最終更新: 2024年3月21日

Wednesday(ウェンズデイ)はアメリカ・ノースカロライナ州はアッシュビルを拠点とするインディーロックバンドである。

一般的なロックバンド編成にラップスチール・ギターを加えた4人組Wednesdayは、カントリー・ミュージックとシューゲイザー、それぞれのトーン&マナーを共存させ音楽を紡ぎ、2017年の結成以来意欲的にアルバムを発表してきた。

今回リリースされる新作『Rat Saw God』もそれらのトーン&マナーを維持しながら、”ファニーと悲劇”、”静謐と歪み”などさまざまな対立構造を融和させた作品だ。

”むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに”とは作家井上ひさしの名言だが、今作は”悲劇をゆかい”に描いたものになっている。

その感性の源とリリース前から期待されるアルバム『Rat Saw God』について、詳しく訊いた。

Wednesdayとは

Wednesday(ウェンズデイ)2023
Wednesday(ウェンズデイ)は、2018年から音楽をリリースし始めたノースカロライナ州アシュビルに拠点を置くインディーロックバンドである。

もともとはノースカロライナ大学の学生であるKarly HartzmanとDaniel Gorhamの音楽的コラボレーションだったが、現在ではフロントウーマンのKarly Hartzman(Vo./Gt.)、Jake “MJ” Lenderman(Gt.)、Xandy Chelmis(ラップスチールギター)、Alan Miller(Dr.)からなる4人組のバンドに展開している。

バンド名のWednesdayは、Karly Hartzmanと元メンバーのDaniel Gorhamが英国のジャングルポップバンドThe Sundays、特に彼らの1990年のアルバム『Reading, Writing and Arithmetic』を共通してお気に入りであったことに由来する。

しかし、The Sundays の柔らかいギター音楽は、Wednesdayの現在の音楽とは似ても似つかず、90年代風の騒々しいスラッカーロックとカントリーとシューゲイズが融合したもので、“カントリーゲイズ”とも呼ばれている。

Wednesday インタビュー

Wednesday(ウェンズデイ)

アーティスト:Karly Hartzman(Vo./Gt.) インタビュアー:滝田優樹 翻訳:H.M

Wednesdayというバンド名の意味

-まずはあなたたちのことを教えてください。Wednesday(ウェンズデイ)というバンド名は90年代に活躍したイギリスのバンド“The Sundays”からインスパイアされたとのことですが、意外でした。「Chosen To Deserve」を聴いて腑に落ちましたが、皆さん、The Sundaysが好きなんですか?また、バンドがどのように結成されたのか教えてください。
Karly Hartzman:バンドを始めた2018年当時、バンド名は確実にThe Sundaysに影響されたものでした。当時私は曲を書き始めた頃で、彼らの音楽をずっと聴いていたからです。随分趣味が変わった今ではWednesdayと名付けた理由があまりそこにはないような気もしていますけどね。それでもいまだに『Reading, Writing and Arithmetic』は私の音楽遍歴の中で最も衝撃を受けたアルバムです。
近頃、Wednesdayと名乗っている理由は、この言葉がとても漠然とした言葉だからだと思っています。Wednesdayというバンド名からはどんな音楽をやっているのかがわからないでしょう。音楽がそれ自体で語られるようにしたかったんです。
私たちはメンバーの交代をはさみながらも、結成してからかなりの時間が過ぎました。私たちのほとんどは大学で知り合って、アッシュヴィルでやっていたそれぞれのライブをお互いに見ていました。狭い街なので、よく道で出会うんです。すぐにそれぞれが同じ音楽に興味を持っているとわかりました。

-日本でWednesdayは、カントリーとシューゲイザーの要素を融合した”カントリーゲイズ”のバンドだと紹介されています。これについて、あなたたち自身はどう感じますか?
確かに私たちの音楽をよく表していると思います。ですが、既存のジャンル名に縛られない名前が必要だと思っています。何がシューゲイズで、何が違うかという議論は常にあるような気がするんです。なのでどちらかというとその議論からは距離を置いて、全く新しいジャンルを一から切り開きたいんです。それがなんという名前なのかはわからないのですが。

