最終更新: 2025年9月24日
『METAL GEAR SOLID』とゲームからのインスピレーション
「oneshot」とスナイパー・ウルフ
-Tomohiro Yabe:ここからは今作『no scope』について伺っていきたいと思います。まずは先行シングル「oneshot」について。この曲は「スナイパー・ウルフがソリッド・スネークに最後の嘆願をするみたいに、『oneshot』は死の淵に横たわって、『もう終わらせて』と願う歌です」と語っていたのがとても印象に残っています。実は私も『METAL GEAR SOLID INTEGRAL』を25年前にプレイしていました。だいぶ昔の話でしたので、スナイパー・ウルフのことはすっかり忘れていたのですが、あなたにとっては彼女の存在はとても大きかったのですね。どうしてスナイパー・ウルフがこの曲のモチーフとなったのでしょうか。
ブレ:このレコードの制作過程で、初めて『METAL GEAR SOLID』をプレイして、彼女のキャラクターが本当に好きになったの。彼女のエンディングは、私のお気に入りのカットシーンの一つ。本当に心に残っていて、雪が降る物悲しい雰囲気の中でのスネークとの最後の会話が、曲の舞台としてすごく良いなって感じたのよね。
スナイパー・ウルフへの共感
-Tomohiro Yabe:ロシアとウクライナが戦争状態になって以来、『METAL GEAR SOLID』のことを思い出すことがよくあります。今となっては実際にゲームをプレイすることはないのですが、ゲームの設定内容やストーリーなどの情報をネット上でよく見るようになりました。設定がとても詳細で驚くことばかりです。スナイパー・ウルフもクルド人で戦争孤児であり、抗不安薬を服用しているというとてもリアルな設定があります。冷徹なスナイパーである一方で、「女と子供を殺すことは出来ない」というセリフもあります。25年前にゲームをしていた時は中学生だったので、特に気に留めることもなかったのですが、今となっては設定の細かさに驚かされるばかりです。あなたはスナイパー・ウルフというキャラクターに共感する部分はありますか?
ブレ:もちろん彼女に共感する。彼女の物語は悲痛で、常に死と破壊に囲まれた人生しか知らなかったから。小島監督がこれらの世界やキャラクターを創造する際の深さと詳細さにはいつも畏敬の念を抱いているの。それが彼のゲームをとてもインパクトがあり、没入感のあるものにしているんだと思う。
25年越しの愛と復讐|Crushedの新曲「oneshot」でメタルギアソリッドのスナイパー・ウルフに込めた想いとは?
ゲームからのインスピレーション
-Tomohiro Yabe:「oneshot」のMVはゲームの画面を加工したような内容となっています。あなたはビデオゲームからインスピレーションを受けることはよくありますか?お二人が好きなゲームがあれば教えてください。
ブレ&ショーン:二人ともゲームからとてもインスピレーションを受けているの。バンドに何らかの影響を与えたゲームは、『スターデューバレー(Stardew Valley)』、『エルデンリング(Elden Ring)』、『メタルギアソリッド(METAL GEAR SOLID)』、『サイレントヒル(Silent Hill)』、『フォートナイト(Fortnite)』、『マインクラフト(Minecraft)』、『ファイアーエムブレム(Fire Emblem)』、『パラッパラッパー(Parappa the Rapper)』、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス(Zelda: Twilight Princess)』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(Breath of the Wild)』、『ゼルダの伝説 時のオカリナ(Ocarina of Time)』、『Katana Zero』、『マジック:ザ・ギャザリング(Magic the Gathering)』ね。
新作『no scope』の制作と楽曲について

