最終更新: 2024年4月14日
サイケデリックはザ・ビートルズやJimi Hendrix、そしてGrateful Deadを始めとする60~70年代の音楽とカルチャーの黄金期を代表するジャンルである。
現代ではTame ImpalaやMGMT、The Flaming Lipsが著名なサイケデリック・バンドとして認知されているが、
今回はよく耳にする”サイケデリックとは何か?”について掘り下げる。
ドラッグやヒッピー・カルチャーだけでなく、現代のサイケデリック音楽に対する新たな見方を知るきっかけになれば嬉しい限りだ。
また、サイケデリックの代表的なバンド3組と、新たに現代のサイケデリックバンドを15組、サイケデリックロックのおすすめプレイリストを追加した。
以前にサイケデリックロックの新世代バンドの記事を読んだ方も是非、チェックして新しいバンドと出会って欲しい。(2023年3月18日更新)
目次
サイケデリックとは
そもそもサイケデリックとは一体何なのだろうか。サイケデリックはLSDなど幻覚剤によって心理的、そして視覚的にもたらされる感覚の象徴である。
60年代頃からアメリカ西海岸でヒッピーのカルチャーが浸透し始め、愛と平和を尊重する動き、”フラワー・ムーヴメント”がアメリカ全土、そしてイギリスなど世界へ広がっていった。
その頃からウッドストックなどの野外フェスでヒッピーの若者たち(通称フラワー・チルドレン)がLSDや大麻を嗜みながら音楽を楽しんだり、
ベルボトム(フレアパンツ)やペイズリー柄やタイダイ染の服で身を包むなど、音楽だけでなくファッションにも大きな影響を与えてきた。
サイケデリックロックと一口に言っても、サイケデリック・ロック/ポップ、プログレシブ・ロック、アシッド・フォーク、トランス、ネオ・サイケデリックなど、これ以外にもジャンルは多岐にわたる。
既存するほぼ全てのジャンルにサイケデリックな要素が加味されて派生しているイメージを持ってもらえると分かりやすいと思う。
サイケデリックの特徴
サイケデリックロックには実験精神や聴覚や視覚に訴えかけるアートであるという特徴がある。
実験精神
サイケデリックは保守的な枠組みから抜け出し、新しいものに挑戦する実験精神がある。
分かりやすくザ・ビートルズを例にすると、動物の鳴き声やドラムのシンバルの逆再生音など、今まで誰も使用したことのないサウンドを楽曲に盛り込むことで彼らはサイケデリックの世界感を追求してきた。
他には音楽理論をわざと崩して新鮮な音の響きや曲展開を演出する方法や、シタールなどのエキゾチックな民族楽器の使用、オルガンやメロトロンなどのアナログ楽器もサウンドとしての特徴である。
聴覚や視覚
サイケデリックは聴覚、そして視覚から超現実的な体験を味わうことができるアート性がある。
最近ではシンセが使用されているとサイケデリックと言われる傾向にあるが、シンセはサウンドの空間演出においてとても優れており、簡単にアンビエントから宇宙まで幅広く表現できる。
音を立体的に表現したり、左右に流れるようなサウンドもサイケデリックロックの要素の一つだろう。
デジタルだと音圧があって鼓膜に響くサウンドも作れ、アナログだと空気を含んだ温かみのある優しいサウンドを作ることができる。
その両方の利点を組み合わせて現代のネオ・サイケデリックはより幅を広げながら進化し続けている。
サイケデリックロックの歴史
ここからはサイケデリックロックの歴史に焦点を当てていく。サイケデリックロックは、1960年代後半に人気があったロック音楽のスタイルであり、主に大麻やLSDなどのいわゆる“心を拡張する”薬物に触発され、フィードバック、電子機器、強烈な音量を使用して薬物による状態を反映したものである。
1966年に登場し、サイケデリック・ロックは広範な文化的探求のサウンドトラックとなった。
サイケデリックロックの始まりは1960年代中頃から後半のヒッピー運動からアメリカ西海岸で生まれた。最初はサンフランシスコ湾エリアで根付いたが、その人気はすぐに全米に広がった。
サイケデリック・ロック時代はロック音楽史上比較的短い期間であり、1965年から1971年までしか存在しなかった。
しかしながら前述したように、現代にいたるまで多くのジャンルを生み出し、数え切れないほど影響を受けてきたバンドを輩出している。(2023年3月18日更新)
サイケデリックロックの代表的なバンド
サイケデリックロックと言えばまず聴いて欲しい代表的なバンドを3組選出した。
前提として、サイケデリックロックは多種多様なので、今回選出したバンドだけでは到底語りきれない。
紹介するバンドはそれぞれサイケデリックという点では共通しているが、異なるジャンルが交わっているのでその多様性を実感していただければと思う。(2021年10月2日追記)
The Beatles
世界で最も名の通ったバンドと言っても過言ではない、イギリスはリヴァプール発の4人組バンド、The Beatles(ザ・ビートルズ)。
The Beatlesと言えば初期の頃のロックンロールやポップスのイメージが強いかと思う。
