最終更新: 2024年3月17日
DYGL(デイグロー)の4枚目のアルバム『Thirst』は自分の声に素直になることを実践した作品である。
制作スタッフも顔見知りで作ったというパーソナルなアルバムは、彼らの自然体で開かれた姿を音像として捉えている。
とはいえアルバムリリース前に行われたライブは音源とは大きく異なり、5人編成でラウドな音を叩きつける痛快なものであった。
今回はアメリカツアーも控えており、勢いを日毎に増していくDYGLの秋山に英語歌詞の必然性を含めてインタビューを行った。
アーティスト:秋山信樹(Vo./Gt.) インタビュアー:yabori 翻訳:H.M ポートレイト:Kohei Yonaha ライブ写真:Erina Uemura
英語版のインタビューはこちら。
目次
DYGL・秋山信樹インタビュー
-本作について伺う前に、DYGL(デイグロー)の前作『A Daze In A Haze』について秋山さんに伺いたいと思います。セカンド・アルバム『Songs of Innocense & Experience』とサード・アルバム『A Daze In A Haze』とでは曲調大きく変わり、“日常に寄り添うこと”がテーマのように感じました。コロナの感染拡大と日本への帰国という大きなターニングポイントがありましたが、音楽との向き合い方や心境の変化はありましたか?
秋山信樹:コロナウイルスの影響もあり、2020年は僕らにとって難しい年でした。一方でそれが上手く働いた側面もあったんです。セカンドアルバムのレコーディング、そしてそのツアーの頃から僕らは活動の中で迷子になってしまいました。しかし、コロナによって僕らが本当にやりたいことを考え直す機会が得られたんです。そしてよりリラックスして、楽しいことをすることにしました。このアルバムではより自分たちのやりたいことに自然体でいられたと思います。
4thアルバムThirstについて
-4枚目のアルバムとなる『Thirst』はセルフレコーディングで制作されたようですね。どうしてこれまでに関わりのあるスタッフだけで制作しようと思ったのでしょうか。
最初からそうしようという訳ではなかったんですが、レコーディングを進めるにつれ、今作は前作に比べ、かなりパーソナルな感じがあると感じるようになりました。そのため、既によく知っている人との方が作業がしやすいことに気づいたんです。もちろん参加したメンバーは皆才能に溢れています。彼らのことはアーティストとして尊敬していますし、とても素敵な友人でもあります。
Under My Skin
-「Under My Skin」はDYGLとしての一つの到達点と語っていましたね。私はこの曲を聴いた時、Arctic Monkeys「Do I Wanna Know?」が思い浮かびました。様々な曲を聴くリスナーとしての感性が出せたということですが、この曲を制作する際に工夫した部分があれば教えてください。
「Under My Skin」は僕が気に入っているDYGLの曲の一つです。(加地)洋太朗がレコーディング直前にいくつかデモを聞かせてくれて、中でも特にこれが良かったので、すぐに多くのボーカルのアイデアが浮かびました。ほとんどのインストパートは洋太朗が作っていて、それを僕がアレンジし、ボーカルを乗せました。一緒にこの曲を作るのはとても楽しかったです。
-「Under My Skin」のMVは赤血球や馬の映像が印象に残っています。これまでのMVはこういった映像素材が入ることはなかったと思うのですが、どうして今回はこれを採用したのでしょうか。
これはある種冗談みたいなもので、ストックビデオのような映像素材をそのままMVに使ってみたんです。沖縄を中心に活動する、親友の映像監督、Kohei Yonaha(與那覇浩平)と相談したんです。何度も一緒に仕事をしようと話していたので、ついにそれが叶ってとても嬉しいです。単純に「かっこいいビデオ」を作るのは、そこまで面白くないので、何か意外性をもたせようとしたんです。プロフェッショナルな方法でとても慎重に撮影された、僕らの映像のすぐ後にストックビデオの映像素材が出てくるのが面白いと思って。血は「Under My Skin」において重要な要素なんです。体や意識、そして世界の循環を象徴しています。
DYGL(デイグロー) - Under My Skin (Official Video)
I Wish I Could Feel
-「I Wish I Could Feel」はDYGLとして初めてボーカルエフェクトを加えた曲となりましたね。どうしてボーカルエフェクトを使おうと思ったのでしょうか。また、ボーカルエフェクトを導入する際に参考にした曲やアーティストはありますか?
実はこれまでの二枚のアルバムの多くの曲で、スラップバックディレイという方法でボーカルエフェクトを使用しているんです。しかし、それが目立つような曲はあまり無かったと思います。『A Daze In A Haze』では、「7624」や「Half Of Me」のような曲でオートチューンとディストーションを使いました。なので、僕らにとっては全く初めてのことに挑戦というよりは、アイデアをより先に推し進めようという意識でした。ジェームス・ブレイクやボン・イヴェール、フランク・オーシャンのようなアーティストがインスピレーションになっていると思います。
DYGL - I Wish I Could Feel (Official Audio)
-今作は曲の流れを意識して作ったアルバムだと感じました。特に1、2曲目のつながりや、最終曲のあとに1曲目をリピートしても違和感なく聴けたことが印象に残っています。曲順や曲のつながりについて工夫したことがあれば教えてください。
曲順は慎重に決めましたが、全ての曲のレコーディングとミキシングを終えるまではあまり考えていませんでした。予想よりも違和感なくアルバムを聴くことができたことに僕らも感激しました。嬉しいサプライズだと感じました。
歌詞が英語である必然性
-「Sandalwood」の歌詞は和訳して、自分でも直接過ぎて笑ってしまったという話がセルフライナーノートに載っていて印象に残っています。日本語だとストレート過ぎて歌詞にできなくても英語だと言えることもあるのでしょうか。また、日本語ではなく、英語で歌う理由についても教えてください。
その通りだと思います!英語で伝える方がずっと楽なことも時たまあるんです。それぞれの言語には個性があって、それは色の素材が違うのに似ている気がします。どちらも好きですが、DYGLにおいて僕が英語を選んでる理由はそこにあると思います。英語の音とリズムが好きなんです。日本語の柔らかくてぼやけた印象に比べ、速くて硬い響きがします。どちらが優れてるとかではなく、ただ違いがあると思います。
-『Thirst』の歌詞では“混乱”と“静寂”という単語がどちらも6回と頻出しています。ギリギリの精神状態で混乱しており、休息を欲する主人公が度々出てくるのですが、これは秋山さん自身のことなのでしょうか。もしくは曲のモデルになっている方がいるのでしょうか。
ここで知るまで使った回数は知りませんでした。人と話す中で僕らの曲について新しい発見をするのはいつも興味深いです。質問の答えとしては、これらの主人公は僕の一つの側面が反映されていると思います。一方で、曲の解釈をその作者に限定してしまうのはもったいない気もしますよね。僕は自分の視点から歌詞を書きますが、どのようなものでも、それが公衆に触れられた時に違う意味を持つことを強く信じています。なので、これは僕についての曲でもあるし、あなたについての曲でもあり、この曲に関わる全ての人についての曲でもあります。
Thirstのテーマ
-『Thirst』は“自分の内なる声に正直になること”がテーマになっていると思います。やりたいことがあっても、環境のせいにして妥協することで自分のやりたいことをやれずにいる人も多くいると思います。どうしてこれをテーマにしようと思ったのでしょうか。
環境は人々を制限する十分な理由になると思います。それぞれが属している場所や社会にある問題を理解することは悪いことじゃないと思うんです。それは政治が人々の生活やメンタルヘルスに影響を与えることはデータからも明らかですしね。なので、環境のせいで物事を諦める人の気持ちもすごくわかるんです。休んでもいいと思います。でも、自分が本当にやりたいことをやる方法を見つけて欲しいですね。僕は幸運なことに環境や周りの人に恵まれていました。それは僕にとってずっと重要なことでした。意志の強さをあまり信じていないんです。サクセスストーリーは多くの事実の積み重ねに過ぎません。なので質問にあった、“素直な心を持つこと”と“環境のせいで諦めざるを得ない人”の間に直接的な関係性があるとは思いません。素直な心は環境に恵まれないと難しいものだとさえ思います。今後数十年の間、社会はより貧しいものになる可能性もあります。だから僕らは、お互いに支え合って、自分たちが安心して自由にやりたいことをやれる環境を作ることの重要性を自覚するべきだと思います。
Thirstのアルバムカバー
-『Thirst』のアルバムカバーは落ち着いた色のトーンで塗り分けられた抽象的なものになっていますね。どうしてこの絵をアルバムカバーにしたのでしょうか。
アルバムジャケットの画面全体を色で埋め尽くすアイデアがありました。全3枚のジャケットは背景の前にメインモチーフを配置するという共通のコンセプトがあったので、今回は何か別のものにしたかったんです。様々な時代と国のアーティストやクリエイターを見てみて、やっとアルバムの収録曲に繋がる作品を見つけることができたんです。アルバムジャケットになった油絵は小学校の同級生でもある白井珠緒が書いてくれました。元々これは彼女が依頼で書いたものだったのですが、彼女も作品のオーナーも喜んで許可してくれました。そのおかげでアルバムジャケットに使用できたので感謝しています。
-“Thirst”という言葉を直訳すると“(何かを)渇望する”という意味になりますが、このタイトルにはどのような意味があるのでしょうか。
この言葉は僕にとってネガティブであると同時にポジティブでもあります。”Thirst”は不足を意味しています。一方でそれは生きることへのエネルギーでもあります。
-『Thirst』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
文字通り全ての人です!特に音楽や文化を愛する人に聞いてほしいですね。
DYGLのライブ編成
-ライブではNever Young beachの鈴木健人さんがドラムで、嘉本さんがギターの5人編成でライブをやっていましたね。どうしてトリプルギター編成でライブを行うのでしょうか。また、日本だでけでなく、アメリカツアーもこの5人で回るのでしょうか。
康平(嘉本)がドラムを辞めたがっていたんです(笑)。けど、第一に彼が僕らの知る中で最高のギタリストの1人であるってことがありますね。3rdアルバムのレコーディングをした頃から、より厚みのある音楽へと、バンドの方向性が大きく変わったこともあります。そのことから、ライブでは少なくとも5人は必要になったんです。まだ確実ではないですが、健人(鈴木)を含む5人でワールドツアーをできたら素敵だと思います。彼はとてもいい友達だし、ドラマーとしての技量も素晴らしいです。
DYGL - Under My Skin (Live)
DYGLのルーツ
-DYGLの音楽に影響を与えたアルバム3枚について教えてください。また1枚づつ、どのような部分に影響を受けたかについても教えてください。
メンバーのそれぞれがたくさんの音楽の影響を受けているので、3枚だけに絞るのはとても難しいです。なので、特に『Thirst』を制作している時に影響を受けたであろうものを挙げました。
Alex G『God Save the Animals』
2022年にリリースされた数えきれないアルバムの中でも、特にこれが好きです。サウンドプロダクションはとても洗練されていつつも、決して普通なものではありません。このアルバムの雰囲気は確実にアルバムの制作を助けてくれました。
Turnstile『Glow On』
現代のロックにおける真のエースです。エネルギーが特に好きです。ギターロックの力を思い出させてくれます。そしてこのアルバムにはたくさんのアイデアが意図的に配置されています。エネルギーとアイデア、素晴らしいバランスです。メンバーでもとてもよく話した作品です。素晴らしいアルバムです。
Joji『Ballads 1』
僕のお気に入りの一枚です。色々な種類の音楽が混ざり合った雰囲気がとても好きです。ロック、R&B、ヒップホップ、そして僅かにエモ。それらが信じられないほど自然に共存しています。このアルバムから自分の作品の中にあるものに新たなものを足してアウトプットしたいという考えが浮かびました。これは僕が表現したいものを構成する重要な要素の一つです。
DYGLアルバムリリース
DYGL(デイグロー)はこれまでに4枚のアルバム(『Say Goodbye to Memory Den』、『Songs of Innocence & Experience』、『A Daze In A Haze』、『Thirst』)をリリースしています。
4thアルバム『Thirst』
発売日: 2022年12月9日
収録曲:
1.Your Life
2.Under My Skin
3.I Wish I Could Feel
4.Road
5.Sandalwood
6.Loaded Gun
7.Salvation
8.Dazzling
9.Euphoria
10.The Philosophy of the Earth
11.Phosphorescent / Never Wait
フォーマット:CD
Amazonで見る
3rdアルバム『A Daze In A Haze』
発売日: 2021年7月7日
フォーマット:アナログ
Amazonで見る
2ndアルバム『Songs of Innocence & Experience』
発売日: 2019年7月3日
フォーマット:Mp3
Amazonで見る
1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』
発売日: 2017年4月19日
フォーマット:Mp3
Amazonで見る
DYGLバンドプロフィール
“2019年、DYGLはSXSWを皮切りに、フジロックを含むアジア各地の主要フェスからオファーを受け、The Mystery lightsやBad Sunsとヨーロッパ、SWMRSやGirlpoolとアメリカをツアーしている。
また、Rory Attwell (Test Icicles, The Vaccines, Palma Violets)をプロデューサーに迎えたセカンドアルバム『Songs Of Innocence & Experience』をリリース。アルバムタイトルは、William Blakeの詩集『Songs of Innocence and of Experience』のタイトルから引用しています。"このアルバムの曲は、特定の答えを提示するのではなく、この人生や世界に対する個人的な疑問や矛盾を歌っています。もしかしたら、それは青春についてかもしれないし、それ以上かもしれない。個人的な感情にかなり関係しています。"
DYGLは、このメッセージを伝えるために、インディー界の様々な側面からアプローチしている。リード・シングル「A Paper Dream」と「Bad Kicks」では、The LibertinesやThe Cribsを彷彿とさせる。一方、「Spit It Out」では、ビーチボーイズのサーフィンとDIIV譲りのシューゲイザーが組み合わされています。「Ordinary Love」では、IceageやShameのような硬質なローファイ・インディーロックを聴くことができる。『Songs Of Innocence & Experience』には、アルバムのオープニングを飾る「Hard To Love」、「Only You (An Empty Room)」、「Nashville」そしてアルバムを締めくくる「Behind The Sun」などの美しく繊細な瞬間も散りばめられている。(中略)
『Songs Of Innocence & Experience』は、2017年に高い評価を受けたDYGLのデビュー・アルバム『Say Goodbye To Memory Den』に続く作品である。アルバート・ハモンドJr.がプロデュースしたこのアルバムは、DYGLを東京で最もホットなインディー・バンドにする一方で、NME、ClashなどのUKの称賛を呼び起こした。”
DYGLの評価
“2019年5月31日にリリースされた「Spit It Out」は、私を完全にトランス状態にさせるファジーなインディー・ロックだった。その感染力のある歌詞は、社会的規範と戦うという考えを訴えており、一方でその活気に満ちたボーカルはセックス・ピストルズを彷彿とさせるパンキッシュなヴァイブをにじませていた。”
DYGLライブ情報
国内ツアー
-
1月20日(金) 東京・O-EAST
1月21日(土) 京都・METRO
1月22日(日) 神戸・Varit
1月24日(火) 高松・TOONICE
1月25日(水) 岡山・EBISU YA PRO
1月27日(金) 広島・セカンドクラッチ
1月28日(土) 熊本・NAVARO
1月29日(日) 福岡・BEATSTATION
2月3日(金) 仙台・RENSA
2月5日(日) 札幌・SPiCE
2月9日(木) 名古屋・ELL
2月10日(金)大阪・クアトロ
SXSW
-
3月15日(水) SXSW in Austin, TX
3月16日(木) SXSW in Austin, TX
3月17日(金) SXSW in Austin, TX
3月18日(土) SXSW in Austin, TX
アメリカツアー
-
3月21日(火) The Coast in Fort Collins
3月22日(水) The DLC in Salt Lake City, UT
3月24日(金) Treefort Fest 2023 in Boise, ID
3月25日(土) Vera in Seattle, WA
3月27日(月) Polaris Hall in Portland, OR
3月29日(水) Cafe Du Nord in San Francisco, CA
3月30日(木) Wayfarer in Costa Mesa
3月31日(金) Lodge Room in Los Angeles, CA
DYGL代表曲(Youtube)
- DYGL(デイグロー) - Sink
- DYGL(デイグロー) - Bad Kicks (Official Video)
- DYGL(デイグロー) - Let It Sway (Official Video)
DYGL関連記事
DYGL(デイグロー)の関連記事について、BELONGではこれまでにインタビューやレビュー記事などを取り上げている。
アメリカ滞在中のDYGLが語るアナログ録音にこだわった最新作と現地から写真で現状をお届け!
DYGL talks about his latest work, which focuses on analogue recordings, while they are in the USA and brings you the current situation with photos from there!
DYGL(デイグロー)が語る、海外を拠点に活動する理由
DYGL talks about why they are based abroad.
ガレージロックバンド、DYGL(デイグロー)がロックの魔法を蘇らせる理由
Why garage rock band DYGL is reviving the magic of rock.
What is the attraction of English lyrics in DYGL 'Waves'?
ライター:yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
今まで執筆した記事はこちら
Twitter:@boriboriyabori