最終更新: 2024年3月20日

ボストン出身のシンガーソングライター、エラ・ウィリアムズによるソロ・プロジェクトSquirrel Flower(スクワレル・フラワー)。

彼女の音楽は常に第三者目線から創作されている。

“Squirrel Flower”とはエラ・ウィリアムズが4歳のときに作った別人格の名前である。

その別人格を通して他人の物語を書くことで、彼女は自分自身の開放や世界に対する気持ちを探ってきたのだという。

Squirrel Flower名義の彼女のインスタグラムでは、いくつもの自撮りや他撮りで自身を撮影した写真が投稿されている。

エラ・ウィリアムズは、常にカメラ(視点)を自分自身に向けることで、カタルシスを得ているのかもしれない。

今回リリースされた最新アルバム『Tomorrow’s Fire』は、前作『Planet (i)』における特色であるグランジギターの音像を、インディー・フォーク的な音響とリリカルなソングライティングが施されている、Squirrel Flowerの新たなシグネイチャーとなる作品だ。

今回のインタビューでは私自身、彼女が影響を受けたものを聞いて、インスピレーションの深淵に触れることができた。

その結果新たな視点をもって、なぜ彼女が作品毎に異なるコンセプトを設け、なぜ新たなシグネイチャーを獲得することができているのか改めて確認することができた。

『Tomorrow’s Fire』という作品をぜひ多角的な視点を持って楽しんでみて欲しい。

Squirrel Flowerインタビュー

Squirrel Flower(スクワレル・フラワー)
撮影:Alexa Viscius
アーティスト:エラ・ウィリアムズ(Squirrel Flower) インタビュアー:滝田優樹 翻訳:BELONG編集部

出身地について

-あなたの以前の作品の特徴の一つは、あなたの内面の風景を表現しているということです。これが初めてのインタビューなので、あなた自身やその内面の風景の源泉についてもっと知りたいと思います。あなたはマサチューセッツ州アーリントンで生まれ育ったと思いますが、アーリントンという町はどんな町ですか?そこに住む人々や環境、あなたがそこで過ごした時間について教えてください。
エラ・ウィリアムズ:正直言って、私は成長するにつれてアーリントンであまり時間を過ごしませんでした!私は10代の頃、ボストンを走り回ってショーに行っていたんです。私は少し変わった子供時代を過ごしました。父親が名門校の音楽教師だったので、私はお金をかけずにそこに通うことができましたが、周りは裕福な家庭で、10代になるまで本当に馴染めなかったんです。10代になってから、本当に気が合う人たちに出会って私にとっての音楽シーンを発見することができました。

祖父からの影響

-あなたの曾祖父ジェイは小説家で、祖父母や両親、兄弟も音楽家です。音楽一家の出身ですね。その環境があなたにどのような影響を与えたと思いますか?現在の音楽活動や人生にどのような影響を与えたか教えてください。
私の家族に音楽があるということは、おそらく私にとって最も大事なものです。私の子供時代は音楽で満ち溢れていました。音楽は私が音楽家としての道を歩む上で明るい光でした。

音楽を始めたきっかけ

-14歳の時にボン・イヴェールやローラ・マーリングに触発されて初めてアコースティック・ギターを手にしました。その時のことを覚えていますか?どんな気持ちだったか、自分で曲を作り始めた動機は何だったか教えてください。覚えていない場合は、当時ボン・イヴェールやローラ・マーリングに惹かれた理由を教えてください。
正直言って、それはすべてTumblrだったんです(笑)!Tumblrで音楽を見つけて、見つけた曲を練習することに何時間も費やしていました。Tumblrは私が自分のスタイルを形成するのに影響を与えた多くの音楽を見つける入り口だったんです(最初はあなたが言及したよりフォーキーなアーティストから始まりましたが、その後Cat PowerやGrouper、Pavement、Guided By Voicesなどなどを知りました)。

影響を与えたアルバム

-次に、あなたの音楽に影響を与えた3枚のアルバムを教えてください。そしてそれぞれについて、どのような点が影響を与えたか、またエピソードがあれば教えてください。

Bruce Springsteen『Nebraska』

このレコードを発見したのはアイオワに住んでいたときでした。私は19歳で、広大な中西部の風景にインスパイアされた音楽を作っていたんです。そして『Nebraska』を聞いたとき、私がやろうとしていたことに似たことをしている人を聞くという啓示的な瞬間でした。その開放感、空間感が好きです。

Liz Phair『Exile In guyville』

リズ・フェアは私に影響を与えた一人ですが、必ずしもサウンドではなく、彼女が常に自分のやりたいように活動してきたという点で影響を受けています。

Grouper『Ruins』

Grouperの音楽にある空間性、反復性、ハーモニーは、私がロックミュージックを作っているときでさえ、私が作る音楽の核になっています。

Squirrel Flowerの名前の由来

Squirrel Flower(スクワレル・フラワー)トリミング
Squirrel Flower(スクワレル・フラワー)トリミング
-“Squirrel Flower”という名前について教えてください。音楽家として活動するときに本名ではなく“Squirrel Flower”という名前を選んだ理由は何ですか?その名前はあなたにとってどういう意味がありますか?
“Squirrel Flower”は私が4歳のときに作った別人格の名前です。このプロジェクトを始めたとき、私は自分の名前だけではだめだとわかっていました。それは退屈だし、自分が型にハマってしまう気がしていたんです。“Squirrel Flower”という記憶が頭に浮かんで、それで行こうと決めました。正直言って、その時点では誰も私の音楽を聞いてくれるとは思っていませんでした!

Polyvinylからリリースする理由

-あなたはAmerican FootballやYumi Zouma、Jay Somなどが所属するPolyvinyl Recordsと契約しています。2020年にデビュー・アルバム『I Was Born Swimming』をリリースした後、グランジやシューゲイザー、エモなどの要素を取り入れたことも彼らの影響だと思いましたが、本当ですか?Polyvinyl Recordsと契約したことで変化したことがあれば教えてください。
正直言って、そうではないと思います!Polyvinyl Recordsに所属しているのは最高で、レーベルのバンドはみんな大好きですが、レーベル自体が私のスタイルを変えたとは言えません。

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Tomorrow’s Fire

Tomorrow’s Fireというタイトルについて

-ここからは最新作『Tomorrow’s Fire』についてお伺いします。まず、タイトルの『Tomorrow’s Fire』についてです。あなたは曾祖父ジェイが吟遊詩人について書いた小説のタイトルから引用しました。そしてその小説のタイトルは中世フランスの詩人ルテブフの詩句から着想を得たものでした。“明日の希望が私の夕食を提供する/明日の火が今夜暖めなければならない”。なぜこのタイトルを使うことにしたのですか?
その本と詩は、音楽家としての生きていこうとする私に共鳴しました。それは困難な人生かもしれませんが、私にとって唯一の道だと思います。

Tomorrow’s Fireのコンセプトについて

-アルバムの資料によると、『Tomorrow’s Fire』の内面的な風景はインディアナ・デューンズ国立公園で、最近国立公園に指定された保護された海岸線だそうです。初めてデューンズを訪れたとき、どう思いましたか?そしてそれがあなたの作品のイメージやコンセプトとどう関係していますか?
デューンズと私の音楽とを関連付ける要素は、美しい田園風景のすぐ隣にある過酷な工業環境です。それは私の音楽の要素にも影響を与えてくれました。

エンジニアについて

-前作『Planet EP』はセルフプロデュースでしたが、『Tomorrow’s Fire』ではWednesdayやSnail Mailの作品にも携わったエンジニアAlex Farrarや、Bon IverのMatt McCaughanやエンジェル・オルセンバンドのSeth Kauffmanなどのバンドメンバーが参加しています。インディーフォークをベースにインディーロックに近づいてきたあなたにとって豪華な布陣ですね。彼らとどのようにプロダクションについて話し合って進めていったのですか?
『Tomorrow’s Fire』のデモを作っているとき、曲自体が大きく鳴らす必要があると気づきました。曲に広がりを与えて、大きな空間を占めさせる必要があったんです。Alexと私は一緒にレコードをプロデュースし、ほとんどのトラックを二人で録音した後、他のミュージシャンを呼んで上にパートを重ねていきました。伝説的なミュージシャンたちと一緒に仕事ができて、彼らが加えた要素を見るのは素晴らしかったです。

歌詞について

-『Planet (i)』では気候変動がアルバムのテーマの一つでしたが、この作品の歌詞でも様々な場面で描かれていました。私もそれに興味がありましたが、特にこの作品では「Full Time Job」や「Alley Light」などの曲で都市部で暮らす人々の悲哀に触れたことにとても感動しました。アルバムのインスピレーションとしてブルース・スプリングスティーンを挙げていましたが、それは彼の影響だと思いますか?『Born in the U.S.A.』の歌詞と重なる部分が多くて、ブルース・スプリングスティーンがどのようにあなたにインスピレーションを与えたか気になります。
私がスプリングスティーンから受ける最大の影響は、他人の物語を書くことができるという感覚だと思います。自分自身や世界に対する気持ちを探るために、架空の曲を書くことができます。それはとても自由なことだと思うんです!

「Full Time Job」のMVについて

-あなたはインスタグラムにも写真を投稿しましたが、「Full Time Job」のMVではギターを叩き壊したり破壊したりしていました。私はそれを見て興奮して、彼女はロックスターだ!と思いました。MVの撮影について何かエピソードがあれば教えてください。
「Full Time Job」の撮影はとても楽しかったです。私は今までギターを壊したことがありませんでした。緊張していて、自分にできるかどうかわからなかったんですが、カメラが回り始めたら私は全力を尽くしました。それは私のフラストレーションやストレスがカタルシス的な行動に変わっていくような素晴らしい感覚だったんです。

ボーカル面での工夫について

-ボーカル面では、残響感のあるアプローチが印象的でした。このボーカル処理によって、アンビエントでエーテリアルな感覚で声を楽しむことができました。また、暗い洞窟の奥に小さな光が輝いているようでもありました。「Tomorrow’s Fire」というタイトルともつながっていると思いましたが、合っていますか?ボーカル面について何か意図があれば教えてください。
ありがとうございます!私は自分の声が広がりや反響を持って聞こえるのが好きです。まさに洞窟の中の光のように感じるんです。

ブレイクスルーした曲

-『Tomorrow’s Fire』の中でどの曲が最もブレイクスルーだと思いますか?または最も変化や進化があったと思いますか?私は「i don’t use a trash can」がSquirrel Flowerの新しい方向性だと思いました。ボーカルやコーラス、ギターなどの要素がすべてアンビエントな方法で統一されていました。
「i don’t use a trash can」は私の過去のサウンドへの肯定でもあり、前進したいサウンドへのヒントでもあります。このレコードは私にとってのロック・レコードなんです。私は今までにないくらいサウンドを大きく鳴らすことを意識しました。でもその下にはまだ“trash can”で強調されたあたり一面を糸で紡がれた空間的な広がりがあるんです。

リスナーへのメッセージ

-どんな状況やどんな人に『Tomorrow’s Fire』を聴いてほしいですか?
どんな状況でも!何でも、どこでも、誰とでも聴けるものだと思うんです。

-最後に、日本のリスナーにメッセージをお願いします。
聴いてくれてありがとう<3 早く日本に行ってツアーをしたいです!

Squirrel Flowerリリース作品

4thアルバム『Tomorrow’s Fire』


発売日:2023年10月13日
収録曲:
1. I Don’t Use a Trash Can
2. Full Time Job
3. Alley Light
4. Almost Pulled Away
5. Stick
6. When a Plant Is Dying
7. Intheskatepark
8. Canyon
9. What Kind of Dream Is This?
10. Finally Rain
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
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ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

Twitter:@takita_funky
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