最終更新: 2023年10月1日
2010年代後半の音楽シーンとしては、Soccer MommyやClairoらの登場でベッドルームポップなるポストジャンルが確立され、ここ最近ではPinkPantheressがドラムンベースとのクロスオーバーという形で新たな潮流を生み、ベッドルームポップは改めて注目を浴びている。
そんなベッドルームポップを、今回Slow Pulp (スロー・パルプ)の2ndアルバム『Yard』のリリースをもって、源流のひとつであるインディーロックのシーンにおいても確認することができた。
Slow Pulpはシカゴを拠点に活動する4人組インディーロックバンド。
今年に入り初のヘッドライナー・ツアーを行い、Death Cab For CutieやPixiesといったバンドともライブでの共演も果たし、注目を集める若手だ。
リリースされた2ndアルバム『Yard』は、ANTI- Recordsに所属してからは1枚目のアルバム。ローファイなギターを基調にグランジやエモの要素を色濃く反映させ、ドリーミーな音像を色彩豊かにあしらった作品に仕上げている。
サウンド構成する要素としてはインディーロック然としたものだが、しっかりとベッドルームポップの息吹も感じることができる。
今回そんなアルバム『Yard』について、Slow Pulpというバンドの生い立ちから制作過程など話を伺うことで、その魅力を伝えるとともにどのようにしてベッドルームポップの要素が芽吹いたのか究明していきたい。
目次
Slow Pulp インタビュー
アーティスト:エミリー・マッセイ インタビュアー:滝田 優樹 翻訳:BELONG編集部
Slow Pulpとは
-『Yard』とてもよかったです! 作品のことも聞きたいのですが、まずはBELONG Mediaでははじめてのインタビューとなりますので、あなたたちのことから教えてください。シカゴを拠点に活動されていると思うのですが、今も拠点はシカゴですか? また、ギターのヘンリー・ストーアとドラマーのテディ・マシューズは小学校からの付き合いですよね? 改めてそれぞれ今のメンバーとの出会いとバンドの結成に至った経緯やエピソードを教えてください。
エミリー・マッセイ:こんにちは!インタビューしてくれてありがとう!Slow Pulpはシカゴに拠点を置いていて、ここで過ごしてもう5年になるよ。私たちはみんなウィスコンシン州のマディソンという町で育ったんだ。シカゴから北に2時間ほどのところ。ヘンリー(Gt.)とテディー(Dr.)は5歳のときにマクドナルドのボールプールで出会ったんだよ。8歳のときにレッスンを受けてた音楽店でアレックス(Ba.)と一緒になったんだ。私(エミリー)は2016年にマディソンの大学の音楽シーンでヘンリーとテディーと出会ったんだ。そこでちょくちょく一緒にジャムセッションしたりしてたんだ。最初はリズムギターとバックボーカルとして加入するように頼まれたんだけど、だんだんと歌う曲が増えていって、今ではフロントパーソンになったよ。そして7年後、私たちはSlow Pulpになったんだ!
シカゴのロックシーンについて
-今のシカゴではどのようなバンドが活躍してますか? あなたたちがシカゴを拠点として選んだ理由があれば、そちらも教えてください。大学を卒業した後、私たちはマディソンよりも大きな街に移りたかったんだ。シカゴは地理的に近くて、バンドをやってる友達もいたから、良い選択だと思って。シカゴの音楽シーンは本当に素晴らしいよ。色々なジャンルのすばらしいアーティストがたくさんいるし。シーン全体で特定のサウンドが支配的だっていう感じはなくて。でもジャンルに関係なくコミュニティ感があって、それが良いんだよね。
バンド名“Slow Pulp”の由来や意味
-バンド名についても教えてください。なぜ“Slow Pulp”という名前にしたのでしょうか? “Slow Pulp”というバンド名の意味についても教えてください。
ある日、バンドメイトの一人がオレンジジュースを飲んでて、“low pulp”(果肉少なめ)と書かれたラベルを“slow pulp”と読み間違えたんだと思う。それがきっかけで名前が決まったんだ(笑)。
影響を受けたアルバム
-アレックスはBackstreet BoysやThe Beatles。ヘンリーは、Green DayやU2、テディはLed Zeppelin、ブリトニー・スピアーズ。そしてエミリーはアヴリル・ラヴィーンとアラニス・モリセット。それぞれのルーツとなるアーティストがいますが、Slow Pulpの音楽に影響を与えたアルバム3枚について教えてください。また1枚づつ、どのような部分に影響を受けたかやエピソードについても教えてください。メンバーそれぞれのルーツを確認するとアメリカーナやエモなど、Slow Pulpの音楽を形成する要素のひとつとして機能していたものばかりなので、興味深かったです。
面白い質問だね。3枚選ぶとしたら、Coldplayの『Parachutes』、The Smashing Pumpkinsの『Siamese Dream』、ジョニ・ミッチェルの『Blue』だと思うよ。
『Parachutes』には素晴らしいソングライティングがあると思う。私たちが子供のころに音楽を発見したときにとても重要なアルバムだった。「Yellow」がラジオで流れたときには、当時のポップラジオで流れてた他の曲とは全く違って特別で素敵な感じがしたよ。
『Siamese Dream』はすごくパンチがあると思う。そのレコードを初めて聴いたときには、こんな音楽を作りたいっていう気持ちになったよ。『Siamese Dream』はウィスコンシン出身で私たちにとって本当のホームタウンヒーローであるブッチ・ヴィグがプロデュースしてるんだ。
最後は『Blue』なんだけど、ジョニ・ミッチェルはすべてのレコードで特にこのアルバムでは感情を表現する方法が私にとってメロディー作りやパフォーマンスにおいてとても刺激的で。彼女は箱にはまらない(常識に捕らわれない)考え方をしてて、私が思いもつかなかったところに連れて行ってくれるんだ。
Death Cab for CutieやPixiesとの共演について
-ここ最近は、初のヘッドライナー・ツアーを行って、Death Cab for CutieやPixiesといったバンドとライヴでの共演を果たしましたね。彼らとショーを行っての感想と刺激を受けたことがあれば教えてください。これらのバンドは日本でも人気のあるバンドで、あなたたちのリスナーとしても嬉しいニュースでした。
私たちは両方のバンドの大ファンだから、一緒にツアーできたことは夢みたいだったよ。PixiesもDeath Cab for Cutieも素晴らしいライブを見せてね。毎晩彼らの演奏を見ることができて本当に幸せだったし、彼らの全体的なオペレーションを見ることはとても刺激的だった。両方のグループは素晴らしいクルーと一緒にツアーしてたんだ。私たちはいつか彼らの半分くらいのレベルになれることを願ってるよ。
ANTI- Recordsに所属した経緯や影響
-今年からANTI- Recordsに所属していますね。Fleet FoxesやThe Drumsらも所属していますが、あなたたちが所属するに至った経緯を教えてください。また、所属してからバンドに何か影響はありましたか?
アルバムのほとんどはレーベルにデモを送る前に書き上げてたんだ。私たちはAntiが自分たちにとって一番合ってると感じてて。彼らはとてもクールで多様なアーティストを抱えていて、私たちはその一員になれてとても幸運だと思ってる。彼らは私たちにかなりのクリエイティブコントロールを与えてくれた。レコードの決定プロセスでも自分たちらしくいられるように感じたよ。
Yard
『Yard』のタイトルに込められた意味
-ここからは最新アルバム『Yard』について、詳しくお聞きします。まずはタイトルから。“Yard”というタイトルにした理由や意味を教えてください。もしくはどのようなフィーリングが反映されているのでしょうか。 前作『Moveys』の時と同様、マッシーは父親のマイケルと一緒に自宅スタジオでヴォーカルを録音したということも関連していたりしますか?
アルバムに収録されてる曲「yard」からアルバム名を付けたんだ。その曲がアルバム全体に関連するエネルギーを持ってると感じて。曲名の中にはSlugs(ナメクジ)、Worm(ミミズ)、Mud(泥)など、芝生の庭に存在する物理的な存在に結びつけることができるものがあるよね。それらをそういう風にまとめるのが正しいと感じたんだ。そして、私は前作『Moveys』でも今回のアルバムでも父親と一緒にボーカルを録音したよ。パンデミックの影響で必要だったからだけど、とても楽しかったから、次回も同じようにしようと思ってる。私はとても創造的で繊細なことを共有できることに感謝してるよ。それは私たちの関係の中でとてもクールでユニークな側面だと思う。
前作『Moveys』との違いや制作過程
-2ndアルバムということなので、前作と比較させてもらいます。デビューアルバム『Moveys』はUSインディーフォークの要素が強く、リリシズムな印象が強かったです。Alex Gと一緒に作品を作ったことも大きいかと思います。今回『Yard』はそれに加えてエモやパワー・ポップのような力強さも感じる、まるでAlex Gの曲をパラモアが控えめにカバーしたイメージです。制作自体はどのようなアイデアやディスカッションがあって進められたのですか? 前作との違いなどあればそちらも教えてください。
Alex GもParamoreも大好き。そんな風に比べてくれて嬉しいよ(笑)。私たちのギタリストであるヘンリーが私たちのレコードのミキシングやプロダクションをすべて担当してるんだ。彼は曲のベースを聴いて、プロダクション的にどんな世界に住まわせるべきかをとても上手に理解してると思う。彼は曲にその方向性を決めさせるんだ。私たちはプロダクションについて話す共通言語を持ってると感じるよ。よく色や風景を使って曲のプロダクションを表現するんだ。何故か私たちはそれで彼が作った世界観と同じページにいられるんだよね。
リスナーの反応を考慮した曲作り
-今回はパンデミックからあけてアルバム『Moveys』を発表後のツアーなど、バンドとして新たな経験をしての制作となりました。ライヴで観客のリアクションも目の当たりにしたと思います。そう考えると、よりライヴでのパフォーマンスやリスナーのリアクションも考慮して楽曲制作を行うこともできるかと思いました。そういったところは今回アルバム制作においてのコンセプトにありましたか?
私は曲を書くときにはとても孤独な経験をしているんだ。自分の感情を吐き出すみたいな感じだから、ライブでどうやって演奏するかとか、他の人が聴くことになるっていうこととかはあまり考えない。私にとっては、他の人の音楽への反応を考えることはソングライティングに余計なプレッシャーをかけることで。最初の段階では自分のために曲を書く必要があるんだ。今はライブで曲をどう表現するかに取り組んでるけど、それは楽しいプロセスだよ。時々ここやそこを変えて、ライブショーに最適な形にするんだ。新しい曲を演奏して、人々がライブバージョンにどう反応するかを見るのがとても楽しみ!
ブレイクスルーした曲
-制作上でブレイクスルーになった曲やSlow Pulpにとって最も変化を感じさせる楽曲はどれでしょうか? 理由も併せて教えてください。個人的には「Doubt」はビート面での充実、特にカッティングギターとのかけあいに興奮しました。
私は「Broadview」がレコードの中で目立つ曲だと思う。私たちは少しアメリカーナの領域に踏み込んでるけど、それは楽しい空間だよね。その曲は根本的に自然な感じがする。そしてこの曲のボーカルを書いてるときには、自分ができると思わなかったような声を開放することができたよ。この曲にペダルスティールやハーモニカを演奏してくれた友達(Peter BriggsとWillie Christenson)を迎えることも楽しかった。
Slow Pulp – Doubt (Official Visualizer)
Slow Pulp – Broadview (Official Visualizer)
音楽的なアプローチについて
-また、今作の特徴としてガレージロック的なアプローチ、特にローファイなギターも印象的でした。それに呼応してヴォーカルもより肉体的に感じたのですが、これらについて意識されたことや参考となったものはありますか?
私たちは歪んだギターが大好き。それを弾いて大きく鳴らすのはとても楽しいんだ。ガレージロック的な曲の一部は私たちがスタジオでジャムセッションをしたことから生まれたんだよ。だからボーカルもそのようなエネルギーに影響されたと思うよ。
Slugsのテーマについて
-「Slugs」はヘンリーが小学6年生のときに片思いの相手に書いた曲のコードをもとに作られたそうですね。なぜこのタイミングで、そのコードが思い出されたのか、またその曲のテーマを引き継いで曲を作ったのか説明できますか? エピソードなどあれば教えてください。
ヘンリーはその曲に一生懸命取り組んでて、やっとコードを完成させたんだよ(笑)。私たちはレコードにもう一曲作ろうとしてて、そのコードが出てきたんだと思う。驚いたことには、ヘンリーの中学時代の曲が好きな人についてだったっていうことを私は知らなかったんだ。私は偶然にもSlow Pulpの「Slugs」の曲も好きな人について書いちゃったんだ。そのコードには新しい恋の気持ちを与える何かがあるんだろうね。
Slow Pulp – Slugs (Official Video)
Yardから見える景色
-別のインタビューでエミリーが「Doubt」について説明している時に“私たちは音楽について話すための視覚的な暗示がたくさんあります”と話していました。もし、『Yard』を視覚的に捉えたなら、あなたたちならどのように見えますか?
私はこれらの曲が住むことができる様々な風景があると思うけど、でも私にとっては、アルバムのメロディーと歌詞を書いたウィスコンシン州北部のキャビンの裏庭でしかあり得ないんだ。そこは湖を見下ろしてて、岸辺には大きな松の木が並んでいてね。湖の中や周りにはハシビロコウやワシが潜んでて、夕日は毎晩庭の真向かいで空をピンク色に染めるんだ。それは私の地球上で一番好きな場所だよ!
Yardを聴いてほしい人
-『Yard』をどのような人に聞いてほしいですか? もしくはどのようなシチュエーションで聞いてほしいですか?
このアルバムは私にとってはとても多くのことを与えてくれるけど、その核となるのはやはり自分の最も近い関係について振り返ることだと思う。曲の中には友達への感謝や恋に落ちたことや恋から抜け出したことや自分自身の中に愛を見つけたことや家族との関係について考えることなどがあるよね。私はこれが一人でドライブしたりロードトリップしたりするときに聴くのに最適なアルバムだと感じる。私は車の中でいつも考え事をするから、そういう理由かもしれないよ。
日本のファンへのメッセージ
-最後に、日本でもあなたたちのファンはたくさんいます。その人たちに向けて、メッセージをください。(日本でのライヴはまだかと思いますが、来日でのライヴも決まることを祈ってます!)
ぜひ日本で演奏したい!私たちはまだ日本に行ったことがなくて、訪れて演奏することができたら夢が叶っちゃうな。近いうちに実現できることを願ってるよ 😉
Slow Pulpアルバムリリース
2ndアルバム『Yard』
発売日: 2023年9月29日
収録曲:
1.Gone 2
2.Doubt
3.Cramps
4.Slugs
5.Yard
6.Carina Phone 1000
7.Worm
8.MUD
9.Broadview
10.Fishes
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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1stアルバム『Moveys』
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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Slow Pulpバンドプロフィール
“Slow Pulpは、幼なじみのTeddy Mathews、Alex Leeds、Henry Stoehrがバンドを結成しようと決めたことから始まった。これにより、2015年にEP1というタイトルのEPを初めてリリース。2017年には、新メンバーのEmily Masseyをフィーチャーした2枚目のEPであるEP2をリリースした。2019年には、Big DayというタイトルのEPをリリース。2020年には、Slow Pulpはデビュー・フルアルバムであるMoveysを発表し、同年10月9日にリリースした。このアルバムは好評を博し、アルバムのサポートとして、バンドは初めてのヘッドライナー・ツアーに乗り出し、そしてDeath Cab for Cutie、Pixies、Alvvaysをサポートした。2023年には、バンドはANTI-と契約し、同年9月に2枚目のフルアルバムであるYardをリリースする。”
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ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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