最終更新: 2016年11月5日

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いわゆるシティポップ再勃興の現在、新星たちの発言から「大貫妙子」の名が上がることも多い。疑うことなき女流シンガーソングライターのパイオニアだが、しかし「シュガーベイブ」、「シティポップ」、「ヨーロッパ」など表す言葉はどこか記号的でなかなか本質を捉えづらいミュージシャンでもある(そこが魅力なのだが)。それは彼女の音楽が年齢と時代につれ、一度も元に位置に戻らず常にゆるやかに変化を遂げてきたからだろう。昨年のバンドネオン奏者 小松亮太とのコラボ作『Tint』が高い評価を得るなど新たな領域に踏み出す飽くなきスタンスは近年も衰えない。

そんな一方で2010年のゴールデンコンビ復活坂本龍一とのタッグ作『UTAU』や、今年ソロデビュー40周年を迎えてBOXセット「パラレルワールド」を発売するなどキャリアを振り返り、居心地の良い場所を探し求めている様子も近年伺える。その中でここ数年大貫が腰を据えているパーマネント・バンドでの今回のビルボード公演。メンバーに小倉博和(G)、鈴木正人(B)、沼澤尚(Dr)、フェビアン・レザ・パネ(P)、林立夫(Dr)、森俊之(Key)という“全員バンマス”とも言えるような超豪華な面々を迎えている(この日バンマスは小倉と大貫に紹介され、驚いていたが)。この布陣では「note」(2002年作)、「One Fine Day」(2005年作)と2枚のアルバムが制作されており、2014年の音楽活動40周年公演で再集結、昨年のビルボード公演とも同編成で、大貫も手ごたえをつかんでいるようだ。彼女の音楽変遷の中で00年代以降に注力し始めたアコースティックベースの温かなサウンドに軸足が置かれ、ステージ上の気心が知れた信頼感のある演奏に酔いしれた公演となった。

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大貫の歌は演奏の間に一層の空気の膜を張って放たれ、余韻と共に徐々に演奏と混じりあっていくような独特の響きを持つ。「横顔」「都会」といった初期からの人気曲は当時のフュージョン風味から軽やかなシティサウンドにシフトされ、歌と演奏の存在感が独立し並走するような音像は健やかに観客を通り抜けていく。96年に竹中直人に提供した「ふたりの星をさがそう」のセルフカバーは意外だったが小倉とのユニゾンで歌われるサビが微笑ましくまったりしたメロディは60代に入った大貫の今のムードに驚くほど合致していた。またなんといっても目を引くのは沼澤、林のダブルドラムだろう。繊細緻密なバンドセクションとメロディの中に大貫の世界を壊さずダイナミックにリズムを投入できるのはこの二人だからこそであり、「BERIMBAU DO BEM」ではボサノヴァビートの中、リズムとオブリガードを複雑に交互に取ることでグルーヴの鎖線が幾重にも重なっていく様はこの日のハイライトだ。

大貫もビルボード特有の観客との近さに心地良さを感じつつMCも多め。中盤ではこの編成でのアルバム第3作目の制作を宣言した。ソロデビュー40周年を迎え、これまでの歩みを踏まえてなおも最高傑作を作ろうと今環境を整えている最中。その過程に立ち会った心地のした夜であった。

【Writer】峯大貴(@mine_cism)

【撮影】Ayaka Matsui

【公演】
大貫妙子 Billboard Live Tour 2016
9/27(火) 2ndステージ開場20:45 開演21:30