ノースカロライナ州(Pexels)
ノースカロライナ州(Pexels)

-アシュビルを拠点に活動されていますが、アシュビルはどんなところですか?「Chosen To Deserve」のビデオでは自然が豊かだったり、青いカエル?がいる公園が印象的でした。あとはビールが有名だったりするみたいですね!
そうなんです!風景が綺麗なので観光客がたくさん来ます。ダウンタウンにはビールやショッピングのために来る人が多いのですが、ダウンタウンエリアの外側にこそ本当にかっこいいものがあるんですよね。地元の人はあまりダウンタウンには行きません。
アッシュヴィルにはたくさんの曲がりくねった道や山、川があります。私が住んでいるところは森と野原が広がっていて、特別な場所なんです。ノースカロライナ以外に住みたいとは思わないですね。

-あなたたちが所属するDead OceansにはMitski、Japanese Breakfast、Phoebe Bridgersといったアーティストがいますね。日本でもDead Oceansはインディーロックのレーベルとして有名ですが、この環境がバンドに影響与えたものがあれば教えてください。Karly Hartzmanは、Mitskiの“Tiny Desk Concert”をみて、ギターを始めたそうですね。
Dead Oceansはずっと私たちによくしてくれています。私たちをコントロールしようとしないで、私のしたいことをさせてくれて、面白いアイデアを提案してくれます。私は大きなレーベルに入ったら会社の上司のように様々な指示をされるのではないかないかと不安に思っていたのですが、彼らは私の考えた突飛なことにも協力してくれます。

そうですね、Mitsukiの“Tiny Desk Concert”の動画を見て、ギターについて多くのことを学びました。彼女が1人で舞台に上がってパフォーマンスをしているのがとても好きです。それを見て感情や情熱を持って作った曲は、どのようなアレンジをしようとも意味を伝えられるということです。

Rat Saw God

Rat Saw God

-ここからは最新アルバムについて質問します。まずはアルバムタイトル『Rat Saw God』の意味について教えてください。
これはティーン向けのドラマ『ベロニカ・マーズ』のエピソードタイトルから取ったんです。ちょうど見返していたときにアルバムにぴったりな気がして、あまり考え過ぎたくなかったのでそのまま使いました。

-『Yep Definitely』を含めると今回が5枚目のアルバムとなります。カバーアルバムもありますが、かなりハイペースで驚いてます。『Rat Saw God』についてはいつか制作に入ってどのようにレコーディングしたのでしょうか?
『Rat Saw God』の曲は『Twin Plagues』の録音が終わった後すぐに書き始めました。私はずっと曲を書いているので、スタジオで録音する予定が立ったらすぐにトラックに起こせるんです。
レコーディングはアレックス・ファラーが担当しました。彼は伝説的なエンジニアで、『Twin Plagues』も担当してくれました。私たちのレコーディングはかなりシンプルで、私が持ってきたギターパートと歌詞をもとに他のメンバーが残りをそれぞれの楽器で埋めていくんです。

Twin Plagues

Twin Plagues

-サード・アルバム『Twin Plagues』がPasteの年間ベスト・アルバムとPitchforkの年間ベスト・ロック・アルバムに選出されて、StereogumとUproxxは、2023年に最も期待されるアルバムのひとつに『Rat Saw God』をあげてますね。こういった音楽メディアでの評価を受けてのリリースですが、メディアのリアクションや評価などは意識するものですか?
全くです!みんなに愛されることは素晴らしいことですが、何かのリストに載ったりするようなことのために曲を作ってるんじゃないんです。私はそのほうがいいと思います。商業的な評価などのために曲を作るのも良いとは思いますが、私たちがやろうとしているのはそういうことじゃないんです。

-今作『Rat Saw God』を聞いて、特に前半3曲。「Hot Grass Smell」や「「Bull Believer」、「Got Shocked」はギターの厚み、ダイナニズムが特色だと思うのですが、ブレイクスルーになった曲はありますか? 私自身の感想としてはCloud Nothingsを彷彿とするギターが印象的で興奮しました。

