最終更新: 2020年12月6日

「時間の中を行き来する様に さまざまな時代の音楽を楽しんでいけたら」
というテーマで続けてきたこの連載でしたが
楽しい空想の時間も終わり、実際には不可逆的な時の流れと供に
今回で皆さんとお会いできる機会は最後となりました

しかし、矛盾するようにも思えますが
「文章や音楽、映像といったものは 何度でも眺める事が出来る。
まるで、それはタイムスリップをしているようなものだ」
というのが、
そもそもの連載のテーマでしたから、
今回の‘さよならの場面’にも何も寂しい事はない。と思っています
ひとまずの別れとなる今回
最後の曲として紹介したいのは
ドン・マクリーンのアメリカン・パイという曲です

不思議な言葉がまるで暗号のように並んでいて
様々な解釈や研究をする人がいるくらい謎めいた魅力があるこの曲ですが、
優しい出だしで始まる冒頭の数行は、
彼の音楽に対する美しい気持ちが素直に歌われています。

「とても とても昔の事だけど
僕には今も思い出せる
音楽が僕を笑顔にしてくれた そのやり方を
そして僕には判ってた 僕にもチャンスがあれば
僕にもみんなを踊らせる事が出来たら
きっと皆ほんの少しの間だけ 幸せな気持ちになるんだろうって」
この曲を聴くと
東京で、一人きりで弾き語りをしていた時の事を思い出します。
23歳くらいの時だったと思います
まだTHE PINBALLSを結成してすぐの頃でした。

その時、僕は、その時の自分なりに一所懸命に歌を歌っていましたが
誰一人、
踊ってくれる人はおろか、立ち止まって歌に耳を傾けてくれる人すらいませんでした。
自分が誰からも必要とされていない事がありありと分かるようで

ただ一人ぼっちでいるよりも、もっと孤独でした。
歌を歌うという事が
僕にはこれほど辛く感じられた事はありませんでした。

いま思えば、もっとやるべき事や、
きちんとしたやり方があったと思うのですが、その時の僕には出来ていなかったのです。
がむしゃらな気持ちだけで すべてが伝わると思っていたように感じます
そのまま音楽を嫌いになってしまいそうになっていた時でした。
突然、小さな女の子がやってきて、
僕の歌に合わせて踊りだしたのです。
武蔵野エレジーというミッシェルガンエレファントの歌をやけくそになって歌っていた時だったと思います。

その子供はおそらく海外の女の子で、
赤い、民族衣装のような服を着ていたので
僕は、はじめ夢を見ているのかと思いました
その時、泣きそうになりながら 「よっしゃ!最後まで歌いきったる!!!!!」と思いながら
このアメリカン・パイの美しい歌詞を思い出しました。
僕にもみんなを踊らせる事が出来たら という部分を。

あの時の事は今でもまだ夢だったように感じます

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古川貴之(THE PINBALLS)
古川貴之(Vo)、中屋智裕(Gt)、森下拓貴(Ba)、石原天(Dr)からなる、4ピースガレージロックバンド。The Who、The Rolling Stonesに代表されるブリティッシュ・インヴェイジョンをルーツとし、荒々しくも「唄心」溢れるハスキーハイトーンヴォイスと、ライヴで培ってきた王道ロックサウンドを武器にフロアを揺らす。 2010年、タワーレコード初のアーティスト発掘オーディション「Knockin’on TOWER’s Door」が開催され、応募総数1006組の中から見事1位に選ばれ、「nomusic no life」の表紙を飾る。2011年は、新人ながらも「TREASURE」のラグーナビーチステージを始め、「MUSIC CITY TENJIN」「MINAMI WHEEL」等、数々のフェスへも出演。2012年3月、THE PINBALLSとして初のワンマンライブを行い、勢いそのままに「SUMMER SONIC2012」にも出演を果たす。 そんな急成長を続けるTHE PINBALLSから目が離せない!HP:http://thepinballs.org/