最終更新: 2026年4月23日
アルバム『Singing』の核心へ
タイトルに込めた意味
-滝田優樹(Yuuki Takita):先ほどの質問と重複してしまうかもしれないですが、最新作『Singing』について、“Singing”というタイトルにした理由や意味を教えてください。どのようなフィーリングや雰囲気が反映されているのでしょうか。
ジア・マーガレット:私にとって“歌うこと”は、ただの物理的な行為をはるかに超えたものなの。もはや精神的な必要性に近いものがある。このアルバムを作ったことは、その取り戻しであり、さらに言えばその発見でもあったと思う。シンプルに言えば、歌うことってそれ自体が“生きること”であり“音楽”そのものじゃない?
ダグ・サルツマンとの制作の舞台裏
-滝田優樹(Yuuki Takita):今作は、2024年から2025年にかけて、ロンドン、オークレア、シカゴで、Frou Frouのガイ・シグスワース、デヴィッド・バザン、エイミー・ミラン、デブ・タラン、カート・ヴァイル、ショーン・キャリーらと共にレコーディングされたそうですね。また、あなたの長年のパートナーであるダグ・サルツマンが、本作の多くの楽曲で演奏を担当し、共同プロデュースも手掛けているとのこと。彼とはどのような話し合いや意見、アイデアの交換をしながら制作を進められたのでしょうか。
ジア・マーガレット:ダグと一緒に作業することが、このプロセス全体の土台になっていたと思う。憧れのアーティストたちと一緒に制作できたことは確かに素晴らしかったし、それ自体がとても力になる体験だった。でもダグがいつも私をすべての根っこに連れ戻してくれた。レコードのミックスにおいても、彼は欠かせない存在だった。すべての音がバランスよく地に足ついたものになるようにしたかったから。リモートでミキシングをしていて、彼がリアルタイムで作業しているのを私が画面越しに見聞きできるプログラムを使っていた。作業の合間に休憩を取りながら、曲のすみずみまで話し合ったの。お互いのアイデアに対する尊重があったから、いろんな可能性を探りながら細部まで突き詰めていけた。最終的なミックスのどれもが誇りに思えるし、彼のその意欲と辛抱強さなしには成し遂げられなかった。チームとして、これまでで一番深いところまで到達できたと思う。いくつかの曲では何百ものトラックを録音して重ねたけど、それも喜んで受け止めてくれた。エンジニアとしてはかなりの重荷だったはずなのに(笑)。ダグのプロダクションスタイルも、曲に深みを与えてくれる。あるコードを加えてくれるだけで胸が締め付けられるような感覚になったり、ボーカルをチョップして編集することで、さらに感情が引き出されることがある。彼には感情を感じ取る才能がある。テクニックを超えて、本当に素晴らしいミュージシャン。だからこそ、素晴らしいエンジニアでありプロデューサーでもあると思う。何かがしっくりこない時、すぐに修正しようとするんじゃなくて、まずよく聴いて、音に息をさせて、そしてまた戻ってくる。時間はかかるけど、彼はそれを厭わなかった。
サウンドの意図と、ブレイクスルーの瞬間
パーカッションと日常の音
-滝田優樹(Yuuki Takita):先ほどもお伝えしたように、アンビエント・ミュージックに根ざした作品で、あなたの生活のなかにある音が表現されているのではないかと感じました。特にグッときたのは、1曲目の「Everyone Around Me Dancing」の鼓動が脈打つようなイントロや、「Rotten」のシェイカーと幻想的な電子音、ストリングスとのハーモニーなど、一つ一つの音が生命の息吹を感じさせるものになっていたことでした。サウンド面で意識されたことや、ポイントとして置いていたことがあれば教えてください。
ジア・マーガレット:いつも日常の生活を音楽に反映させようとしているの。フィールドレコーディングを取り入れたり、自分が慣れ親しんでいる楽器や機材を使うようにしたり。「Everyone Around Me Dancing」ではドラムサンプラーを使ったんだけど、それは曲を書く時によく使っているもの。「Rotten」では、もう15年近く使っているドラムマシンを使った。今回は、パーカッションが前作よりも少し生き生きとしたサウンドを作る上で大きな役割を果たしてほしかった。これらの曲は『Romantic Piano』ほど厳かな感じじゃなくて、もう少し殻を破ってみようとしていたから。自分のいろんな側面を見せる意図があって、自分があまり自信を持てていない部分でさえも。
アルバム最大のブレイクスルー
-滝田優樹(Yuuki Takita):スロウコアからダンサブル、チェンバーなど非常に多くのバリエーションからなるアルバムでしたが、今回のアルバムであなた自身のブレイクスルーとなった楽曲、もしくは最も変化や進化を感じさせる楽曲はどれですか?
ジア・マーガレット:「E-Motion」、間違いなく。おもしろいのは、このアルバムの中で一番時間をかけなかった曲だということ。あっという間にまとまったの、過去のブレイクスルーとなった曲と同じように。たとえば「Birthday」は30分くらいで書いたし、「Hinoki Wood」は2時間で書いてレコーディングまで終わらせた。溜まっていたエネルギーが、出ていく準備ができた時にそういうことが起きるんだと思う。あの曲の言葉は、長い間ずっと自分の中に抱えていたものだった気がする。人生の中の大切な人たち、そして自分自身との、より深い繋がりへの渇望と切望を認めたような曲。自分が苦しんでいることを話せば周りを困らせてしまうと思いがちだったんだけど、ここ数年かけて、その恐れこそが生を体験することを妨げてきたんだと気づいた。あの曲を書いた瞬間、そんなに恐れなくていいんだということが、すとんと腑に落ちた。音楽的には、これまでで一番大きな音を出すことを自分に許せたと思う。ちょっと解放された感覚。ずっとディストーションは好きだったんだけど、自分の音楽にどう取り入れればいいかわからなかった。「E-Motion」では、とにかく音量をできるだけ上げてみることにして、いつものように曲を小さく収束させるんじゃなく、どんどん大きくなっていくアーチを描かせた。
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