最終更新: 2025年12月9日
音楽を聴いていて、言葉にできない感情が心の中に広がった経験はないだろうか?
Oneohtrix Point Neverの最新作『Tranquilizer』は、そんな言語化しにくい感覚に寄り添ってくれる作品である。
冷たい電子音で構成されながらも、どこか温かな息づかいを感じるサウンドは、外の世界と自分の内面を行き来する旅へとリスナーを誘う。
予測できない展開に身を委ねるとき、あなたは何を感じるだろうか?
本記事では、レビュアーのWakikiが、実験音楽に初めて触れる方にも楽しんでもらえるよう、各曲の魅力を丁寧に紐解いている。
もしご興味があれば、ぜひ最後まで読んでもらえると幸いだ。
Oneohtrix Point Never『Tranquilizer』レビュー

テキスト:Wakiki(わきき) 導入文:BELONG Media / A-indie
Oneohtrix Point Neverの最新作『Tranquilizer』は、失われた音の記憶から紡ぎ出されるサウンドの旅である。
ダニエル・ロパティンによるこのプロジェクトは、2007年のデビュー以来、実験音楽の最前線を走り続けてきた。
本作は数年前にインターネット・アーカイブから忽然と消えた90年代から2000年代のサンプルCDを救出し、文化の断絶、時代の記憶を繋ぐ回線が無慈悲に断ち切られるような体験を音で再構築した作品だ。
ダニエル・ロパティンについて

マサチューセッツ出身のロパティンは、ロシア系移民の音楽的な家庭で育ち、父のレコード・コレクションやゲーム音楽に影響を受けてきた。
映画音楽の作曲家としても高い評価を得ており、サフディ兄弟やソフィア・コッポラの作品を手がけ、ザ・ウィークエンド、イギー・ポップ、デヴィッド・バーンとのコラボレーションでも知られている。
Tranquilizerについて

最新作『Tranquilizer』では、冷たい電子音で、温かな息づかいをもつ世界が紡ぎ出されている。
想像力を刺激する音の欠片が作品全体に散りばめられており、リスナーである私たちは、各所に散らばった欠片が光ったり陰ったりの点滅を繰り返す中を先へと進んでいく。
Oneohtrix Point Neverの音楽が呼び起こす様々な世界へ──時に外界を彷徨い、時に自己の内面深くへ潜り込んでいくという体験。
規則性も予定調和もなく、「この先に何が起こるのか」を予測できない旅なのだ。
「For Residue」では、透明な壁越しに星が流れる様や鳥たちの飛び立つ気配を眺めているようで、外側の世界はどこか他人事のように遠く、ただひたすら美しいが為に、一抹の切なささえも感じる。
「Lifeworld」ではさまざまな鼓動が音の波となって押し寄せる。命が弾むような躍動的なリズムに、思わず高揚してしまう。ふとその神秘性を囁くように穏やかで壮麗なパノラマが現れたかと思うと、より輪郭を太く、色を鮮やかにした無数の生命が目前を通り過ぎていく。
「Measuring Ruins」では笛のような淡く柔らかなシンセトーンが響く中、街の喧騒も、飽和状態の人や物も建物も、すべてが遠くに霞んでいく。これは喪失なのか、安らぎなのか──この曲から、そして次曲「Modern lust」の、欲望に飲み込まれそうな嘆きとともに、世界は内側へと沈み込んでいく。
「Fear of Symmetry」にて、序盤しとしとと降るノイズの中で繰り返されるフレーズは、やがて激しい音の雨に呑み込まれていく。その様は、恐れとの融和、あるいは受容の瞬間のようだ。
タイトル曲「Tranquilizer」は精神安定剤という題名ではあるが、サウンドはサイケデリックで、とりとめのないグリッチアートに包まれるような不思議さがある──ある種のトリップ状態、そしてそこにはある種の安らぎがあるのだろう。
アルバムは「Storm Show」から再び外の世界へ向け疾走する。「Rodl Glide」であふれる音の断片を引き連れて。
そして「Waterfalls」にて日常と非日常、外の世界と内の世界、その境界を打ち砕くような滝へとたどり着く。胸につかえていたものがいとも簡単に形を失うかのように飛沫の中に消え、その光が反射する清らかな簾をいつまでも見つめているその胸中は、“無”でありながら、確かに満たされているのだ。
Oneohtrix Point Neverの生み出す電子音楽は、時に、非日常的な感覚にリスナーを誘い、
時に、あまりに精緻で美しすぎるがゆえの畏怖の念を引き起こし、
時に、美術館を巡り終えた直後のあの静かな昂りのような、自分の感性が一段と深く潜ったような錯覚を引き起こす。
自己との対話へと導かれるトリガーとなる事さえあるOneohtrix Point Neverの音楽は、私たちリスナーにとってまさに、大いなる『Tranquilizer』であるとも言えるだろう。
Oneohtrix Point Neverアルバムリリース
11thアルバム『Tranquilizer』
発売日: 2025年11月21日
※輸入盤CD、国内盤CD、国内盤CD+Tシャツ(S~XL)セット、レコード盤有
収録曲:
1. For Residue
2. Bumpy
3. Lifeworld
4. Measuring Ruins
5. Modern Lust
6. Fear of Symmetry
7. Vestigel
8. Cherry Blue
9. Bell Scanner
10. D.I.S.
11. Tranquilizer
12. Storm Show
13. Petro
14. Rodl Glide
15. Waterfalls
16. For Residue (Extended) ※ボーナストラック
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Oneohtrix Point Never来日公演詳細

イベント名: Oneohtrix Point Never
live visuals by Freeka Tet
大阪公演
日時: 2026年4月1日(水)
開場・開演: 18:00 / 19:00
会場: 大阪・Gorilla Hall
東京公演
日時: 2026年4月2日(木)
開場・開演: 18:00 / 19:00
会場: 東京・Zepp DiverCity
チケット:
前売: 8,800円(税込 / 別途ドリンク代)※未就学児童入場不可
東京: 1階 スタンディング / 2階 指定席
大阪: オールスタンディング
一般発売:
イープラス https://eplus.jp/OPN2026/
LAWSON TICKET https://l-tike.com/OPN2026/
チケットぴあ(大阪のみ) https://w.pia.jp/t/opn2026/
BEATINK https://beatink.zaiko.io/e/OPN2026
問合せ:
[東京] BEATINK 03-5768-1277 www.beatink.com
[大阪] SMASH WEST 06-6535-5569 https://smash-jpn.com/
公演詳細: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15467
Oneohtrix Point Neverプロフィール

Oneohtrix Point Neverは実験音楽家ダニエル・ロパティンによるプロジェクトで、歴史、記憶、音楽の交差点を探求するレトロなシンセの夢想と複雑な作曲で知られる。初期のアルバムに見られた流れるようなエレクトロニクスは、やがてハイアートとポップカルチャーのアーティファクト(ビデオゲームや広告を含む)への関心のバランスを取る音楽へと変化した。2011年の『Replica』では巧妙にサンプリングを駆使し、2015年の『Garden of Delete』ではメタル、トランス、R&B、ポップを融合させた冒険的で感動的な作品を生み出した。ロパティンは2017年の『Uncut Gems』で受賞歴のある映画作曲家となり、イギー・ポップ、アノーニ、ザ・ウィークエンドとのコラボレーションでも知られ、特にザ・ウィークエンドの『After Hours』と『Dawn FM』では緊密に作業した。2023年の内省的なコラージュ『Again』、そして2025年のインターネット史を掘り起こす痛切な作品『Tranquilizer』において、Oneohtrix Point Neverによる過去への問いかけと再発明は新たな高みに達した。

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ライター:Wakiki(わきき)

コーヒーとタバコと音楽が好きなベイスターズファン。三重県在住。今まで執筆した記事はこちら