楽曲構成とアレンジ
-Tomohiro Yabe:「oneshot」は6曲目の「airgap1」と曲同士がつながっており、この曲は約30秒程度のインストゥルメンタル曲となっています。どうしてこのような曲構成にしようと思ったのでしょうか。意図があれば教えてください。
ショーン:アルバムの前半から後半への移行を示す一節を作り出すことが意図だった。個人の変化、自己反省、自己実現に言及しているガイド付き瞑想のビデオからのボーカルサンプルがあって、それらは僕たちが触れているテーマなんだ。
山岡晃からの影響
-Tomohiro Yabe:Instagramの投稿では、創作へのインスピレーションとして、日本のゲーム音楽家の山岡晃(Akira Yamaoka)さんの名前が挙げられていて、とても驚きました。私は彼のことを知らなかったのですが、調べてみるとサイレントヒルシリーズの音楽制作に携わっていたようですね。音楽的にはKilling JokeやUltravoxなどのUKポストパンクの影響が強い方のようですが、彼の音楽のどのような部分に影響を受けているのですか?
ブレ:もちろん!『サイレントヒル』シリーズでの彼の仕事に本当に感銘を受けて、ホラーゲームへの嫌悪感を克服して最初の作品をプレイするきっかけになったの。結局、それに夢中になってしまって。彼はジャンルを見事に融合させていて、それがいつも完璧に心に残る雰囲気を出しているのよね。特に3作目の彼のよりトリップホップ的な作品が大好きで、近いうちにプレイするのを楽しみにしているの。
「heartcontainer」の歌詞について
-Tomohiro Yabe:本作では「heartcontainer」の歌詞、「29個のハートがあるのに ほとんど空っぽ」という歌詞が印象に残っています。この29個のハートとは、どのような意味なのでしょうか?また、どうして29という数字が出てきたのですか?
ブレ:この質問をされるなんて思ってもみなかった!29っていうのは、その時点で私がセーブしていた『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のハートの器の数だったの。それと、ジェフ・バックリィが「Everybody Here Wants You」という曲で使っていた数字でもあるのよね。「あなたのキスには29個の真珠、歌うような笑顔」って。だから、その両方への密かなオマージュになったら面白いなって思ったの。曲の文脈では、大きな愛の器量を持っているけれど、ほとんど空っぽになるまで消耗してしまっていることを表しているの。
制作プロセスとコンセプト
ホルヘ・エルブレヒトとの制作
-Tomohiro Yabe:今作では初めて外部プロデューサーとしてホルヘ・エルブレヒト(Jorge Elbrecht)を迎えていますね。私は彼が制作した作品はどれも好きなのですが、彼との制作はいかがでしたか?また、彼が制作に加わったことでどのような化学反応が起きましたか?制作時のエピソードがあれば教えてください。
ショーン:ホルヘとは10年以上の知り合いで、以前にもコラボしたことがあるから、彼をこのレコードに参加させるのはすごく自然なことだった。彼はポップミュージックとメロディーに対する素晴らしい耳を持っているし、抽象的な表現や雰囲気作りも得意なんだ。僕たちはほとんどリモートで作業した。僕はポートランドのスタジオ、ブレはオースティン、ホルヘはLAにいた。本当にたくさんのDropboxのリンクを交換したよ。
両極端なサウンドの追求
-Tomohiro Yabe:プレスリリースには「ポップな時はとことんポップに、ダークでヘヴィな時はよりダークでヘヴィに」というコンセプトがあったと書かれています。このように両極端なサウンドを追求しようと思ったのはなぜですか?
ショーン:コントラストはパンチがあるからね。アルバムがすぐに出てきてリスナーに強く響くようにしたかったんだ。だからアルバムのオープニングを「exo」にしたのさ。
J・ディラからの影響
-Tomohiro Yabe:ミックスのインスピレーション源としてJ・ディラの『Donuts』を挙げられていますね。音楽的には、ドリームポップやシューゲイザーなどの影響を感じたので、J・ディラの名前が挙がってきたのは意外でした。具体的にどのような影響を受けましたか?
ショーン:これはJ・ディラの作品というより、アルバムを制作する過程が彼の仕事に似ていた、ということだと思う。編集室の床に落ちていたような断片を曲の新しい要素として扱ったり、自分たちの過去の作品を再サンプリングしたりして、少し自己神話的なものを作り上げていったんだ。
アルバムのビジュアルとコンセプト
アートワークについて
-Tomohiro Yabe:アルバムのアートワークもとても印象的です。指で照準を定めている写真ですが、このアートワークに込められたコンセプトを教えてください。
ブレ:最初は冗談でちょっとやってみただけだったんだけど、結局それがアルバムにぴったりだってことになったの。シューティングゲームで達成できるキルの一種である『no scope』という名前ともうまく結びついているからね。
『no scope』というタイトルの意味
-Tomohiro Yabe:本作は「oneshot」というキーになる曲があり、スコープ越しに見た世界がテーマになっていると感じました。一方で、タイトルは『no scope』となっているのがとても興味深いと思います。改めて『no scope』というアルバムタイトルの意味について教えてください。
ブレ:私の兄のリッキーが完全に冗談で『no scope』という名前を提案してくれたんだけど、私たちはそれが気に入ったの。二重の意味があるからね。「no scope」はビデオゲームで、スコープを使わずに近距離でスナイパーライフルを使って相手を倒す、非常に難しいショットのこと。腰から素早くピストルを撃つような感じね。でも、人生に希望や見込みがない(no hope or prospects)とも解釈できて、それも私たちに響いたのよね。
リスナーへのメッセージ

ショーン:人間、動物、宇宙人、精霊、神々かな。
日本のファンへ
-Tomohiro Yabe:最後に日本のファンへメッセージをお願いします。『METAL GEAR SOLID』はもともと日本のゲームなので、私を含めプレイしてきたリスナーも多くいると思います。また、あなた方の来日公演を楽しみにしている人たちもいます。そんな彼らにメッセージをいただけますか?
ブレ:日本を訪れて、そこでパフォーマンスをすることは、私の人生とこのプロジェクトにおける主要な目標の一つなの!私の大好きなビデオゲーム開発者、映画監督、ファッション、アーティストの多くが日本出身で、いつか訪れる機会を心待ちにしているの。とても心のこもったインタビューをありがとう。いつか近いうちにお会いできるといいな!
crushed アルバムリリース

デビュー・アルバム『no scope』
発売日: 2025年9月26日
収録曲:
01. exo
02. starburn
03. cwtch
04. heartcontainer
05. oneshot
06. airgap1
07. meghan
08. licorice
09. silene
10. weaponx
11. celadon
12. airgap2
Bonus Tracks (extra life)
13. waterlily
14. coil
15. milksugar
16. bedside
17. respawn
18. lorica
crushed プロフィール
crushedはTemple Of Angelsのブレ・モレルとWeekendのショーン・ダンカンによるインディー・ポップ・デュオである。2023年に発表したEP『extra life』が国内外で注目を集め、Ghostly Internationalとの契約を実現。2025年9月にデビュー・アルバム『no scope』をリリースする。テキサス出身で現在はロサンゼルスを拠点に活動するブレとポートランド在住のショーンは、リモート環境でトリップホップやブリットポップ、エレクトロニカの要素を自在に融合。ドリーミーなメロディとビート感に、鋭い感情表現と温かなキャッチーさを織り交ぜる音世界を展開している。
ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori