最終更新: 2025年11月8日
English article here 🔗
English
夜の静寂の中、霞がかったギターの音色が漂い始める。
それは甘美でありながら、どこか危険な香りを纏っている。まるで、踏み入れてはならない領域へと誘うかのように。
この、どうしようもなく危うい感覚こそが、Cigarettes After Sex(シガレッツ・アフター・セックス)の魅力ではないだろうか。
新曲「Anna Karenina」は、まさにそんな彼らの世界観を凝縮した一曲だ。
タイトルから察しがつく通り、これはトルストイの名作『アンナ・カレーニナ』に着想を得ている。
情熱的な不倫に身を投じ、最終的に列車に身を投げた女性アンナの物語。あの壮絶な悲劇を、彼らは現代の破滅的なロマンスとして、あの独特のサウンドで見事に再解釈しているのだ。
2024年にリリースされ、あれほどの絶賛を浴びたアルバム『X’s』。
あの熱狂以来となる、バンドの新たな表現を示す作品として、この楽曲が注目を集めるのは当然だろう。
ただ甘いだけではない。
Cigarettes After Sexが描く、甘美で影のある世界に、今一度深く浸ってみてほしい。
Cigarettes After Sexとは

2008年、フロントマンのグレッグ・ゴンザレスを中心に米テキサス州エル・パソにて結成されたドリーム・ポップ・バンドである。
当初はソロプロジェクトとして始まったが、20人近いメンバーの入れ替わりを経て、現在はゴンザレス(Vo./Gt.)、ジェイコブ・トムスキー(Jacob Tomsky, Dr.)、ランドール・ミラー(Randall Miller, Ba.)の3人編成となっている。
2012年に発表したEP『I.』が突如として話題を呼び、ローリング・ストーン誌の「2016年知っておくべき10のアーティスト」に選出された。
特筆すべきは、「Apocalypse」がSpotifyで20億回再生を突破したことだ。
彼らの音楽は、ゴンザレスの中性的でささやくようなヴォーカル、アンビエントなギターサウンド、そして親密で官能的な歌詞によって特徴づけられる。
「Anna Karenina」が描く、秘密と束縛の愛
今回取り上げる「Anna Karenina」は、2024年にリリースされた『X’s』以来のリリースとなるダブル・シングルのB面である。
この楽曲は、Cigarettes After Sexの真髄と言える作品だ。官能的で、じわじわと燃え上がり、そして感情が溢れる壮大な楽曲であり、告白をするかのような歌詞が印象に残る。
最も注目すべきは、スポークン・ワードのセクションがグレッグ・ゴンザレスの世界に新たな表現を与えていることだ。
これまでのCigarettes After Sexの楽曲では、囁くようなヴォーカルが特徴的だったが、「Anna Karenina」では語りかけるような表現方法が採用され、バンドの親密な表現の幅を大きく広げている。
トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』について

本作は、トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』から直接的なインスピレーションを得ている。
社会規範を捨てて情熱的な不倫に走り、最終的に絶望して列車に身を投げる女性アンナの物語は、19世紀ロシアの悲劇であると同時に、時代を超えた普遍的な愛の形を描いている。
次のページこちら ⏩️









