最終更新: 2025年1月15日

“母よ、私は愚かだった”―――。

最新作『DIA』の印象的な歌詞とともに始まる楽曲「BROKEN」で、エラ・マイナス(Ela Minus)は私たちに語りかける。

9歳で音楽家としての道を歩み始め、パンクシーンで培ったDIY精神とシンセサイザーを自ら修理し、ハードウェアの音にこだわり続けてきた彼女。

名門レーベル、ドミノからリリースされる、3年ぶりの新作『DIA』は、生まれ故郷コロンビアの深い森を切り開くように、電子音楽の新たなフィールドを切りひらいていく。

パンデミック下での予期せぬ放浪を経て、より深い内省と広がりを持った新作の背景に、私たちはどんな変化を見出すことができるのだろうか?

エラ・マイナス インタビュー

撮影:Alvaro Ariso
アーティスト:エラ・マイナス インタビュアー:Tomohiro Yabe 通訳:川原真理子

—まずはエラ・マイナスという名前についてお聞きします。あなたの本名は、ガブリエラ・ヒメノ・カルダスという名前ですが、どうしてエラ・マイナスという名前で活動しているのでしょうか。
エラ・マイナス:私のことをガブリエラと呼ぶ人はいないの。みんな私のことをエラって呼ぶのよ。マイナスは、私はミニマリズムが大好きだから、それを自分の名前にしたかったの。

—なぜ敢えて“エラ”という名前を選んだのですか?
“エラ”って呼ばれるのが好きだからよ(笑)。それが私の本当の名前だっていう気がするの。

—それがあなたのニックネームなのですか?
母親でさえ、私のことをいつもエラって呼んでいたわ。だから、子供の頃からこれがニックネームのようなものだったの。マイナスは、その響きが好きだったし、ミニマリズムのアイディアが好きだったのよ。常に、とても少ない要素で多くを語れる意義深い作品を作り出したかったの。だから、この名前を選んだのよ。

エラ・マイナスの音楽キャリア

撮影:Alvaro Ariso
—あなたは9歳で音楽活動を始めたと伺いましたが、最初はピアノからドラマーとして活動し、パンクバンドにも在籍していたようですね。あなたには“やりたいことは全部自分でやる”というDIY精神があるのがとても素晴らしいと思います。私たちもそういうスタンスで音楽メディアを運営しているのですが、このような精神はパンクバンド在籍時に培われたものなのでしょうか?具体的なきっかけがあれば教えてください。
そうね、若い頃からパンクバンドをやっていたんで、あれは全くのDIYだったわ。だから私は、そういった環境で育ったのよ。だから、私はずっと長年そうしてやってきたんでしょうね。9歳から18歳までがその(DIY精神の)形成期で、私はそのバンドにいたの。

—他メディアのインタビューでは、当時はシンセサイザーの修理もしていたというエピソードが印象に残っています。どのような修理をされていたのでしょうか。時には電子基板のはんだ付けなどもしていたのでしょうか?
ええ、はんだ付けをしていたわ。あと、プログラミングをし直す必要のあるものはプログラミングし直していたの。ツマミや外部のパーツが壊れて交換する必要があれば、パーツの交換もやったわ。でも、主にはんだ付けだったわね。実は、長年組み立てもやっていたのよ。だから、はんだ付けはかなりやったわね。

—あなたはコンピュータとバンドは使わず、シンセサイザーだけで制作するというこだわりがあるとインタビューで言っていましたね。どうしてこの2つを使用せずにシンセサイザーだけで制作するのでしょうか。
オーディオ・レコーディングにはコンピュータを使っているけど、コンピュータの音源は使わないの。正直、ハードウェア・シンセサイザーの音の方がとにかく大好きなのよ(笑)。他のシンセサイザーの音は好きじゃないわ。特にルールを設けているわけじゃなくて、単に私が惹かれているのがそれなの。

—ロックミュージシャンには、もともとドラマーでボーカリストとなったイギー・ポップやPrimal Screamのボビー・ギレスピー、ジャック・ホワイトなどの素晴らしいアーティストがたくさんいます。ドラマーであったことは、あなたの音楽にとってどのようなプラスの影響を与えたか教えてください。
ミュージシャン(訳注:ここでは、演奏家という意味だと思います)は、いろんな意味で音楽性が豊かだと思うの。少なくとも私の見解では、興味深いわ。私たちは以前、バックにいて、他のプレイヤーのために音楽で役に立って、音楽のしっかりとしたバックボーンになっていたんですもの。それを何年かやってからステージの前に、音楽の前面に立って自分の曲を作り始めても、自分の心の一部は必ずまだバックに残っているのよ。その私心の無いことがドラマーの特徴だと思うの。そして正直、その方が音楽が良くなるんだと思うわ。無私だと自分のことを心配しなくていいし、音楽のことだけ考えていればいいんですもの。

エラ・マイナスのルーツ

Fugazi『13 Songs』
—エラ・マイナスのルーツに当たるアルバムを3枚教えてください。また、それぞれどのような部分に影響を受けていますか?
それは難しいわね。え〜と、ルーツと言うと、私がすごく若かった頃は、Fugaziの『13 Songs』が私の人生にとってとても重要なアルバムだったの。とても若かったけど、あれは私の人生を変えたわ。音楽的に、Fugaziが好きなのよ。彼らには主義があって、何かを象徴しているバンドね。当時の私はそこにすごくインスパイアされたの。

それから、ニコラス・ジャーかしら。“No”(※「No」は『Sirens』の収録曲)がアルバム・タイトルだったかしら?これまた、ニコラス・ジャーにすごくインスパイアされたの。ごめんなさい、アルバムは『Sirens』だったわ。何かを象徴していて、信念があって、そのために立ち上がっているの。

それから…、ジャズのアルバムを選ぼうかしら。ディジー・ガレスピー。彼のアルバムなら何でもいいわ。彼のサウンドの音楽性と独創性も私の人生を変えたの。

DIA


—ここからは新作アルバム『DIA』について伺いたいと思います。本作は生まれ故郷のコロンビアやメキシコ、そしてアメリカなど、世界各地を旅しながら制作したと聞きましたが、どうして世界各地に出向いて制作しようと思ったのでしょうか。
実は、選択の余地がなかったの。住んでいたニューヨークのアパートを出ないといけなくなったのよ(笑)。それで、パンデミックの最中に家を出ざるを得なくて、まずは旅に出ることにしたの。そうせざるを得なかったんですもの(笑)。パンデミックの最中だったんで、引っ越したくても決められなかったのよ。移動がとても制限されていて、どこにでも飛行機で行けるわけじゃなかったんで、アメリカを離れることもできなかった。とてもややこしかったの。あんな風に出るつもりはなかったけど、ああいう状況だったんで、ああいう生活をしながらアルバムを作るしかなかったのよ。

—なるほど。前作はミニマルであった一方、『DIA』はカラフルで音の広がりが飛躍的に増した印象を受けました。必要に迫られたとはいえ、世界各地を旅した経験が心境に影響を与えたと思うのですが、いかがでしょう?
もちろんよ!心境もあったけど、単なる状況ということもあったの。旅の行く先々でスタジオを借りていたんで、いろんな楽器を使っていたのよ。1stアルバムの時は、アパートにある自分のシンセしかなかったけど、今回はいろんなところに行ったんで、行く先々で見つけたいろんな機材を使ったの。それで、より幅広い音になったんだと思うわ。あと、心境的なこともあって幅広くなったと思うの。自分をさらに深く掘り下げていったし、同時に外へも広がっていったのよ。

BROKEN

—「BROKEN」の歌詞は“mother”から始まるのがとても印象的です。前作『Acts Of Rebellion』では歌詞が自分らしくなかったと振り返っていましたが、『DIA』ではどのようなアプローチで自分らしさを追求したのか教えてください。また、追求した先に見えてきた自分らしさとはどのようなものでしたか?
『Acts Of Rebellion』が自分らしくなかったとは思わないわ。ただ今振り返ってみると、今の私を表わしてはいないってこと。でも、それって至って普通のことよね。もう4年も経っているんですもの(笑)。もっとかしら。6年は経っているわ。もっと前に作ったから。だから今振り返ってみると、今回はもっと深く掘り下げたいと思ったのよ。私の人生にはいろんなことが起こったし、いろんなことが変わったし、いろんな疑問も湧いたし、“自分はどこに向かっているんだろう”といった、はっきりしないこともあったんから、とても混乱した時期だったの。だから、立ち上がって音楽という形でいろんなことに対処する責任を感じたのよ。別のペルソナで音楽を作るのではなく、区別を曖昧にして、音楽でできる限り正直かつ誠実になりたかったの。

