最終更新: 2019年5月24日

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日本のHIP-HOPシーンが今アツい、というのはなんとなく門外漢の僕にもわかっていたが若手を聴く前に重鎮から手を出そうと考えた結果キングギドラやライムスター、もしくはKREVAのような有名どころを聴いて只今勉強中、な近頃。そして今年よくリピートしてるのはNITRO MICROPHONE UNDERGROUND。8人のMC集団で、先ほど挙げたグループよりも少し下の世代。00年代のジャパニーズ・ヒップホップの先頭を走っていたユニットの1つと言っていいだろう。今年活動休止してしまったわけだが、今回このNITROの4人(DABO、MACKA-CHIN、SUIKEN、S-WORD)が集まったのが東京弐拾伍時。当初は1曲のみの企画であったが結果としてミニアルバムに発展した。

NITROの世界観の根底にあった「東京」のヒリヒリするような緊張感(ロック・キッズに向けて書くならば向井修徳の言う「冷凍都市」的な)は4人になっても健在で、そこにファンやヒップホップ・ヘッズはある種の安心感すら感じられると思う。そして2015年の日本社会へ向けた警鐘ととれるリリックも多い。だが最も注目すべきは、急逝した仲間への追悼曲となった「“時間ヨ止マレ”」だろう。彼らの慈悲や優しさの要素が凝縮された1曲だ。これほどドリーミーでスウィートなトラックはNITROではあり得なかっただろうし、テーマからのリリックの絞り方が過去の彼らとは段違いだと思う。

S-WORDはインタビューにおいて「僕らの作品は「今、みんなが聴いてるから聴かなきゃ!」っていうサウンドではない」と言っている。NITROは最先端のヒップホップでは無くなった。しかし「新しい」ことだけが音楽の価値じゃない。DABOは「時代や世代によってラップすべきことは違うと思うんだ」と言う。若いラッパーたちは、海外のライミングの再解釈を経て更なる先鋭的なラップを産み出し、ジャパニーズ・ヒップホップの道を一から作ってきたベテラン達は未だに健在。その狭間ともいえるNITRO世代は、彼らなりに、彼らなりの方法でヒップホップの旗を立て続けていく。本作はその宣言に他ならない。

多くのディスやビーフをくぐり抜け、仲間との別れを経験し、それでもヒップホップをある意味無邪気に信じ、背負う。ヒップホップ門外漢な僕でさえもそんな「重み」が理解できるし、最近はこうしたキャリアを重ねた音楽家の「それでも続けていく意思」のような表現に惹かれることが多くなった。ここからまた始まっていくんだな、と思った。

【Writer】たびけん(@02tabiken02)
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