最終更新: 2024年3月21日
新作『Bunny』はBeach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)にとって、オリジナルアルバムとしては約6年ぶりのリリースであるとともに、バンド結成から10年周年を迎えてからは、1枚目のオリジナルアルバムである。
フロントマン、ダスティン・ペイサー曰く楽曲制作は“セラピー”であり、セルフ・カウンセリングの先に初期Beach Fossilsのサウンドに感化され、制作されたのが『Bunny』だ。
客観的にBeach Fossilsを見つめ直しネオ・アコースティック的なアプローチで、“兎の登り坂”のごとくアップデートを図った作品だといえよう。
ただし、だからといって、一見さんお断りの作品ではない。
あなたが今、興奮するインディー・ロックは新旧問わず、Beach Fossilsに通ずる。
Beach Fossilsのこれまでと今について、そして4thアルバム『Bunny』について、ダスティンに話を聞く。
目次
Beach Fossilsとは
Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)とは、2009年にニューヨークのブルックリンで結成されたアメリカのインディーロックバンドだ。現在は自身が立ち上げたBayonet Recordsに移籍しており、以前はインディーレーベルのWild NothingやMOURNを輩出した名門レーベルであるCaptured Tracksに所属していた。
ライブでは、創設者であるダスティン・ペイサー(Vo./Gt.)、ジャック・ドイル・スミス(Ba.)、トミー・デビッドソン(Gt.)、アントン・ホックハイム(Dr.)の4人で活動している。
ペイサーは、2008年に故郷のノースカロライナ州のコミュニティカレッジを辞めてニューヨークに移住した後、このプロジェクトを始めた。
これまでに3枚のスタジオアルバム(デビューアルバム『Beach Fossils』、『Clash the Truth』、『Somersault』)と1枚のEPをリリース。
また、同じCaptured Tracksに所属しているWild Nothingのジャック・テイタムも参加したEP『What A Pleasure』を作り上げている。
Beach Fossilsメンバー
Beach Fossilsのメンバーは、結成当初から何度も変わっている。
最初はペイサーがほとんどすべての楽器を演奏していたが、後にジョン・ペーニャ(Ba.)、クリストファー・セノット・バーク(Dr.)、ザカリー・コール・スミス(Gt.)が加わった。
しかし、彼らは次第に自分たちのプロジェクトに専念するために脱退。
ジョン・ペーニャはHeavenly Beatというソロプロジェクトを始め、ザカリー・コール・スミスはDIIVを結成した。
クリストファー・セノット・バークはRed Romansというバンドに参加しており、現在のメンバーは、全て2013年以降に加入している。
Beach Fossilsの10年間
アーティスト:ダスティン・ペイサー インタビュアー:滝田 優樹 翻訳:H.M-今作『Bunny』がBeach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)結成10年経って、はじめてのオリジナルアルバムということもありますのでまずはこれまでのバンド活動はいかがでしたか? これまでを振り返ってみて感想をお願いいたします。
ダスティン・ペイサー:みなさんがずっと僕らの音楽を聴いてくれていることに感謝しています。僕の芸術は僕自身にとってとても大切で、人生の意味を与えてくれますし、世界中の人たちと僕の芸術が共鳴しているという事実はとても美しいことだと思います。
Beach Fossilsの現在
-つづいて現在のバンドのモードやモチベーションについてはいかがでしょうか? 新作を聞く限りではグルーブ感としては最高の状態かと思ったのですが。
作詞や作曲は常に行なっています。なのでリリースの間隔が何年か空いても、曲を作ることは僕の人生で一番重要なことの一つですし、セラピーなんです。『Bunny』に取り組んでいる間、僕は初期のBeach Fossilsに影響を与えたアーティスト、The Byrds、The Cure、The Verve、My Bloody Valentine、The Church、Ride、Spiritualized、Pale Saintsなどをたくさん聞いていました。
-日本でBeach Fossilsは2010年代のブルックリンのインディーシーンを代表するバンドとして人気があります。これまでのキャリアのなかでオーディエンスからのみならずメディアからもそういった評価を目の当たりにしたこともあるかと思います。 こういったリアクションに対して、どのように感じますか? バンドとして使命感などはあったりするものなのでしょうか?
日本の人々が僕たちを聴いて、僕たちのライブを見に来てくれるのは信じられないことです。僕はこのアルバムの曲を家で録音しており、それは僕にとって非常に個人的なものです。だから、それを世界中の人々と共有し、他の人々がそれを理解してくれるのを見るのは僕にとって最も美しい感覚なんです。
Bunny
『Bunny』のプロダクション
-『Bunny』はプロダクションやレコーディングに関してはどのように進めていったのでしょうか? またこれまでのソングライティングとの違いなどあればそちらも教えてください。
『Bunny』の制作は自分のスタジオでセルフプロデュースで行いました。僕の場合、書くことと録音することが同時なので、自分のペースで作業する柔軟性が必要なんです。プロデューサーとして、ソングライターとして、それぞれ同じスピードで成長しているように感じています。Beach Fossilsというバンドの境界線をどこまで押し広げられるかを見定めるために、制作中は常に新しいアイデアを試したり実験したりしています。
Beach Fossilsの集大成
-というのも先ほどの3つの質問をしたのは理由があります。『Bunny』を聞いたときにこれまでBeach Fossilsがやってきた音楽の集大成であると感じたからです。ただ、これまでとは全く違うところがあって、それが音の聞かせ方です。ダイレクトにバンドサウンドを届けるというよりは各楽器パートの配列やテクスチャー、レイヤーやサウンドのディテールへのこだわり。総じて空間のサウンドデザインがアップデートされたと思いました。それによって音に厚みや広がりも感じました。それについてはいかがですか?
そうですね、僕はフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドというテクニックが大好きなんです。全てが一つの音になるまで、トラックを積み重ね、様々な楽器やテクスチャーを混ぜ合わせることが多いです。音を広げて没入感を高めるために、トラックを2倍、3倍、4倍にして、激しいパンニングをかけるんです。もし左右の片方スピーカーからモノラルで曲を聞いたら、厳密には別の録音を聞いている事になるんです。通常、真ん中に配置されているのはベースとドラムだけです。
前作『The Other Side of Life: Piano Ballads』
-前作の『The Other Side of Life: Piano Ballads』で過去曲をジャズテイストでリメイクしたことも『Bunny』を制作するうえでのプロダクションに影響しているのかと思いました。そこで改めて自分たちの音楽と向き合う作業があったと思うのですが、どうですか?
過去の曲を分解して、全く新しい形で再構築するのは本当に良い経験でした。自分の曲を全く新しい視点から眺めることができたんです。素晴らしい体験だったので、他のアーティストがそれぞれの楽曲でそれをするのを見てみたいです。『Bunny』においては、『The Other Side of Life: Piano Ballads』の影響はあまり感じません。『The Other Side of Life: Piano Ballads』を録音していた時には既に『Bunny』の作業はかなり深いところまで進んでいたんです。ですが、2つのアルバムの作業が並行して行われていた瞬間もありました。
サウンドの特徴
-『Somersault』以降からのサウンドの特徴として、特にネオアコ的なアプローチでギターを聞かせているフレーズが増えたとも感じました。これについては意識的なものですか? 何か理由があれば教えてください。
僕はThe Byrdsやボブ・ディラン、レナード・コーエン、ジャクソン・C・フランク、シビル・ベイヤー、タウンズ・ヴァン・ザントといったフォークロックに大きな影響を受けています。Beach Fossilsで僕が歌う時は、静かで爽快な、アメリカやイギリスのフォークロックの影響を受けた歌い方をしています。なので、自分の曲にフォークのスタイルを取り入れるのは自然なことでした。
歌詞について
-歌詞についても教えてください。個人的な感情や描写でしたり自己内省的な内容が目をひいたのですが、こちらは何か理由がありますか? また今回の収録曲の中で一番個人的な心情が反映された曲をあげるとするならどの曲ですか?
先ほど言ったように、僕にとって曲を書くことはセラピーなんです。曲に取り組んでいる間は自分が感じたことや経験したことを書いています。インストゥルメンタルの音楽は感情の深いところに響くので、それに合った歌詞を書くことが大切だと思います。『Bunny』では「Run To The Moon」という曲がおそらく最も個人的な内容です。僕の人生がワイルドで奔放で、やりたいことがやりたい時にできたということについて書いた曲です。僕は父になる時、そんな自由を失うのではないかと不安になりました。しかし、子供が生まれた時、すぐに愛情が満ち溢れて、これが僕の人生で最も重要で充実したものなんだとわかりました。
ブレイクスルーとなった曲
-続いてサウンド面でバンドにとって一番ブレイクスルーとなった曲はどれでしょうか? 理由も併せて教えてください。
難しい質問ですね。音響的には「Feel So High」、「Waterfall」または「Anything is Anything」かもしれないです。これらは『Bunny』の中で僕がBeach Fossilsという概念を押し広げた曲です。
『Bunny』のタイトル
-今作のタイトルは『Bunny』ですね。これはなぜ“Bunny”にしたのでしょうか? 日本では中国由来の“干支”という文化があって、毎年12種類の動物のひとつが規則的に割り振られます。今年はウサギの年とされているので、余計に気になりました!
その話、大好きです!『Bunny』というタイトルを選んだのは、このアルバムを始めた時に僕が古いウサギのおもちゃを買ったからなんです。それはスタジオのマスコットになりました。スピーカーの上に置いてあって、ウサギと僕が見つめ合っているような感じでしたね。制作の初めから終わりまでウサギがずっといて、僕にはそのウサギに弱さの先の強さがあるように見えたんです。強く誇りを持って立っているような。このウサギは作品を通して、より弱さを見せることがインスピレーションの源となりました。
Don’t Fade Away
-「Don’t Fade Away」のMVも見ました!ダスティンがマイク片手にさまざまな場所で歌っているのが印象的だったのですが、こちらのコンセプトやエピソードがあれば教えてください。 また、ウサギのヘッドホンも可愛くて気になったのですが、MVのために作ったんですか?
このビデオのコンセプトはカラオケから着想を得ました。僕たちはカラオケが大好きで、自分自身の曲をロサンゼルス中でカラオケするような感じのミュージックビデオを作るのは楽しくなるだろうと思ったんです。ウサギの耳はビデオ用に作られたものではありません。友人がプレゼントとして郵送してくれました。
Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ) – Don’t Fade Away (Official Video)
メッセージ
-日本のインディーロックファンにとっても期待の作品となっていると思いますが、『Bunny』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
このアルバムは全ての人のためのものです。これを聞いた人に何か伝わることを願っています。
その他
Beach Fossilsのルーツ
-Beach Fossilsの音楽に影響を与えた音楽アルバムを3枚挙げるとしたら何ですか? また1枚ずつ、どのような部分に影響を受けたかについても教えてください。
The Velvet Underground『The Velvet Underground & Nico』
このアルバムは、僕の音楽観を根底から変えました。彼らを聴く前、僕は80年代のイギリスとアメリカのハードコアパンクにハマっていました。その当時の僕は厳しい現実について、怒る歌詞が本当に僕に響いていました。しかしVUを聴いて、ああ、厳しい現実的な人生について歌いつつ、それを美しく抑制的にすることができるんだ。ずっと叫んでいる必要はないんだと思いました。
The Byrds『Greatest Hits (1967)』
The Byrdsはおそらく僕が最も好きなバンドです。このインタビューでも何度も言及しているのでわかると思います!彼らのハーモニーは非常に素晴らしくて、美しく、良く作られています。彼らの曲や歌は、僕の歌い方やメロディー、ハーモニーの考え方に非常に大きな影響を与えています。
My Bloody Valentine『Sunny Sundae Smile / Ecstacy / Strawberry Wine』
MBVの初期のEPは、初めて聴いたときに深く影響されました。The ByrdsがThe BuzzcocksとJesus and Mary Chainと合体したようなものです。サイケデリックで12弦ギターがありますが、タフで速く、パンクの鋭さがあります。僕はパンクの終わりからインディーの始まりに移行する期間の最も生々しくて美しい音楽が大好きです。僕が影響を受けた多くの曲がそこに含まれるんです。
2018年の来日公演について
-2018年には来日して日本のDYGLとも共演してましたね。5年も前のことではありますが、その時のことを覚えていたら感想を教えてください。
ええ、とても楽しかったです。彼らは本当にいい人たちでした。バンドも素晴らしく、観客も素晴らしかったです!また戻ってくるのが待ち遠しいです。
日本のリスナーへのメッセージ
-最後に日本のリスナーへのメッセージを頂けますか?
辛抱強く待ってくれてありがとうございます。僕たちはリリースまでに長い時間がかかりますし、日本に来るのも久しぶりですが、すぐに戻ってきますし、皆さんに会えるのが待ち遠しいです!自分自身でい続けてください。皆さんを愛してます。
Beach Fossils - Seconds (Official Video)
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Beach Fossilsアルバムリリース
Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)はこれまでに4枚のアルバム(『Beach Fossils』、『Clash the Truth』、『Somersault』、『Bunny』)をリリースしている。
4thアルバム『Bunny』
発売日:2023年
レーベル:Bayonet Records
収録曲:
1.Sleeping On My Own
2.Run To The Moon
3.Don't Fade Away
4.(Just Like The) Setting Sun
5.Anything Is Anything
6.Dare Me
7.Feel So High
8.Tough Love
9.Seconds
10.Numb
11.Waterfall
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3rdアルバム『Somersault』
発売:2017年
レーベル:Bayonet Records
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2ndアルバム『Clash the Truth』
発売:2013年
レーベル:Captured Tracks
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1stアルバム『Beach Fossils』
発売:2010年
レーベル:Pop Frenzy
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Beach Fossilsバンドプロフィール
“ビーチ・フォッシルズは、2009年にギタリスト兼ボーカリストのダスティン・ペイソーのリバーブ重視のソロレコーディングのために結成されました。同年、ペイソーが単独でグループの最初のアルバムを構成するレコーディングをまとめた後、ベーシストのジョン・ペナとギタリストのクリストファー・バークがビーチ・フォッシルズのラインナップに加わりました。ビーチ・フォッシルズのデビュー7インチシングル「Daydream/Desert Sand」は2010年2月にCaptured Tracksからリリースされ、同年に同レーベルからセルフタイトルアルバムがリリースされました。ペナとペイソーは、2011年の「What a Pleasure EP」で共同作業を行いましたが、ペナは自身のグループ「Heavenly Beat」に集中するために脱退しました。次回のビーチ・フォッシルズアルバムには、ドラマーのトミー・ガードナーと、メンズのベン・グリーンバーグによるプロデュースがフィーチャーされています。「Clash the Truth」は2013年初頭にCaptured Tracksから発売されました。
休憩を取った後、バンドはHBOの番組「Vinyl」で70年代初期の「パンク」バンド「the Nasty Bits」のメンバーとして出演し、新しいアルバムの制作を開始しました。今回、ペイソーは他のメンバーを作曲プロセスに参加させ、ベーシストのジャック・ドイル・スミスとギタリストのトミー・デビッドソンもアイデアを提供しました。レコードはニューヨーク市とロサンゼルスの様々な場所で制作され、エンジニアのジョナサン・ラドの自宅スタジオやニューヨーク州北部のキャビンなどが含まれ、スロウダイブのレイチェル・ゴスウェルとシティーズ・アヴィヴからゲストボーカルがフィーチャーされました。「Somersault」は2017年初頭にペイソーが妻のケイト・ガルシアと共同で立ち上げたBayonet Recordsからリリースされました。2018年にはYung Lean の「Agony」 のカバーやWavves とのツアー用スプリットシングルが発表されました。”
Beach Fossils代表曲(Youtube)
- Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ) - Run to the Moon (Official Video)
- Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ) - Don't Fade Away (Official Video)
Beach Fossils関連記事
Beach Fossils(ビーチ・フォッシルズ)の関連記事について、BELONGではこれまでに下記の記事を取り上げている。
- DIIV、バンド復活作『Deceiver』でグランジを鳴らす意味
- フォーク・ロックの新世代
- シューゲイザーの新世代バンド
ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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