インディーレーベルの中でも、リバイバルの勢いを増しているシューゲイザー・シーン周辺に注目すべきレーベルが多数あるのをご存じだろうか。
次々と新世代のアーティストが登場しており、耳を休める暇もないほどだ。
今回は、そんな現在のシューゲイザー・シーンに、注目すべきインディーレーベルの観点から迫っていく。
目次
インディーレーベルとは
本題に入る前に、まず”インディーレーベル”の定義について解説しておきたい。
”インディー”と、その対義語である”メジャー”の違いを正確に説明できる人は、実は意外と少ないのではないだろうか。
日本では、”インディー”よりも”インディーズ(=Indies)”という呼称が一般的だが、これは和製英語であり、両者には意味合いが異なる部分がある。
インディーとメジャーの違い
国内では一般的に、日本レコード協会の正会員として参加しているレーベルを”メジャー”と呼ぶことが多い。ただ、これには例外もあるため、日本で言う”インディーズ”は自主制作的な意味合いが強いと言える。
一方、海外で言う”インディー(=Indie)”は”インディペンデント(=Independent)”の略称であり、”独立した”という意味を指す。
欧米では、CDの製造、流通、販売まで自社で完結するレコード会社を”メジャー”と呼んでおり、それ以外の独立資本のレーベルをは全て”インディー”となる。
インディーレーベルの特徴
次に、インディーレーベルのメリットとデメリットについて、メジャーレーベルも踏まえて簡単に整理しておく。
自由な活動が可能
メジャーレーベルに比べ、インディーレーベルでは比較的自由でフットワークの軽い活動を展開できることが多い。
CD制作や販売において規制が少なく、自分たちの思い通りに自由な楽曲制作が可能となるからだ。
メジャーレーベルでは関わる企業の数が多く、活動の自由度が奪われてしまうのは自明だ。
利益の配分率が高い
インディーレーベルは関わる企業が少ないため、流通やプロモーションの費用も少なく済む。
そのため、CDやライブで得た利益の大半がアーティスト側に入ることになる。活動が収益に直結しやすいのだ。
流通やブッキング、広告などに多数の企業が関わり、その費用も膨大なメジャーレーベルでは、自然と利益の配分率も低くなってしまう。
活動の規模に限界がある
インディーレーベルでもメジャー級の活躍をしているアーティストは多々存在するが、プロモーションやマネジメントに限界があるのも事実であり、インディーレーベルでは大規模な活動は難しい場合が多い。
もちろん、小~中規模でのDIY的な活動を望んでインディーレーベルに所属しているアーティストもいる。
結局は、どういった環境で音楽活動を展開したいかによって、デメリットはメリットになり、その逆も然りなのだ。
そして、ここ数年はSNSやストリーミングなどの普及により、レーベルの規模に関係なく活躍の場を広げることも少なくない。
注目のインディー・レーベル7選
さて、インディーレーベルとメジャーレーベルについてご理解いただいたところで、今回は現在のシューゲイザー・シーン周辺において注目すべきインディーレーベルを7つ紹介する。
それぞれにカラーがあり、充実作がそろったインディペンデントなレーベルなので、是非チェックしてみてほしい。
Captured Tracks
拠点:ニューヨーク・ブルックリン
設立:2008年
ニューヨークのブルックリンを拠点とするインディーレーベル、Captured Tracks(キャプチャード・トラックス)。
2008年の設立以来、Dum Dum Girls、Wild Nothing、Beach Fossils、DIIV、Mac DeMarcoなど、インディーロックを中心に良質なアルバムをリリースしている。
特に近年では、同郷ブルックリン出身のシューゲイザー/ドリームポップ・バンド、DIIVの活躍によってその知名度を上げている印象だ。
ドリーミーで風通しの良いサウンドを“Captured Tracks直系”などと評することも少なくなく、4ADのようにレーベルとサウンドのイメージが結びついている好例と言えよう。
DIIV // Blankenship (Official Video)
Sonic Cathedral
拠点:イギリス・ロンドン
設立:2006年
2006年に設立されたロンドンのインディーレーベル、Sonic Cathedral(ソニック・カテドラル)。
2020年7月、UK期待のシューゲイザー/ドリームポップ・バンド、bdrmm(ベッドルーム)がデビューアルバム『Bedroom』をリリースしたことが注目を集めた。
また、Rideのアンディ・ベルによる初のソロアルバム『The View From Halfway Down』も10月にリリースが決定するなど、話題に事欠かない。
ここ数年では、オーストラリアのMollyやスウェーデンのEcho Ladies、メキシコのLorelle Meets The Obsoleteなど、国籍を問わずシューゲイザーやサイケ周辺のリリースがそろっている。
bdrmm – Is That What You Wanted To Hear? (Official Video)
Luxury Records
拠点:スウェーデン・ヨーテボリ
設立:2006年
2006年、スウェーデン第2の都市ヨーテボリで設立されたインディーレーベル、Luxury(ラグジュリー)。
