最終更新: 2022年1月23日


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ロックってある意味、何でも落とし込めると思うんですよ。音楽のジャンルしてもそうだし、もっと広い意味でもそう。だから、自分たちが作るものは、いわゆる今のロックのイメージがダサいって思っている人に聴いてもらいたい、とも思いますね。

アーティスト:出戸学(Vo.,Gt.)、清水隆史(Ba.) インタビュアー:yabori

-『homely』から今回で3枚目のアルバムですが、今回の最後の曲「誰もいない」のラストにはとても驚きました。そして思わず『homely』を聴き直してしまったのですが、どうして前のアルバムのフレーズを入れようと思ったのでしょうか。
出戸:『homely』を創った時点で、3部作にしようっていう話を身内だけで話してて、外には出してなかったんですけど。『homely』でがらっと変わった音楽性が、次のアルバムで元の路線に戻ったりすると、あのアルバムは「気の迷いだったのか?」って思いますよね。僕らの中で硬い意志として、3つはコンセプトのしっかりした完成度の高い作品を作ろうよ、ってのがあった。1枚ならやってみれば出来るかもしれないけど、3枚はバンドにちゃんと基礎体力がないとできないだろうし、3枚やったらバンドのイメージが定着したり、自分たち自身もいろんなことが理解できるだろうって思いました。そういう気持ちの表れだとも言えるし、あとは聴いて感じてもらえたらいいかなって。

-前のアルバムのフレーズを使うっていうアイデアが凄いなって思いました。
出戸:石原さんが最後に入れようって話をしていて。
清水:結構前から話していたよね。
出戸:3作目がどんなアルバムになるにしろ、『homely』の音は入れようって。

-アルバムを作ったばかりだと思いますが、3部作ができて、これからのビジョンについて教えてください。
出戸:今はまず、このアルバムのライブアレンジをどうしようかというところで。いろいろ他にもやりたいことはあるんですけど、最初はライブアレンジからですね。
清水:『homely』とか『100年後』って、「こんなアルバム作ったら解散するでしょ」とか、「やりきった感あるでしょ」って聞かれることが多かったように思います。今回も別のインタビューで「こんなの作ったらもうやることないでしょ? 解散?」とか聞かれたけど(笑)。全然そんなことは無いように思いますね。プロデュースチームとの関係も深まっていて、バンドの体力も上がってる感じがするし、まだまだできそうな雰囲気が強いくらいというか。多分、やり尽くした感とかはないんじゃないかな。
出戸:まだ緊張感はありますね。中村さんと石原さんとメンバー4人の6人の態勢で、何かが作れそうっていう緊張感はありますね。
清水:アルバムジャケットのアートワークやPVとかアーティストフォトとか、今回これだけやったから、そっちに関しても次はもっと行けるかもって感覚があります。

-なるほど。「見えないルール」はファンクっぽいフレーズもあり、今回のアルバム自体に黒人音楽のエッセンスが盛り込まれているように思います。このアルバムを制作するにあたり、影響を受けたものがあれば教えてください。
出戸:黒人音楽やファンクよりはカン(Can)とかそういうところかもしれないです。
清水:みんなブラックミュージックも聴かなくはないですけどね。

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-「いつかの旅行」のバックで流れている音はテクノっぽいリズムマシーンが使われているように思います。このような試みも初めてなのではないでしょうか。
出戸:バックで流れているのはリズムボックスですね。
清水:70年代のカラオケとかない時期に、バーとかスナックで使われてたような機材で、ドンカマ(ドンカマチック)って言われてるやつですね。狭い店で生演奏するためのリズム担当のような機械で、それを使ってますね。打ち込みとかはできなくて、プリセットの音をいじるだけ。スタートボタンを押したら延々と鳴り続けるっていう。

-今聴いたら新しい気がするんですけど、昔はあったんですね。それを聞いて思ったんですが、今回のアルバムは全体的にレトロフューチャー感の雰囲気がありますね。そういうイメージを持って作られましたか?
出戸:レトロフューチャー感っていうのはもともと好きな要素ではありますね。昔の人が考えた未来って、日常会話としてバンド内でよく使う言葉で。狙ったというよりは、もともとそういうイメージが好きではあります。わざと作ろうとしたというよりは、滲み出たという感じですかね。

-レトロフューチャー感っていう部分で、参考にした作品はありますか。
出戸:昔のSF映画も好きですね。普通に手塚治虫のマンガとかも好きだけど…
清水:特に「ペーパークラフト」を撮るときに参考にしてた、っていうのはないよね。
出戸:参考にしたものはないです。全体的にそういうものが好きではあるんですけど、全部が混じって良くわかんないというか。

