には他のどんな要素にも劣らない美しさがあると思うんだ。
-(上記に関連して)今作は“白”ではなく、“青(Blue)”という曲名があります。この“青(Blue)”にはどのような意味が込められているのでしょうか。
「Blue」は新たな恋からインスパイアされた曲なんだ。恋に落ちるとはどんな感覚なのか、新たな恋がいかに人を不安にさせるのか、ということを歌詞にしたんだ。愛を胸に抱いて朝目を覚まし、その愛を手放さない、ということを視覚的に表現しようしたのが、サビの“blue, every summer in the morning light(夏の朝焼けの中に広がる青)”という歌詞なんだ。
SPARK
-『SPARK』ができるまでにマックス(Max)にとって大きな別れがあったようですね。2020年末に元GirlsのJRホワイト(Chet “JR” White)が亡くなり、祖父も亡くなったと聞いています。これらの経験はアルバムに反映されることはありましたか?
実は作曲を始める前に大きな別れを経験したのは僕(ジュリアン)なんだ。「Nothing Remains」、「County Lines」、「Lost Control」は、作曲を始める直前に経験した別れに影響を受けて作った曲なんだ。JRの死とマックスの祖父の病気がわかったのは、「Terminal」を書いていた頃で、その経験が歌詞に影響を与えたのは間違いないね。そんな「Terminal」では、死は身近に存在する、ということを上手く歌詞にまとめることができてとても満足しているんだ。
-本作『SPARK』は過去2作を手掛けたFoxygenのジョナサン・ラド(Jonathan Rado)ではなく、ジョン・コングルトン(John Congleton)が参加し、前作に引き続きブラッド・クック(Brad Cook)が参加していますね。どうして今作はこのようなメンバーで制作したのでしょうか。
いつかジョンと一緒にレコードを作れたらいいな、と以前からずっと思っていたんだ。パンデミックの時期に彼とZOOMでミーティングを行ったんだけど、『SPARK』に対して同じビジョンを描いていたことが分かったんだ。ブラッドと一緒に仕事をするのは好きだし、ブラッドとジョンはお互いに無いものを持っていて最高のペアだから、ブラッドに手伝ってもらおうと思ったんだ。いつかまたラドと一緒に別のアルバムを作りたいと思っているよ!
SPARKとJ・ディラ
-『SPARK』は前作からビートという部分では大きくサウンドが変わりましたが、Whitneyのサウンドの本質は変わっていないのが魅力的だと思います。今作の説明には、J・ディラ(J Dilla)のビートを引用したという話がありましたが、ディラからの影響はあったのでしょうか?また、どうしてWhitneyの音楽に彼のビートをサウンドに取り込もうと思ったのでしょうか。
僕たちはJ・ディラを始めとする現代的なヒップホップやエレクトロニック・ミュージックのファンなんだ。実際に彼のビートをサンプリングしたわけではないんだけど、『SPARK』の制作を始めたとき、最高のレコードを作るためには様々な制作テクニックを取り入れるべきだ、ということがはっきり分かったんだ。僕らが今作で挑戦したことは本当に誇りに思っているよ。
-アルバムタイトル『SPARK』にはどういう意味があるのでしょうか。
『SPARK』にはいくつかの意味があるんだけど、まずマックスと僕はこのアルバムを作る過程でクリエイティブな面で大きく成長したと思うんだ。創造的なアイディアが生まれる瞬間に放つ “SPARK(火花)”を、いかに自由かつ刺激的な方法で曲に落とし込むかを学んだ。
これまで使ったことのなかった創造をつかさどる筋肉の鍛え方を学んだ結果、その筋肉やテクニックによって、最初に曲を作り始めた時の創造的な“SPARK(火花)”や高揚感を最後まで保つことができるようになったんだ。この高揚感はアルバムの至る所で聴くことができるよ。
-『SPARK』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
このアルバムが助けになるような人に届けたいね!この世界で生きていくことは時に大変なことで、別れや新たな恋、死や困難に負けない忍耐力といった、何か共感できるものをこのアルバムを通して見つけてほしいと思ってるよ。
Whitneyのルーツ
-Whitneyの音楽に影響を与えたアルバム3枚について教えてください。また1枚づつ、どのような部分に影響を受けたかについても教えてください。
僕たちはソングライターとしてメロディーを最も大切にしてきたんだけど、これこそが最も美しいメロディーを体現しているアルバムだと思うんだ。
UMO(Unknown Mortal Orchestra)で活動していた頃、ツアーの車中でいつもこのアルバムが流れていて、若い頃からこのアルバムに触れていたことを思い出したんだ。歳を重ねれば重ねるほど、このアルバムは美しさを増すような気がするね。
これは完璧なレコードという訳ではないんだけど、いつも本当に興味をそそられるし魅力的で生々しいと思うんだ。これは、“離婚をテーマにしたアルバム”の中でも特に強烈な作品のひとつで、人生を通してこのアルバムを繰り返し聴いていることに気づいたんだ。特に、”When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You?”を聴くためにね。この曲は僕が15歳くらいの時から歌詞を全部知っているんだけど、歌詞がとにかく長いんだ。マーヴィンは問題を多く抱えた人で、彼の振る舞いは現代社会に適合しないと思う。でも彼は世代を超えた才能の持ち主で、このアルバムはその証明だと思うんだ。
バンド初期に最も影響を受けたのは、主に70年代に活動していたザンビア出身のAmanazというバンドなんだ。彼らは本当にソウルフルで魅力的な曲を書いていて、僕らはすぐに引き込まれたんだ。『Africa』に収録されている「Khala My Friend」と「Sunday Morning」はどちらも素晴らしい曲なんだよ。彼らが作った曲は全て、僕らでも買えるようなテープマシンで録音されていることが分かったから、ebayで何台か買っていじり始めたんだ!だからこそこのレコードにはとても感謝している。僕らのバンドの方向性を決めるきっかけになったんだからね。
-最後に私たちを始め、日本にもWhitneyのファンがいます。彼らにメッセージを頂けますか?
早く日本に戻ってきたいよ!僕たちは日本が大好きなんだ。友人であるCHAIのメンバーにシカゴで会ったばかりだから、より一層日本に行きたくなったよ!
Whitneyアルバムリリース
Whitney(ホイットニー)はこれまでに3枚のアルバム(『Light Upon the Lake』、『Forever Turned Around』、『SPARK』)をリリースしている。
3rdアルバム『SPARK』
発売日: 2022年9月16日
収録曲:
1.Nothing Remains
2.Back Then
3.Blue
4.Twirl
5.Real Love
6.Memory
7.Self
8.Never Crossed My Mind
9.Terminal
10.Heart Will Beat
11.Lost Control
12.County Lines
13.Blue(demo) ※ボーナス・トラック
14.Lost Control(demo) ※ボーナス・トラック
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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2ndアルバム『Forever Turned Around』
発売日: 2019年8月30日
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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1stアルバム『Light Upon the Lake』
発売日: 2016年6月3日
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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Whitneyバンドプロフィール
“Whitneyは元Smith Westernsのジュリアン・エーリックとマックス・カカチェクのソングライティング・デュオを中心に構築されている。ジュリアンの柔らかなファルセットに導かれ、2016年の牧歌的なデビュー・アルバム『ライト・アポン・ザ・レイク』は、ロック、オルタナティブ、ヴァイナルなど、ビルボード側の複数のチャートにランクインした。3枚目のアルバムとなる2020年の『Candid』では、ジョン・デンバー、SWV、ダミアン・ジュラドなどのカヴァーを中心に収録し、2022年の『SPARK』では、J・ディラからインスピレーションを受けたエレクトロニクスとビートを用いてサウンドを再構築している。”
Whitney代表曲(Youtube)
- Whitney(ホイットニー) – REAL LOVE (Official Video)
- Whitney(ホイットニー) – Golden Days (Official Video)
- Whitney(ホイットニー) – Valleys (My Love) (Official Video)
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ライター:yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
今まで執筆した記事はこちら
Twitter:@boriboriyabori