ヨーテボリはメロディック・デスメタルの聖地としても知られているが、LuxuryはAlpaca SportsやHappy Hands Club、School’94など、良質なインディーロックを数多くリリースしてきた。
近年では、Westkust(ウェストカスト)、Agent blå(アゲント・ブロー)、Makthaverskan(マクサヴァスカン)といった、シューゲイザーやポストパンク系統のリリースも充実している。
特に、Westkustが2019年にリリースした『Westkust』は、北欧特有のクリアなサウンドを響かせ、シューゲイズ・ポップの大本命とも言える名盤に仕上がっている。
Westkust – “Cotton Skies” (Official Music Video)
Saint Marie Records
拠点:アメリカ・テキサス
設立:2011年
2011年に米テキサスで設立されたインディーレーベル、Saint Marie(セント・マリー)。
オリジナル・シューゲイザーのリイシューや現行シューゲイザーの新作を数多くリリースし、10年代のシューゲイザー/ドリームポップの普及に大きく貢献してきたレーベルだ。
リイシューにはBlind Mr. JonesやSecret Shineが名を連ねる他、Amusement Parks On Fire、The Meeting Place、Seasurfer、SPC ECOなど、2000年代以降の新しい世代のリリースが充実している。
特に、未発表音源を中心に厳選し毎年リリースしているコンピレーション・アルバム『Static Waves』シリーズは、ディープなシューゲイザーへの入り口としても最適なアイテムとなっている。
Saint Marie Records | Static Waves 6
Tough Love Records
拠点:イギリス・ロンドン
設立:2005年
2005年、英ロンドンで設立されたインディーレーベル、Tough Love(タフ・ラヴ)。
The Stroppies、TOY、Ulrika Spacek(ウルリカ・スペイセク)など、インディーポップやネオサイケ、シューゲイザー周辺の音源をリリースしている。
最近では、2020年4月にPeel Dream Magazineが新作『Agitprop Alterna』をリリースし、My Bloody ValentineやStereolabなどを折衷したサウンドが好事家から注目を集めた。
TOY – ‘Fun City’ (Official Video)
HANDS AND MOMENT
拠点:日本・東京
設立:2012年
2012年に設立された、東京を拠点とするインディーレーベル、HANDS AND MOMENT。
世界各国の現行シューゲイザー/ドリームポップ・バンドを中心に、数多くの国内盤をリリースしている。
ロシアのAerofall、アルゼンチンのAsalto al Parque Zoológico(アサルト・アル・パルケ・ソーロヒコ)、台湾のSkip Skip Ben Ben、フランスのDead Horse One、テキサスのBlushingなど、枚挙に暇がない。
特に、Blushingが2019年にリリースしたデビュー・アルバム『Blushing』は、その4AD的なサウンドがシューゲイザー・ファンを魅了したことも記憶に新しい。
Blushing “So Many” (Official Video)
TESTCARD RECORDS
拠点:日本・関東
設立:2017年
2017年、Cattleのギタリストであるヒヌマナオヤが設立したインディーレーベル、TESTCARD RECORDS。自身のバンドはもちろん、周囲の仲間たちを中心にリリースを展開している。
特にシューゲイザー周辺としては、2019年にCattleやSPOOLのアルバムが高い評価を得た他、2020年4月にはFerri-Chrome(フェリクローム)がデビュー作をリリースするなど、注目タイトルを連発している。
また、アメリカのStrawberry GenerationやフランスのTapeworms(テープワームス)など海外勢の国内盤リリースも決定しており、今後も目が離せない。
Strawberry Generation – When You Were Here And I Was Sad (Official Video)
”レーベル聴き”のススメ
インディーレーベルは世界各国に無数に存在する。今回はシューゲイザー周辺のレーベルを中心に紹介したが、これでもほんの一部に過ぎないだろう。
自分の好きなアーティストが所属するレーベルに注目してみると、思いがけず新たな出会いに恵まれるかもしれない。
時には”レーベル聴き”をやってみるのもまた、趣があるのではないだろうか。
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1992年生まれ、札幌出身。都内のレコードショップで働きながらブロガー/ライターとして活動しています。現在、シューゲイザー専門メディア『Sleep like a pillow』などを運営中。ホラー映画ばかり観ている古生物オタクです。
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