7作目『Revolver』の発売からサイケデリックへ大きく舵を切ると同時に、ライブをしないレコーディング・バンドへと変化した。
ジョージがインドで学んだシタール、そしてドラッグの影響を受け生み出された名曲たちはポップスだけでなく、
サイケデリック音楽としても今なお指標となっている。
Pink Floyd
サイケデリックの中でも長尺で知られるプログレッシヴ・ロックを代表するイングランド出身のPink Floyd(ピンク・フロイド)。
初期はシド・バレットによるアシッド・フォークが秀逸だったが、過度のLSD摂取によりバンドを脱退。
その後加入したデヴィッド・ギルモアによって、精巧に構築されたプログレッシヴ・ロックへ移行した。
コンセプト・アルバム(アルバム全体を一つの作品として考える)の定義もここから始まり、
彼らの哲学的な歌詞や効果音などの実験精神は今でさえ新しいと感じさせる。
Grateful Dead
アメリカはカリフォルニア発のGrateful Dead(グレイトフル・デッド)。
”デッドヘッズ”と呼ばれるファンはヒッピー文化と根強く関わりがあり、音楽だけでなくロゴの施されたファッションは、今だにサイケデリックを象徴する一つの文化となっている。
カントリーやブルース、そしてレゲエやロックなど、一つのジャンルに固定されない自由性の高さが特徴で、
ネオ・サイケデリックのようなサウンドに重きを置いた音楽とは一線を画す。
サイケデリックの新人バンド20組
現代のサイケデリックロック、通称ネオ・サイケデリックの新人バンド20組(Temples、King Gizzard & Lizard Wizard、Blossoms、Babe Rainbow、Drugdealer、GLIM SPANKY、Tame Impala、POND、The Growlers、MGMT、Tempalay、Superorganism、Tempesst、Hello Forever、Fascinations Grand Chorus、The mellows、La Luz、Mild High Club、The Lazy Eyes、BROTHER SUN SISTER MOON)を紹介したい。
今回紹介するバンドをまとめたSpotifyプレイリストも作成したので、合わせてチェックしていただきたい。
Temples
イギリスのTemples(テンプルズ)は60年代のサイケ・ロック/ポップのエッセンスが魅力のバンド。
The ZombiesやThe Beach Boysのようなキャッチーなメロディーも受け継ぎながらも、音楽理論をとても巧みに崩してくる。
予定調和を崩すことにより、リスナーに常に心地よい違和感と新鮮さを提供するのが彼らのサイケデリックなポイントの一つだ。
King Gizzard & Lizard Wizard
オーストラリアの7人組サイケデリック・バンド、King Gizzard & Lizard Wizard(キングギザード・アンド・ザ・リザード・ウィザード)の特徴としては実験性の高さだろう。
まずはピアノをイメージしてほしい。
白鍵と黒鍵があるが、実はその間にも追究すればより細かい音程がある。
ギターとベースに新たにフレットを打ち込むことによってその”間の音”を使用し、今まで聴いたことのない音程の楽曲を生み出している。
他にもフルートや、見たこともないような民族笛をバンド・サウンドに馴染ませている。
King Gizzard & Lizard Wizard Twitter
Blossoms
イギリスのBlossoms(ブロッサムズ)は特に馴染みやすいサイケデリック・ポップバンドではないだろうか。
キャッチーなポップミュージックをシンセサイザーで色付けしているためサイケポップ(サイケデリックポップ)と称されることが多い。
サイケデリックと聞くとどこか危険なドラッグの香りがするのだが、そのイメージからかけ離れたとてもクリーンなサイケデリックなので、老若男女問わず耳に馴染むはずだ。
Babe Rainbow
オーストラリアのBabe Rainbow(ベイブ・レインボー)はサーフ感を基調としたサイケデリック・バンドで、フォークやディスコの要素も含む”現代のヒッピー・バンド”だ。
ファッションや生き方も自由で愛にあふれており、彼らを取り巻く全ての色彩はまるでヒッピーそのもの。
オーストラリアの大自然でサーフィンを楽しみ、ロン毛にビビッドな色調の服装で身を包み、その自由なライフスタイルが楽曲にピュアに昇華されている。
Drugdealer
Drugdealer(ドラッグディーラー)は名前がいかにもサイケデリックだが、ビートルズやThe Beach Boysのようなハーモニーが美しいクラシックなサイケデリック・ポップバンドだ。
アナログでナチュラルなサウンド・メイキングにより聴いていても耳が疲れにくく、本当に現代の楽曲か区別がつかないほど60年代の音楽カルチャーを現代に再現している。
GLIM SPANKY
今や日本を代表するサイケデリック・バンドの一つである男女ロック・ユニット、GLIM SPANKY(グリム・スパンキー)。
海外のロックやブルース、そして60年代のサイケデリックを踏襲しながらも、日本人としてのアイデンティティーをフィルターにして独自の音楽を奏でる。
シタールやフルートなどの古典的なサイケデリック・サウンドを現代の音楽に違和感なく溶け合わせることにより、
ただの焼き直しでなくサイケデリックの新しい形を提示している。
Tame Impala
オーストラリアはパース出身のTame Impala(テーム・インパラ)。
2000年代を代表するサイケデリック・バンドと言えばTame Impalaの名前が一番に思い浮かぶ。
常識を覆す独自のレコーディングから生み出されるサウンドは鼓膜に響き中毒性さえある。
これまでにビートルズが築き上げてきた常識を現代の我々が今なお学ぶように、
未来のミュージシャンたちがTame Impalaが現在積み重ねている常識を受け継ぎ語り継ぐだろう。
最高峰のサイケデリック・バンド。
POND
元Tame Impalaのギタリスト/ベーシストとして活動していたNick Allbrook(ニック・アルブルック)によるプロジェクト、POND(ポンド)。
Tame Impalaと共に活動してきただけに、基礎となるサイケデリックのエッセンスはお墨付き。
宇宙規模のスペーシーな音像はネオ・サイケデリックを見事に象徴しており、ニック・アルブルック自身から滲み出るグラム・ロック感がダークなエッセンスとなり、
Tame Impalaとは全く別のサイケデリック音楽を生み出している。
The Growlers
アメリカはカリフォルニアの5人組バンド、The Growlers(ザ・グラウラーズ)。
The Growlersはサイケデリックの中でもガレージ・サイケデリックをメインに、60年代のサーフ・ロックやカントリー、そしてレゲエの要素までをも包括した楽曲が魅力のバンドだ。
カラフルな音色とドライな音質、そしてナチュラルなグルーヴ感が西海岸のバンドならでは。
土地によってもサイケデリックの彩りが変化することを感じられるだろう。
MGMT
ニューヨークのブルックリンを拠点に活動中のデュオ、MGMT(エムジーエムティー)。
シンセサイザーなどのエレクトロをベースに展開されるサイケデリック・ポップはシンセ・ポップとも称されることも多く、MGMTはその代表格と言っても過言ではない。
全世代を虜にするポップなダンス・サイケソングから、陰鬱とポップが交差するような幅広い感情の振り幅のある楽曲もあり、MGMTの多彩な表現力にはリミットがない。
Tempalay
Tempalay(テンパレイ)は東京を拠点に活動している3人組サイケデリック・ポップバンド。
Unknown Mortal Orchestraに呼応するローファイなサウンド・メイキングやファンキーなグルーヴと共に、日本の伝統音楽のエッセンスが楽器隊やメロディーとして昇華されている。
そして曲の随所に埋め込まれた細やかな“違和感”が重なり合い、聴いているうちに心地よさへと変換されていく。
これがTempalayの持つ中毒性であり、独自のサイケデリックの世界へと誘ってくれる由縁なのだろう。(2020年11月18日更新)
Superorganism
Superorganism(スーパーオーガニズム)はロンドンを拠点に活動している8人組サイケデリック・ポップバンド。
日本人リードヴォーカルのOrono Noguchiを始め、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、韓国出身のメンバーから成る多国籍バンドだ。
まるでゲームの世界に飛び込んだかのようなユーモアに富んだサウンドには中毒性があり、限りなく現代の音楽シーンにフィットしている。
Superorganismのオリジナリティーはポップネスの未来を担うのと同時に、サイケデリック特有の“表現の追求”へと通じている。(2020年11月18日更新)
Tempesst
Tempesst(テンペスト)はオーストラリア出身で現在はロンドンを拠点に活動している5人組サイケデリック・ロックバンド。
70年代に帰化したサイケロックからクラシックなフォークロック、そしてブルースからポップと、王道を歩みながらも異なるジャンルを手中に収めながらサイケデリックへと昇華するセンスは圧巻だ。
各曲のクオリティーの平均値が高いのもTempesstの魅力の一つで、一貫して安定感のある正統派サイケデリック・バンドだ。(2020年11月18日更新)
Hello Forever
Hello Foreverはロサンゼルス出身の7人組サイケデリック・ロックバンド。
The BeatlesやThe Beach Boysなど、60年代サイケデリックの血統を受け継いだ深みのあるコーラスワークは多人数バンドならでは。
そして遊び心が顔を覗かせるバロック・ポップやモダンなギターポップの形式はVampire Weekendを彷彿とさせ、巧みに古今の音楽を繋ぎ止める。
間違いなく言えるのは、Hello Foreverの生み出す音楽性は時代に左右されない永久不滅のグッド・ミュージックであることだ。(2020年12月15日更新)
Fascinations Grand Chorus
Fascinations Grand Chorusはアメリカのニュージャージー州出身の男女デュオ。
彼らを一言で表現すると“60年代版She & Him”と言ったところだろうか。
アー写にジャケット、そしてサウンドと全て60年代のサイケデリック・テイストで統一した生粋のレトロ愛好家。
幻想的なサウンドを特徴とするネオサイケとは異なる、音楽の黄金時代にタイムスリップしたかのような良質なメロディーと甘酸っぱいポップ要素が魅力のバンドだ。(2020年12月15日更新)
Fascinations Grand Chorus Twitter
The mellows
The mellows(ザ・メロウズ)は大阪を拠点に活動している4人組バンド。
インターネットから生まれた音楽であるヴェイパーウェイヴ特有のローファイかつ陰影を纏った音像を特徴とし、ヒップホップを彷彿とさせるビートを織り交ぜた幻想的なサイケデリアを奏でる。(2021年10月2日更新)
La Luz
La Luz(ラ・ルース)はアメリカ・シアトルで結成された3人組バンド。
ボーカルのハーモニーが心地よいサーフロックを軸に持ちながらも、不安感漂うミステリアスなフレーズを組み合わせた独自の音楽性を提示している。(2021年10月2日更新)
Mild High Club
Mild High Club(マイルド・ハイ・クラブ)はアメリカ人マルチプレイヤーのAlexander Brettinによるプロジェクト。
ジャズ譲りの巧みなフレーズやエレクトロ要素を取り込んだビートなど、ジャンルの枠を飛び越えながらも、無重力な夢心地を堪能できるシームレスなサイケデリック・ワールドを展開している。(2021年10月2日更新)
The Lazy Eyes
The Lazy Eyes(ザ・レイジー・アイズ)はオーストラリア出身の4人組サイケデリック・ロックバンド。
同郷のKing Gizzard & The Lizard Wizardを継承した縦横無尽なリズム感覚、フェイザー特有のうねりの効いたギターサウンドは初期のTame Impalaを彷彿とさせ、“サイケデリック・バンド”というカテゴリをストレートに体現したサウンドが魅力。(2021年10月2日更新)
BROTHER SUN SISTER MOON
BROTHER SUN SISTER MOON(ブラザー・サン シスター・ムーン)は大阪出身の3人組バンド。
恍惚感溢れるドリーミーな音像が秀逸なのはもちろん、巧みに計算された音の足し引きによって生まれる曲の奥深さは、サイケデリック音楽の持つ“音楽の追求”という特性を体現している。(2021年10月2日更新)
BROTHER SUN SISTER MOON Twitter
サイケデリックなこだわり
ここまでサイケデリックについて述べてきたが、ドラッグ・カルチャーやヒッピーとの関連は歴史的にこのジャンルとは切り離せない。
しかしそのイメージだけでなく、現代のサイケデリック・アーティストたちは音楽(どのジャンルのアートにおいても)を真摯に追求した先にサイケデリックというジャンルにたどり着いていることが多いということを知っていただきたい。
決して下品なジャンルではなく、一般的なポップやロックにこだわり抜かれたサウンドや細やかな”アーティストの挑戦”がスパイスとして加わったものだと認識すれば、サイケデリックに対する見解や音楽の聴き方が変わると思う。
サイケデリックロック関連記事
サイケデリックロックの関連記事について、BELONGではこれまでにTemples、King Gizzard & Lizard Wizard、Blossoms、Babe Rainbow、Drugdealer、GLIM SPANKY、Tame Impala、POND、The Growlers、MGMT、Tempalay、Superorganism、Tempesst、Hello Forever、The mellows、La Luz、BROTHER SUN SISTER MOON)を取り上げている。
ライター:Rio Miyamoto(Red Apple)
BELONG Mediaのライター/翻訳。
高校卒業後18歳から23歳までアメリカのボストンへ留学し、大学ではインターナショナルビジネスを専攻。
13歳よりギター、ドラム、ベースを始める。
関西を拠点に活動するサイケデリック・バンド、Daisy Jaine(デイジー・ジェイン)でボーカル/ギターと作詞作曲を担当。
2017年10月、全国流通作品である1st EP『Under the Sun』をDead Funny Recordsよりリリース。
2021年2月、J-WAVEのSONAR MUSICへゲスト出演。
普段はサイケデリック、ソウル、ロカビリーやカントリーを愛聴。趣味は写真撮影、ファッション、映画鑑賞。
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