最終更新: 2025年9月28日
炭酸の泡が立ち上る瞬間、甘いキャンディが溶け出すあの一瞬。
誰もが知るあの身近な化学反応が、まさか恋愛の危険な魅力を描く完璧なメタファーになるとは想像できただろうか。
MICHELLEの「Mentos and Coke」は、ニューヨーク発の6人組インディーポップ・コレクティブが2024年にリリースした楽曲で、彼らの3枚目のアルバム『Songs About You Specifically』の先行シングルである。
触れ合えば最後、制御不可能な反応を起こしてしまう恋愛関係を、メントスとコーラに例えた、切なくもスリリングな一曲だ。
この記事では、「Mentos and Coke」の歌詞の深層に迫り、その物語の謎を解き明かしていく。
また、MICHELLEは2025年8月に無期限の活動休止を発表しており、この楽曲は彼らの創作活動の集大成の一つとして、より一層の意味を持つことになった。
MICHELLEとは
MICHELLEは2018年にプロデューサーのジュリアン・カウフマン、チャーリー・キルゴアによって結成されたニューヨーク発の6人組インディーポップ・コレクティブである。
メンバーは前述した二人とソフィア・ダンジェロ、レイラ・クー、エマ・リー、ジェイミー・ロッカードの6人。
当初はニューヨークをテーマとした1枚のアルバムをリリースする計画だったが、2018年のデビューアルバム『HEATWAVE』が批評家から高く評価されたことを受け、継続的な活動を決定した。
彼らは現代的なコラボレーションの形を体現しながら、親密で有機的なサウンドを生み出している。
エマ・リーは“人生のほぼ全てを共にした友人でも、このグループのメンバーほど親密に知ることはない”と語っており、その特別な関係性が楽曲制作の根幹となっている。
2024年9月27日にサードアルバム『Songs About You Specifically』がリリースされ、2025年8月に無期限の活動休止を発表した。
「Mentos and Coke」が描く、制御不可能な恋
今回取り上げる「Mentos and Coke」は、サードアルバム『Songs About You Specifically』の先行シングルだ。
この楽曲の核心は、タイトルが示す通り“メントスとコーラ”という身近な科学反応のメタファーにある。
甘いメントスが炭酸飲料と出会った瞬間、制御不可能な爆発的反応を起こすように、二人の関係もまた触れ合えば最後、激しく泡立ち、すべてを噴き上げてしまう危険性を含んでいる。
歌詞全体を通じて描かれるのは、破滅的でありながらやめられない恋愛関係だ。
“甘いアタシが キミの喉を締めつける”という一節は、愛する人への甘い感情が、同時に相手を苦しめる毒にもなりうることを示している。
この矛盾した感情こそが、この楽曲の持つ複雑な美しさの源泉である。
MICHELLE「Mentos and Coke」歌詞和訳
アタシたちって メントスとコーラみたい
甘いアタシが キミの喉を締めつける
二人きりなら ボトルロケット
火を噴いたら もう止められない
You and I like Mentos and Coke
I’ll be sweet while you’re stuck in my throat
You and I a bottle rocket
We blow up and I can’t stop it
引用元:Genius
周りの誰かに心奪われてるの?
それとも目を背けてるだけ?
他の誰かに夢中になってる間に
アタシはキミにとって何なの?
Are you amazed by everybody else or
Do you refuse to be
Are you amazed by everybody else and
What do you mean to me
引用元:Genius
これ以上はもうムリ バラバラになるだけ
これ以上はもうムリ
導火線は長く 引き金はショート
これ以上はもうムリ バラバラになるだけ
これ以上はもうムリ
導火線は長く 引き金はショート
I can’t get much bigger
Without it falling apart
I can’t get much bigger
Long long fuse with a short short trigger
I can’t get much bigger
Without it falling apart
I can’t get much bigger
Long long fuse with a short short trigger
引用元:Genius
アタシたち メントスとコーラみたい
“爆発”が日常なら これが”まとも”でしょ?
天国と地獄を行ったり来たり
ワケも分からず終わるよりマシ
You and I like Mentos and Coke
Stable if you like when we explode
Highest highs and lowest of lows
Better that than what I don’t know
引用元:Genius
周りの誰かに心奪われてるの?
それとも目を背けてるだけ?
他の誰かに夢中になってる間に
アタシはキミにとって何なの?
Are you amazed by everybody else or
Do you refuse to be
Are you amazed by everybody else and
What do you mean to me
引用元:Genius
これ以上はもうムリ バラバラになるだけ
これ以上はもうムリ
導火線は長く 引き金はショート
これ以上はもうムリ バラバラになるだけ
これ以上はもうムリ
導火線は長く 引き金はショート
I can’t get much bigger
Without it falling apart
I can’t get much bigger
Long long fuse with a short short trigger
I can’t get much bigger
Without it falling apart
I can’t get much bigger
Long long fuse with a short short trigger
引用元:Genius
くっついて また離れて オンとオフの繰り返し
夏が秋に“さぁもうおしまいだよ”と 告げる声がする
くっついて また離れて オンとオフの繰り返し
夏が秋に“ほらもうおしまいだよ”と 告げる声がする
We’ve been going on again, off again
Summer’s calling autumn saying it’s the end
We’ve been going on again, off again
Summer’s calling autumn saying it’s the end
引用元:Genius
アタシたち メントスとコーラみたいに
揺さぶられて もう爆発寸前
You and I like Mentos and Coke
Shaken up it’s all about to blow
引用元:Genius
これ以上はもうムリ バラバラになるだけ
これ以上はもうムリ
導火線は長く 引き金はショート
これ以上はもうムリ バラバラになるだけ
これ以上はもうムリ
導火線は長く 引き金はショート
I can’t get much bigger
Without it falling apart
I can’t get much bigger
Long long fuse with a short short trigger
I can’t get much bigger
Without it falling apart
I can’t get much bigger
Long long fuse with a short short trigger
引用元:Genius

