最終更新: 2020年12月13日

ハンブンゴウ アー写イラスト(CMYK)
ある日、ハクブンゴウと名乗る沖縄のユニットからメールで音源が届いた。まずハクブンゴウって何者?ということで検索したものの、何も情報が出てこない・・・。このネット全盛の現代においてSNSのアカウントすらない事が興味深い。しかもその宅録したという音源も荒削りではあるが、ソングライティングには光るものがある。ではこのハクブンゴウとは一体、何者なのか?メールインタビューでその正体に迫った。

アーティスト:山岸 インタビュアー:yabori、桃井かおる子 イラスト:Chappy

-まずハクブンゴウについて、沖縄のユニットという事だけしか知らないので、簡単に自己紹介をお願いします。
山岸:ハクブンゴウと申します。当初は一応2人組のユニットという形でしたが、現在は23歳の学生のソロユニットという形です。ハクブンゴウという名をユニット名として使うか、僕の個人名として使うか決めかねています。お笑いのバカリズム状態と考えていただけると分かりやすいかと思います。

-ハクブンゴウと検索しても、一切情報が出てこないのが面白いと思いました。どうして自分たちから情報を発信しないのか教えてください。
まず発信する情報がないというのが第一です。ライブ活動等をしていませんので、そもそも伝える情報がほとんどありません。一応soundcloudにアカウントを開設して音源をアップしようかと思っていましたが、開設前にBELONGに音源を送ったら、yaboriさんから連絡をいただきましたので、アカウント開設をいったん凍結したという形です。特に“情報を発信しない”という戦略があるわけでもなく、成り行きでそうなりました。

-ハクブンゴウの名前の由来について教えてください。
特に意味はないのですが、“文豪”を中国の方の名前のようにしたというものです。

-現在は宅録をしていると伺いましたが、どのようなきっかけがあって、宅録を始めようと思ったのでしょうか。
元々はバンドを組みたかったのですが、気の合う人には会えませんでした。なので、結局自分一人で録音し始めたという流れです。本当はコードと歌を作ることに専念したいのですが、弾き語りの音源ではあまり聴いてもらえないと思い、非常に簡単なアレンジを施すようになりました。

-今作のタイトル『交差点EP』にはどのような意味があるのでしょうか。
楽曲が交錯する感じというのでしょうか、そういうイメージを表現したいという考えがまずありました。それから、今回の楽曲は全て僕が大学時代に何度か行った東京旅行の経験がもとになっているので、都会を表現するイメージとして“交差点”というタイトルを付けました。

-今作に収録されている楽曲はどれもゆったりとしているのですが、それとは対照的に歌詞には、“嘘”や“退屈”、“無能”といったネガティブな言葉が使われています。どの曲にも一貫して共通のテーマがあるのでしょうか。
テーマとしては都会の生活を僕が勝手なイメージで描くというのが根底にあるのですが、それがネガティブな言葉につながっているのかは自分でもよく分かりません。また僕は、それらの言葉を否定的なニュアンスを込めないまま使っているところがあるように思います。「私って駄目な人だな」などという発言を、本人は実際にはそんなこと感じていないのに適当に言ってしまうみたいな感じでしょうか。「退屈だなあ」と口で言いつつ、実際は少し楽しんでいるというような、そういう言い回しです。

-また歌詞には、“喫茶店”や“零時”などの昭和っぽい言葉が出て来ます。普段そういった言葉はなかなか使わないと思うのですが、どうしてこういった言葉を歌うのでしょうか。
おそらく、はっぴいえんど的な世界観やあの時代にどこか憧れがあるのではないでしょうか。それらの言葉を使うことで、どこか爽やかなニュアンスが出るように僕は感じます。

-今回のEPの曲はどれも音質がふんわりしていると思いました。今作はどのように作られたのでしょう。
実は、現在、かなりローファイな環境で録音しています。お金の余裕がないので、リサイクルショップで買った2000円のアコギと1万円のマイクを使用しています。それらを使い、夏の暑さに耐え、自室で録音しました。なのでおそらくこれ以上ないくらいローファイかと思います。音自体よりもメロディを聴いていただけるとありがたいです。

-どの曲もリズムの基本がヒップホップを思わせる部分が多く、刻み方が特徴的だと思いました。リズムに関してもこだわりがありますか?
こだわりがあると書きたいところなのですが、僕はそもそもメロディと歌詞しか書けない人間なので、リズムをこだわるだけの技術がまだないというのが実際のところです。ヒップホップの感じがするとしたら、基本のワンループの上に弾き語りをベースに重ねていくやり方がその感じを出しているのかもしれません。

-4曲目「ラマーのように」はベースラインやドラムの音色が、クラブミュージックのような印象を受けました。ゆったりとした曲が多い中、この曲だけ異色ですが、どうしてこの曲を入れたのでしょうか。またこの曲は他の曲と違ったアプローチで作られたのでしょうか。
EPを聴いて頂いた方は、もしかしたらいきなりこの曲が入ってきて、驚かれる方もいるかもしれませんし、かなり浮いた印象を持つかもしれません。この曲はそもそも別名義にしようかとも考えていました。それでも今回EPに入れた理由は、この曲があることで“ハクブンゴウっていったい何なんだ”という印象を与えられるのではないかと考えたからです(ちなみにその効果を狙ってわざわざ作ったわけではなく、自然とできた曲です。)。この曲がEPになければ、“はっぴいえんどに影響受けた沖縄のバンド”というような捉え方になりそうですが、この曲があることでイメージが固定化されないのではないかと思いました。また、もともと僕はいろいろな種類の曲を作ってきているので、そういった雑多な部分も伝えられたと思います。聴いていただいた方に“なんかよく分からないバンド”というような印象を持っていただけたら、いいなと思います。

-1曲目の「嘘並べ」は、他の曲と比べてギターのフレーズや全体の流れが沖縄っぽいと思いました。このような雰囲気は自然と出てくるものなのでしょうか?それとも意識的なものなのでしょうか?
意識的なものではないですね。“沖縄のユニット”という情報がなければ、もしかしたら沖縄的な印象を受けることもないかもしれないと僕は思います。“沖縄”というワードが強いのかもしれません。

-沖縄は日本で音楽教室と楽器屋さんが多いと聞きましたが、子供の頃に沖縄民謡や何か楽器を習っていたことはありますか?
小さいころに少しピアノを習いましたが、民謡など沖縄的なものにはほとんど触れずに育ってきました。家にも三線はありませんでした(沖縄といえば、酒を飲んで、三線を弾いてというイメージがあるかもしれませんが、そうでない家庭も多数存在します)。現在は沖縄音楽を学ぶ機会を得たので、少しずつ勉強しています。小さいころに沖縄に触れずに来たことが現在になって、かえって沖縄を知るうえで好影響になっていると感じています。沖縄音楽についてはたくさん書きたいことがあり、書ききれないほどです。

-沖縄の音楽シーンについて伺いたいのですが、沖縄はSPEEDを始めとする、ダンスミュージックやモンゴル800などのメロコアのような音楽のイメージが強いのですが、今の音楽シーンはどのようなものなのでしょうか。
沖縄の音楽シーンにどっぷりいるわけではないので、詳しくはないのですが、バンドやポップス系でいえば特異性はかなり落ち着いてきているような気がします。本土とそれほど大きな違いはなくなってきているのではないでしょうか。

-以前メールでやりとりさせてもらった時、never young beachを始めとする、東京のシーンが面白いと言ってましたね。ハクブンゴウが注目している国内のアーティストがいたら教えてください。またそのアーティストのどういった部分が好きなのでしょうか。
never young beach、Yogee New Waves、Ykiki beat、The fin. やN.O.R.K.といった方々は本当に凄いと思います。上手く表現できないのですが、彼らの時間や国、言語などを軽く飛び越えるようなところが好きですね。また僕の個人的な感想ですが、ここ最近の日本のシーンでは完全に日本語か、完全に英語かという動きが見られるように思います。僕は、英語と日本語を混ぜる詩のスタイルや、日本語を英語のように歌うスタイルが好みではないのですが、近年になり僕と同世代の方々が、日本語を明瞭に歌いだしたり、まるでネイティブのような英語発音で世界基準の音を目指すバンドが増えてきたりと、もしかしたらみんなどこか僕のように感じていた部分があるのかなと思いました。みんな無意識にやっているのかも知れませんが(笑)。とにかく現代の日本のバンドは日本らしさをとことん追求したり、洋楽らしさをとことん追求したりとなんだか清々しい気がします。

-次号のBELONGは“YOUTHWAVE”という特集をやろうと思っています。その内容は“デジタルネイティブ(学生時代からインターネットやパソコンのある生活環境の中で育ってきた世代)”がインターネットを通じて、膨大な音楽のクラウドにアクセスし、新しい音楽を作り始めているという内容です。世代的にハクブンゴウはデジタルネイティブだと思うのですが、どうでしょうか?
完全にデジタルネイティブだと思います。父が機械に詳しいこともあり、世間一般よりかなり早く家にパソコンがありました。僕が物心つくまえからあったと思います。

-その特集では、古い年代のアーティストでも自分が知らなければ、新しいという価値観があるようです。その考え方に共感する部分はありますか?
かなり共感する部分はありますが、ネットがない時代でも当然、自分が生まれる前の音楽を聴いて新鮮に感じるという体験はあったと思うので、新しい価値観なのかはよく分かりません。ただ、かなり古い音楽にアクセスしやすくなったので、その点、時間の概念がなくなったというのはとてもよく分かります。

-“YOUTHWAVE”という世代が、今までのアーティストと違う部分はネットで様々なアーティストのライブが見れる事で、演奏方法や使用している機材などがすぐに分かり、自分たちの音楽に取りこんでいる事だと思いました。実際にYoutubeを使用して海外アーティストのライブを見られる事はありますか?またそれらを見て、自分たちの音楽に落とし込んでいる部分もありますか?
たまにboiler roomなどは見ています。他にも気になるバンドなどがいたら、ライブをチェックすることもよくありますが、具体的な機材などにはあまり注目しませんでした。僕が機材オタクでないという点が大きいかもしれません。

-BELONGには、“Roots Rock Media”というコンセプトがあるので、ハクブンゴウのルーツに当たるアルバムについて3枚教えてください。またその3枚はどのような部分であなた方の音楽とつながっていますか?


The Beatles – Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band
幼少期からよく家でビートルズの中期以降の曲が流れていました。それを代表してこのアルバムを選んだのですが、“とにかくポップであること”という姿勢が叩き込まれた気がします。ビートルズはどんなに音楽的に複雑なことをしていてもポップであることが本当に凄いと思います。このアルバムは特にそれが表れていると思います。あと、様々な音が入りすぎていて“ビートルズって4人じゃなかった?”と小さいころ、困惑した記憶があります。


Bryan Adams – MTV Unplugged
ブライアン・アダムスはとても好きなミュージシャンです(世間では商業的な歌手に見られている気がしないでもないですが)。アルバム単位というよりも、収録されている「Back To You」を小さいころ、よく聴いていて、後にこのアルバムを購入しました。シンプルに良いメロディの曲を大きな声で歌うことの素晴らしさがよく伝わってきます。


ASIAN KUNG-FU GENERATION – 崩壊アンプリファー
僕のルーツの3枚を書くとなったとき、このアルバムを入れないのは嘘になるかと思い、加えさせていただきました。日本語をはっきりした発音で叫ぶという音楽は当時12歳の僕にはとても衝撃的だったと記憶しています。またアジカンのラジオ(mother music)では、メンバーおすすめの洋楽をよく流し、リスナーに多くの音楽を聴くよう勧めていたことがその後、僕の音楽人生に大きな影響を与えました。

-ハクブンゴウはこの先、どのような活動をしていきたいですか?
今までどおり曲を作り続けるかと思います。そして余裕ができたら制作環境を整えようと思います。そして正式な音源を発表できたらいいなと思っています。ただ、音楽的な実力がまだまだなので、誰か協力してくれる人が必要かと思いますが。さらに先の目標としては、誰かに曲を提供できるようになりたいです。現代は作曲家がアレンジまで全て完了するという場合が増えていて、僕のようなアレンジができない人にはチャンスは少ないと思うのですが、いつかそんな機会があればと思っています。歌詞とメロディを頑張ってとにかく心に残る楽曲を作りたいです。

-最後に『交差点EP』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
誰か特定の人に向けるというよりは、とにかく多くの人に聴いていただきたいですね。シンプルな曲ばかりなので、気楽に聴けるのではないかと思います。ただかなりローファイな制作環境からあがってきたデモなので、そこは少し気がかりではありますが、心を広く聴いていただきたいです。よろしくお願いします。