最終更新: 2025年9月11日
-まりりん:“ありきたりに収まらない動き”というのは、聴き手にとってもすごく刺激的な体験になりますよね。私も10年くらい同じバンドのライブを見ていると、どうしても思い出補正で“あの時のライブ良かったな”という感動が増えてきたりするんです。でも、(DYGLは)2月のライブで新曲のみのステージを見て、個人的にメンタルの問題で音楽を楽しめなくなっていた時期だったにも関わらず、全部知らない曲なのに、すごくかっこよくて。本当にずっと知っているバンドの、知らない曲がかっこよくて嬉しい、と思って、すごく泣いてしまいました。とてもありがたい体験でした。
下中洋介:そう考えると、ものすごく危険な綱渡りをしていたのかもしれないですね(笑)。これで良くなかったら…。
秋山信樹:本当に賭けだったね(笑)。”全部知らない曲で最悪だった”とか言われたら報われなかったからね。いや、例え仮にそうなってたとしても、そっちに進まないと、自分たちが自分たちに飽きてしまっていたかもしれないし、単純に次のステップに行きたかった。仮に反応が良くなかったとしても、そっちに行かないことには、次のDYGLにはなれなかったと思います。この先、もしかしたら本当に厳しい時が来るかもしれないけど、そういう時も今の情熱や気持ちの強さを忘れず、めげずにやっていきたいですね。
“音楽を信じる”とは何か?

秋山信樹:自分の音楽を信じられないか…。音楽を信じる、というのはどういう感覚だと思いますか?単純に“いい曲だな”と思うのとはまた違いますか?
-まりりん:違いますね。きっと、“音楽を信じる”ということは、“音楽を好きでいられる”ということだと思います。
秋山信樹:自分が書いた曲や関わっているバンドの曲という意味では、波があって、うまくいく時もいかない時もあります。でも、完全に音楽を辞めるとか、卒業するみたいなことはあまり考えたことはないですね。音楽は酸素と同じくらい街にもどこにも当たり前にあるもので、逃げようがないというか、人生から追い出しようがないというか。ただ、創作面でのイメージが浮かばない時はあって、それは体調と一緒で、“やりたいことが思い浮かばないタイミングだな”という感じで、気張らずやり過ごします。音楽そのものへの信頼というよりは、もう少し体調の波みたいな話で。でも、音楽が持つエネルギーは本当に大きいものだと信じています。人間が発達した知能で“この命に何の意味があるんだろう”と考え始めた時から、人に常に寄り添ってきたものが音楽じゃないですか。今はもっと数字的に、プロダクトとして捉える向きもあるけど、もっと手前の段階には、音楽が人の心に直接働きかける力、人々が連対する力を与えて歴史を変えたり、逆に一人の感情に深く寄り添ったりする、大きなパワーがある。世の中が今商品的に音楽を捉えているよりも、音楽にはずっとパワーがあると思っているので、それは音楽を信じていることになるのかもしれないですね。もっとみんなで大事に扱いたいな、と。60〜70年代、音楽産業が強大になりすぎる前の時代の人々の音楽への向き合い方を最近改めて考えたりしています。確かにもっとみんなが音楽の力を信じていて、それによって音楽にもより強い力が集まっていたんだな、と。音楽が本当に社会を変えるかもしれない、という思いがあった。その思いがさらに音楽に力を与えていた。“音がかっこいい”という表層以上の力が音楽にはあるということを、改めて考えたい。数字とか、製品とか、バズとか、そういうもので終わってしまわないように。…もっと上手に言葉にできるように頑張ります。
メンバーが語る、最近心に残った作品

秋山信樹:(アメリカのテレビアニメの) 『リック・アンド・モーティ』ですね。昨日観た回、神回だったなー。デニーズのトイレに穴があって入る話。
加地洋太朗:最近、『機動戦士ガンダム G-QuuuuuuX』を観て、それから自分が見ていなかった『Vガンダム』を見ているんですけど、それが面白いですね。
下中洋介:どこが面白いの?
加地洋太朗:今のガンダムと昔のガンダムってテイストが違っていて、一つ一つのやり取りの奥行きが深いんです。キャラクターに立場が与えられている、という前提があって、一つの会話だけでその人の関係性が分かるようなセリフ回しだったり。
嘉本康平:見ていないとついていけなそうだね。流し見はできない感じ。
-まりりん:次は見ようと思っていました、『Vガンダム』。今は『新機動戦記ガンダムW』の途中で。
加地洋太朗:本当ですか。『W』は見たことないな。“お前を殺す”のやつですよね。
-まりりん:そうです。あの有名な“お前を殺す”のセリフが気になって観始めたんですけど、あまりにキャラクターの気持ちが分からなすぎて止まっています。誰の気持ちも分からない…、と思って。
鈴木健人:ラムゼイ・ルイスの『Sun Goddess』ですね。ラムゼイ・ルイスというピアニストが、Earth, Wind & Fireと一緒に演奏しているアルバムで、1974年に出ているんですけど、サウンドがすごく良くて、心に刻み込まれました。特に1曲目と3曲目です。ピアニストがメインで、バックバンドとしてEarth, Wind & Fireのメンバーを引き連れているようなイメージで聴いていました。
下中洋介:曲によってはクレジット違うよね?Earth, Wind & Fireが参加していないのもある。
鈴木健人:1曲目の「Sun Goddess」の展開が意味わかんなくて、すごく良かったです。ずっと踊れる楽しい曲でした。
秋山信樹:あとは、ラッパーの千葉雄喜(ex. KOHH)。武道館公演に行きました。
-まりりん:みんな行ってましたね。
秋山信樹:今回出たアルバム『永遠』は、DYGLのセカンドアルバムのツアーでシンセを弾いてくれた大翔(谷口大翔) がプロデューサーとして制作したアルバムで。アルバムも素晴らしいし、ライブも楽しかったです。その前に出していた『STAR』や『億万長者』も面白いなと思っていて。千葉さんの生活や生きることに向き合うシンプルな姿勢が、当たり前のことだけど実は難しい。「稼ごう」や「商売繁盛」も、金を稼ぐことをすごく楽しく歌いつつ、自分の半径5メートルだけでなく、その先の人たちも見えている彼なりの歌い方で。”自分”と“俺ら”じゃなくて、“俺ら”と”みんな”みたいな。巻き込む範囲が広くて、みんなで上がっていくという考え方がすごくいいなと思いました。そうやってお金のことばかり歌ったアルバムも作りつつ、武道館の前で、“ビッグイシュー”が売っていて、その表紙が千葉さんで。積極的に社会的な話をしているのはあまり聞いたことがないけれど、表現や行動で色々な人を巻き込んでいるのには痺れました。
-まりりん:嘉本さん、いかがですか?