レコーディングをするたびに発見があるんです。「Hot Rotten Grass Smell」 と「 Bull Believer」は初めてドロップDチューニングで書いた曲なんです。そのことが曲の厚みを持たせたんだと思います。行き詰まってしまった時やアイデアが浮かばない時に、使ったことがないギターのチューニングを試すのが好きなんです。

-アルバムの事前情報として今作は”半分ファニーで半分悲劇的なメッセージ”だと伺っていました。作品と聞いてみると先ほど挙げた「Hot Grass Smell」や「Bull Believer」だったりアグレッシブな楽曲と「Formula One」や「Chosen To Deserve」といっただペダル・スティールが印象的なカントリーな楽曲との対比が印象的でした。前作までの作風にはなかった対比だと思うのですが、それについていかがでしょうか?

楽しい雰囲気と悲しい雰囲気はジャンルに関わりなく、それぞれの曲が持っているものだと思います。これは南部的な歌詞の書き方なんです。私が好んでいる南部の作家たちは悲劇的な物語であってもその中にユーモアを取り入れています。南部のめちゃくちゃな環境にいるとそのように考えるようになるんだと思うんです。全く異なる考え方をもつ文化を観察して、共感して、分析することはとても意味のあることだと思います。それがとてもユーモアの感覚に影響するんです。

そしてこの態度は私たちのアルバムにも共通することで、このアルバムで最も光っている部分だと思います。

-Karlyは、“「Chosen to Deserve」は、Drive-By Truckersの代表曲「Let There Be Rock」を再現するために自分自身に課した練習曲で、自分自身の成長過程での経験やバカ騒ぎを盛り込んでいるんだ。”と言っていましたが、これについて詳しく教えてください。
そうなんです!昔のとんでもない経験を伝えたかった時に、「Let There Be Rock」がギターのコードをシンプルにすることで、ストーリーを語るための余白を残すことができると言うことを教えてくれたんです。

-日本のインディーロックファンにとっても期待の作品となっていると思いますが、『Rat Saw God』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
文字通り全ての人です!さまざまな人が私たちのライブに来るのを見るのはすごくエキサイティングです。最高のミュージシャンは時代を超えた、みんなが楽しめる作品を作ると思います。

-資料によると、Karlyはソングライティングについて“すべての人生の物語は書き留める価値がある。なぜなら人間はとても魅力的だから”と語っていますね。精力的に曲を作り続けるうえで心がけていることがあれば教えてください。
私は家族や友人など身近な人の話をするのが好きなんです!ノースカロライナに住んでいる普通の人々の話が伝播していくことがとても好きなんです。これのすごい所は、周りの人の話を聞くだけで、歌詞のネタが永遠に増え続けることです。ずっと近くにいる人でも、より多くのことを知ることができるのでとても興味深いし、インスピレーションを与えてくれるんです。

-最後に日本のリスナーにメッセージを頂けますか?
日本でツアーするのが夢です!近いうちに行けることを願っています。聞いてくれて、私たちの音楽と時間を過ごしてくれてありがとう。またすぐに会いましょう!

TV in the Gas Pump

Wednesday
Wednesdayは、4月7日にDead Oceansからリリースされる待望のニュー・アルバム『Rat Saw God』より、最後のシングルでアルバムのエンディング曲、「TV in the Gas Pump」のMVを公開した。

この曲は、彼らが初めてツアー中に書いた曲で、道中見た様々な光景や感情を詩的に表現している。ビデオは、彼らが車で旅する様子やライブ映像を織り交ぜたもので、彼らの音楽と視覚的にもマッチしている。

「この曲は、ツアー中のことについて書いた初めての曲で、ツアー中に入ってくる全てのイメージを集めたかった」とKarly Hartzmanは説明している。

「私たちは常に移動していて、色んな場所や人々と出会っていた。その時々に感じたことや考えたことを歌詞にした。例えば、「TV in the Gas Pump」というフレーズは、実際にガソリンスタンドで見かけたテレビ付きの給油機から来ている。それが何か象徴的な意味を持っているわけではないけど、私たちにとって印象的だったんです」

Wednesdayは、「TV in the Gas Pump」以外にも、「Bath County」、「Chosen To Deserve」、「Bull Believer」という3曲のシングルを先行してリリースしており、どれも高い評価を得ている。

「Bath County」はPJ Harvey風のダークでグランジなナンバーで、「Chosen To Deserve」はカントリー調のメロディと切ない歌声が印象的なバラードだ。

「Bull Believer」はPitchforkでベスト・ニュー・トラックに選ばれるほど話題となったポップでキャッチーなロック・チューン。

『Rat Saw God』はWednesdayがこれまで制作した中でも最も野心的で多彩な作品だと言える。是非、インタビューも併せてチェックを!(2023年3月23日 BELONG編集部追記)

Wednesday – TV in the Gas Pump (Official Video)

Quarry

Wednesdayの新作アルバム『Rat Saw God』リリース日に、最後のシングル「Quarry」がリリースされた。

新曲「Quarry」の歌詞は身近にいる人たちを観察したもので、問題に直面しながらも生き抜こうとする人々が描かれています。

Wednesday – Quarry (Official Video)

Wednesdayアルバムリリース

Wednesday(ウェンズデイ)はこれまでに5枚のアルバム(『Yep Definitely』、『I Was Trying to Describe You to Someone』、『Twin Plagues』、『Mowing the Leaves Instead of Piling ‘em Up』、『Rat Saw God』)をリリースしています。

5thアルバム『Rat Saw God』

Rat Saw God
発売日: 2023年4月7日
収録曲:
1.Hot Grass Smell
2.Bull Believer
3.Got Shocked
4.Formula One
5.Chosen To Deserve
6.Bath County
7.Quarry
8.Turkey Vultures
9.What’s So Funny
10.TV in the Gas Pump
フォーマット:Mp3、CD
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4thアルバム『Mowing the Leaves Instead of Piling ‘em Up』

Mowing the Leaves Instead of Piling 'em Up
発売日: 2022年3月11日
フォーマット:Mp3
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3rdアルバム『Twin Plagues』

Twin Plagues
発売日: 2021年8月13日
フォーマット:Mp3
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2ndアルバム『I Was Trying to Describe You to Someone』

『I Was Trying to Describe You to Someone』
発売日: 2020年2月7日
フォーマット:Mp3
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1stアルバム『Yep Definitely』

『Yep Definitely』
発売日: 2018年1月31日

Wednesdayバンドプロフィール

Wednesday(ウェンズデイ)

“ノースカロライナ州アシュビルのベッドルームで大半の曲を書いているKarly Hartzmanは、MitskiのNPR『Tiny Desk』をみて、ギターを始めた。アシュビルの大学に通い、Wednesdayという名義でアルバム『Yep Definitely』をリリース。その後、正式にバンド・メンバーを集め、2020年にセカンド・アルバム『I Was Trying to Describe You to Someone』、2021年にサード・アルバム『Twin Plagues』をリリースした。『Twin Plagues』は高い評価を博し、Pasteの年間ベスト・アルバム、Pitchforkの年間ベスト・ロック・アルバムの一枚に選ばれている。バンドはカントリーのリリシズムを敬愛。オルタナティヴ・ロック、シューゲイザー、カントリーを彷彿とさせるサウンドを鳴らす。”

引用元:Wednesday(ウェンズデイ)バンドプロフィール(Big Nothing)

Wednesdayの評価

“「インディー・ロック界最高のバンド」-Stereogum
「Hartzmanは生涯の苦しみを追い払った」-Paste
「静かなダイナミクスとラウドなダイナミクスが混在しスリリング」-The FADER
「Karly Hartzmanのヴォーカルは催眠術のように、どこか儚げで同時に強い」-UPROXX”

引用元:Wednesday(ウェンズデイ)バンドプロフィール(Big Nothing)

Wednesday代表曲(Youtube)

  • Wednesday(ウェンズデイ) – Bull Believer (Official Video)
  • Wednesday(ウェンズデイ) – Chosen to Deserve (Official Video)
  • Wednesday(ウェンズデイ) – Twin Plagues

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky