最終更新: 2020年5月16日
ネオグランジブームが全盛の中、それに一極せずに、新しい流れを生むバンドがどんどんフォローされるUKロックシーンにパワーを感じられるし、今こんな新しい血を持ったオルタナティヴなバンドをブチこむROUGH TRADEの動きも面白い。
遂に出てしまった!GIRL BANDのデビュー・フルアルバムは期待を大きく上回る堂々たる傑作盤だ。今年の5月に限定リリースされた『The Early Years EP』の内容は、パンク/ロック寄りのシンプルな曲と、エレクトロ寄りでダンサブルな曲に2極化していた(過去のEPを集めた企画盤ということあったが)。今作は、ビート×ノイズ×音色×フロウの4軸のブレンドが本当に絶妙だ。
ロックとエレクトロの融合というと90年代のPRODIGY、ATARI TEENAGE RIOT、KLF、NIN(NINE INCH NAILS)が確立させて、今のEDMにも繋がってくるわけだが、GIRL BANDの視点はその主流とはズレてて、その90年代の融合点までわざわざ戻って、ジャンルを解体して、その材料を持って、今に通用するような視点で組み立ててるような印象があり、それだけ楽曲や音にリアリティがある。そういうあっさりとジャンルレス、タイムレスなことをやり遂げるセンスは、データベースを自由に操れる今のバンドであることをすごく感じさせる。
さらに強いところは、エレクトロの直観的な高揚感と、ロック的な文脈を知るうえでの高揚感が、しっかりした形で兼ね備えているところにある。それは例えばPIL(Public Image Ltd)なんて知らないって人でも全然アガれるし、SPK、This Heatあたりよく聴いてましたよってパンク通な人もうならせる素養がある。同じようにポストパンクの方向性でICEAGEだとかMETZが挙げられるが、ライヴパフォーマンスで言えば、このジャンル特有の魔法である”緊張感”が多くの人には届きにくい。U2やThe Cureしかり、こういったバンドが大きな舞台に出るためにはどうしてもエンタメ要素を取り入れることに迫られ、葛藤になる。しかしGIRL BANDの場合は、自分たちのアート性は落とさず、エレクトロの高揚感をコントロールすることでクリアできる。50人くらいのクラブから、1万人クラスのフェスのメイン・ステージまで許容できる可能性を持ってる。
映画で言えば、アート性としての刺激はありながら、しっかり稼げるエンタメ性は持ってる、デビット・フィンチャー作品クラスの懐の深さを感じさせ、おいおいなんて新人なんだと驚きを隠しえない。
【Writer】TJ(@indierockrepo)
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