最終更新: 2020年8月10日
Taylor Swift(テイラー・スウィフト)、8枚目のアルバム作品『folklore(フォークロア)』がサプライズリリースされた。
プロデューサーにはThe Nationalのアーロン・デスナーを迎え、収録曲「Exile (featuring Bon Iver)」にはボン・イヴェールの名前がクレジットされている。
リリースタイミング以上にサプライズとなったその内容と意外なコラボレーション。
Taylor Swiftはこれまでにカントリーからダンスポップ、そしてモダンポップへと舵切りをしていき、現代のポップアイコンとして酸いも甘いも経験してきた。
それが今回は上記の制作陣を招聘し、やすらぎに満ち溢れたネオフォークアルバムを完成させたのだ。
今回はそんな話題の新作『folklore』について語りつつもTaylor Swiftのルーツを辿ることでコラボレーションについても紐解いていく。
目次
Taylor Swiftとは
1989年生まれ、現在30歳のTaylor Swift(テイラー・スウィフト)はアメリカのレディング出身。
最も有名な女性アーティストのひとりとして知られるTaylor Swiftは、これまで10度のグラミー賞受賞歴をもち、“年間最優秀アルバム賞”に関しては女性ソロアーティストとして史上初の2度受賞という偉業を達成している。
そんなTaylor Swiftのキャリアは、2004年にカントリー・ミュージックの発展を支えたレーベルとして有名なRCAレコードの養成所と契約したことがはじまり。
その後はビッグ・マシン・レコードに身を移し、2006年にデビューアルバム『Taylor Swift』をリリース。“Billboard 200”のカントリー・アルバム部門で1位を獲得する。
2008年には2ndアルバム『Fearless』をリリースし、第52回グラミー賞ではこの『Fearless』が最優秀アルバム賞と最優秀カントリー・アルバム賞の2タイトルを受賞。
その後のアルバム作品『Speak Now』やシングル曲でもグラミー賞のカントリー部門における賞を受賞するほか、アカデミー・オブ・カントリーミュージックやカントリーミュージック協会といった組織・団体からも賞が贈られた。
幼少時代にカントリーの聖地ナッシュビルに転居し、過ごしてきたTaylor Swiftにとってカントリーはまぎれもないルーツである。
そしてTaylor Swiftというアーティストを一躍有名にしたきっかけこそがカントリー・ミュージックにある。
Taylor Swiftの代表作『Red』
そのTaylor Swift(テイラー・スウィフト)にとって契機となったのは2012年にリリースされた4thアルバム『Red』。
日本でも有名な「We Are Never Ever Getting Back Together」が収録された『Red』は数週間で売上200万枚を突破する快挙。
セールス面も大きな反響があった作品であるが、それ以上に衝撃的であったのはその音楽性の変化である。
エド・シーランやSnow Patrolのギャリー・ライトボディが参加し、随所でダブステップやダンスビートを取り入れつつ、大いにポップに振れたカントリーロックを披露。
自身の恋愛を赤裸々にしつつも強かな一面も垣間見せたリリックも話題となったが、一気に音楽性を拡張させ、当時メインストリームにあるUSポップミュージックへと挑戦した作品である。
また、その2年後2014年にリリースの5thアルバム『1989』でもその拡張は顕著で、ナッシュビルのカントリー女王はいずこへ。
「Shake It Off」や「Bad Blood」、「Blank Space」といった楽曲たちからわかる通り、シンセが主体のサウンドメイクとなり、痛快なダンスポップが目白推し。完全無欠のポップ・アルバムである。
もちろん『1989』についてもセールスや主要タイトルの受賞といったところで大きな成功を収め、正真正銘のポップアイコンとしてTaylor Swiftは全世界に認知されることとなった。
意外なコラボについて
Taylor Swift(テイラー・スウィフト)は、エド・シーランやショーン・メンデス、ケンドリック・ラマーといった大物アーティストたちとのコラボも数多い。今回はインディーロック・バンド、The Nationalのアーロン・デスナーがプロデューサーに(メンバーであるブライス・デスナーとブライアン・デヴェンドーフもプレイヤーとして参加)。
収録曲「Exile (featuring Bon Iver)」ではインディーフォーク・バンドBon Iverがゲスト参加している。
Taylor Swiftの直近2作品『Reputation』と『Lover』においてもR&Bやヒップホップを大胆に導入し、シンセが中心にあったプロダクションだっただけに今回の布陣には驚かされた。
何よりアーロン・デスナーとBon IverはBig Red Machineというコラボプロジェクトを行っている。
何故意外なコラボであるのかは、まず彼らがどんなアーティストなのか紹介してからにしよう。
The Nationalとは
オハイオ州シンシナティにて結成されたインディーロック・バンドThe National(ザ・ナショナル)。Big ThiefやGrimesといった新鋭アーティトたちを抱える名門レーベル4ADに在籍している。
レオナルド・ディカプリオ主演の映画『レヴェナント:蘇えりし者』のサウンドトラックでは坂本龍一と共作をしている。
オルタナ・フォークからエレクトロまで手繰りながらThe Nationalが奏でる音には均整のとれた造形美に彩られたもの。
一音一音、それぞれの輝きを放っていても互いを邪魔することなく共存のできるように目配せする芸当だ。
Bon Iverとは
Bon Iver(ボン・イヴェール)はジャスティン・ヴァーノンを中心とするインディーフォーク・バンド。
第54回グラミー賞では“最優秀新人賞”と“最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞”を獲得する。
4ADからの作品リリース歴もあるBon Iverの音楽性にはフォークが土壌にある。しかしゴスペルやヒップホップ、ポストロックなどを落とし込み、バンドアンサンブルのみならず、ストリングスやピアノ、オーケストラのサウンドで表現する革新性。
そして、その複雑な構造を伴うサウンドは聴き手それぞれに心象風景を描かせる豊かさが宿っている。
フォークに回帰した『Folklore』
前作『Lover』から約11カ月、間を空けずのサプライズリリースとなったTaylor Swift(テイラー・スウィフト)の8thアルバム『folklore(フォークロア)』。
The Nationalのアーロン・デスナーとBon Iverの参加ということも大きな話題となった。
しかし、Taylor Swiftがこの世界情勢に“folklore(フォークロア)”つまり“民間伝承”というタイトルにも面を食らった。
アーロン・デスナーとは直接合わずしてリモートにて作業を行い、彼が手がけたのは11曲。
そのタイトル『folklore』からカントリーへの原点回帰もよぎったが、今回はアコースティックとピアノが主軸に紡がれるネオフォークアルバムである。
その佇まいは、これまでポップアイコンとして“私は私!”と大衆を魅了してきたTaylor Swiftではなく、1人1人に囁きかけるかのように繊細なタッチが際だつ素朴な姿。
このアレンジは完全にアーロン・デスナーの取り回したるもの。
モダンポップを活性化、あるいは女性としての立場から奮闘し、鼓舞することから角度を変えて安らぎを与えることに注力した。
そしてそのアーロンとの共作は、極上の化学変化を起こしてみせた。抽象的な表現であることを恥じることなく言える、“美しい”作品だ。
その印象はゴシックなピアノバラード「Exile (featuring Bon Iver)」や爪弾きギターの音色だけで昂揚する「Invisible String」。
そんな2曲のいいとこ取りの「Mad Woman」などの楽曲から特に強く感じ、演奏される楽器たちからの息遣いも感じるほどに細やかで優しい音色だ。
それでいて忘れていけないのがビートメイクの巧みさ。時に無機質な打ち込みで、時にはコンガのようなオーガニックなパーカッションを持ちながら刺激的なビートを多彩に展開する。
全体として飾り気のない雰囲気だが、陰なイメージにならず躍動的に捉えることができるのはこのビートメイクがあってこそだ。
Taylor Swiftとフォーク
Taylor Swift(テイラー・スウィフト)の新作『folklore』はリリースとともに主要音楽メディアで称賛の嵐となり、全英・全米アルバム・チャートでも1位を獲得した。
アーロン・デスナーとBon Iverという新風を呼び込み、芳醇な香りを感じさせる新天地開拓を成功させた。
Taylor Swiftと彼らのルーツは、それぞれカントリーとフォーク。
それぞれ違う文脈持ち、似て非なるものであるが、ルーツをたどればそのふたつは重なる。
さらに“民間伝承”という観点から見ればこのふたつのジャンルは同類であり、Taylor Swiftとアーロン・デスナー、Bon Iverのコラボはサプライズではなく予め決められていた結果だったのかもしれない。
そして今の情勢を鑑みて、世界情勢を反映させようとした時にTaylor Swiftがフォークの力を借りようとしたのにも納得がいく。
上記のフォークロック記事の言葉を借りると、“フォークミュージックは人との関わりや社会の情勢などを歌詞に色濃く反映するメッセージ性の強いジャンルであった。”のだから。
互いが互いを呼び込むようにして必然的に生まれた新作『folklore』。サウンドも佇まいもこれまでのTaylor Swiftとは全くの別物である。
だがしかし、このように現在のムードを読み取り自分が今やるべき音楽を鳴らすその嗅覚やセンスを思えば、Taylor Swiftはやはり変わらず現代のポップアイコンなのであろう。
今回、『folklore』を聴いてそれをまざまざと思い知らされた――。
リリース
8thアルバム『Folklore』
収録曲:
01.the 1
02.cardigan
03.the last great american dynasty
04.exile (feat. bon iver)
05.my tears ricochet
06.mirrorball
07.seven
08.august
09.this is me trying
10.illicit affairs
11.invisible string
12.mad woman
13.epiphany
14.betty
15.peace
16.hoax
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7thアルバム『Lover』
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6thアルバム『Reputation』
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5thアルバム『1989』
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4thアルバム『Red』
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3rdアルバム『Speak Now』
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2ndアルバム『Fearless』
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1stアルバム『Taylor Swift』
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プロフィール
“1989年12月13日生まれ、29歳。グラミー賞を10度受賞、また、グラミー賞史上グラミー賞で最も栄誉のある「年間最優秀アルバム賞」を最年少(20歳)で受賞し、「年間最優秀アルバム賞」を2度受賞歴のあるテイラーは、女性ソロアーティストとしては史上初。過去の作品の総売上枚数は4,000万枚以上、そして楽曲ダウンロード数は1.3億を超えている。更に、過去作『フィアレス』、『スピーク・ナウ』、『レッド』と『1989』の4作連続で6週以上全米1位に送り込むという、ビートルズ以来の偉業も達成している(女性アーティストとしては初)。その他、米誌『Time』は「最も影響のある世界の100人」の一人にテイラーの名前を挙げ、また、「2014年のパーソン・オブ・ザ・イヤー」の8名の中にも選出している。エミー賞の受賞者でもあるテイラーは、米ビルボード誌による「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の最年少受賞者であり唯一2度の受賞を果たしたアーティスト。
2017年8月に急遽リリースされた「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ〜私にこんなマネ、させるなんて」は、全米ビルボード3週連続、全英2週連続1位を獲得。6作目となる最新アルバム『レピュテーション』は111の国と地域においてiTunesで1位を獲得し、全英では3作品連続1位、そして全米においては、5作品連続初登場1位を獲得。しかも、全米において発売からたった4日間での売上枚数105万枚にて、2017年最も売れたアルバムに。また、同作は初週で122万売上げ、テイラーにとってアルバム発売初週に100万枚を超えるのは『スピーク・ナウ』(2010年)、『レッド』(2012年)、『1989』(2014年)に続く4作目となり、ニールセン・ミュージック史上初の快挙となった。”
Youtube
- Taylor Swift – cardigan (Official Music Video)
- Taylor Swift – exile (feat. Bon Iver) (Official Lyric Video)
- Taylor Swift – the 1 (Official Lyric Video)
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北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky