最終更新: 2026年4月23日

映画音楽への憧れと、音楽的なルーツ

スコアリングという夢

-滝田優樹(Yuuki Takita):もともとは作曲の学位取得を目指して音楽学校に入学されていて、“オーケストラで演奏するのが嫌で、映画の音楽を書きたかった”ことをきっかけで退学されたそうですが、映画音楽を書きたかった理由はなんだったのでしょうか。また、どのような映画音楽にインスパイアされたのか教えてもらえますか?

ジア・マーガレット:実は、学校に入ったのは映画音楽を書く人になりたいと思っていたから。今のところ映画音楽はあまり手がけられていないけど、いつかやってみたいとは今でも思っている。音楽がなければ、映画のほとんどはこれほど心に響かないと思う。音楽はシーンを左右する力を持っていて、伝えたいことを表現するための強力な核になるものだと思う。私の音楽に大きな影響を与えた存在として、ジョン・ブライオンは欠かせない。若いころ、『エターナル・サンシャイン』のスコアには深く心を動かされた。今でもそれは変わらない。彼の作品のエッセンスは、私がこれまで作ってきたすべての音楽に影響を与えていると思う。彼の音楽は、ごくさりげなく、でも確実に、感情の一番深いところまで届いてくる。私が音楽で成し遂げたいと思っていることの感情的な基準を、彼が作ってくれた気がする。坂本龍一やヤン・ティルセンの作品も大好き。音楽と映画は、一緒にあるべきものだと思ってる。

私の音楽を形作った3枚のアルバム

-滝田優樹(Yuuki Takita):あなたの音楽からはフォーク、スロウコア、アンビエント、トリップホップなどの要素を感じることができましたが、あなたの音楽に影響を与えたアルバムを3枚挙げるとすれば、どれですか?また1枚ずつ、どのような部分に影響を受けたか、エピソードがあれば教えてください。


ジア・マーガレット:まず、SADEの『Lovers Rock』。ドラムサンプルのかっこよさ、プロダクションの質感、そして何より彼女の声。歌詞のシンプルさも好き。10代のころ、庭で日に焼けながらこのアルバムをずっとリピートしていた記憶がある。彼女の声が、私に歌いたいと思わせたんだと思う。自分の中に何か共鳴するものを感じたけど、もちろん彼女の域には到底及ばない。まさにアイコンで、唯一無二の存在。


次は、ニック・ドレイクの『Pink Moon』。大学時代にハマって、このアルバムがオルタネートチューニングの世界に連れていってくれた。チューニングを変えることで、ギターに完全に恋に落ちた。それだけじゃなく、収録曲はどれも完璧で、暗さの中に希望の光が宿っている。彼個人のことを知るほど、共感できる人だと感じてきた。それは私自身のことを物語っているかもしれないけど、アーティストとして生きることはとても苦しいことがある。深く感じすぎて、少し誤解されているような人間として。ニックが、自分の音楽が時間をかけてこれほど愛されるようになったことを知ることができなかったのが、ずっと残念でならない。


そして、スティーナ・ノルデンスタムの『And Then She Closed Her Eyes』。アルバム全体を通じてボーカルがとても近くて親密な距離感で録られていて、声量をある一定以上上げることなく、それでも確かに刺さってくる。『Singing』を作っていた間ずっと、彼女の声が頭の中にあった。自分を無理に張り上げなくていい、一番美しいテクスチャーは一番柔らかな歌声の中にあると、思い出させてくれる存在。ディストーションの使い方も素晴らしい。他のアルバムではさらにそれが際立っているけど。これもまた一曲も飛ばせないアルバム。独自のソングライティング構成だけでなく、プロデューサーやエンジニアとしても傑出した才能の持ち主。車の中でボーカルを録音することがあるとか、マイクの配置にも積極的に関わっているという話を聞いて、そういう直感的な選択がこの音楽を特別なものにしているんだと感じた。もしかしたら私が今まで聴いてきた中で、一番好きなアルバムかもしれない。

日本、そして声を取り戻した旅

自由学園明日館での夢のような一夜

-滝田優樹(Yuuki Takita):2025年10月にははじめての来日公演がおこなわれました。重要文化財の自由学園明日館でのパフォーマンスはいかがでしたか?感想や日本のオーディエンスに対する印象などがあれば教えてください。

ジア・マーガレット:今まで経験した中で最高のライブだった!建物がシカゴ出身のフランク・ロイド・ライトの設計というのもあって、どこか懐かしいような親しみがあった。それだけじゃなくて、建物を取り囲む静けさがとても穏やかで、入った瞬間から落ち着いた気持ちになれた。ふだんはステージに入るときかなり緊張するのに、あの場所では最初からすっと安心できたの。サウンドチェックは人生で一番長かったし、公演を作り上げたチームの皆さんが細部のひとつひとつを本当に丁寧に整えてくれていた。それがとても日本らしいと感じた。本番の演奏は、愛に溢れたエネルギーで会場を満たしてくれたオーディエンスのおかげで、本当に魔法のような時間になった。そして、私がずっと憧れてきたアーティストのひとりである高木正勝さんと一緒に演奏できたこと。私の曲で彼が美しいピアノを弾いてくれているのを聴いていたら、魂が体から離れていくような感覚だった。まるで夢みたい。

声を失って、得たもの

-滝田優樹(Yuuki Takita):今回のアルバム『Singing』は、2018年の『There’s Always Glimmer』以来となるボーカル・アルバムですね。無事に声が戻って、このような素晴らしいボーカル・アルバムを聴くことができて私もうれしく思います。声帯の怪我で何年も歌えなかった経験を経て、あなた自身に影響を及ぼしたものを挙げるとすればどのようなものがありますか?

ジア・マーガレット:あの経験全体を通じて、静けさというものを大切にするようになったと思う。声のことだけじゃなくて、自分が経験していたことをきちんと消化するための静けさを、自分に許すことができるようになった気がする。それまでの人生でしたことのない向き合い方で、自分自身と向き合えた時間だった。健康的なペースで物事を進めること、深く、そして意識的に物事を見ることを学んだ。その経験は楽曲のいくつかを通じて滲み出ていると思う。歌詞を超えたところで、エネルギーとして感じ取ることができる気がしてる。

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