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「Mentos and Coke」歌詞解説

“甘い毒”とは
この楽曲で特に印象的なのは“甘いアタシが キミの喉を締めつける”という表現である。
これは単なる甘さではなく、相手を窒息させるほどの濃密な愛情を表している。
メントスの甘さが炭酸と反応して爆発的な現象を起こすように、主人公の愛もまた相手にとって甘美でありながら危険な存在なのだ。
この“甘い毒”というコンセプトは、恋愛における複雑な感情の二面性を捉えている。
愛する人への深い愛情が、時として相手を束縛し、苦しめる結果になってしまう皮肉を、メタファーを通じて詩的に表現している。
“導火線は長く 引き金はショート”
コーラス部分で繰り返される“Long long fuse with a short short trigger”は、この関係の危険性を象徴的に表現している。
導火線は長いが引き金は短い──つまり、爆発までには時間がかかるものの、一度引き金が引かれれば瞬時に破綻してしまうということだ。
これは現実の恋愛関係においても真実である。
長い間積み重なった感情や不満が、ほんの些細なきっかけで一気に爆発し、すべてを破壊してしまう。
この楽曲は、そんな人間関係の脆さと危うさを、爆発物という分かりやすいイメージで描き出している。
詩的な情景描写
“Summer’s calling autumn saying it’s the end”は、この歌詞の中で特に美しい一節だ。
ここは直訳に留めず、“夏が秋に『さぁもうおしまいだよ』と 告げる声がする”と訳した。
季節の移ろいという、誰にも止められない大きな流れに二人の関係の終わりを重ね合わせることで、切なくも美しい情景がリスナーの心に浮かぶよう意図している。
「Mentos and Coke」という比喩
この「Mentos and Coke」という比喩が秀逸なのは、それが現代人なら誰もが知っている現象だからである。
YouTubeで数え切れないほど再生された科学現象は、今や文化的な共通言語となっている。
ジュリアン・カウフマンは語る。
“ありきたりな恋愛ソングや別れの歌を書くのは簡単だ。でも、これらの物語の多くは真実なんだ。私たちは本当に正直な場所から来ている。”
楽曲の”We’ve been going on again, off again”という一節は、この不安定な関係の本質を表している。
オンとオフを繰り返し、季節が移ろうように自然に終わりを告げられる関係。
それは激しい化学反応のように、一時的で制御不可能だが、同時に美しく印象的でもある。
音色が描く、甘美な自己破壊の美学

歌詞が描く不安定で破綻寸前の関係性とは対照的に、楽曲のメロディは驚くほど甘美でロマンチックだ。
柔らかなアコースティックギターの音色、しなやかで強靭なビート、そしてボーカルハーモニーは、まさに“甘い毒”を音楽的に体現している。
この美しいサウンドは、破壊的な恋愛関係の中にも確かに存在する純粋な愛情や、その瞬間の幸福感を表現しているのではないだろうか。
メントスとコーラの化学反応が、危険でありながらも美しい泡の舞踏を見せるように、この楽曲もまた破綻の美しさを物語っている。
MICHELLEが残してくれた「Mentos and Coke」は、現代恋愛の複雑さと美しさを、身近なメタファーと美しい比喩を通じて永遠に記録した傑作である。
MICHELLE アルバムリリース
サード・アルバム『Songs About You Specifically』
発売日: 2024年9月27日
収録曲:
1. Mentos and Coke
2. Blissing
3. Akira
4. Cathy
5. Dropout
6. Noah
7. Missing on One
8. I’m Not Trying
9. Oontz
10. Painkiller
11. Trackstar
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MICHELLE プロフィール
MICHELLEは2018年にニューヨークで結成された6人組インディーポップ・コレクティブ。Sofia D’Angelo、Julian Kaufman、Charlie Kilgore、Layla Ku、Emma Lee、Jamee Lockardで構成される。デビューアルバム『HEATWAVE』(2018)、セカンドアルバム『AFTER DINNER WE TALK DREAMS』(2022)、サードアルバム『Songs About You Specifically』(2024)をリリース。2025年8月に無期限の活動休止を発表し、同年10月にニューヨークのWebster Hallで最後のヘッドラインショーを開催した。
ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori