最終更新: 2020年8月22日
UKを代表する老舗音楽レーベル、Rough Trade(ラフトレード)。
今日に至るまで数多くのアーティストを輩出し、ロックシーンに絶大な影響を与えてきた。
レーベルの名前を特別知らなくとも、The Smiths、The Libertines、The Strokesなど、これまでリリースしてきた代表的なアーティストを挙げていけば、その偉大さの一端がお分かりいただけるだろう。
この記事では、そんなRough Tradeの魅力について、新時代を担うアーティスト紹介を交えながら、改めて迫っていきたい。
目次
Rough Tradeとは
まずは、Rough Trade(ラフトレード)そのものについて簡単に説明しておく。
Rough Tradeは、1976年にジェフ・トラヴィスが西ロンドンに開店したラフ・トレード・レコード・ショップを母体として、1978年に設立された。
1982年にはショップから独立。アーティストの意志を最優先に尊重し、The Smith、Aztec Camera、The Raincoats、The Libertinesなど、音楽シーンに名を残すアーティストを数多く輩出した。
また、80年代には度々経営不振に陥ったが、苦心を重ねながら事業を拡大させ、現在ではショーディッチやノッティンガム、ニューヨークにも店舗を構えている。
2016年には創立40周年を迎え、今なおUKを代表するインディー・レーベルとしてその名を馳せているのだ。
Rough Tradeの特徴
では、Rough Trade(ラフトレード)についてもう少し具体的に踏み込むために、以下3つのキーワードに触れていきたい。インディー・ロックの震源地
1976年、ノッティングヒル・ゲートにオープンしたRough Tradeは、ポストパンクやオルタナティヴ・ロックなど、メインストリームとは一線を画した刺激的なアーティストを数多く輩出した。
特に、80年代に活躍したThe Smithsは当時のUKのユースたちから熱狂的な支持を受け、その後のブリット・ポップやオルタナティヴ・ロックにも影響を与えた。
また、The Pop GroupやThe Raincoatsといった実験的なバンドや、後のドリームポップやシューゲイザーに影響を与えたGalaxie 500などの作品は、まさにインディー・ロックの最前線を支えてきた。
その後も、The Strokesのように2000年代のロックンロール・リヴァイヴァルにおける代表的なバンドを輩出するなど、後発のミュージシャンに与えた影響の大きさは計り知れない。
常に”今”が旬のレーベル
もちろん、そのような過去の栄光にすがることなく、Rough Tradeは現在も常にインディペンデントなニューカマーを発掘し続けている。
ここ数年のリリースだけでも、Goat Girl、black midi、Amyl & The Sniffers、Girl Band、Starcrawler、Honey Hahs、Parquet Courts、Pinegroveなどが肩を並べ、注目を浴びているのだ。
熱心なロックファンなら耳にしたことがあるバンドも多いのではないだろうか。どれも個性的で、エキサイティングな音楽体験を求めるリスナーの欲求をしっかり満たしている。
音楽コミュニティとしての役割
共同経営責任者の一人であるナイジェル・ハウスは、Rough Tradeのショップとしての姿勢を、このように語っている。
“俺たちはこれまで一貫してショップを大きな音楽コミュニティの一部として打ち出してきた。人々にショップへ来てもらって、ショップを楽しんでもらいと願ってきたんだ。
ザ・テレビジョン・パーソナリティーズは歌のなかで「そしてやつらはRough Tradeに行く」って歌ってくれてるんだけど、そういうことなんだ。
ひとに来てもらって、時間を過ごしてもらって、知らないひととそこで出会い、立ち話でもして、コーヒーでも飲んでもらう――それがショップってものだと俺は思う。音楽は俺たちにとって最高のアートの形で、俺たちはひとびとにそれを共通点として出会ったり、お互いを知ってもらいたい。そして音楽とコネクトしてもらいたい。Rough Tradeは、そういう「空間」なんだ。”
レコードショップは単にレコードを売るための場所ではない。人と人とが繋がり、その媒介として音楽が存在する。
SNSやサブスクリプションが普及し、世界中の音楽に一瞬で出会うことが可能となった現代において、レコードショップがもたらす予想外の体験はフレッシュなものに違いない。
Rough Tradeは、未知なる音楽コミュニティを作り出す場所として、その存在感を発揮し続けるはずだ。
Rough Tradeの新世代アーティスト5組
そんなRough Trade(ラフトレード)の現在を彩るバンドの中から、今回は5組を紹介させていただく。いずれもRough Tradeの”パンク・レーベル”としての側面を担う重要な存在だ。
black midi
2017年に南ロンドンで結成された4人組ロック・バンド、black midi(ブラック・ミディ)。メンバー全員が20歳前後という若さに加え、わずか結成1年でRough Tradeと契約した注目の新人だ。
2019年にはデビュー・アルバム『Schlagenheim(シュラーゲンハイム)』をリリース。
ポストパンク、ポストロック、マスロックなどを織り交ぜた緊張感あふれるサウンドを轟かせ、同年には初来日ツアーも果たした。
ここでは手短に、black midiの影響元に触れておきたい。2000年代末に日本のインターネットで生まれた音楽ジャンル”Black MIDI”をそのままバンド名としていることに代表されるように、black midiの音楽性には日本のゲーム文化やノイズロック、和ジャズなどの精神が息づいている。
2018年にはCanの元ヴォーカリスト、ダモ鈴木との即興ライヴ・アルバムをリリースしており、フリージャズなどの要素も多分にあったCanとblack midiの出会いは運命の巡り合わせだと思えてならない。
black midiの関連記事はこちら。
『Schlagenheim』
レーベル: Rough Trade
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Starcrawler
2015年にLAで結成されたガレージロック・バンド、Starcrawler(スタークローラー)。
ライアン・アダムスをして”キッス、エックス、ソニック・ユース、ストゥージズのような存在になるだろう”と言わしめ、激しいロックンロール・サウンドを放つ注目の4人組だ。
Starcrawler最大の魅力は、なんと言ってもそのライヴ・パフォーマンスにある。フロントマンであるアロウ・デ・ワイルドのカリスマ性は、バンドの重要なアイデンティティだ。
時に鬼のような形相で、血糊にまみれながら歌うアロウ。The Lemon Twigsの前座として衝動に満ちたライヴを披露した様子は、観客がスマホで撮影しYouTubeにアップした動画によって拡散された。
その血湧き肉躍るパフォーマンスにロックファンは歓喜し、かのレーベル創立者ジェフ・トラヴィスも鼻息を荒くして契約をオファーしたという。
ヒップホップがメインストリームとなって久しい現在の音楽シーンにおいて、まさに”ロックンロール復権”を担う存在だ。
2ndアルバム『Devour You』リリース時のインタビューはこちら。
『Devour You』
レーベル: Rough Trade
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Girl Band
アイルランドはダブリン出身の4人組ポストパンク/ノイズロック・バンド、Girl Band(ガール・バンド)。
ソリッドな不協和音の渦と、辺り構わず刃物を振り回すようなシャウト。ポストパンクのエッジな部分だけを抽出したようなそのサウンドは、ある種の混乱と恐怖を伴う。
2019年にリリースされた2ndアルバム『The Talkies』は、デモ音源やメンバー各自で作ったパートを切り刻み、PCに取り込んでコラージュすることで再構築し、カオティックなサウンドに仕上げられている。
危険すぎるGirl Bandの魅力を、あなたの耳で確かめてみてほしい。
『The Talkies』
レーベル: Rough Trade
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Goat Girl
南ロンドン出身の4人組ポストパンク・バンド、Goat Girl(ゴート・ガール)。
フォークやサイケなどのエッセンスを溶かし込んだごった煮のスープを、ポストパンクで味付けしたようなサウンドが特徴だ。
全体的にどこかローファイな音像と、気怠げなヴォーカル。なんとも形容し難い、不思議な風味がクセになる。
Goat(=山羊)が旧約聖書では生贄、新約聖書では悪の象徴を表すことを踏まえれば、欧州特有の神話的/魔女的な雰囲気すら感じるのも興味深い。
バンドをより深く知りたいなら、デビュー・アルバム『Goat Girl』リリース時のインタビュー記事も参照されたい。
『Goat Girl』
レーベル: Rough Trade
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Pinegrove
現行USインディー/エモ・シーンを牽引するニュージャージー出身の4人組バンド、Pinegrove(パイングローヴ)。
2020年1月、3rdアルバム『Marigold』をRough Tradeからリリースした。
『Marigold』はニューヨーク北部の田舎にある家屋を改装したスタジオでレコーディングされたといい、地元のDIYシーンにルーツを持つPinegroveを象徴するかのようなエピドードだ。
また、その精神はサウンドにも表れており、カントリーやフォーク、エモなどを織り交ぜ、素朴ながらも美しい音像を作り上げている。
Death Cab For Cutieとも呼応する、優しく頬を撫でる涼風のようなサウンド・スケープに、是非とも酔いしれていただきたい。
Pinegroveの関連記事はこちら。
『Marigold』
レーベル: Rough Trade
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Rough Tradeなくしてロックの未来なし
いかがだっただろうか。Rough Trade(ラフトレード)の魅力、そして功績について、その一端を紹介できたのではないかと思う。
“良い音楽”をセレクトし共有することで、人々のコネクションをも生み出すレーベルの姿勢は、時代が変わっても求められる普遍的なものであり続けるだろう。
Rough Tradeなくして、ロックの未来はないのだ。
Youtube
- black midi – ducter
- Starcrawler – Bet My Brains
- Girl Band – Going Norway (Official Video)
- Goat Girl – The Man
- Pinegrove – “Phase” (Official Music Video)
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1992年生まれ、札幌出身。都内のレコードショップで働きながらブロガー/ライターとして活動しています。現在、シューゲイザー専門メディア『Sleep like a pillow』などを運営中。ホラー映画ばかり観ている古生物オタクです。
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