最終更新: 2026年4月23日
まがりなりにも音楽ライターを続けていると、再生アイコンをタップして数秒でその音楽が自分に合うものか傑作と約束されたものかわかるようになった。
もちろんその直感をいい意味でも悪い意味でも裏切る作品もあるが、ジア・マーガレット(Gia Margaret)のニュー・アルバム『Singing』は、
1曲目の「Everyone Around Me Dancing」を再生した瞬間に傑作であることがわかった。
そしてアルバム全体をはじめて聴いた時から1カ月以上経った今でもそれを裏切るどころか、確信を深め続けている。
ジア・マーガレットは、シカゴ出身のシンガーソングライター/レコード・プロデューサーである。
2018年に、スロウコアやアンビエント、トリップホップなどの要素を内包した極上のインディーポップサウンドを聴かせるデビュー・アルバム『There’s Always Glimmer』をリリース。
その後のツアー中に病気の影響により声がでなくなってしまい歌えなくなった彼女は、2020年と2023年にそれぞれアンビエント・アルバム『Mia Gargaret』と『Romantic Piano』をリリースした。
それを経て『There’s Always Glimmer』以来となるボーカル・アルバム『Singing』をリリースする。
今回もアンビエント・ミュージックに根ざした極上のインディーポップサウンドを担保しつつも耳を惹いたのは臨場感と没入感だ。
想像力を掻き立てられ、まるでジア・マーガレットのこれまでと日々の生活を追体験させられるかのように一つ一つの音が雄弁で生命の息吹を感じさせるものであった。
そんなニュー・アルバム『Singing』についてと彼女のこれまでとこれからについて、訊いた。
アーティスト:ジア・マーガレット インタビュアー:滝田優樹 翻訳・編集・校正:BELONG Media / A-indie
音楽で満たされた幼少期と、ミュージシャンへの道

音楽好きの母が与えてくれたもの
-滝田優樹(Yuuki Takita):『Singing』の資料に“このアルバムのすべての音符が、過去の自分への温かいレクイエムを歌い、すべてのレイヤーが未来の自分を形作っている”という記載がありました。私たちはアーティストのルーツや音楽が生まれた背景、そして影響を受けた音楽・文化・芸術を大切にしているメディアです。今回私たちとははじめてのインタビューなので、あなた自身のことからお聞きすることで読者にもあなたの魅力を知ってもらいたいです。そのため改めて、あなたが幼少期をどのように過ごしていたのかから教えてもらえますか?
ジア・マーガレット:うちは音楽家の家族ではなかったけど、家の中はいつも音楽で溢れていた。それは全部、母のおかげ。彼女は音楽のセンスが抜群で、新しい音楽を発見することをいつも楽しんでいたの。だから幼少期を思い返すと、必ず母のことと音楽が結びついてる。彼女と一緒に車でどこかへ行くのはいつもわくわくしたし、タバコを吸いながらR.E.M.やピーター・ガブリエル、エンヤ、フィル・コリンズに合わせて歌う彼女の姿は、まさにかっこよさの象徴だった。私が7歳のころ、“これは絶対聴くべき”と言ってアラニス・モリセットのCDを買ってきてくれたこともあったし、その後すぐにジョーン・オズボーンの『Relish』も。15歳のときにはColdplayの『Parachutes』を買ってもらって、それはすごく深く影響を受けたアルバムだった。母はいつも私のことを思っていて、音楽発見の喜びを体験させてあげたかったんだと思う。幼いころからピアノを習いたいと言い出した時も、ちゃんと背中を押してくれた。うちはイタリア系アメリカ人の家庭で、そういう文化では芸術で自分を表現することがあまり現実的とは見られないんだけど、母はアーティストの心を持っていた人だったから。もしかしたら自分が思うように表現できなかった分、私に思いを込めてくれたのかもしれない。ピアノの練習はかなり厳しくスケジュール管理されていたけど、今となってはそれに感謝してる。音楽はずっと、私の息をのませるものだった。学校ではあまり得意な生徒ではなかったし、集中力を保つのが苦手だったけど、音楽だけは何時間でも集中できた。それが”自分の頭は壊れていない”と感じさせてくれた。ミュージシャンになりたいという気持ちは、ずっとずっとあったと思う。
ジア・マーガレットとしてのスタートまで
-滝田優樹(Yuuki Takita):続いて、どのような経緯で“ジア・マーガレット”としてアーティスト活動をはじめたのか教えてほしいです。
ジア・マーガレット:ゆっくりと、少しずつ形になっていった感じ。大学時代にいくつか自分で曲を書き始めて、20代を通じてローカルなライブに出たり、バンドで演奏したりしながら、曲作りを続けていた。その頃、家でレコーディングする実験も始めて、手持ちの最低限の機材でなんとか独学で覚えていったの。それが、自分の作品を外に出す最初のきっかけになった。大抵は、誰にも言わずにこっそりアップロードして、そのまま普通の生活を送っていた。一週間くらいしてから、まったく知らない人からコメントが届いたりして。それが積み重なっていくのに気づいていったの。ただ、生活を成り立たせようとする時期が来るたびに、創作が止まってしまうこともあった。一年間、まったく音楽を作らなかった時期もあったくらい。音楽学校を辞めてからは、歯科助手として働いたり、子守りをしたり、書店員をしたりした。そして“音楽の近くにいたい”と思って、シカゴにあるオールド・タウン・スクール・オブ・フォーク・ミュージックの受付で働くようにもなった。どの仕事も、なんとなく腰を落ち着ける気になれなかったのは、たぶん無意識のうちに音楽のための余白を取っておきたかったからだと思う。30歳が近づいてきたころ、ようやく自分でアルバムを作ろうと決意した。あの頃の感覚は、なんというか中年の危機みたいで(笑)、今やらなければもう永遠にやらないという気がしていた。自分自身に賭けると決めた瞬間から、それがキャリアになっていった。『There’s Always Glimmer』をリリースして、その6ヶ月後には仕事を辞めてフルタイムでツアーをしていた。あの最初のアルバムからいろんなことがあったけど、音楽で生きていける人生を作れたことは、今でも信じられないくらいすごいことだと思ってる。もがいていたあの年月のことは、絶対に忘れない。実現できるとは思えなかった時間のことも。本当に毎日、自分は幸運だと感じてる。
日常の音を音楽にする、シカゴでの暮らし

生活そのものが音楽になる
-滝田優樹(Yuuki Takita):今回のアルバムもアンビエント・ミュージックに根ざした作品だと感じました。私はこのアルバムをいろんなシチュエーションで聴きました。外を散歩しながら、通勤電車のなか、家事をしながらなど。いちばん音が体に馴染んだと思ったのが、家事をしながら聴いた瞬間だったんです。そこでこのアルバムは人の営みを表現しているのではないかと思いました。あなたの生活のなかにある音が表現されているのではないかと。少し雑な質問になってしまいますが、“このアルバムが人の日常の営みや生活の音を表現しているのではないか”という見解についてどう思いますか?またこれに付随して、最近のあなたの暮らしについて教えてください。シカゴを拠点に活動しているかと思いますが、そこではどのように過ごしているのでしょうか。
ジア・マーガレット:このアルバムも、私のすべての作品も、日常の生活の音を表現していると思う。私自身の生活はとても普通で、一日の様子を話しても、誰の一日とも大して変わらないかもしれない。朝起きて、コーヒーを入れて、猫にごはんをあげて、散歩に出かけて、それから仕事をする。シカゴに住んでいると湖によく行くんだけど、それはここならではの特別な時間。アヒルが水面を泳ぐのを眺めたり、犬が波をぴょんぴょん跳んでいくのを見たり、時間帯によって空と水の色が変わっていくのを観察したりするのが好き。あらゆるものに美しさとアートがあると思っているから、ふとした瞬間に小さなものに見入ってしまうことがある。そういう細部への意識は、音楽にも、フィールドレコーディングへの愛情にも繋がっていると思う。フィールドレコーディングも作曲も、大きな絵の中の小さな断片を切り取る行為のような気がして。でも同時に、その瞬間の感覚に連れ戻してくれるものでもある。うまく言葉にできないけど、丁寧に音を捉えているとき、私はとても今ここにいる感覚になる。後から聴き返すときも、あの瞬間の中に戻れるような気がして。
シカゴという街の魅力
-滝田優樹(Yuuki Takita):シカゴという土地についても気になります!どのような街並みで、音楽的な土壌はどのようなところですか?
ジア・マーガレット:シカゴは素晴らしいアートと多様性に溢れた街。あらゆる種類の音楽を聴くことができるし、あらゆる種類の料理も食べられる。ここの人たちは謙虚で、とてもよく働く。親切で、助け合いの精神があって、かっこいい人たちが多い。この街が大好きで、年を重ねていろんな街を見てきたからこそ、ますますシカゴの良さがわかるようになった。街のそれぞれのエリアが、それぞれ独自の雰囲気を持っているの。私は北のほうに住んでいて、静かで湖にも近い。でもコンサートやアートのために市内に出かけることもよくある。何でも手の届く範囲にあるという感覚があって、どこへでも20分くらいで行ける。すべてを体験できるくらいコンパクトで、それが魅力だと思う。ここに生まれ育って、ずっと住んでいるのに、今でも新しい発見があるくらい。
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