最終更新: 2022年1月23日

先日BELONGでは特集“YOUTHWAVE 2.0”を記念して、Twitter上で誌面に掲載希望のバンドを募集する『Share #YOUTHWAVE』という企画を行った。数多くの応募の中から、今回Psycho Mama Daily Diaryというバンドを取り上げた。

取材当時、彼らの情報はほとんどなかったものの、Sound Cloudのプロフィール上で、自らを“トリップ・ホップ”と名乗っているのがとても興味深かった。

そもそも“トリップ・ホップ”とは90年代イギリスから生み出され、現在ではほぼ死語になりつつある音楽ジャンルの事だ。

その今では絶滅しかかっているジャンルを今一度どうして追求しているのだろうか。また英詞で歌うだけでなく、SNS上も英文で発信もしている所も興味深い。そんな彼らにどういう考えで音楽を作っているのか聞いてみた。

PMDDアーティスト写真

アーティスト:鈴木(Vo.) インタビュアー:yabori

-結成の経緯とアーティスト名の由来を教えてください。
鈴木:結成は2012年です。ボーカルの鈴木と現サポートギターが大学で出会い、自宅や大学で宅録で曲を共作していくことから始まりました。ある程度曲が出来てきたので友人のツテで現ドラムと前サポートベースと共にバンドとして活動し始めました。ライブの頻度も多くはなく、DTMで曲を作ることが多かったです。その頃の曲は今や幻の1st E.P.に収録されており、ライブ動画としてアップしてある「Big Mouth Lonely」はその頃の曲です。アーティスト名の由来は特に深い意味はなく、生命の起源を連想させる聖母を表す“mama”を軸に考えていました。“PMDD”という女性特有の症状があると知り、そこから頭文字をもじって“Psycho Mama Daily Diary”というバンド名になりました。クレイジービッチなのに日々日記を付け子供を愛していたら可笑しいなと思ったところからです。外国人からは毎度変な名前と笑われます(笑)。

-プロフィールでは“Trip Hop band”と名乗っていますね。これはどういう意味があるのでしょうか。
Trip Hopを僕らなりの解釈で発信していきたいからです。90sブリストルサウンドの復興を目指しているわけではなく、彼らが内包する表現を引き継いだ音楽をやりたいと思っています。現在はポストダブステップの系譜がそれに近いですが、それらに単に迎合することなく、過去と未来の音楽を追求したいです。

-音楽は英詩で歌っているだけでなく、SNSも英語で発信していますね。これはどうしてでしょうか。
基本的に日本ではJ-POPの類しかウケないと思っているので、僕らはやりたい音楽を取るか、日本という市場を取るかという判断基準から、やりたい音楽を曲げない事を方針としています。なので、発信対象は完全に海外を向いています。潔く日本市場を捨てようと思った為日本語向けの情報は流していません。ですが、BELONGが取り上げている“YOUTHWAVE”界隈のアーティストが着目され始め、日本のリスナーもガラパゴス音楽以外を受け入れ始めたのかなという印象が最近はあります。しかし依然としてその国内市場が大きいとは思っていません。

-9月にアルバムを発表するようですね。アルバムのタイトルが決まっていたら教えてください。またそのタイトルにはどのような意味があるのでしょうか。
『womb』というアルバムタイトルです。直訳すると女性の子宮という意味ですが、生命が宿る神秘性、何かが生まれる最初の場所という意味合いから、僕たちが狙う音楽性に合った言葉だと思ったからこの言葉を選びました。

-またこのアルバムはデジタルリリースを予定しているようですが、どうしてCDのリリースではなく、デジタルでリリースするのか教えてください。
CDという媒体に魅力を感じないからです。大半の人はCDを購入してiPodに取り込んだあと、CDを再生して楽しむ人は多くないと思います。CDを所有することの喜びはわかりますが、所有の喜びという点ではアナログ盤の方が上回ると考えているので、12月にダウンロード付きのアナログ盤LPを出す予定です。

-アルバムからの先行曲「Sexsomnia」がとても素晴らしかったです。この曲だけアルバム中では浮遊感があり、異色のように思います。この曲はどのようなきっかけでできたのでしょうか。
ありがとうございます。この曲は全曲の中でも取り分け完成する速度が早く、セッションを初めて3〜4時間後にはデモのミックスダウンまで終わっていました。この曲だけが異色だというコメントは興味深いです。僕らは根本思想を同じにしてアルバム曲を作っていったので、それほど異色だとは思っていませんでした。浮遊感はアプローチの結果だと思います。この曲は、眠る・起きるの中間にある、無意識と意識の狭間を表現したものです。

-楽曲のMVでは幾何学模様で宇宙空間のような映像を作っていますが、これにはどのような意味があるのでしょうか。
一種のトリップ状態みたいなものを表現できたらと思っていたところに、同じループの中で曲に合わせて少しずつ変化していく映像が作れるアプリを発見しました。こういう手法で楽曲を公開するのもあまり前例がなく面白いなと思ったので採用しました。

-ライブではダンサブルでシューゲイザー色の強いアレンジで驚きました。ライブで楽曲を再現する時に気をつけている事はありますか?
僕らはライブをそんなに多くこなしてきていないのでたいそうな事は言えませんが、目標としては異次元を作り出したいと思っています。また、音源で聴くのとライブで聴くのとでは、バンドの印象が違くなるように心がけています。

-今回のアルバムはTHE NOVEMBERSも使用している、トリプルタイムスタジオで録音したようですね。どうしてこのスタジオでレコーディングしようと思ったのでしょうか。またレコーディングの際に工夫した事があれば教えてください。
エンジニアの岩田さんの音楽の趣味がプロフィールに書いてあり、僕らの好きな音楽と同じだったので、レコーディングをするならここが良いと思ったからです。ミックス時のサウンドも考慮し、トリプルタイムスタジオなら安心できると思いましたので。工夫した点としては、スネアを楽曲に調和させたり、キックの音色にこだわったりしています。レコーディングした音がいい意味でイメージと別の形になって、経験が浅い僕らにとっては岩田さんの力添えは大きかったです。

-今回のBELONGは“YOUTHWAVE”という特集で、“デジタルネイティブ”がインターネットを通じて、新しい音楽を作り始めているって内容です。実際に邦楽・洋楽の垣根を越えるバンドが続々と現れていると思うのですが、世代的にPsycho Mama Daily Diaryはデジタルネイティブでしょうか。
インターネットの普及は、小学生時代にモデム接続が導入された世代なので、言うなればデジタル帰国子女といった所でしょうか。

-ネットで聴いた音楽をどのように曲に落とし込んでいるのでしょうか。
インターネットの高速回線が普及し、好きな楽曲、未知の楽曲にアクセスするのが本当に容易になりました。リファレンスが多い分、気をつけないとただのパッチワークになってしまいます。そうならないよう、オリジナルの表現を模索して、新しい音楽を作るように心掛けています。

-その特集では、古い年代のアーティストでも自分が知らなければ、新しいという価値観があるようです。その考え方に共感する部分はありますか?
共感と言われると難しいですが、新しい音も古い音も区別なく聴いて等しく吸収できるようになったのはインターネットのおかげだと思います。また、新しい音からそのルーツへ辿るのがより簡単になったと思います。リスナーももちろんですが、作り手がその影響をより大きく受けている為、“YOUTHWAVE”のような流れが起こってきたのだと感じます。

-このシーンは今後どうなっていくと思いますか。
日本の音楽市場がどう動くかだと思います。洋楽・邦楽という言葉が存在している時点で世界から見ると異質だと思うのですが、世界共通言語としての音楽を受け入れる市場が広がりを見せ始めたとは思います。とはいえ、依然として大きな資本を動かせる企業なり団体が、国内市場でしか受けない音楽の量産にしか資本を投下できていない状況は変わらないので、このペースで日本のバンドなりアーティストがビルボード等と同列に扱われる日は遠いのではないでしょうか。歴史的にも、英国政府のBritpopに対する支援や、昨今のK-POPの世界的流行など、草の根以上の力が必要と感じます。

-最後にPsycho Mama Daily Diaryの音楽をどんな人に聴いて欲しいと思いますか?
僕たちと一緒に、気持ちよくなりたい人達に聴いてもらいたいです。僕たちも亜空間にトリップ出来る音楽制作やパフォーマンスに精進します。

『womb』
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