最終更新: 2024年5月28日

Folk9(フォークナイン)は、タイのバンコクを拠点に活動する4人組インディー・ポップ・バンドである。

日本でも過去にLuby Sparksとのコラボレーションシングルがリリースされており、今年は長野県の野外音楽イベント”THE CAMP BOOK 2024″への出演やアルバムのリリースパーティーなども決まっている彼らだ。

これまでBELONG Mediaでは、Lesssugär、Death of Heather、KIKIといったアジア圏を中心にグローバルで注目を浴びるタイのバンドにインタビューをさせていただいたが、FOLK9も彼らと同様に国内外にファンを持ち、アジアのインディーシーンを語る上で欠かすことのできないバンドのひとつである。

今回のインタビューでは、FOLK9のルーツや今回リリースされた3作目のアルバム『Rainbow Safari Polycotton』についても伺うことで、タイがなぜインディーバンドのホットスポットとして注目を浴びているのか改めて確認するとともに、その人気の裏付けをしたいと思う。

Click here for the English version of the interview

FOLK9 インタビュー

FOLK9
アーティスト:アーティスト:Graph(Vo.)、Pa(Gt./Key.)、Parn(Ba.)、Dome(Dr.) インタビュアー:滝田 優樹 翻訳:BELONG編集部

-私たちはアーティストのルーツや音楽が生まれた背景、そして影響を受けた音楽・文化・芸術を大切にしているメディアです。今回私たちとははじめてのインタビューなのでまずはあなた自身のことから教えてください。現在はバンコクを拠点に活動されているかと思いますが、メンバーそれぞれどういった場所で生まれ育って、どのように出会ってバンドが結成されたのか教えてもらえますか?
Graph: はじめまして。Graphです。僕はバンコクで生まれて、チョンブリ(パタヤの近く)で育ったんだ。2013年の17歳のときに自作の曲を書き始めて、当初はFOLK9 by Graphっていうソロプロジェクトだったんだよね。2015年にイベントで演奏する機会があって、そこでParnとPatをベースとギターに迎えてバンドを結成したんだ。
Pat: Patです。キーボードとギターを担当してる。バンコク生まれで音楽大学に通ってたんだ。地元のバーでたまたまParnに出会って、その後バンドに加入したんだ。他のアーティストとの制作にも携わってるよ。
Parn: Parnです。ベーシストで生まれ育ったんだ。今はフリーランスのサウンドエンジニアとコーヒーロースターをやってるよ。FacebookでGraphと出会って、音楽の相性が良かったからバンドを組むことにしたんだよね。Patとはもともとミュージシャンの友達を通じて知り合いだったんだ。
Dome: ドラマーのDomeです。出身は北部のピッサヌローク県なんだ。実は3人目のドラマーで、大学の先輩だったPatに誘われて加入したんだ。

-“Folk9”という名前について教えてください。バンドとして活動するにあたり“Folk9”という名前にした理由やその名前が持つ意味は何ですか?
Graph: FOLK9の語源は僕にあるんだ。当初フォークソングコンテストに出場する時、バンド名を決めかねていたんだけど、イベントのテーマにちなんで“FOLK”に、自分の幸運の数字“9”をつけて“FOLK9”にしたのが始まりなんだよね。

-Lesssugärにインタビューをしたときに”タイは地域ごとに音楽ジャンルが異なっていて、北側では、山と乾燥した森林に支配された険しい地形のため、民族音楽とインディーズ音楽が盛んだ”と教えてもらったのですが、あなたたちが今のようなドリームポップ音楽をはじめるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。音楽における原体験を知りたいです。
FOLK9: 地域により音楽の作られ方は確かに異なるよね。FOLK9はGraphのソロプロジェクトからスタートして、フォーク、サイケデリックをポップに落とし込んだサウンドが基調だったんだ。当初は声とアコースティックギターのみだったけど、偶然の出会いでDomeと知り合って、互いの音楽の嗜好が合致したんだよ。Domeは少年の時にロックやメタルにハマってて、その後ジャズやインディーにも傾倒していったらしいんだ。こうして現在に至るサウンドに行き着いたってわけさ。

Folk9のルーツ

Folk 9
あなたの音楽に影響を与えたアルバム3枚をあげるとすれば、どれですか。また1枚ずつ、どのような部分に影響を受けたかやエピソードがあれば教えてください。難しければ、メンバーそれぞれ1枚ずつ好きなアーティストのアルバムを教えてください。

Mac Demarco – Another One

Graph: マック・デマルコ『Another One』。大学時代に出会ったアルバムで、FOLK9のサウンドメイキングに大きな影響を与えたんだよね。

Kings of Convenience – Kings of Convenience

Pat: Kings of Convenienceの全アルバム(『Kings of Convenience』、『Quiet Is the New Loud』、『Riot on an Empty Street』、『Declaration of Dependence』、『Peace or Love』)だな。KOCの音楽は至高の安らぎなんだよ。帰る場所のようなバンドさ。

The Cardigans – Life

Parn: ザ・カーディガンズ『Life(1995)』かな。ポップミュージックながら斬新なサウンドデザインと耳馴染みの良いメロディがたっぷり詰まってるから。

Bye Bye Bicycle – Compass

Dome: Bye Bye Bicycle『Compass(2009)』だな。僕がこのジャンルやスタイルに出会ったきっかけで、その後色々なバンドを発掘したんだけど、このバンドは過小評価されてて残念なんだよね。

-あなたたちが所属する“PARINAM MUSIC”にはKIKIやGym and Swimがいたり、Death of HeatherやLesssugärはアルバムがアジア圏以外の国から評価されています。さらに今年から“SUMMER SONIC BANGKOK 2024”が開催されることもあって、ますますタイの音楽的な環境に興味があります。間違いなくあなたたちもタイのインディーミュージック中心にいるバンドだと思うのですが、あなたたちから見てこの状況はどう見えていますか。
確かに音楽フェスティバルやアーティストの台頭が目立ってると思う。タイの音楽シーンは今、活気に満ちエネルギッシュな状況だと感じてるんだ。

-また、“Circles Music”ではLuby SparksとのコラボやSunset Rollercoasterが主催するバーチャルフェス“Sunset Town”への出演など、アジア圏のバンドとの関わりも多くありますね。Luby SparksやSunset Rollercoasterと国外のバンドたちとの関わりを通して、タイの音楽的な環境などの違いを感じたことがあれば教えてください。
制作の観点からは違いは分かりづらかったけど、アジアツアーで訪れた各地の会場では、ライブ機材システムがかなり整ってる場所が多くて、タイではあまりそうした例が無いのが現状なんだよね。この環境の違いが、音楽を本来の姿で表現することを阻害してるように感じるんだ。タイでもそのレベルに到達できれば、多くのアーティストの夢が叶うと思う。

Rainbow Safari Polycotton

FOLK9-Rainbow Safari Polycotton

-ここからは最新アルバム『Rainbow Safari Polycotton』についてお聞きします。まずは“Rainbow Safari Polycotton”というタイトルにした理由や意味を教えてください。また、“Polycotton”は生地に綿とポリエステルを混合させた素材とのことですが、どうして“Safari”と“Polycotton”という相反する言葉をタイトルにしたのでしょうか。
実は全く無関係なんだけどね、まずGraphの頭に“Rainbow”っていう言葉が浮かんだんだ。そして制作中、ホワイトボードに動物の落書きがあったことから“Rainbow Safari”になったんだよ。さらにここから“Polycotton”を加えたきっかけは、Patが撮影した古い写真を見つけたんだ。それは空気が抜けたバウンシーキャッスルで、僕たちはその質感が“ポリコットン”のようで美しくまとまっていると感じてね。そうやってこの3つが合体してタイトルが決まったんだ。

