最終更新: 2026年5月21日

“Thee”はどこから来たのか——スラバヤ、東京、イースト・ロサンゼルスをつなぐ一語の旅

“Thee”と聞くと、日本の多くのリスナーはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを思い浮かべるだろう。

1990年代の日本のロックシーンを席巻したあのバンドの名前に刻まれた“Thee”は、いったいどこから来たのか。

その答えを探すきっかけをくれたのは、意外にも、インドネシア・スラバヤ出身のThee Marloes(ジ・マーローズ)だった。

BELONG Mediaが行ったインタビューの中で、シナトラ・ダラカはバンド名の由来についてさらりとこう語った。

「当時Thee Midnitersをよく聴いていたから“Thee”をつけた」と。その一言が、思いのほか深い場所へとつながっていた。

“Thee”という一語が、1960年代のイースト・ロサンゼルスから始まり、イギリスのガレージロックシーンを経由して、日本のロック史にまで流れ込んでいる。

この記事では、その系譜をひとつひとつたどってみたい。なお、この記事の後半は300円の有料記事となる。

後半部分では、サンフランシスコ出身のThee Oh Seesが“Thee”を冠した背景にも触れている。

そこにはガレージロック界の巨匠へのオマージュと、音楽メディアへのいたずら心という、いかにもパンク的な理由が隠されていた。

Thee Marloesが“Thee”を選んだ理由

Thee Marloesは、インドネシア第二の都市スラバヤ出身のスリーピースバンドだ。

インドネシア語と英語を自然に織り交ぜた歌詞と、60年代ソウルの親密な空気を現代に蘇らせたサウンドで、ジャンルの枠を静かに超えていく。

ニューヨークの名門レーベルに見出され、2ndアルバム『Di Hotel Malibu』をリリースした。

BELONG Mediaのインタビューで、シナトラ・ダラカはバンド名についてこう語っている。

「Googleで検索しても音楽と結びつかない名前を探していたんだ。そのときに見つけた名前のひとつが”Marloes”で、実際には地名なんだよ。そこに“Thee”をつけたのは、当時Thee Midnitersをよく聴いていたから」

Marloesはウェールズ西部に実在する小さな村の名前だ。検索しても音楽バンドが出てこないはずだ。

そのシンプルな発想と、Thee Midnitersへのリスペクトが組み合わさって、Thee Marloesという名前が生まれた。では、Thee Midnitersとはどんなバンドだったのか。そして、なぜ“Thee”だったのか。

“Thee”の起源——イースト・ロサンゼルス、1964年

Thee Midnitersは1960年にカリフォルニア州イースト・ロサンゼルスで結成されたロックバンドだ。

R&Bとガレージロックをベースにしたパワフルなサウンドで知られ、1965年に「Land of a Thousand Dances」と「Whittier Boulevard」をヒットさせた。

アメリカのヒスパニック系コミュニティからメジャーなヒットを生んだ最初期のバンドのひとつである。

ホーンセクション、コンガ、エレクトリックギターを独自に組み合わせたサウンドは、後のChicagoやBlood, Sweat and Tearsにも通じる先進性を持っていた。

なぜ”The”ではなく“Thee”なのか。理由は実に単純かつ実務的だった。

当時、ハンク・バラードが率いる「The Midnighters」というR&Bグループがすでに存在しており、混同を避けるために表記を変えたのだ。

その解決策として選ばれたのが、古英語の二人称単数に由来する“Thee”という一語だった(出典:Language Log, July 27, 2005, Mark Liberman)。

ここから先は、“Thee”という表記がガレージロックシーンに広まった経緯と、Thee Oh SeesおよびTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの名前に刻まれた、それぞれの理由を解説する。

イースト・ロサンゼルス発のこの一語が、イギリスを経由して世界中のバンドに受け継がれていく経緯だ。

【有料エリアで扱う主な内容】

・“Thee”がガレージロックの合言葉になるまで——Thee Headcoatsとシーンへの波及

・Thee Oh Seesが“Thee”を冠した2つの理由——巨匠へのオマージュと、メディアへのいたずら心

・THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの名前が生まれた、あの”読み間違い”の真相

・“Thee”という表記が持つ、ロック的な意味とは何か

この記事を単体で購入する場合は300円。ぜひ続きを読んでほしい。

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