IDOLS

—「IDOLS」の歌詞では、“自分たちが何者であるかを知るために痛みが必要なのは残念なこと”と歌われているのが印象的です。これを歌おうと思ったきっかけや具体的なエピソードなどがあるのでしょうか。
あれは、1stアルバムで経験したことが元になっているの。私は事故に遭ったのよ。『Acts Of Rebellion』の1曲目(「N19 5NF」)は、病院の名前なの。もう少しで死ぬところだったけど、もちろん死ななかったわ(笑)。死に直面することは、それが自分であれ、親戚であれ、近しい存在の人であれ、すべてに対して疑問が湧いてくるの。そして、人生観が変わるのよ。あの経験と、パンデミックと、ここ数年に起こったすべてのことがあって、“私たちはこう考えられるんだ”ということに気がついたの。でも、危機に直面するまではそのことに気づかなかったのよ。人生は私たちの決断に左右されるんだってことにね。それは他人にも言えることで、彼らが危機に直面するのはとても悲しいこと。だから、私はあの曲を作ったの。

—楽曲にスペイン語と英語を織り交ぜていますが、それぞれの言語はどのように選んでいるのでしょうか。スペイン語と英語では、発音的にサウンドに言葉を載せやすかったり、載せにくかったりするのでしょうか。
正直、完璧に直感ね。私の歌詞の大半はそう。今の方がもっと意識して書いているけど、ほとんどは即興から生まれるの。コーラスのメイン・フレーズはそうよ。例えば、「BROKEN」ではあなたが言ったように“mother”から始まるけど、私が最初に書いたのが“mother, I’ve been a fool”だったの。かなり直感的に生まれたのよ。言語も同じで、ただ思いついたものにそのまま従っているの。

—本作では、独創的な電子楽器を作るCritter & Guitariのポケット・ピアノやジャック・ホワイトのために作られた超レアなシンセSeptavoxなど、珍しい楽器が使用されているそうですね。どうしてこのような楽器を使用して、アルバム制作をしようと思ったのでしょうか。
私がシンセを組み立てる仕事をしていたメーカーがそこだったの。そこで働いていたから、そこのシンセをたくさん持っているのよ(笑)。無料でもらえたから。それと、しょっちゅう移動していたから、小さな楽器を持ち運ぶのが便利だったの。だからよ。あともちろん、あのサウンドが大好きなの。

ABRIR MONTE

—「ABRIR MONTE」はスペイン語で“山を切りひらく”という意味でしょうか?
そうよ(笑)。

—この言葉はあなたが子供の頃に好きだったフレーズだそうですが、このフレーズにはどのような意味や思いが込められていますか?エピソードなどもあれば教えてください。
日本でも同じかもしれないけど、自然のあるところには行ったことがないんでわからないわ。でも、コロンビアの自然、特に山合はとても深いんで歩くことはほぼ不可能なの。人が歩くには、マチェテという大型ナイフを持って行かないといけないの。目的地にたどり着くには、進みながら道を切りひらいていかないといけないのよ。だから、人が新たな道を切りひらく時に使うフレーズがこれなの。とても美しいことだし、私はこのアルバムで新たな道を切りひらいたと思う。今振り返ってみると、私は自分自身の中にある道を切りひらいたと思うし、私が作っている音楽の道も切りひらいたと思うの。外に向けて新たな道を開いたと思うのよ。

ー『DIA』という短いアルバムタイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか。スペイン語で“日”という意味だと思いますが。
(笑)。まだタイトルがついていなかったけど、私はあの言葉が大好きなの。タイトルをつけようと思った時に、この言葉の意味、定義を考えるようになったのよ。そして、その定義はこのアルバムを表わすのにピッタリだと思ったの。つまり、“光の存在によって定義される期間”ということ。これがとても美しいと思ったし、これこそまさに私が作ったアルバムだと思ったの。それで、これをタイトルにしたのよ。

エラ・マイナスからのメッセージ

撮影:Alvaro Ariso
—このインタビューを読んでいる読者の中にも、私を含めてあなたの来日公演を楽しみにしている日本のファンが少なからずいると思います。彼らにメッセージをいただけますか?
もちろん!日本は本当に世界一私の好きな国なんで、早く行ってプレイしたいわ。約束する。ベストを尽くして実現させるわね。早くみんなに会いたいわ。

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ロレイン・ジェイムスの緻密なサウンドデザイン、Georgiaのキャッチーなメロディーとエレクトロニックなビート、そしてDiscovery Zoneの多岐にわたる表現活動など、

それぞれのアーティストの音楽は、あなたの音楽のプレイリストをさらに豊かにしてくれるはずです。

Loraine James (ロレイン・ジェイムス)『Gentle Confrontation』
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撮影:Neelam Khan Vela
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エラ・マイナス アルバムリリース

2ndアルバム『DIA』


発売日: 2025年1月17日
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ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
Tomohiro Yabe
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・​後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻

これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。

過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。

それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。

現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。

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