最終更新: 2024年4月14日
“うす汚い”や“汚れた”という意味を持つ“grungy”を語源とし、その名詞化 “grunge”(グランジ)。
断言しておこう。カート・コバーンと「Smells Like Teen Spirit」という曲無くして、グランジロックの誕生はなかった。
Nirvanaについてはまたの機会に詳しく語るとして、その証明にカートの死後、グランジロックは衰退しリバイバルも起きていない。
Dinosaur Jr.やThe Smashing Pumpkinsといった同時代のモンスターバンドが未だに精力的に活動し、活躍しているのにも関わらず――。
今回はそんな一瞬の光のように輝き消えていったグランジロックについてと特徴、そして“グランジ”という言葉の語源と新人バンド7組を紹介させていただく。
目次
グランジロックとは
グランジロックは1989年頃にシアトルから広がっていった。
当時のシアトルといえば、NirvanやSoundgarden、Mudhoneyといったバンドが頭角を現し出した頃。
後に人気を獲得し、才能を開花させていったグランジロック・バンドが同じ地でひしめき合っていたことを考えると、1996年頃まで続くムーブメントとなることは必然だったのかもしれない。
パンクとヘヴィメタルからオルタナティヴ・ロックという流れと音楽性を引き継ぎ誕生したグランジロックは、サウンド的にはそれほど革新的ではない。
しかしながら「Smells Like Teen Spirit」の発明的ともいえるギターフレーズを生みだし、“汚れた”という意味の通りヨレヨレの衣服に身を包み無精ひげを生やした新時代のロックスター、カート・コバーンの登場。
そんなカートがフロントマンを務めるNirvanaを中心としたグランジロック・バンドが、派手なファッションとテクニカルなプレイ、キャッチーなサウンドを武器にしたLAメタルやヘヴィメタルといった音楽ジャンルが商業的な成功を収めていた音楽シーンに大打撃を与えるとともに後世にも語り継がれる一大ムーブメントへと発展したのであった。
グランジという言葉について
グランジの語源はgrungy(汚い)という俗語からきており、遡れば1957年のロカビリーアーティスト、ジョニー・バーネット・トリオのアルバムのライナーノーツに登場したり、1958年に出版されたジャック・ケルアックの小説『The Dharma Bums』に登場したりしている。
ジャック・ケルアックはビート詩人として、The Doorsのジム・モリソンをはじめ、多くのアーティストに多大な影響を与えている。
また、上記以外にもグランジという言葉の語源は諸説ある。
音楽ジャンルとしてのグランジ
そのグランジが音楽ジャンルとして使用されるようになったのは、Mudhoneyのフロントマン、マーク・アームが1981年に使ったのが初めてとされる。
その後、Mudhoneyを擁する音楽レーベル、Sub popも“グランジ”という言葉をバンドの宣伝に使用し、広がりを見せることとなった。
ファッションとしてのグランジ
また、“グランジ”という言葉がファッション界で初めて使用されたのは1992年8月のWomen’s Wear Daily誌で、そのスタイルを一躍有名にしたのが同年の後半に発行されたVogue誌の誌面特集であった。
Vogue誌ではSub popの設立者であるジョナサン・ポネマン協力のもと、8ページにわたるグランジ・ファッションの特集が組まれた。
このようにして俗語であった“グランジ”が音楽ジャンル、ファッション用語として定着するようになった。(2021年11月13日 BELONG編集部追記)
グランジロックの特徴
ではなぜグランジロックが勃興したのか、実際にグランジロックの具体的な特徴を挙げて考察していこう。
歪みのあるラウドなサウンド
Sex PistolsからThe Stooges、Black Sabbathなどのバンドを参照点に、パンクやハードロックなどをルーツとするグランジロック。
リフを主体としたフレーズとディストーションギターのサウンドの結合が大きな音の特徴といえるだろう。
抑揚が効き、侘び寂びと爆発力がくっきりとした音楽構造ということだ。
こちらは余談になるが、Nirvanaのドラマーで現在Foo Fightersのフロントマンであるデイヴ・グロールはグランジロックを“ラウドなギターとラウドなドラムと絶叫ヴォーカル”と発言。
グランジの第一人者であるデイヴが明確なアンサーを語っている。
そのどれもが野性的であり、本能のままにグランジロックを鳴らしていたことを明らかにした。
内省的な歌詞
先に述べた”抑揚がきき、侘び寂びと爆発力がくっきりとした音楽構造”という特徴。
これによって退廃的で陰鬱な部分が浮き彫りとなる。
つまり内省的でネガティブな歌詞が際立つ。その様式は先述のLAメタルやヘヴィメタルに対してカウンター的に機能することとなった。
意識を内面へと向け、己の闇を包み隠さず晒す。