嘉本康平:いや、難しいですね。みんな言っちゃったなー(笑)。
下中洋介:自我なくなっちゃったじゃん(笑)
嘉本康平:作品か…。忘れちゃうんですよね、僕。最近、本当に長期的な記憶が自分にないんだなと気づいて。1週間前のことも覚えられないんです。映画を観ても作品名を全部忘れちゃって。曲もいいなと思っても、名前が思い出せない。
秋山信樹:心配になる。
嘉本康平:そう、DYGLの制作中もずっとそれで。“あれなんだっけ?”って。長期記憶がなくて…。美術館には行きました。その時はね、“すごいなー”って思うんですけど。ポーラ美術館なんですけど。
下中洋介:箱根じゃん。
嘉本康平:そうです、箱根にあるやつです。映画も観ているんですけどね。あの、ディカプリオが出てた映画…面白かったんですけど…。
秋山信樹:いっぱいあるよ(笑)。
嘉本康平:Netflixで見たんですけど…2021年の『ドント・ルック・アップ』だ!いやでも、みんなすごいなと思います。ポンポン名前が出てきて。ギタリストとかドラマーとかも、僕は本当に覚えられないんですよね。
下中洋介:僕は最近読んだ本ではないんですけど、リチャード・パワーズという作家の『囚人のジレンマ』という本です。“囚人のジレンマ”はもともとゲーム理論の一つです。一見すると気難しい変わった父親が実はこのジレンマへの解決策を模索していた、という話です。特に東京みたいな都会では他人を無償で愛することは一見すればどうしようもない「無知なお人好し」なのかもしれないけれども、どうやったら攻撃的かもしれない他人を信頼できるのか、どうやって愛せるのか、という問いに対して呆れるを通り越した異常かつ強靭な答えを見せてくれる本だと思います。
DYGLアルバムリリース
5thアルバム『Who’s in the House?』
発売日: 2025年8月13日
収録曲:
1. Big Dream
2. Just Another Day
3. Do You Really Want To
4. Everyday Conversation
5. Let Me In
6. 101
7. Man on the Run
8. This Minute
9. Who’s in My House?
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DYGLプロフィール
DYGLは秋山信樹(Vo, Gt)、下中洋介(Gt)、加地洋太朗(Ba)、嘉本康平(Dr)からなる日本の4人組ロックバンドである。2012年に大学のサークル内で結成された。バンド名は「蛍光色」や「安っぽくて派手」を意味する「Dayglo」に由来する。2017年、The Strokesのアルバート・ハモンドJr.をプロデューサーに迎え、1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』を発表。以来、国内外で精力的に活動を続けている。2025年8月にリリースされる5thアルバム『Who’s in the House?』は、全曲が一発録りでレコーディングされており、よりライブ感のある生々しい質感を追求した、バンドの新章を告げる作品である。
DYGL ライブ情報
イベント名:DYGL “Who’s in the House?” TOUR
日程:
・9月15日(月・祝):金沢|KANAZAWA AZ
・9月17日(水):愛知|NAGOYA CLUB QUATTRO
・9月18日(木):大阪|UMEDA CLUB QUATTRO
・9月23日(火・祝):新潟|CLUB RIVERST
・9月26日(金):東京|SHIBUYA Spotify O-EAST
・10月01日(水):北海道|SAPPORO cube garden
・10月19日(日):福岡|The Voodoo Lounge
・10月23日(木):香川|TAKAMATSU TOONICE
・10月24日(金):京都|磔磔
・10月26日(日):横浜|F.A.D YOKOHAMA
料金:スタンディング一般前売 ¥5,000(税込/別途ドリンク代)
チケット:
ぴあ https://w.pia.jp/t/dygl-fall2025/
イープラス https://eplus.jp/sf/search?block=true&keyword=DYGL&kogyo=217915
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まりりん(@Igor_Bilic)
音楽イベントの企画運営やメディアでの取材を手掛ける音楽好き。
DaisyBarでのスタッフ経験を経て、個人企画“SECOND SUMMER OF LOVE”を主催。
ライターとしてはBELONG MediaでSuchmosやYkiki Beat、Never Young Beachなどのインタビューを刊行。
さらに、レコード会社での新人発掘、メジャーレーベルでの経験を背景に、多角的な視点で音楽シーンを追い続ける。
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