最終更新: 2016年7月24日

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あなたはビルボードライブに足を運んだ事があるだろうか?ビルボードと言えば“世界標準のクラブ&レストラン”であり、オシャレなイメージや格調高さゆえにハードルの高さを感じるかもしれない。しかしGotchやカジヒデキを始め今まで出演していなかったアーティストが出始めているのも事実。BELONGではどのようなアーティストが出演し、どのようなライブをしているのかライブレポートを通してビルボードの知られざる魅力に迫る。第一弾はA.O.Rの代名詞的存在であるボビー・コールドウェルのライブレポートをお届け。

近年日本でのA.O.Rや“してぇ!ポップ(BELONG風に言うと)”の再浮上によって20~30代でもBobby Caldwellといえば名曲「What You Won’t Do For Love」(1978年:邦題「風のシルエット」)や、Boz ScaggsやNed Dohenyと並んで70~80年代を彩ったシンガー、A.O.Rの代名詞的存在といったレジェンドイメージで知っている人も多いだろう。

しかし昨年のアルバム『Cool Uncle』(2015年)では一転。現代R&B界でヒットを飛ばしているプロデューサー・Jack Splashとのほぼユニット作であり、ヒップホップ要素を還元したR&BビートにA.O.R的なメロウネスをぶつけるアプローチ。昨年日本でもブレイクしたMayer HawthorneとJake OneによるユニットTuxedoとも共鳴するサウンドであり、Daft Punk『Random Access Memories』(2013年)以降のディスコ・ミュージックとして実に新鮮な響きを持った作品だった。シンガー・ソング・ライターとしても栄華を極め、間もなく66歳を迎えるボビーがここにきて自らのキャリアをアドバンテージとして活かしつつ、しっかり最先端にコミットして新たなサウンドを作り上げているところには今まさに何度目かの最盛期を迎えている予感がする。

合わせて日本においてはほぼ毎年のように来日し、毎回満員のファンを楽しませている稀有な存在である。そんなボビー8か月ぶりの来日公演。もはや彼の定席となっているBillboard Live Tokyoで観覧した。

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キーボード、ベース、ドラム、パーカッション、ギター、サックスのバンドメンバーが登場。1stアルバムから近年のライヴで冒頭を飾ることの多い「Special To Me」(1978年)のイントロが始まり、スーツで登場するボビー。『Cool Uncle』リリース後2回目の来日ではあるものの、過度に最新曲を意識させず、人気曲の応酬なのがうれしい。日本では特に人気の高いポップでキャッチーな「Sherry」(1983年)も久々披露、「All My Love」(1982年)では腹から絞りあげるようにデビュー時から変わらない突き抜ける声色、声量にうっとりしてしまう。演奏面でも大サービスのシーン満載だ。「Heart Of Mine」(1989年)の間奏ソロはオリジナルではサックスのところ、ボビー自らピアニカをマイクスタンドに対して直立してメロディをなめるように丁寧に吹く場面も。一方で後半のインタールードセッションではAndrew Neu(Sax)に主役を譲り、アーバンなビートの靄の中をサックスソロが切り裂いていく。そのまま客席に降り2階席まで練り歩く、ソロミュージシャンとしてもファンの多い見事なTHEアンドリュー・ショーだ。まだ最高潮の盛り上がりの後でついに『What You Won’t Do for Love(邦題:風のシルエット)』、今回最大の歓声と拍手が沸きあがった。

アンコールは『Cool Uncle』から美しいバラード「Mercy」で終演。レジェンドアーティストならではの厳かな様子も、代表曲を排して新曲満載で挑戦的に臨むことも、ボビーはしない。毎年のように日本のファンに会いに来てくれるし、内容だって30~40年来の代表曲満載ながらも、要所に「Break Away」「Miami Night」「Mercy」といった最新作の新たな試みを入れ込んでなお代表曲に育て上げようとしている、その絶妙のブランドを軽やかにやり遂げる横綱相撲っぷりに酔いしれた1時間20分ほどのステージだった。こんな日本においてよいバランス・距離感をとってくれているミュージシャンは彼くらいなのではないだろうか。

また余談にはなるが終演後ステージ後ろのカーテンが開くと、ミッドタウンで開催中のイルミネーションが満開に広がっていた。ボビーの余韻が残るステージが煌びやかな光に照らされ、さらなるメロウな高揚感でいっぱいになった。これもBillboard Live Tokyo、さらにはこの会期中だけでしか見ることのできない風景だろう。

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【Writer】峯大貴(@mine_cism)

【撮影】Ayaka Matsui

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