こういったパーソナルな表現はラウドなサウンドに虚無感と深遠なる響きを与えるという作用をもたらす。
一聴して無骨なイメージを抱きがちなグランジロックはこういったナイーブな一面も持ち合わせ音楽ジャンルなのである。
“薄汚い”グランジ・ファッション
他の音楽ジャンルと同様にグランジロックはファッションとも強く結びつき、グランジ・ファッションとして流行していった。
ダメージジーンズであったり、よれよれのネルシャツやカーディガン、穴のあいたTシャツ。一言で言えば、古着スタイルである。
これは、カート・コバーンの普段着を模範としたファッションで、イギリスのモデルであるケイト・モスもそのアイコンとして有名である。
こちらもLAメタルやヘヴィメタルに対してのカウンターと言えるだろう。
グランジロックのプレイリスト
グランジロック入門編として、これぞグランジという名曲からここに掲載アーティスト達の代表曲、そして現代のグランジロックを映し出す曲を中心にプレイリストを作成した。
こちらの記事と併せて聴いて欲しい。
グランジロックの新人バンド7組
まるで花火の光、ないしは超新星爆発のように90年代に一度大きな光を放ったグランジロック。
その当時のような勢いがないながらも世代を超えて形を変えることなく受け継がれている。
今回は今勢いのあるグランジロックの新人バンドであるDIIV 、Cloud Nothings 、Drenge 、Bully 、GEZAN、METZ、King Nunの7組を紹介する。
DIIV
ニューヨークのグランジロック・バンド、DIIV(ダイヴ)。
元Beach Fossilsのギタリストであるザカリー・コール・スミスをフロントマンにした4人組バンドであるDIIVは、USインディーロックの陰鬱さとシューゲイザーの妖艶さ、そして無骨なグランジロックサウンドとを兼ね備える。
特に最新作『Deceiver』でその特徴を強く感じさせ、破滅の美学あるいはバイオレンスに潜む哀しさを音楽で表現しているバンドだ。
DIIVの音楽に触れる時、美しさに陶酔すると同時に感傷的になってしまう。
昨年2019年にザカリー・コール・スミスが薬物依存から抜け出し、再出発を果たした。残念ながら7年ぶりの来日公演はコロナの影響で中止となってしまったが、次の機会を決して逃してはならない。
DIIVの復帰作『Deceiver』のレビュー記事はこちら。
Cloud Nothings
アメリカはオハイオ州クリーヴランド出身のグランジロック・バンド、Cloud Nothings(クラウド・ナッシングス)。
ギター・ヴォーカルのディラン・バルディが自宅にて1人でデモ制作していたことからはじまったCloud Nothingsは、デイヴの言うところの“ラウドなギターとラウドなドラムと絶叫ヴォーカル”を体現するバンドだ。
かつてNivanaの『In Utero』やPixiesの『Surfer Rosa』を手がけたことで知られる音楽プロデューサー、スティーヴ・アルビニが2ndアルバム『Attack On Memory』のプロデュースを担当。
アルビニがCloud Nothingsの音楽性を形成する一部であるのは明白で、NivanaやPixiesといったグランジロック・バンドの血もしっかりと受け継がれている。
そして、そういった血統を持ちながらもUSエモのメロディアスで爽快感たっぷりな音像との調和がなされたサウンドは実に気持ちいい。
そんなCloud Nothings、JAPAN TOUR 2017のライブレポートはこちら。
Bully
USナッシュビルで結成されたグランジロック・バンド、Bully(ブリー)は紅一点アリシア・ボグナノがフロントマンを務めるほかエンジニアとしても作品を手掛ける。
そんなBullyの2ndアルバム『Losing』はスティーヴ・アルビニのスタジオ、エレクトリック・オーディオにてレコーディングされた。ここでもアルビニが絡んでくる。
曲を聴いてすぐにNivanaからの強い影響を感じられ、特に1stアルバム『Feels Like』の収録曲「Trash」はギターからドラム、ヴォーカルスタイルまでNivanaを模範したことが明白である。
しかしながら急速な展開やスリリングなプレイを通して、自身の抱える不安や不信感を見事に音に乗せ、表現するその様はグランジロックの精神性や空気感までも継承していると言えるだろう。
Bullyの新作アルバム『Sugaregg』やバンドについての詳細はこちら。
Drenge
ラブレス兄弟を中心とした3ピースバンド、Drenge(ドレンジ)はイギリスのキャッストン出身。
オーセンティックなUSグランジやUKガレージを見事に繋ぎ合わせながら大胆なエレクトロやパワーポップサウンドを取り入れるDrenge。
グランジロックをリニューアルし、現代でそれを輝かせようとばかりに音を鳴らす。
ラブレス兄弟の勝気なキャラクターとざらついたギターサウンドも相まって、荒々しさの際立つDrengeだがグランジ復興の糸口となるのは案外こういうバンドだったりする?
Drengeについてもっと詳しいことを知りたい方はこちらの記事を。
GEZAN
GEZAN(下山 ゲザン)は、マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo./Gt.)とイーグル・タカ(Gt.)、カルロス・尾崎(Ba.)、石原ロスカル(Dr.)の4人からなるグランジロックバンド。
GEZANの音楽からはいつも血の匂いがする。動物としての本能に忠実なプレイスタイルと表現方法。
自分たちの愛するもの、信じるもののためなら嫌われることはもとい自らを犠牲にすることを厭わない。
そんな覚悟を感じるからだ。
圧倒的な熱量を持って繰り出されるグランジサウンドは意識的ではなく、おそらく内に秘めたるものでゆえに歪みやラウドをこえた狂騒だ。
最近ではミニマルとハードコアを上手く手繰りながら多様な音楽表現と向き合うGEZAN。
そんな彼らの最新アルバム『狂(KLUE)』レビュー記事はこちらから。
METZ
カナダはトロント出身の3ピースグランジロックバンド、METZ(メッツ)。
2008年結成のMETZは、NirvanaやSoundgardenらをはじめとする多くのグランジバンドが所属していたことで知られるレーベルSub Popと契約を交わすバンドである。
2012年のデビューアルバム『METZ』リリース時からCloud Nothingsとも共鳴するような荒くれなノイズギターを武器にハードコアなサウンドをお見舞いしてきた。
メロディアスな音像を追い求めたCloud Nothingsに対し、METZはシューゲイズさながらノイジーなサウンドを鳴らし続けることを選んだ。
グランジの正統な後継者。90年代の空気感そのままに一貫して攻撃的な姿勢で繰り出されるMETZのサウンドは、現代の音楽シーンにとって決して古臭くはなく、むしろ新鮮に聴こえるだろう。
そんなMETZについての詳しい記事はこちらから。
King Nun
The 1975やWolf Aliceらを擁する英国の音楽レーベルDirty Hitに所属の4人組グランジロックバンド、King Nun(キング・ナン)。
2016年にシングル「Tulip」にてデビューを果たし、2019年にデビューアルバム『Mass』をリリースしたばかりの若手バンドである。
リバイバル以降のガレージロックを内包したセクシーな音色から砂塵が巻き上がるノイズまでギターを中心とした重量感あるサウンドが魅力だ。
多角的、巧妙なアプローチでアイデンティティーを獲得するロンドンのインディーロックバンド勢。
それに対してKing Nunはアンサンブルとしては器用なアレンジも光るのだが、このギターサウンドによりやや分かりにくくしてしまっている不器用さ。
初々しさも伺わせ、まだまだ発展途上のバンドであるが今後Dirty Hit の先輩バンド達のようにKing Nunが大きなブレイクを果たすことを期待したい。
脈々と受け継がれるグランジロック
90年代における最大のロック・ムーヴメントを呼んだグランジロック。
明確なサウンド像やスタイル、ファッションの特徴などを持ち合わせている。グランジシーンで活躍した同士のバンドたちは今も長く活躍する。
そして今回紹介した次世代バンドたちの楽曲を聴けばわかるとおり、脈々とグランジロックは引き継がれている。
だけども、その当時に生まれたグランジロック作品群をはじめて聴いた時ほどの衝撃には及ばない。
しかしグランジロックは最後のロックスター、カート・コバーンとともに死んでしまったのではないだろうか?
グランジロックとは一瞬の感情や衝動のように再現不可能な音楽ジャンルだから。
ともすればグランジロックの再来ではなく、その音楽性を引き継いだ新しいロックジャンルの誕生、生まれ変わりを強く望みたい。
Youtube
- DIIV // Blankenship (Official Video)
- Cloud Nothings “No Future / No Past”
- Bully – Where To Start [OFFICIAL VIDEO]
- Drenge – “Backwaters” (Official Video)
- GEZAN / DNA (Official MUSIC Video)
- METZ – Wet Blanket [OFFICIAL VIDEO]
- King Nun – Bug
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ライター:滝田優樹
北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky