最終更新: 2025年6月23日
オンラインでの音楽体験は、しょせんリアルの“劣化コピー”でしかないのか?利便性の裏で、スピーカーが空気を震わすあの興奮や、その場にいる者だけが共有できる一体感は失われてしまうのだろうか?
多くの人が無意識に抱くその“諦め”に、私たちは真っ向から異を唱えたい。これは単なる配信ではない。失われた“体験”を取り戻すための、日本初となる“オンラインアナログ試聴会”という名の実験だ。
今回の連載では、この前代未聞の試みの企画からリハーサル、本番、そして未来への展望まで、その全貌を3回にわたって余すところなくお伝えしていく。
ぶっちゃけた話、現時点では無謀だったかなと思う部分も多々あったが、何とか形にすることができたというのがイベントが終わってからの私たちの正直な感想だった。
第1回は「リハーサル編」。私たちがこの挑戦の第一歩をどう踏み出し、どんな壁にぶつかり、何を見出したのか。そのリアルな記録をお届けする。
海外ではどうなっている?オンライン試聴会の潮流

テキスト:Tomohiro Yabe 編集:Tomohiro Yabe
そもそも「オンライン試聴会(リスニングパーティー)」という試みは、特にコロナ禍を経て海外では活発に行われてきた。代表的な例が、UKのバンドThe Charlatansのフロントマン、ティム・バージェスが始めた「Tim’s Twitter Listening Party」だ。
アーティストとファンが同じ時間に同じアルバムを聴き、ハッシュタグを付けて感想をツイートし合うこのムーブメントは、世界中の音楽ファンを繋げ、一体感を生み出した。
また、BandcampやYouTubeといったプラットフォームでも、リリース前のアルバムを先行で配信し、アーティスト自身がチャットでファンと交流するイベントは珍しくない。
これらは、地理的な制約を超えてファンに音楽を届け、コミュニティを形成するための強力なデジタル戦略として定着しつつある。
なぜ今、日本で“アナログ”にこだわるのか?

では、なぜ私たちは既存のデジタル音源ではなく、あえて“アナログレコード”を“オンライン”で配信するという、一見矛盾した試みに挑んだのか。
きっかけは、ロンドンを拠点に活動するアーティスト、フェイ・ミルトン(Goddess)とのやり取りだった。Savagesのドラマーとしても知られる彼女は、気候変動問題への強い意識から、自身のプロジェクトではツアーを行わないという決断を下していた。
私たちは彼女のその意思を尊重しつつ、どうすればデビューアルバム『Goddess』の魅力を日本のファンに届けられるか模索した。
そして辿り着いたのが、「高品質なオーディオシステムでアナログレコードを再生し、その“空気感”ごとオンラインで共有する」というアイデアだった。
デジタル音源の手軽さやクリアさとは違う、スピーカーが空気を震わす感覚、その場にいるかのような臨場感。これこそが、アナログレコードが持つ根源的な魅力であり、アーティストが音に込めた世界観を深く伝えられる手段だと考えた。
これは単なるプロモーションではない。アーティストの信念に寄り添い、音楽体験の新たな可能性を切り拓くための、一つの“実験”なのである。
ここから先は有料記事となる。
有料部分では、私たちが直面した具体的な技術的課題とその葛藤の記録、高音質を実現するためのマイク設定の試行錯誤、
そしてオンライン配信における「音の正解」とは何か、という本質的な問いへの探求を、リハーサルの生々しいやり取りと共に詳細にレポートしする。
あなたのバンドがオンラインでの発信を考える上で、必ず役立つ実践的な知見がここにある。月額購読(¥500)なら、過去記事も全て読み放題。この機会にぜひ、私たちの挑戦の続きを見て欲しい。
また、先日1週間限定で公開したオンライン試聴会の動画を見ていない人のために、 有料部分では動画を見れるようにしたので、今後の参考にして欲しい。