-オウガの音楽はいい意味でルーツが分からないところがありますよね。最近のバンドは「これ好きなんだろうな」っていうのがすぐに分かるんですけど、分からないのが面白いなと。
出戸:この曲のこの部分がカッコいいって感じると、それに似たリフを作ったり、エフェクターを探してきたりしてアレンジする人が多いと思うんですけど。僕らは好きな曲の印象を再現しようとする、って感じでしょうか。ギターのフレーズがどうこうとかは全然考えてなくて、いいと思ったときの気持ちを再現できるかどうか、再現している質感になっているかどうかをいつも考えてますね。

-そういう印象をアルバムに落とし込む時って、どうやるんでしょうか。
出戸:それは試行錯誤ですね(笑)。感覚的で正解の無い話だし、外すことも多々あるんで。やってみて、音を出してみて考えます。答えがあるわけじゃないので。

-作り方自体が違うんですね。先の話で、アルバムの特典でカセットテープがついてくるというものがありましたが、どうしてカセットテープを特典にしようと思ったのでしょうか。
出戸:さっきのフェティッシュの話だよね。
清水:CDと何かをセットにしたらどうかな?って考えてみたんですよ。CDと12インチのアナログ盤をセットにしたら、どっちがメインかわかんなくなって意味不明かな、7インチEPだとパッケージできるかもだけど、なんか形がスマートじゃないなとか考えて。レコードが好きだからレコードを付けちゃえって話じゃなくて、トータルで面白くて、コンセプトを強化できるのは何かってずっと考えてたんです。で、出戸くんとか石原さんとの会話の中で、テープって言葉が出てきた。

-今って、カセットテープを再生できる機器を持ってる人って少ないですよね。
出戸:自分の場合は、苦労して聴くと何となく愛情が湧くというか。YouTubeでポチッと押して聴いたときは、なんか心が入ってない。レコードは針を落とすときちょっと心籠ってる(笑)
清水:テープなんか特に、曲を飛ばしにくいし。途中から聞くのがすごく大変。B面から聴こうと思っても、わざわざA面全部早送りしなきゃ聴けない、みたいな。

-確かに、そういう手間がありますよね。
出戸:自分がそういう風に音楽と接しているんで。同じ感覚の人にわかってもらえたら嬉しいです。僕もYouTubeで曲を聴いたりもしますが、多分豊かな時間に感じていなくて。音楽を聴いているっていうよりは、情報を貰っているっていう感じ。情報を得て、引っ掛かるものがあれば辿って行くけど、YouTubeを聴いているときは、自分のなかでは音楽を聴いてる時間に入ってない。調べものをしている感じです。音楽は、レコードとかCDとかで再生して、自宅のソファーで聴くものって感覚があります。

-外では音楽を聴かれないんですか?
出戸:ウォークマンとかipodでは聴かないですね。ツアー中は車のなかでCDをかけて、みんなで聴いたりしますけど、個人的にはヘッドフォンとかイヤホンは持ってないです。
清水:僕は自分の家以外でも聴いていますよ(笑)。iPhoneに曲が入れてあって、ツアー先とかで寝る前にヨ・ラ・テンゴとか聴いています。けど移動中とかは演奏の確認以外はほとんど聴かない。
出戸:うん、移動中はほとんど聴かない。
清水:たぶん都会人じゃないっていうのもあるんじゃない?
出戸:長野出身で、今も長野に住んでるから、普段あんまり電車で移動とかしないしね。

-ライブの度に東京へ行ってるんですね。
清水:まぁ車で2時間半くらいなんで、そんなに遠くないです。
出戸:今すぐ来いって言われても、まぁ2時間後くらいには渋谷に行けます。

-東京に住んだことはないんですか?
出戸:ないですね。

-それはどうしてでしょう?
清水:原村オウガ専用のスタジオもあるし、暮らすのにお金もかからないし、静かでガチャガチャしてないというか。例えば出戸君が言っていたよね。部屋にこもって一人でアニメーションを作るのは、東京では無理だったって思うって。
出戸:アパートが狭くて撮れない、とか。
清水:飲みに行こうって電話がかかってきまくるとか(笑)。出戸君の家ってほんと山の中なんで、飲みに行こうとかありえない。
出戸:標高1300mくらい。

-僻地中の僻地じゃないですか。
出戸:僻地ですよ。
清水:いや、そんなに僻地ではないと思うな。別荘地っぽいというか、かなり開けてる。高速道路のインターも近いし、なんていうか、ソフィストケイトされた感じ。
出戸:原村には面白い人たちがたくさんいるんですよね。東京で普段活動している人が週末は長野で過ごすみたいな。

-都会とは切り離された環境があるから、オウガの音楽ができているのかなって思います。
出戸:良くも悪くも同世代のバンドとの交流があんまり無いんで。一緒に飲みに行ったり、偶然会って話し込むとか、なんかディスカッションとかしてバンド同士が盛り上がっていく(笑)、っていうのが今のところ一切ない。

-逆にリスペクトする日本のバンドは居ますか?
出戸:ヒカシューとか、清水さん好きだよね。あと、一緒にやらせてもらった中ではROVOとかメルツバウとか…年上の人ばっかり言ってるね。

-オウガのルーツはUSインディーって聞いています。
出戸:USインディーは好きでしたね。今でもたまに聴きますけど。

-最近のUSインディーも聴かれますか?
出戸:最近のも、いいって言われるものは聴きますね。Deerhunterとか。4年前くらいに対バンしたっけ。その辺も聴いていますけど、最近のUSインディーバンドって、なんか似た音が多く感じます。新しいエポックメイキングな作品ができると、それに似た音が追随してたくさん出てくるんだなって。そういうのが目に付くようになっちゃって。最初にすごい!って思ったのは面白くって聴くんですけど、その後に出てきたグループとかは、全然面白く思えなくなってしまって。それよりは60年代70年代のグループの方が、あらゆる方法で滅茶苦茶なことやってて新しく聞こえたり。だから、何でもUSインディーなら面白いっていうのは、随分前に終わっちゃいました。20代前半に(笑)。

-ここからはBELONGの特集『ロックへの扉』についての質問をさせてもらいたいのですが、人生で初めて聴いたロックについて教えて下さい。またそのアルバムについても教えて下さい。
出戸:生まれた時から、フュージョンやロックとかジャズとか、いろんなものがかかってた家だったんですけど。親父が音楽好きだったので。小4くらいに、自分のCDウォークマンで聴きたいなと思って買ったのは、The Beatlesの『HELP』。なぜか好きになって、それが最初ですかね、自分でCDを買ったっていうのは。

-最初は邦楽じゃなくて洋楽だったんですね。
出戸:邦楽が全然流れない家で。ずっと洋楽しか流れてなくて、そういう環境も影響したのかもしれないです。

-最初に聴いたロックと、最初に出逢った洋楽が一緒という感じでしょうか。
出戸:うん、まぁ出逢った感もないというか、気付いたら流れているような家だったんで。で、外で聴きたいなと思って買ったっていう感じです。

-ではこれから開けてみたい【音楽の扉】はありますか?
出戸:ロックって何というか…ともすれば、ダサいものになりそうな気がしているんですよね。今までもそうだったかもしれないけど、これからまたかっこ悪い要素がどんどん目立ちそうな気がします。だから、そうじゃないことをやりたいって漠然と思ったりしますね。

-ということは自分達をある意味ロックバンドと思ってやっているってことでしょうか。
出戸:そう言うとちょっと違う様な気がしますね。
清水:勝浦君は特にフランスの現代音楽とかフリージャズとか、扉開ける感じの音楽を聴いてるよね。馬渕君は70年代ロックを多めに買っているけど、同時に良くわかんない謎のレコードも買っちゃうっていうか(笑)。そんな感じでそれぞれが新しいものを常に掘っている感じはしますね。みんな音楽に限らず、アートとか生活で触れるいろんなものとかで、自分にとって新しくて、より心地よいものを常に貪欲に探している感じはします。
出戸:ロックってある意味、何でも落とし込めると思うんですよ。音楽のジャンルしてもそうだし、もっと広い意味でもそう。だから、自分たちが作るものは、いわゆる今のロックのイメージがダサいって思っている人に聴いてもらいたい、とも思いますね。そういう意味で、自分たちはやっぱりロックバンドの範疇にいると思います。

-今自分達がカッコいいって思っている音楽はどこにありますか。
出戸:着地しない感じものがかっこいいって思ってますね。ロックって言うといわゆるロックンロールとか、パンクとかギターポップとか言って、ジャンル分け可能だったりするじゃないですか。そういう様式にはまったものって、今の自分にとってはどこかでつまんないものに見えちゃって。どこにも着地していなくって、一体これが何なのか言い切れないけど、何か面白いことになりそうなものって1番カッコいいと思う。
清水:いろいろやってるけど、結局は「ニューウェーブ」とか「サイケロック」って言えちゃうとか、そういう着地点があるものじゃなくて。聴いた瞬間に頭の中に「?」が激しく点滅する音とか、なんか質感が変でふわふわ浮かんでる感じで、釈然としなくて一体どこに分けていいか分からないもの、そういうのがすごいと思う。そういう感覚は共通していると思う。何を考えてて何がしたんだろう、さっぱりわかんない…わかるようで全然わからない、けどかっこいい、っていうのをみんな好みますね。

-今回のアルバムはそういう要素がありますよね。
出戸:あればいいんですが。
清水:謎っぽさを狙ったわけじゃ全然ないんだろうけど…。
出戸:やっぱりその感覚がいいと思ってるから、ね。

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『ペーパークラフト』

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