最終更新: 2025年2月27日
“私は、とにかくポップ・レコードを作ろうとした” “とても力強くて、自分の分身みたいに感じられる。私はポップ・ミュージックのそういう要素が好きなの”
来たる3月にリリースを控える新作アルバム『Blood On the Silver Screen』の内容に話が及ぶとササミ・アシュワースこと、SASAMI(ササミ)はそう答えた。
SASAMIはLAを拠点とするシンガー・ソングライター。
彼女は、日本と韓国のミックスとしてアメリカで育ち、多様な文化や歴史、そして音楽に触れてきた。
3作目のアルバムである『Blood On the Silver Screen』は、これまでの過去2作品に比べて、内容は横断的であって折衷的であった。いわばこれまでの彼女の音楽的な遍歴が詰まった作品だ。
だからこそ、これまで自分がインタビューで必ず質問してきたパーソナルなルーツと影響を受けた音楽についての回答は、特に今回のインタビューでは作品を語る上で重要なものになっているだろう。
“ポップ・ミュージックとは、自分の分身みたいなもの”
他人を知ることは自分を知ることにもつながる。
改めてそんなことを教えてくれたのが、今回のSASAMIへのインタビューである。
目次
SASAMIインタビュー
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- 日本でも山火事の様子は毎日報道されていますが、そちらは大丈夫でしょうか?
SASAMI:家族は皆被災地から離れたところにいるから大丈夫。持ち物を失ってしまった友人もいるけれど、幸運にも私も周りの皆も怪我はしていない。みんな無事よ。ありがとう。今日はロサンゼルスの復興支援のために行う資金集めのコンサートのリハーサルをしていたところ。
- 私たちはアーティストのルーツや音楽が生まれた背景、そして影響を受けた音楽・文化・芸術を大切にしているメディアです。今回、私たちとは初めてのインタビューということですのでまずはあなたの経歴から教えてください。もともとは韓国出身で、渡米後は音楽学校を卒業されたんですよね?
私じゃなくて、母が在日韓国人なの。母は民族的には韓国人だけど生まれ育ったのは日本。だから、私には東京とソウルに家族がいるの。
-そうなんですね。では、あなたは韓国で生活したことはない?
私はニューヨーク生まれ。アメリカで生まれ育ったから、韓国に住んだことはない。でも、母が韓国人だから、家の中で韓国の文化にたくさん触れながら育ったの。そして日本の文化にもね。祖母と母は日本生まれだから。
-子供の頃は周りにどんな音楽や文化が?
父がアメリカ人だから、私はThe BeatlesやFleetwood Mac、Steely Danといった西洋のミュージシャンたちの音楽を聴いて育った。でも母親はクラシック音楽が好きだったから、私は4歳の頃からピアノを習っていたの。韓国人って完璧さや達成感をすごく重要視するから、そこは私の音楽性にも影響していると思う。
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確実にあるとは思う。でも、音楽って言語のようなもので、状況や相手によって自然とそれに合ったものが出てくるのよね。だから、どう影響しているのかを言葉で説明するのは難しい。例えば私は母によく何語で夢を見てるの?って聞くんだけど、その理由は、母は日本語を母国語として育ち、その後韓国語を勉強して家族とは韓国語で話しているから。でも、それは母がどんな夢を見るか、誰が出てくるかで変わるのよね。マルチリンガルの人って、その時その時で自然とその場で必要とされている言語、自分を一番表現できる言語が出てくる。音楽も同じで、クラシックやジャズ、ポスト・パンク、インディ・ロック、メタルとか、様々なジャンルに精通するようになると、常に異なる言語で夢を見るようになるの。自分でそれをどう活用させようと考えて選ぶというより、それが自然と出てくるのよね。
-大学卒業後のキャリアも気になります。音楽教師や映画、CMなどのストリングス・アレンジメントなどを行ない、2015年よりロサンゼルスを拠点とするCherry Glazerrのキーボーディストとして活動されたそれぞれのきっかけ、そしてその当時を今振り返ってみての感想を教えてください。
イーストマンにいたとき、音楽教育のクラスを取ることになって、そこでジャズを学んだ。クラシックのミュージシャンは、即興で演奏したり自分で曲を作ったりする必要が大でしょ?基本的に読み方は知っていても、話し方を知らない。だから、音楽教育の学位取得のためにジャズ・インプロヴィゼーションのクラスを取ったのはこれまでにない新しい経験だったし、心が開かれたような気がしたの。イーストマンは即興演奏に重点をおいた学校だから、音楽教師になった時は本当にインスパイアされた。生徒と何かを分かち合えていると感じられるような、本当に特別な教育法がイーストマンでは教えている。だから、教師として活動していた期間は本当に素晴らしい時間だった。ソロアーティストとして活動していると、自分のやっていることが必ずしも世の中のためになっているのかどうかわからないこともある。ただ、そうであって欲しいと願うしかないのよね。でも、教える立場にいるとそれを感じることができたのはすごく良い経験だった。
-ストリングス・アレンジメントに関しても聞かせてください。
家庭用の楽譜のストリングス・アレンジをやっていたの。それから、Bright Eyesのネイト・ウィルコットの元でしばらくの間アシスタントを務めていたこともある。ネイトは、メイヴィス・ステイプルズやジェニー・ルイスといった大物アーティストのアレンジを担当してたんだけど、その時の経験はクラシックとオルタナティヴのギャップを埋める方法を学ぶのに役に立ったと思う。
-どうやってネイトのアシスタントになったのですか?
大学からロサンゼルスに戻った時、私はロサンゼルス・レディース・クワイアに所属していたの。女性たちが週一回集まるクワイアだったんだけど、その合唱団のリーダーのボーイフレンドがネイトだったのよね。彼は、私のメンターみたいな存在。
-Cherry Glazerrのキーボーディストになったのはどのような経緯で?
ロサンゼルスに戻ったばかりの頃、兄のジョシュがフロッグというバンドをやっていて地元のロック・シーンで活躍していたの。だから、兄と一緒にたくさんライブに行くようになって、そのシーンのたくさんの人たちと友達になったのがきっかけ。その後色々な楽器を演奏するようになって、ダート・ドレスっていう別のバンドでも演奏してた
SASAMIのルーツ
-続いて、あなたの音楽に影響を与えたアルバム3枚をあげるとすれば、どれでしょうか。また1枚ずつ、どのような部分に影響を受けたかやエピソードがあれば教えてもらえますか?
今までで一番影響を受けたアルバムは、Fleetwood Macの『Tusk』。あのアルバムのプロダクションや楽器の音には常にインスパイアされてきたし、良いドラム・サウンドとは何か、素晴らしいソングライティングとヴォーカル・ハーモニーとは何か、いつも参考にしてきた。あのアルバムは、私のこれまでの活動全てに大きな影響を与えてくれているの。それから2枚目は、特にニューアルバムが影響を受けているんだけど、Lady Gagaの『Born This Way』。彼女はギターの要素とエレクトロニック・ミュージックを組み合わせるのがとても上手いから。あのアルバムのドラマ性と象徴性が大好き。そしてもう一枚は、マライア・キャリーの『Emancipation of Mimi』。今回のアルバムは直接影響を受けたわけではないけど、私自身はこのアルバムを本当によく聴いていたから、自分の脳のアルゴリズムにはこの作品が組み込まれているはず。だから、本質的に私が作るものに何らかの方法で影響を与えてくれていると思う。
- 現行の音楽であなたがシンパシーを感じるアーティストを挙げるとすれば誰でしょうか?
アーティストというか、最近はカントリー・ミュージックに興味を持つようになった。カントリー・ミュージックは、最近はカルチャーとして浸透してきたと思うのよね。ストーリー性があって、コメディで、ロマンスで、ほのぼのしていて、自虐的で、とても巧妙でありながらも地に足がついているところが好き。そして、カントリー・ミュージックのソングライティングの手法ってとても効果的だと思うし、そこにも惹かれるのよね。最近はより多くのアーティストがカントリーに注目しているけれど、カントリーが音楽にどれだけ多くの影響を及ぼしているか、みんな知らなかったんだと思う。
アジア圏のルーツ
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人間は、耳で見るのと同じように目でも多くのことを吸収している。だから、彼女たちと比較されることに腹を立てたりすることはない。人間は常に視覚でも多くのことを吸収しているっていうことを思い出させてくれるし、それが私にとっては勉強になっているの。おかげで、ショーの視覚的な要素や照明デザインにもっと力を入れるようになったし(笑)。音楽は聴覚的な体験と同じくらい視覚的な体験でもあるってことよね。アジア人に限ったことじゃなく、5人組の白人グループを何組か見たら、彼らの音楽も全部同じに聴こえる人たちだっているはず。だから、アジア人アーティストが他のアジア人アーティストと並べられることは仕方ないと思う。若い頃はそれにムッとすることもあったかもしれないけど、今はそういった反応は人間性を理解するための情報の一つだと捉えているの。それに、活躍しているアジア系アーティストが増えてきたってことでもあるしね。私が学生の頃は、アジア系のアーティストといえばカレン・オーくらいだった。でも今は、MitskiやJapanese BreakfastやLaufeyみたいに明らかにたくさんのアジア人女性が活躍してる。昔よりもより大きなコミュニティがあることは確かだと思う。
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-同じアジア圏にルーツを持つものとして質問させてください。あなたのルーツにある韓国や日本についてはどのように思っていますか。あなたの音楽を聴いているとあなたを形成する大事な要素であると思います。ただ残念ながら欧米圏におけるアジア人に対する人種差別といった問題があることも事実だと思います。それについて思うことや答えられることがあれば教えてください。
日本も韓国も、アメリカとは全く違うと思う。そして私は日本と韓国のミックスとしてアメリカで育ったから、日本と韓国の違いをあまり知らずに育った。混ざり合っていて、自分が経験してきたものの何が日本で何が韓国なのかあまりわかっていなかったのよね。でも大人になるにつれて、日本と韓国の文化や歴史を理解して、それが音楽やアートにどう影響するのかを探っていくのはとても興味深い。私は韓国ドラマやK-POPにもインスパイアされているけど、K-POPはJ-POPから影響を受けているし、日本のテレビ番組は韓国ドラマから影響を受けているのよね。年齢を重ねて、2つの国の相互作用に気づいていくのはすごく面白い。
Blood On the Silver Screen
-ここからはアルバム作品『Blood on the Silver Screen』について教えてください。1stアルバム『SASAMI』ではインディーフォーク/ロック、2ndアルバム『Squeeze』ではスラッシュメタルといったように作品毎にサウンド面での色がはっきりしていてコンセプトも変わっていっている印象です。それが今作は横断的であって折衷的です。北米のポップミュージックをUSインディーポップに落とし込み、時にはクラシック、時にはメタル、時にはサッドコアなどの要素も打ち出されていて、これまでのあなたの音楽遍歴がつまったような作品でしたが今作におけるコンセプトはなんだったのでしょうか?
今回のアルバムは、とにかくポップソングのライティングを追求してみたの。ソロアーティストの利点の一つは、自分のインスピレーションをどこまでも追いかけることができること。色々なサウンドを自由に試すことができるから、人々は私に毎回同じことを期待することはできないと思う。結局のところ私の第一言語はクラシック音楽だけど、私は各アルバムで自分にとって新しい試みに挑み、クラシック音楽とは一線を画した作品を作っているの。今回はジェン・デシルヴィオとロスタムとコラボしたんだけど、この2人のプロデューサーとコラボしたことで、自分のサウンドの幅を広げることができたと思う。サウンドがより折衷的になったのは、彼らの影響が大きいんじゃないかな。
-制作時は彼らとどのようなディスカッションやアイデアの交換をもって進められたのでしょうか?
私のバックグラウンドはほとんど楽器で、電子楽器の経験はあまりない。電子ドラムやプログラミングといったポップミュージックに効果的なスタジオテクニックは、彼らがいたからこそ使うことができたの。あと、私は特定のことに対してとても支配的でこだわりが強いところがあるんだけど、彼らと作業したことで本当に成長できたし、自分の音楽を自分一人で作れる以上の大きなものに広げることができたと思う。
シティ・ポップからの影響
-日本のシティポップもリファレンスにあったようですが、具体的にはどのアーティストや曲を参照されていたのでしょうか?
面白いことに、アルバム制作中にシティポップはたくさん聴いていたんだけど、アルバムの曲ではなくて今書いている曲の方がもっとシティポップの影響を受けていると思う。だから、シティポップの影響が見えるのは次のアルバムかな(笑)。「In Love With A Money」は私の母に影響を受けてるけどね。私が子供の頃、日系や韓国系のカラオケルームに母が私をよく連れて行ってたの。自分たちでスナックなんかを持ち込めるところ。あの頃は親がすることは何でもダサいと思ってたから、カラオケもダサいと思ってた(笑)。で、そのカラオケで母がいつも日本や韓国の昔の曲を歌ってたのよね。母よく歌ってたのは「22才の別れ」。母は今でもお皿を洗いながら歌ってる(笑)。ああいうジャンルの曲が、私にはすごく刺激的だった。「In Love With A Money」を書いている時、私は母がジャズラウンジで昔の曲を歌っているっていう思い出に浸っていたの。
-今回はあまり影響を受けていないとのことでしたが、あなたが好きで聴いているシティポップのアーティストは?
大貫妙子とか、シンディとか、大橋純子とかかな。あと、秋本奈緒美も好き。
-2000年代や2010年代のポップミュージックから日本のシティポップといった世代も音楽的な距離からも幅があるものから影響を受けて制作された作品であることに驚いています。それらの音楽要素を加えようと思った理由や、それぞれに見出した共通点について教えてください。
私は、とにかくポップレコードを作ろうとした。The Beatlesはポップとみなされるし、マライア・キャリーもポップだし、アブリル・ラヴィーンもそう。色々な楽器の組み合わせがあるけれど、全てがポップなのよね。だから私は、何がポップミュージックなのか、ポップミュージックの本質を理解しようとしたんだけど、私的に、どのポップミュージックも、聴いていると自分が人生の主役になったような気分になるなと思ったの。みんな、車の中でポップミュージックを大音量で聴くでしょ?あるいは、クラブに行くために化粧をしている時に聴いたり。ポップミュージックは、たとえ悲しい曲であっても聴く人に力を与えることができる。だから私も、全ての曲にそういう気持ちを吹き込みたかったの。どの曲も、同じ自分が主演している違うジャンルの映画のような感じ。どの曲も一人の人物が登場するんだけど、まるでチャンネルを変えて、曲ごとに違う映画やドラマを見ているような感じのアルバムを作りたかった。ポップミュージックで、たとえそれが自分の曲でなくても、それを聴いたり一緒に歌うことで、何かが生まれると思うのよね。とても力強くて、自分の分身みたいに感じられる。私はポップミュージックのそういう要素が好きなの。
-今作においてブレイクスルーもしくは最も変化や進化を感じさせる楽曲はどれでしょうか?
私は個人的に、「Nothing But A Sad Face On」ができたことにすごく興奮しているの。この曲はアルバムの中で唯一フレンチ・ホルンをフィーチャーした曲なんだけど、メタル・ギターの荒々しい感じが特徴だった前作に比べて、今回のアルバムはもう少し演劇的でドラマチックなオペラのような感じになってる。フレンチ・ホルンってすごくドラマチックな楽器だから、この曲はニューアルバムの象徴みたいな曲の一つと言えるんじゃないかな。
SASAMIからのメッセージ
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アルバムを聴いてもらえるならどんな人でも嬉しい。アルバムのどの曲もそれぞれその曲独自の世界に存在しているから、たとえ一曲しか共感できない人がいたとしても全然構わないしね。私にとっては、一度私の体から抜け出して世界に出てしまえば、その曲やアルバムは私のものではないという感覚なの。だから、来たいと思う人全てにライブを見に来てほしい。東京でも是非パフォーマンスしたいな。3月にプライベートで日本に行くから、その時にどこかでちょっとしたアコースティックのショーでもできたらいいんだけど。
-最後に私たちを含めて、あなたの来日公演を楽しみにしている日本のファンや『SASAMI』や『Squeeze』を買ったファン、これから『Blood on the Silver Screen』を買おうと思っているファンもいます。彼らにメッセージを頂けますか?
日本の文化、食べ物、音楽、映画全てにとても影響を受けているから、日本の人たちと繋がることができているのは私にとってすごく光栄なこと。私の身体は日本にいなくても、私の音楽が日本の届き、人々と繋がることができているのは私にとって本当に特別な意味がある。みんな、本当にありがとう。
SASAMIアルバムリリース
3rdアルバム『Blood On the Silver Screen』
発売日: 2025年3月7日
収録曲:
01. Slugger
02. Just Be Friends
03. I’ll Be Gone
04. Love Makes You Do Crazy Things
05. In Love With A Memory (Feat. Clairo)
06. Possessed
07. Figure it Out
08. For The Weekend
09. Honeycrash
10. Smoke (Banished from Eden)
11. Nothing But A Sad Face On
12. Lose It All
13. The Seed
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ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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