-デビューアルバム『Morning Day』やその前の『My Pop Dog』ではあなたたちの音楽の影響下にあるであろうUSのインディーポップ色が強いサウンドが印象的でした。それが前作『Chinese Banquet』からはファンクやサーフなども取り入れた、ソフトロックよりのサウンドになったと感じました。今作も前作からの流れを引き継いだ音像だと思います。率直に前作からバンドのモードが明確に変わった印象ですが、これについていかがでしょうか。もし、作品を重ねるごとにバンド自体の意向や方針など変わるきっかけがあれば教えてください。
僕たちは常に新しいものを求めてるからさ。『Chinese Banquet』が初めてチームで制作した作品で、それ以前はGraphの発案が主体だったんだ。今作『Rainbow Safari Polycotton』では、ファーストテイクのエネルギーを捉えることを意識して、使用楽器を絞り込んだんだよ。制作期間が1週間と限られてたことも、こういうアルバムになった要因なんだよね。

-今作はどのようなアイデアや方向性をもって制作されたのでしょうか。アルバムのコンセプトがあれば教えてください。
さっきの質問で言ったみたいに、ファーストテイクのエネルギーを捉えることを意識したんだ。アルバムに収録された多くのフレーズやメロディーはワンテイクなんだよ。限られた機材と技術の中で、どうすれば良質な音を残せるかを突きつめた結果がこのアルバムなわけさ。

Whispering

-また今作は音響もより緻密さがあって洗練された印象です。音の配置やアンサンブルにもかなり気配りされたと思うのですが、プロダクションに関しては、どんなことを重視していましたか?
僕たちは他のアーティストの制作にも携わる経験があって、そこでレコーディングスキルを磨いてきたんだ。また、長年コレクションしてたヘフナーベースやスプリングリバーブ付きのヤマハミキサー、最小限のドラムマイキングリボンマイクなどのヴィンテージ機材を使ったことも大きかったと思う。アレンジの部分は、ほとんどがプログラムされたドラムループから始まって、シンセやギターで遊ぶような楽しいことをしているんだ。そして、曲に合っていると思うものを録音していったわけさ。

-「จะไม่ขอ」で顕著なゆったりとしたビートや遅滞感のあるリズムも耳に残りました。「Out Of Control 」はテクノミュージックの構造で構成されていたり、多彩なアプローチが光っていました。今回のアルバムであなたたち自身のブレイクスルーとなった楽曲、もしくは最も変化や進化を感じさせる楽曲はどれですか? 
Graph: ありがとう!「Mr.Rainbow Sky Saiko!」がそうかなぁ。
Pat: 「จะไม่ขอ」が他の曲と一線を画す爽快感があったよ。
Parn: 僕は「River」が印象的だったな。フロートしたビートに乗ったアンビエンスの音が心地よくて、しばらくFOLK9ではこの路線を外れてたからフレッシュに感じたんだ。
Dome: 「Choco pie」と「จะไม่ขอ」が気に入ってるよ。前者はサイケなロックンロールフィーリング、後者はグルーヴィーでパフォーマンス映えする曲だと思うんだ。

Choco Pie

-今作は音響面での進化もあり、ビートやサウンドの幅も広げて、新たなチャレンジをして、見事な成功を収めたアルバムだと思います。そちらを踏まえて、バンドを今後どのような方向に導く作品になると思いますか?
正直、分からない(笑)。将来のFOLK9に任せたいと思うよ。ただ、この方向性を進めていけば、ただ人気曲を聴くだけじゃなくて、ショー全体を楽しめるようなライブパフォーマンスにつながるかもしれないね。以前の作品のファンと新しいリスナーの両方を惹きつけられたらいいね。

-『Rainbow Safari Polycotton』をどのような人に聞いてほしいですか? もしくはどのようなシチュエーションで聞いてほしいですか? 歌詞やサウンド面で特に注目して欲しいポイントがあれば教えてください。
Graph & Pat: 歌詞とサウンドはどっちも大切だと思うけど、僕らの関心はサウンドとテクスチャーの方が強いかな。このアルバムには面白いサウンドスケープが詰まってるからね。
Parn: 個人的には音楽、サウンドに注目してほしいけど、リスナー次第だと思う。どう聴いてもらうかは指定したいとは思わないよ。ただ楽しんでもらえたら嬉しい。いつ聴くべきかは答えづらいけど、この作品の曲々はさまざまなシチュエーションにフィットすると思う。
Dome: 気負わずに聴いてほしい。深く考えずにただ聴けば、それぞれが求めるものが聴こえてくるはずさ。

-6月には日本でのツアーも控えています。最後に日本のリスナーにメッセージを頂けますか?
Graph: CHI KU WA!
Parn: 日本は僕がお気に入りの国で、影響を受けた日本のバンドもたくさんいるんだ。日本の皆さんの前で演奏できるのを心待ちにしてる。皆さん、またお会いしましょう!
Dome: 日本のファンの皆さんに注目していただけてうれしく思ってるんだ。今回のツアーが素晴らしいものになることを願ってるよ。
Pat: 僕らの音楽を楽しんでもらえたら幸せだよ。皆さん、もうすぐお会いしましょう!

FOLK9アルバムリリース

3rdアルバム『Rainbow Safari Polycotton』

FOLK9-Rainbow Safari Polycotton
発売日: 2024/5/29
フォーマット:LP
収録曲:
1. Mr. Rainbow Sky
2. Choco Pie
3. Mala
4. Whispering
5. Melancholy Man
6. จะไม่ขอ
7. Out Of Control
8. Feeling so Confused?
9. Safari
10. River
https://www.bigromanticrecords.com/product-page/rainbow-safari-polycotton-folk9

FOLK9来日公演詳細

FOLK9 tour
2024年6月6日(木)@東京・MOONROMANTIC(青山月見ル君想フ)
2024年6月7日(金)@名古屋・K D Japon
2024年6月8日(土)、7日(日)@Nagano / THE CAMP BOOK 2024
2024年6月10日(月)@Fukuoka / Livehouse&Club PEACE

【Tokyo】
FOLK9 (from Thailand) 3rd album「Rainbow Safari Polycotton」Release Party
会場|MOONROMANTIC(青山月見ル君想フ)
出演|FOLK9 (from Thailand) / Special guest / DJs
時間|open18:30 / start19:00
チケット|adv 4500yen / door 5000yen (+1drink)
https://240606.peatix.com
※4/18 20:00 発売開始
※先着順

【Nagoya】
BIG ROMANTIC LIVE ─── イルカポリス海豚刑警 (from Taiwan) x FOLK9 (from Thailand)
会場|KD JAPON
出演|イルカポリス海豚刑警 (from Taiwan) / FOLK9 (from Thailand)
チケット|adv. 4500yen / door. 5000yen (+1drink)
時間|open18:30 / start19:00
https://240607.peatix.com
※4/18 20:00 発売開始
※先着順

【Nagano】
THE CAMP BOOK 2024
会場|長野県・富士見高原リゾート(Fujimi Kogen Resort, Nagano, Japan)
info|https://the-camp-book.com/

【Fukuoka】
会場|Livehouse&Club PEACE
info|https://t.livepocket.jp/e/underasia2

FOLK9バンドプロフィール

FOLK9
バンコクを拠点に活動するインディ/ドリームポップ・バンド。物憂げながらもキャッチーなギターリフとメロディのリフレインが世界中のインディポップファンを虜にしている。2017年に1stアルバムをリリース後、一躍タイのインディーシーンの最前線に。2022年には落日飛車 Sunset Rollercoasterが主催するバーチャルフェス「Sunset Town」にタイからの唯一のアーティストとしてブッキングされるなど、今やアジア各国のインディポップファンに愛される存在に成長。

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ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky