最終更新: 2024年3月17日
Sen Morimoto(セン・モリモト)は、京都出身で現在はシカゴ在住のマルチ奏者である。
彼は88risingに注目されたことがきっかけで脚光を浴び、日本でも多くのアーティストと共演している。
Sen Morimotoの3年ぶりの最新作『Diagnosis』では、資本主義への批判やアイデンティティのジレンマなどを世界共通の言葉で訴える。
本インタビューで語ってくれた、Sen Morimotoが考える資本主義の本質とは?
目次
Sen Morimotoインタビュー
アーティスト:Sen Morimoto インタビュアー:Lisa Tominaga 翻訳:
Lisa Tominaga、BELONG編集部
京都出身のマルチ奏者Sen Morimotoとは?
- あなたは京都出身で、今はシカゴに住んでいると聞きました。京都についてまだよく覚えていることはありますか?
Sen Morimoto:アメリカに引っ越したとき、赤ちゃんだったから、そこでの思い出はないんだけど、兄が僕たちが住んでた町に戻って住むことになったんだよね。だからツアーのときに、もし京都に残ってたら育ったであろう町を訪ねることができたんだ。そこにいるときは、別の世界と交信してるみたいで、すごく特別な気持ちになるよ。
シカゴの音楽シーンについて
- 私のイメージでは、シカゴはブルースやジャズの有名な都市の一つです。シカゴの様子を教えてください。
シカゴはすごい音楽シーンを育んでいるけど、それはブルースやジャズだけじゃないんだ。ここで生まれた音楽で有名だけど、ロサンゼルスやニューヨークみたいに音楽産業やビジネスの中心地にはならなかったんだ。だからこの街の芸術にはすごく地に足がついた雰囲気が残ってるんだよね。ヒップホップ、R&B、インディーロック、フォーク、ジャズ、エレクトロニックなど、あらゆるジャンルの音楽で常に革新が起こってる。そして最高なのは、これらのジャンルやミュージシャンがよく交わることなんだ。異なるシーンのアーティストがコラボしたり、同じ場所を共有したりして、様々な音楽を聴く人々を一つにしてると思う。
楽器の多様性が奏でる独自のサウンドスタイル
- あなたは10歳でサックスを習い始めたと聞きました。今では多くの楽器を演奏できるようになりましたね。あなたのスタイルを確立するまでにどうやって学んだのですか?
僕の音楽スタイルは多くのジャンルからの様々な音を取り入れてることが特徴だと思う。ただ、それは意図せずに偶然そうなっただけなんだけどね。音楽を録音するときにジャンルを混ぜるつもりはなかったけど、それぞれの楽器を学んだ方法がベースにあって自然発生的にジャンルが溶け込んでいった感じだね。子供の頃にジャズサックスを勉強し始めたんだ。そしてピアノやベースを学んだのは、大好きだったスティービー・ワンダーの曲を演奏できるようになりたかったからで。それでこれらの楽器でR&Bを演奏するようになったんだよ。次にドラムを学んだのはパンクバンドで演奏できるようにするためだった。だから僕の音楽ではドラムはすごく不揃いで勢いのあるスタイルになってると思う。ギターを学んだのは曲を書いてインディーロックバンドで演奏できるようにするためだったんだ。これらのスタイルはそれぞれの楽器を演奏するときの自然にそうなったもので、僕が新しい曲を作ったりプロデュースしたりするときには、自然とこうなるんだよ。
アーティスト名の由来とアイデンティティ
- 本名である“Sen Morimoto”というアーティスト名にしたのはどうしてですか?
アーティスト名を決めるのは難しいよね!僕はしばらく色々な名前を考えてたけど、どんな名前を作っても、いずれ飽きてしまって他のものにすればよかったと思うようになるだろうっていう結論に達したんだ。だから、自分の名前を使うことにした。なぜなら、それはもう変えられないものだから。今になって振り返ると、もっと短い名前を考えればよかったと思うこともあるけど(笑)。
Diagnosis
Forsythia (レンギョウの旋律)と日本語
- 新しいアルバムの12曲目「Forsythia (レンギョウの旋律)」では日本語でも歌っていますね。この曲はどのように作りましたか?
僕の日本語はかなり錆びてるよ。ソングライティングは言語の練習をしたり、触れたりするためのツールとして使ってるんだ。それに、言語の翻訳にはどこか詩的で美しいものを感じるんだよね。他の文化には存在しない考えが言葉になっているから。「Forsythia (レンギョウの旋律)」の日本語の歌詞はまさにこの考えについてなんだ。言語の限界を感じるのは不気味な感覚だけど、僕はそれを見つけるのが大好きなんだよ。
ソングライティングプロセスについて
- 普段どのように曲を作っていますか?
僕のソングライティングやプロデュースのプロセスは、最初にインスピレーションの火花を見つける場所によって変わるんだ。それは携帯電話でボイスメモに録音したメロディーだったり、多くの場合は美しいもしくは衝撃的なコード進行だったりもするよ。時には面白いと思う歌詞から始まったりもするんだ。今まではいつも曲を書きながら録音してきた。これまではすべて作った曲をデモ版としてリリースして、さらに一歩進んで録音することはなかったんだ。でも、新しいアルバム『Diagnosis』は、最初にデモを録音してから、さらに一歩進んでレコーディングスタジオで高いレベルで再録音した最初の作品なんだよ。
アルバム『Diagnosis』のコンセプト
- 新作アルバム『Diagnosis』を聴くと、ジレンマやアイデンティティ、労働者階級の搾取など、個人的で社会的な問題について歌ってくれたことに安心感を感じました。このアルバムやシングルを『Diagnosis』という名前にした理由について教えてください。
「Diagnosis」という曲は、僕たちを支配するシステムに利用されたり支配されたりしてると感じる内面的な葛藤や、参加せざるを得ない資本主義の恐怖に加担してると感じることについてなんだ。この曲を完成させたとき、僕はこれがアルバムのテーマになると分かったんだ。このアルバムではスピリチュアリティや愛や気候災害など、様々なトピックを扱ってるけど、その核となるのはすべて資本主義の葛藤に向き合い、成功や幸せの定義を再定義して、より良い未来を想像できるようにすることだと思う。
資本主義を問う歌詞
- 「Diagnosis」の歌詞は資本主義について歌っていますが、この曲を書くきっかけとなったエピソードや、書こうと思った理由を教えてください。
そうだよ!この曲は、資本主義の下で生きることの共感できるイメージを描くための小品集みたいなものなんだ。最初に”I feel like Miss America, I’m filling gasoline, watching commercials at the pump because they have a screen”と歌ってるんだ。僕が描こうとしてるイメージは、ガソリンを入れるというありふれたことをしてるときでさえ、後期資本主義(※二度の世界大戦を経た1950年代以降の資本主義を指す)に存在する吐き気を催す感覚が襲ってくるということなんだ。“I feel like Miss America”と言ってるのは、僕がアメリカを支えてて、天然資源のために世界に戦争を仕掛けてることに協力してると感じてるということなんだ。車にガソリンを入れることでさえ、この暴力を支える資金に直接関わってると感じてしまうっていう。同時に、ガソリンポンプについてる画面で無駄な商品のコマーシャルを見ることになってしまう。それはこの不穏な考えから僕たちの注意をそらすものなんだ。この石油が関係してる暴力について考えることは、僕たちの周りに置かれた絶え間ない広告や気晴らしによっておざなりになってしまうんだ。これは一例だけど、曲の残りの部分では同様のシナリオを描写してるよ。
ガソリンスタンドで撮影したアルバムカバーの意味
- 『Diagnosis』のアルバムカバーは、あなたが鏡で襟を正して立っている姿を写しています。このカバーに込められた意味を教えてください。
このカバーはガソリンスタンドのコンビニで撮影したんだ。僕はガソリンスタンドを、僕たちの周りにありふれて存在するアメリカ企業の悪の象徴みたいなイメージを持っていて。店に入って凸面鏡で自分の姿を見て、自分の容姿を気にすることは、これら巨大で破滅的な現実が日常生活のストレスや不安と常に心の中で闘ってることの完璧な例だと感じてね。「Diagnosis」の最初のヴァースと同じように、これはこれら二つの同時に存在する現実のバランスについてなんだよ。
- 今作を特に聴いてほしいリスナーはいますか?
イメージや考えは僕がアメリカで暮らす経験に大きく焦点を当ててるけど、世界中のリスナーに届くことを望んでるし、資本主義の悪い部分について認識を広めたり、これらの会話を日常に浸透させたいと思ってるよ。僕はかなり内向的で内省的な人間だけど、このアルバムは以前の作品よりもずっと大胆なものになってると思う。僕はこれが自分のように内向的な人でも資本主義について考えるきっかけになってくれればと思ってるんだ。このアルバムが誰もが会話に参加できるようにする招待状になれば良いと思ってるよ。
影響を受けた音楽について
- あなたの音楽に影響を与えた3枚のアルバムを教えてください。また、それぞれのアルバムについてあなたにインスピレーションを与えた具体的な部分についても教えてください。
マイルス・デイビスの「So What」のソロは、僕が最初に耳コピしたんだ。子供の頃に聴いた、このすごくメロディアスで広がりのある演奏スタイルは、大人になってから書いたり即興演奏したりする方法に大きな影響を与えてくれたと思う。
ロイ・ハーグローブの「Strasbourg / St. Denis」でのジェラルド・クレイトンのピアノソロは、おそらく僕がサックスで学んだ中で次に影響力のあるアレンジだったよ。このソロのリズムやスタイルはすごくかっこいいと思う。
アリス・コルトレーンの「Going Home」は、僕の心を大きく開いてくれたんだ。映画的で空間的で宇宙的な感覚を持った作曲やサウンドデザインへのアプローチを感じるよ。この作品が僕に与える感覚は他のどんな音楽とも違う。それは何か超自然的なものと深く調和してるみたいで、僕はいつも自分の音楽でそれに到達しようとしてるんだ。
日本のアーティストとのコラボレーションへの期待
- 一緒に演奏したい日本のバンドがあれば教えてください。
ここ数年で本当に素晴らしい日本のアーティストと繋がることができたよ。AAAMYYY, 春ねむり, Shin Sakiura, Maika Loubte, ermhoi, a子 とかね。これらの人たちと連絡を取り合ってコラボレーションを続けていきたいと思ってるよ。日本に帰ってくるたびに、信じられないほど素晴らしいミュージシャンやソングライターの新しいグループを発見できるんだ。
- 日本でライブをする予定はありますか?
2024年には必ず戻って来るつもりだけど、まだ具体的な時期は決まってないんだ。日本に帰って来るのがすごく楽しみだよ!
- 日本でも多くのリスナーがあなたのアルバムにハマると思います。日本のリスナーにメッセージをお願いします。
“アルバムを聞いてくれるみんな、ありがとう!元気でね!”
世界は奇妙で人生は大変だけど、僕はあなたを信じてる!近いうちに日本に戻って来て繋がれることを楽しみにしてるよ。
Sen Morimotoアルバムリリース
3rdアルバム『Diagnosis』
発売日: 2023年11月3日
収録曲:
1. If The Answer Isn’t Love
2. Bad State
3. St. Peter Blind
4. Diagnosis
5. Pressure On The Pulse
6. Naive
7. Feel Change
8. What You Say
9. Surrender
10. Deeper
11. Pain
12. Forsythia (レンギョウの旋律)
13.Reality
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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Sen Morimotoプロフィール
“京都生まれシカゴ在住のアーティスト。サックス/ピアノ/ドラム/ギター/ベースなど様々な楽器を演奏するマルチプレイヤー。”Cannonball”のPVを88risingのショーン・ミヤシロが気入り88risingのYoutubeサイトからリリースされ話題となる。その後マルチ奏者NNAMDÏによるレーベルSooper Recordsよりアルバム『キャノンボール!』をリリースしサマーソニック2018で圧巻のパフォーマンスを見せる。2019年には初のジャパン・ツアーを行いTempalayのAAAMYYYと競演。2020年10月には2ndアルバム『セン・モリモト』をリリースし、2022年には3年振りの来日公演を行う。 そして3年ぶりとなるアルバム『ダイアグノウシス』を11/3に発表する。”
BELONG Media編集部
インディーロックを中心に日本や欧米、アジアの音楽を取り上げる音楽専門メディア。“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。2021年、J-WAVEのSONAR MUSICに“シューゲイザー特集”、“ネオソウル特集”の回にゲスト出演。最近はYouTubeで気になるアーティストを見つけるとすかさずチャンネル登録をしています。